暇潰しに書いたモンハン二次   作:水代

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十九話 漆黒の影

 

 樹海の鬱蒼とした森林地帯はいつかの黒竜を思い出させて体を震わせる。

 以前のような不運に早々見舞われるようなことは無い、とは思うのだがそれでも脳裏に克明に刻まれた死の記憶はそう簡単には消えてくれそうに無かった。

 

 だが今はそんなことどうでも良い。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くっ」

 

 きぃん、と風を切って飛来する影に体を倒しながら太刀を合わせる。

 だが刃翼とぶつかり、火花を散らして弾かれ、影が自身の真横をすり抜けていく。

 

「はや……過ぎる!」

 

 目で追うより素早く動かれる、というのはさすがに初めての経験かもしれない。

 ただでさえ全身が黒く、日差しを遮る薄暗い樹海の中に紛れてしまうというのに。

 強靭な筋力と瞬発力を持ってじぐざぐと木々に飛び移り、時にその両翼で風を切って飛来し、失敗すればすぐにまた木々の中へと消えていく。

 

 『迅竜』と、そう呼ばれるだけはある。

 

 何よりこちらの死角へ死角へと逃げていくその知能の高さが厄介だ。

 ただ早いだけならば見失うようなことにはならない。

 だが時にフェイントすら入れてこちらの視線を誘導し、一瞬で視界の外へ逃げていく。

 自らが運動能力と知能を組み合わせた言うなれば『体術』とでも言うべき物をこの竜は持っている。

 それが何よりも厄介だった。

 人がモンスターと対等に戦えるのは知恵と技術があるからだ。

 ただでさえ肉体的には大幅に劣っている人間が、知恵や技でまで差を詰められればその優位は大きく削がれる。

 

「リオを置いてきて正解だったわね……」

 

 ただでさえ片足が動かないというハンデがあるのだ。あの迅竜相手に動かない固定砲台など狙ってくれと言っているようなものである。

 

 しゅん、と音が聞こえた。

 

 瞬間にその場を飛びのく。直後に飛来する鋭利な棘が何本と地面に突き刺さる。

 悪態を吐きそうになる内心を押し殺しながら移動し始める。

 先ほどの一撃でまた()()られた。

 急降下でも太刀を合わせられる、と。

 その危険性を察し、遠距離から攻撃することを覚えたらしい。

 技を身に着けるほどの高い知能からすれば、相手の挙動から一つや二つ学ぶことなど何でもないのかもしれない。

 

「ああもう……武器を新調しておいて良かったわ」

 

 上位狩猟地区の敵は下位狩猟地区の敵よりも強大であり、その皮膚や鱗も強靭である。

 故に下位で使っていた頃の武器のままではすぐに折れるのも分かっており、今まで使っていた太刀もメゼルポルタの工房で強化してもらっていた。

 フルフルの素材を使った太刀は武器自体に雷の属性を宿す。故に一太刀振るうごとに走る紫電はあの『迅竜』をして僅かに怯ませる。

 だからこそ、余計に脅威を覚えられたのかもしれないが。

 

 上位狩猟地区では単純なモンスターの素材だけでなく、採取てきる植物や昆虫、採掘できる鉱石などの種類、質も変化する。

 特に鉱石類は重要で、上位モンスター相手にやり合えるだけの強度としなやかさを併せ持つ武器を作るためには必須である。

 だからこそ、メゼルポルタに来てからはまず簡単なクエストを受けてリオを二人でそちらの採掘を優先していたのだが、それにもある程度目途が立ってきたのでようやく本格的に防具作りに乗り出すことにしたのだ。

 

 とは言え防具とは何でもいいわけじゃない。

 

 例えば以前狩ったクシャルダオラの素材で装備を作れば上位狩猟区域でも十分にやって行けるだろう防御力はある。

 例え下位素材だとしても曲りなりも古龍である。その素材から作った防具は大抵のモンスターの攻撃から身を守ってくれるだろう……が。

 

 重い、のだ。

 

 大剣やハンマー、もしくはいっそボウガンなどを装備しているハンターになら有用なのだろう、が。

 自分のスタイルというのは機動性を重視し、攻撃は回避、もしくは太刀で切り払うのが基本だ。

 重い鎧というのは動きを制限する、例え防御力があっととしても今のスタイルを大きく崩すことになりかねない……故に使えない。

 だからリオの相談しながら最終的に決めたのが……『迅竜』の素材を作った装備。

 

 『迅竜ナルガクルガ』は上位狩猟区域以上からしか現れないモンスターだ。

 

 下位というのは基本的に『若い個体』や加齢や怪我などで『弱った個体』が分類される。

 つまり比較的『弱い個体』を指して下位と指定されるわけだが、ナルガクルガは非常に好戦的なモンスターであり『弱い』とあっという間に死んでいくため、そもそも狩猟指定されるほどの個体は最低でも上位以上の個体にしかならないのだと言われている。

 

 まあそれはさておき。

 

 かきん、と飛んできた針を太刀で撃ち落しながら影から影に消えていく漆黒をなんとか目で追おうとする。

 ギリギリ、と言ったところで追うことはできる。

 正確にはワンテンポ遅れて追っているようなものだが、それでも相手の攻撃時の一瞬の溜めで追いつくのでなんとか迎撃は間に合っている状況だ。

 

 だが相手への攻撃はほとんどできていない。

 

 何せ相手が木の上から降りてくることがほとんど無いのだ。

 太刀一本の自身の限界を完全に見切られて一方的に攻撃されているこの状況は半ば詰んでいる。

 選択肢は現状二つ。

 

 一つはこのまま迎撃を続けて、相手がこれでは倒せないと判断するまで待つ。

 どれだけの時間かかるかは分からないが、そうすれば直接こちらを攻撃するために降りてくるはずだ。

 最低でも接近して攻撃はしてくると予想している。

 逃げていくという選択肢は恐らくナルガクルガには無いだろう。

 非常に好戦的であり、かつて出会ったあのイャンガルルガのようにまず戦わないという選択肢が無い。

 つまり絶対にどこかで仕留めに来るはずなのだ。

 

 問題はそれまでこちらのスタミナが持つか、ということだが。

 もしかすると逆に相手のスタミナ切れのほうが早いかもしれない。

 何せあの運動量である、例え大型モンスターだったとしてもナルガクルガの運動量は他のモンスターとは比べ物にならない。実際、ほとんど全力疾走を続けているようなものである。

 いかに迅竜と言えどどこまであのスタミナが続くのかという疑問は確かに残る。

 

 二つ目は一度迅竜から逃れて機を伺うことだ。

 極論を言えばあの刃翼か鉤爪のどちらかに傷をつければあの運動能力は激減する。

 急激なストップアンドゴーを支えるのは両腕の強固な鉤爪と空中で体を安定させる刃翼の両方があるからこそだ。

 鉤爪を痛めればほとんどノーモーションのあの加速も無くなるだろうし、急制動もできなくなる。

 刃翼を傷めれば飛び上がっても空中で上手くバランスが取れないだろうし、急降下するのも難しくなる。

 問題はあの迅竜から逃げ切れるか、ということだ。

 さらに言うならば一旦逃れたとして、あの迅竜が気づくより先に一撃見舞えるか、というのもある。

 とは言え後者に関してはそれほど心配していない。

 樹海を探索しているだろうリオと合流すれば良いだけの話だ。

 

 迅竜ナルガクルガは目が悪い。勿論見えないわけではない……実際閃光玉だって通用する。

 だがこの薄暗い樹海の中で育ったせいか視力よりも聴力に重きを置いている部分がある。

 故にこの樹海の中にあって、尚遠方まで見通せるリオの尋常ではない視力と狙撃能力があれば相手の警戒範囲の外から一撃見舞うことは十分可能だと思っている。

 

 後はそう……降り切れるかどうか、それだけの問題だ。

 

 

 * * *

 

 

 樹海の奥地にチャチャブーという獣人種がいる。

 小型モンスターに分類される獣人種だが、メラルーやアイルーのように多少厄介な面はあるが、基本的に危険性は低く、また基本的には臆病でハンターが武器を振りかざすだけで逃げ出すこともある。

 

 だがチャチャブーは違う。

 

 極めて好戦的かつ厄介な擬態能力を有し、強靭な筋力とタフな肉体、そして時にはハンターを真似たかのような武器を持って戦うこともある凶悪な種族である。

 その危険度はハンターズギルドにランポスやアプケロスよりも危険視されているほどであり、樹海や森丘など一部の地域に生息しているのが確認されている。

 特にここ樹海の奥地にはチャチャブーの住処があることが確認されており、非常に危険な場所となっている。

 

 正直かつてのリオならばともかく、今のリオにとってチャチャブーは危険な相手だ。

 かつての防具があるので致命傷は避けれると思うが、正直下位の防具程度ではチャチャブーの持つ鉈であっさりとかち割られることもある。

 下手するとアイルーよりも小柄なため逃げようと思えば逃げられるのだが、何よりも擬態能力が厄介で、周囲のキノコや鉱物などに擬態して地面に隠れ潜んでおり、本当によくよく注意して見なければ気づかないほど精巧な擬態にやられ初撃で足を切られたりしようものならば複数のチャチャブーに滅多切りにされ殺されるハンターも少数ながら存在する。

 とは言えチャチャブー自体が遭遇がそう多くないこともあって、その件数は他のモンスターに殺されるよりも圧倒的に少なく、殺された人間は運が無かった、としか言いようが無い。

 

 とは言え弱点も多い上、昼間は大半出払っているため巣に残っているのは極めて少数だけだ。

 

 しかも擬態もせずに歩いているためすぐに気付ける。

 ただ大半のハンターにとってチャチャブーの巣とは行く意味の無い場所である。

 チャチャブーを倒しても稀に持っている道具を落とすくらいであり、その大半がガラクタ、あったとしてもハンターの落とし物などであり、希少性のあるものでは無い。

 つまりチャチャブーとは百害あって一利無し、相手をするだけ無駄なモンスターなのだ。

 

 では何故リオがわざわざそんな無駄なモンスターの巣に来ているのか、と言われれば簡単だ。

 

 チャチャブー自体には旨味は無くとも、その巣にはあるからだ。

 

 正確には、チャチャブーの巣では時折鉱石が掘れるのだ。

 嘘か本当かは知らないが、チャチャブーたちは鉱脈を()()()()()秘法を有しているらしく、そこで呼び寄せた鉱脈には非常に希少な鉱石が混じっていることが多い。

 

 その名を『アミノタイト』と言う。

 

 粘土状で柔らかく、見た目も相まって長年ただの石ころと見間違えられてきたが、最近になって非常に有用なレアメタルであることが発見され需要が爆発的に高まった鉱石である。

 ただし増大する需要に対してまるで供給が追い付いていない。

 何せまず下位狩猟区域からは出ない。そして上位狩猟区域まで行ってもほぼ出ない。それこそG級狩猟区域まで行ってようやく偶に出る、と言った具合の希少性であり、そもそもG級狩猟区域に行けるようG級ハンターが今更採取なんてほぼしない、というのもその希少性に磨きをかけている。

 

 ただ一部……ほんの一部のハンターは上位以上のチャチャブーの巣で偶に発見できることを知っており、樹海に来たらだいたい一度はチャチャブーたちの巣に寄って行く。

 

 つまりリオもその一人、ということだ。

 

 とは言え危険なのには変わりない、だから安全性確保のために先に道具を使う。

 チャチャブーたちは普通に攻撃しても非常にタフで倒している間に仲間が集まってきてしまうので真っ当にやるのはむしろ邪道だ。

 

「それっと」

 

 ひょいっと手に持った閃光玉を投げ、片手で視界を塞ぐ。

 直後にぱぁぁ、と手越しに目に焼き付いた強烈な光が放たれる。

 

 ぎぃぃ、と巣の中のチャチャブーが悲鳴を上げながら眩暈を起こしている間にそそくさと巣の中を進んでいき。

 

「お、あった」

 

 地表に鉱石がむき出しになったポイントを見つけるとツルハシを振るっていく。

 かん、かん、と派手な音が響くが閃光玉で気絶したチャチャブーたちが動き出す気配は無い。

 とは言えれっきとしたモンスターだ、一分もしないうちに動き出すだろうため、急いで採掘をする。

 五度、六度、とツルハシを振るい、地表に露出していた鉱脈を掘り終わると鉱石をバッグに詰めてそそくさと退却する。

 中身を検分している暇も無いので、急いで巣を抜けていく。

 去り際にもう一度閃光玉を転がしていく。視界が回復し、リオを追いかけようとしていたチャチャブーたちがまた閃光に目をやられ倒れる。

 

 そうしてチャチャブーの巣を抜け、樹海中央にそびえる巨大な木の中に出る。

 以前ここでヒプノックを倒したなと思い出しながらそのまま木の中から出ようとして。

 

「……は?」

 

 そこに居るはずの無い緑色を見つけ、絶句した。

 

 非情に硬度の高い緑色の外殻、そしてそこから突き出した赤い棘。

 頭と尻尾を器用に丸めて眠るソレはきっとリオが少々小突いた程度では起きないだろう。

 ソレはそういう存在だとリオは知っている。

 過去何度か戦ったこともあり、ソレの厄介さを良く知っている。

 

「なんで……いるんだ」

 

 今回の狩猟目標は迅竜ナルガクルガのはずだ。

 確かに上位狩猟区域では時に同じ狩猟区域に複数の大型モンスターがいることはあるが。

 それでもこんな大物がターゲット外にいるならば絶対にギルドから警告があるはずであり。

 何の対策も無しに挑めばまず間違いなく殺される、ソレはそういう存在だ。

 

 棘竜エスピナス。

 

 飛竜種でありながら太古の昔に樹海に君臨した古龍と縄張り争いを繰り広げたとされ、人間にとっての脅威という意味ではなく、古龍種に対抗しうる「古龍級生物」とも言われている。

 勿論目の前の個体が古龍と戦ったわけではないだろう。実際成体になる前のエスピナスならちゃんと対策すればそう強い個体ではない……勿論上位では、と但し書きがつくが。

 とは言え『成体前』ですでに上位レベルというだけで『棘竜』という種族の強さが見え隠れする。

 『成体』のエスピナスは上位でも最上位レベルの強者であり、上位ハンターがパーティを組み、対策を組み、装備を整え、万全の準備をしてようやく狩猟可能になるレベルの怪物だ。

 

 見たところまだ成体前、最悪とまではいかない……がそもそもナルガクルガと戦いながらこんなのの相手をしては居られない。

 幸いエスピナスは基本的に眠っている時間が長く、深い。

 小タル爆弾が目の前で爆発しても起きないレベルで深く眠っているので刺激しなければ無視できる……はず。

 

 そう、考えて。

 

 た、た、た、と足音が聞こえた。

 リオのやってきたほうとは反対側の入口から走って来る影。

 

「レ……ティ……」

 

 それが自身の相棒であると気づき。

 直後、その後ろから迫る漆黒の影に気づいた。

 

「待った! レティ!」

 

 咄嗟に叫ぶがもう遅い。

 迅竜の尻尾から排出された棘が高速で飛んでいく。

 それを避けたレティ、そしてその棘が向かう先には……。

 

 眠ったままのエスピナス。

 

 数本の棘が緑の外殻に突き刺さる。

 エスピナスの外殻は非常に硬い、がナルガクルガの尾棘とて非常に鋭利だ。

 それが寄りにも寄って外殻の隙間に正確に刺さり、その身を傷つける。

 走る鋭い痛みにエスピナスが目を覚まし……。

 

 Guruaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 

 その全身を赤く染めながら、ほとんど洞窟と化した木の洞全体に咆哮を轟かせ。

 

 Giaaaaaaaaaaaaaaaaa

 

 鋭敏な聴覚が激しく刺激されたことに激怒したナルガクルガが咆哮を上げる。

 位置関係はリオ、数メートル離れてエスピナス、さらに十メートル近く離れてレティ、その数メートル後方にナルガクルガ。

 逃げようにもレティが完全に挟まれている。

 エスピナスが完全に覚醒してしまった以上、最早安易逃げる選択肢もできない。

 

「最悪だ……」

 

 呟かずにはいられなかった。

 

 




アミノタイトはフロンティア専用の鉱石。
めっちゃ希少で希少過ぎるせいで鉱石の癖に救済クエスト実装されたくらい希少。
調べたけど上位でのクエスト一回における期待値0,1個だって。G級で0.5個。

因みにエスピナスもフロンティア専用モンスター。
通称那須。ナスでも良い。亜種と稀少種がいるけど、稀少種がくそ強い。
因みにかつては剛種チケット救済クエストで落とし穴にはめられてライトボウガンで超速射されて眠らされてを繰り返して一方的にハメられる悲しい存在だった。
基本的に通常種と亜種は登場時いつも寝てる。だから落とし穴ハメると長時間拘束できるけど、怒るまで肉質が非常に硬い。
非怒り字の肉質が平均5くらいと言えば分かるかな?
因みに怒ってない時はほぼ攻撃してこない、他のモンスターでいう非発見時みたいなのっそのっそとした動きであるくんだが、怒ると全身が赤くなって肉質が20~30くらいまで柔らかくなる。
ただしものっそい動く。突進がくそ速い上にホーミング性能そこそこある。ぶっちゃけティガレックスより突進早い。
さらに予兆も無くいきなり走り出すから走ったと思った次の瞬間には轢かれてることもままある。
さらにバックステップで飛びながら炎ブレス吐いたりと怒ってる時はやりたい放題やってくる。
ナス稀少種、通称白ナスはさらにやりたい放題だがな。
因みに必殺ブレスがくそかっこいい。
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