暇潰しに書いたモンハン二次   作:水代

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二十話 樹海の狂宴

 

 

 放たれる紫紺の炎を避けながら、疾走する黒を追いかける。

 樹海中央に聳えたつ巨大樹の内側は完全なる洞穴だ。

 巨大な空洞には長い時間をかけて土が溜まっており、踏みしめるそこは樹の外の地面となんら変わりない。

 本当に木の内側とは思えないほどの広大な空間は、けれど隠れるところも掴まるところも無く、ここに迅竜を誘い込んだこと自体は確かに狙い通りと言えた。

 持前の瞬発力で壁を伝いなら走ってはいるが、空間が限定された分だけ捉えやすい。これなら最早見逃すことも無い。

 

 問題は先ほどから迅竜を狙う緑竜の存在だ。

 

 棘竜エスピナス。その存在は知ってはいた。

 樹海に生息するモンスターの中でも最強と言っても過言ではないその存在。

 だがクエスト受注時のそんな存在がいるとは聞いていない。

 どうしてここに、と考えたって別にモンスターだって人間の都合で動いているわけでは無いのだ。

 気まぐれにやってくることだって偶にはある。ギルドだって常に最新の情報を告知できるわけでも無い。

 

 こういうことは稀にある。

 

 そう言ってしまえばそれだけのことなのだが。

 よりもよって、と言いたくなる。

 当たり前だが迅竜との戦闘前に一応フィールドの確認をしようとしたのだが、リオと別れてほとんどすぐに迅竜に見つかってしまったのだが運の尽き、ということか。

 迅竜の索敵範囲は非常に広い。百メートル以上手前からでも僅かな音だけでこちらを察知して警戒してくる。

 自分だって十数メートル程度ならば気配だけで追えるがさすらに百メートルは無理だ。

 こちらの警戒の範囲外から一気に跳んできてなし崩しに戦闘せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのは完全に運が無かったとしか言いようが無い。

 

 だがもう起こってしまった以上は変えられない。

 むしろ現在進行形で起こっている自体をどうにかしなければ命が無い。

 

「リオ……に……近づくな!」

 

 交差の一瞬。突如とした迅竜の方向転換にけれど迷いも無く太刀を振るう。

 浅い、それは分かっていた。迅竜の僅かな溜め。ほんの一瞬ほどの力を込めた刹那がこちらの太刀をずらした。

 舌打ちしそうになる内心を抑えながら即座に太刀を持ち直し、同時に浅くでも傷つけられた迅竜の注意がこちらを向く。

 直後に棘竜から放たれた紫紺の炎が着弾、即座に飛び立った自身と迅竜の間で爆発する。

 

「っぶ……ない!」

 

 棘竜の放つ炎は()()()()()()の混合物だ。

 可燃性のそれを放ち、炎で対象を焼き、火傷の傷口から毒が流入するという極めて凶悪なそれは当たれば全身が麻痺し、焼かれ、毒に蝕まれる。

 

 即ち致命の一撃である。

 

 動き回る迅竜のせいで棘竜もまたブレスばかりだが、あれが走り出せば厄介なことは知っている。

 見たことが無いため伝聞になるが棘竜は古龍すら打ち果たす強者だ。

 あれを相手に戦うのは現状無謀としか言いようが無い。

 幸い、というべきか相手の敵意は迅竜へと向かっているため、棘竜の背後にいるリオへの危険性は少ない。

 だがそれとていつまで、という話であり。

 

「どうにかしてリオと合流しないと」

 

 だが危険なのが迅竜である。

 あれは知能が高い……リオが動けないと気づけば優先的に狙ってくる可能性もある。

 故に迅竜の敵意をこちらに釘付けにする必要がある。

 位置関係的には棘竜が盾になっているためそう簡単には手出しできないだろうが、この瞬発力は危険過ぎる。

 

 ギィィアァァァァ!

 

 迅竜を咆哮を上げながらこちらと棘竜の両方を警戒し。

 

 ダンッっと……突如として棘竜の地面が爆ぜた。

 

 走り出したのだと気づいたその直後にはすでに迅竜の目前にまでその巨体が迫っており。

 

 グギャアアアアアアアアアォォォォ!

 

 迅竜の巨体を軽々と吹き飛ばして端まで飛ばす。

 ごろごろと転がる迅竜がダメージに体を鈍らせ。

 直後に走り出す。

 

「リオ!」

「レティ!」

 

 レティが体を引きずりながらこちらへやって来る。

 そうして二人の距離がゼロになり。

 

「担ぐわよ!」

「頼む!」

 

 即座にその体を担ぐ。

 とは言え自身よりも小柄とは言え重装のリオは重い。

 さすがにいつも通りの速度で、とは言えず。

 

「レティ! 迅竜が!」

 

 振り返ればこちらを追いかける黒い影。

 ただでさえ瞬発力で負けているのに、さすがにリオを担いだ状態では追いつかれる。

 

「リオ!」

「分かっている!」

 

 担がれたままのリオが腰に下げていた玉を後方へと投げ。

 

 直後、閃光が洞窟内を焼いた。

 

 位置関係的に自分が見たのは壁に照り返って来た光だが、それだけでも目が痛くなってくる。

 直視してしまった迅竜は明らかに視力を失い、方向感覚すら失っている。

 その直後に突撃してきた棘竜に弾き飛ばされ迅竜が地面を転がる。

 

「今のうち!」

「わか……ってるわ」

 

 ややもたもたしながら、それでも大樹の内側から抜け出し、樹海の中へと戻ってくる。

 あふれ出した緑にまず最初にしたのは周囲の気配を読むこと。

 

「いない、わね?」

「こっちでも確認した……いないよ」

「一旦戻るわ」

「問題無い……さすがにこれは予想外だった」

 

 了解を得ると共に、地面にモドリ玉を投げつける。

 直後に溢れ出す緑色の煙に紛れてそそくさと撤退した。

 

 

 * * *

 

 

 まるで長い間水の中に潜っていたかのように、ベースキャンプに辿りつくと同時に崩れ落ちる。

 

「ふう……はあ……」

 

 荒く息を吐き出しながら大きく吸い込む。また吐き出して、吸い込んで、そうして何度となく深呼吸しながら跳ねる心臓の鼓動を落ち着かせていく。

 リオもまた地面の上に寝転がりながら何度と無く深呼吸を繰り返していた。

 

 単純な体力もそうだが、それ以上に張り詰めていた神経を緩めるための、尖らせていた感覚を戻すためのスイッチが必要だった。

 

 大型モンスター……それも上位モンスターの中でも最上位クラス二体との乱戦は自分たちの精神を大きく削り、余裕を奪っていたのは間違いない。

 だが戦闘中ならともかく、拠点でまでそんな状態を続けていれば体力が持たない。

 だから戦闘時と非戦闘時の切り替え作業というのは必須になってくる。

 

 そうして少しずつ、少しずつ、体から力を抜いていく。

 脱力し、尖った感覚をゆっくり、ゆっくり、平時のそれに戻していき。

 

「それで……どうする?」

 

 口に出したのは自分から。

 どう考えたってこれは緊急事態だ。

 事前情報に無かった大型モンスターの乱入。クエストをリタイアするには十分な理由であり、契約金こそ取られども評価の減少は無いだろう。むしろここで無茶して二人して大怪我するほうが余程査定に響く。

 

「どうするって……何がだい?」

 

 それを自分も、リオも分かっていて。

 それでも尚、尋ねた意味をリオだって察していた。

 

「分かってるでしょ?」

 

 察していても、それでも尚それは簡単なことではないからこそ。

 互いの意思が何よりも重要だ。

 

「「やられっぱなしじゃ気に食わない」」

 

 重なる声と声に、互いに顔を合わせ。

 

「長生きできないね、キミも、私も」

「するわよ……勝てば良いだけだもの」

 

 呟いた言葉に、そう返せばリオが少し目を丸くし、苦笑する。

 そのまま上半身を起こし、ポーチを漁る。

 

「そうは言えど、完全に想定外の相手だ……道具だって多少の予備はあれど、閃光玉だって数に限りがある。ナルガクルガはともかく、エスピナス相手に音爆弾なんてあっても仕方ないしね」

 

 モンスターの視界を奪う閃光玉はハンターにとってシビレ罠や落とし罠と併せて最も頼りになる道具の一つではある。

 ただどれもそう多く数を用意できないという問題もある。

 閃光玉なら仕組みがそもそも光蟲の絶命時に放つ強大な光を利用したものなので、内側の光蟲が生きている間しか使えないという大きなデメリットがある。

 そもそもサイズからしてそれなりにかさばるので普通のハンターで三個、多めに持って行っても五個が限度と言ったところか。光蟲を現地調達できればもう少し数も増やせるが、今回は虫網を持ってきていないので持ってきた五個のみ、一個使って残り四個。

 シビレ罠や落とし穴も誤作動や磁気の問題で複数持つと壊れることがあるので基本的には一つずつ、というかそもそも材料のトラップツール自体のサイズがそれなりにあるので二つも三つも持つと持ちきれない。

 

「落とし罠……あったわよね?」

「迅竜相手だからいらないかと思ったけれど……まあ一応ね」

 

 迅竜ナルガクルガは警戒心が強い。さらに索敵能力も高いため、普通に落とし罠をしかけてもすぐに違和感を見抜いて踏み抜いた瞬間、その持前の瞬発力で逃げられてしまう。

 それこそ踏み抜いた瞬間攻撃で怯ませ無理矢理落とすか、もしくは怒らせて警戒心を薄くした状態でなければまず落ちることは無いらしく、わざわざかさばって持って行く割に効果は薄いと持って行くハンターは少ないらしい。

 とは言え不注意ならば落ちるのは落ちるのだ、何があるか分からないが一応持ってきたのだが、それが功を奏したらしい。

 

「私とリオで一個ずつ……捕獲玉も一応あるわね」

「回復薬の類も十分あるし、探索中にハチミツが採取できる場所もあった」

 

 本当は温暖期が一番なのだが繁殖期でもハチの巣にはハチミツが蓄えられている。

 これを回復薬と調合すればより効果を高めることができる。

 

「リオ確か調合書持ってたわね?」

「弾薬の調合に必須だからね……本当は覚えれば良いんだろうけど」

 

 調合書は単なる調合のレシピ、というわけではなく、状況に応じた調合のやり方を記してある。

 例えば火山などの暑い場所と雪山などの寒い場所で同じように調合しても全く同じ結果になるはずが無い。

 他にも湿気や素材の状態、器具の良し悪しまでそこに記された知識は膨大の一言であり全五巻に渡る調合書の全てを覚えれば調合屋になることだってできる、つまりその道の専門家になれる。

 ハンターをしながらそれはさすがに無理なのでハンターたちは必要に応じた調合書を狩場まで持ち歩き、それを参考にしながら狩場で調合している。

 

「私は基本的に回避優先だから回復薬はそれほど使わないとして」

 

 回復薬とて飲めば一瞬で傷が癒えるなどという出鱈目な力は無い。

 ハンターの回復力を高め、いくらか体力を回復してくれるくらいであり、最終的に傷を癒すのは戦わない時間である。

 故にソロで活動するなら余り世話になることの無い物であり、基本的に自分は回復薬の世話にならないように戦っている。

 

「念のために秘薬はいつも持っているけど、これ一つだけだから注意して欲しい」

「というか良く持っているわね、そんなもの」

 

 秘薬と呼ばれる回復薬がある。

 先ほど回復薬は飲めば一瞬で傷を回復してくれるわけではない、と言ったが秘薬に関しては別だ。

 不死虫やマンドラゴラと言った貴重な素材を使って作られる秘薬は、ハンターの自己治癒能力を過剰なまでに活性化させ傷だけでなく体力までも全回復させる。

 ただしそれは一時的なドーピングに等しいため、一度の狩猟で最大でも二個。それ以上の服用はハンター本人に極めて危険な副作用をもたらす。

 文字通りの奥の手である。因みに非常に高価であり、上位ハンターでも一部の人間しか持っていないとされるほどに貴重な物である。

 勿論自分だって持っていないが、昔ハンターになる時に義姉に言われて義兄の道具箱からいくつか道具をもらっていくときに大量にストックされているのを見たことがある。

 多分あれ全部売り払えば家族三人が三回人生を謳歌してもまだ余るくらいの金額になる。

 欲しいなら持って行っていいですよ、と義姉に言われているがさすがにそんな高価なもの持っていけないと言って断ったが一個くらいもらっておけば良かったかもしれない。

 

「昔はG級だった、つまりそういうことだよ」

「……まあ何にせよ助かるわ」

 

 使わないに越したことは無いが、あるなしで生存率がまるで違う。

 しかもこれから生死を賭けるほどに無茶をするならば保険としてあったほうが良いに決まっている。

 

「弾薬のほうは?」

「ほぼ使ってないよ……調合すればまだ余裕はある」

 

 とすれば道具に関してはほぼ問題無い。

 幸か不幸かまだほとんど最初に出くわしたのでそれほど消耗は無い。

 刀身もそれほど摩耗はしていない……がまあ一応砥石で研いでおく。

 リオもまたボウガンの銃身を掃除していた。

 

「じゃあ後の問題は」

「私たち自身、だね」

 

 相手は二体。

 

 迅竜ナルガクルガ。正直言えばこちらはそれほど問題は無い。

 元々狩猟予定だったのだ。ここまで戦ってみた限り、リオと協力すれば倒せないことも無いと思う。

 

 問題となるのは。

 

「エスピナスだ……元々この樹海でも最上位の強敵だ。少なくとも上位に上がったばかりのハンターが戦うような相手じゃない」

「そもそも乱入してきた時点で棘竜は倒す必要性が無いのよね」

 

 というのは分かってはいるが、だからと言ってあれだけ驚かされてぽんぽんブレスを吐かれて、一発も返さずに逃げ出すのは性に合わない。

 

「棘竜の最大の特徴はあの甲殻だ。戦闘態勢に入ればいくらか軟化するとは言え、私の弾丸の大半があの甲殻に弾かれる」

 

 貫通弾や拡散弾、徹甲榴弾などは硬い鱗や殻を持つ相手でも十分な効果が発揮できるとは言え、それ以外が弾かれるというのは弾の種類に大きく制限がかけられているに等しい。

 

「私の刀で……アレを斬れるかしらね」

 

 無駄に敵意を集めないように先ほどは無視したが、敵対するなら考えずにはいられない。

 分厚く固い甲殻は並大抵の武器では弾かれてしまうだろうし、いくら新調したとは言え上位ハンターとして見ればまだ初歩の初歩としか言いようの無いこの太刀で、上位最強クラスと言われるあの竜を斬ることが果たして可能か……。

 

「刃に意思を乗せて」

 

 刃の尖の先まで斬る、という意思を満たす。

 そうすれば斬るという行為は必然と化す。

 義兄にそう教えられたが、果たして今の自分がどこまでそれを再現できるだろう。

 

「もし……斬ることができれば」

 

 エスピナスという極めて強固な甲殻を持つモンスター。

 

 それを斬ることができたならば、きっと。

 

 自分また一歩、義兄に近づける、そんな予感があった。

 

 

 




アンノウンの第八形態のBGMかっこよすぎかよ!!!


あとグァンゾルムの第二形態BGMとかも好き。
テンション上がり過ぎてしばらくモンハン続きそう。

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