三話だけで終わらなかった(
「カタナとは、刃だ」
そんな当たり前のことを、あの人は私に呟く。
「斬れば切れる、振れば裂けるし、突けば刺さる」
要は凶器だ。そう言って、私に一振りの太刀を握らせる。
あの人にとっては刃渡りの短い短刀と読んだほうが差し障りの無いものでも、まだ十にも満たない私にはそれはとても重く、けれど頼りがいのある確かな力だった。
「俺たちの敵は強大だ。力では敵わない。頑丈さでも敵わない。素早さでも敵わないし、持久力でも敵わない」
無い、無い、無いの無い無い尽くしだ。
それでもたった二つ、自分たちが勝るものがある、とあの人は言う。
「刃と罠だ」
今にして思えば、それは比喩の話だろう。
刃とはつまり敵を打ち倒すための爪牙、人の爪牙とは鍛造された武器であり、それを扱う技術。
罠とはつまり敵を陥れるための知恵、人の知恵とは生み出される数々の道具であり、それを使った戦術。
つまり、ハンターとして必要な全てがそこにある。
「けれどそれだけじゃハンターとしては失格だ」
敵を打ち倒すための刃と、敵を陥れるための罠。この二つがあっても、それでも足りないと言う。
それが何なのか、その時の私には分からなかった。
首を傾げる私に、あの人が笑って言う。
「意思だ。狩ると言う意思、己が手の中にある刃で、敵を殺すと言う意思、獣の爪牙を潜り抜け、生きて戻ると言う意志。意思こそが、ハンターの最も重要で、最も大切なものだ」
そして、それこそが私が求めた――――――――
* * *
足元に広がる毒の沼を見て、顔を顰める。
崖状の足場は、けれど眼下までそれほどの高さは無い。
精々3,4メートルほど。常人ならともかく、訓練されたハンターなら問題無く降りることができる程度の高さ。
だがその降下地点が毒沼、となるとさすがに尻込みもする。
「……………………迂回しましょ」
誰にとも無く呟き、来た道を戻っていく。幸い、と言うべきかすぐ傍にある洞窟からぐるりと回っていけば別の出口から同じ場所に来れる。
洞窟に入ると、視界が急に悪くなる。星の明かりも月の光もほとんど届かないのだから、当たり前だが、幸いと言うべきか気配察知で周囲に何がどこにいるのかは大体分かる。
「…………ここだったかな?」
岩壁に生え茂る丈夫な蔦を掴み、そろりそろりと登っていくと、上方から僅かに光が漏れる。
どうやら記憶通り、ここから外に繋がっているような、と安堵の息を漏らし登り切る。
洞窟から出ると、先ほどまでの
書物を読むには暗いが、それでも辺りを見渡すには十分に明るい。ハンターをやっていれば、自然と薄闇の中でも目など慣れてくるものだ。
そうして辺りを見渡せば、そこは中々に広い場所だった。
四方を岩壁に囲まれた横長の構造で、両端には毒の沼が広がっている。
踏み入れるだけで体を蝕まれ、一呼吸すれば肺が焼ける。地中に溜まった毒が地表に滲み出た濃厚で濃密な毒だ、即座に死ぬような毒ではないが、それでもかなり体力を消耗するし、最悪後に残るかもしれない危険性があるので、出来る限り遠慮したいところだ。
そしてその毒の沼の周囲に数体のモンスターの姿が。
あれはゲネポスとイーオスだ。
ゲネポスは、体内に麻痺毒を溜め込んだランポスの亜種で、緑とオレンジ色の縞模様に口外にまで伸びている二本の牙、そして一対のトサカが特徴だ。
牙や爪には大量の麻痺毒が染み出しており、自身の十倍の体重の生物ですら数秒で動けなくしてしまうほどの強力な毒を攻撃と同時に送り込んでくる。
ランポスなどとは比較にならないほど危険な存在であり、そのためハンター養成訓練所では毒物耐性…………特に麻痺毒と
だが稀に訓練所を出ていないハンターが、これを食らい、生きたまま食われると言う絶望を体験し、しかもこの毒、筋弛緩など運動機能の阻害だけを目的とし、五感など感覚は一切阻害しないので、激痛と恐怖のあまり想像を絶するような凄絶な表情で死んでいることが稀にある。
なので、基本的にハンターを目指す以上、訓練所を出ていなくても耐性を持つことは必須事項と言える。
イーオスは、体内に猛毒を溜め込んだ同じくランポスの亜種で、毒々しい赤色の鱗とせき込むような鳴き声が特徴だ。
他のランポスの亜種とは違い、足には鉤爪を持たず、手にも二本しか指や爪が無く、牙の本数も少ないなどと多少毛色が違う。喉元に出血性の強力な毒を生成する袋状の内臓器官を持っており、ここから作り出される毒液を武器とする。
この毒こそがイーオス最大の特徴であり、最大の脅威だ。牙を通して毒を打ち込んだり、時には喉を通して直接原液を吐きかける事もあり。この毒が傷口に侵入すると、その傷を徐々に悪化させて獲物の体力を奪っていく。
沼地にある毒沼よりもさらに凶悪な毒であり、完全なる毒への耐性を持っていなければ、絶対に食らいたくない、もしも食らってしまったら即座に解毒薬か漢方薬を飲んで治療しないと危険、と言えるほどのものである。
因みにゲネポスもイーオスも、その牙から取れる毒はモンスター相手にも有効なので、危険ではあるが有用なアイテムとして剥ぎ取り素材に数えられる。
予定としてはこの広場で標的の相手をするつもりなので、先に狩っておいたほうが良いだろう。
そろり、そろり、と忍び足で敵に近寄る。最近になってギルドで気配を殺して相手に近づく隠密の方法を習ったのだが、早速役に立つ時が来たようだった。
とは言え、さすがに近づけば近づくほどに気づかれやすくもなる。太刀が届くまであともう数メートルと言ったところで、敵がこちらに気づく…………と同時に駆け出す。
モンスターを相手に、特に小型のモンスター相手ならば先手必勝と言うのは非常に良くハマる。
数の多い敵を相手に受けに回っていては、いつまでたっても攻撃に転じれないどころかそのまま数の差に負けて押し込まれる危険性すらある。
だからこそ、気づかれると同時に地を蹴り一息に間を詰める。
腰に差した太刀を抜き、そのまま居合い一閃。
【攻撃力UP小】+【見切り+1】+【一閃+1】
振りぬかれた太刀が、ゲネポスの体を易々と切り裂き、真っ二つに両断する。
絶命の声を上げることすら出来ずに崩れ落ちた仲間の死体を見て、ゲネポスとイーオスがギャァギャァと騒ぎ出す。
だが。
「もう、遅い」
そのまま縦に振り下ろす、イーオスの後頭部に直撃し、刃が首に減り込む。明らかな致命傷にイーオスと崩れ落ちるに併せて刃を抜く。
だが相手とて棒立ちのままではない、こちらへとゲネポスが襲い掛かってくる。
麻痺毒が染み出す爪を振りかぶり…………。
「っ!」
下から掬い上げるように振り上げた右足が、ゲネポスの腹に直撃し、ゲネポスが仰け反る。
その隙にイーオスの首から刃を抜き、その勢いのまま裏蹴りを放ち、こちらへ毒を吐きかけようとしていたもう一体のイーオスの首を吹き飛ばす。
鋼鉄製の重い足防具に覆われた一撃はイーオスの伸びきった首を捻り、ボキリとその骨が軋み、砕けた感触を伝えてきた。
あと一体。
先ほど蹴り上げたゲネポスが飛び掛ろうとしていたのを見て、そのまま太刀を振りかぶり…………振り下ろす。
【攻撃力UP小】+【見切り+1】
スパッ、と脆くも切り裂かれた鱗が弾け飛び、ゲネポスの肉を刃が切り裂き…………そのまま転がっていく。
血の滴る刀身を振って軽く血を落とし、布で拭ってやる。
周囲を見る、敵の姿は見当たらない。どうやらここにいたのはこの四匹だけだったらしい。
気配探知で探すが、近くに敵らしきものは感じない。と言うことは少しの間は安全だろう。
すぐに手持ちの道具の中から砥石を取り出し太刀を研ぐ。
数度強化し、切れ味も増しているものの、それでもまだまだ未完成と言っても良い。
こうしてこまめに手入れしてやらないと、いざ大型モンスターの目の前で切れ味が鈍ったりしては生死に関わる。
そうして何度と無く刀身を磨き上げ、切れ味が戻ったのを確認していると。
ばさっ、ばさっ、と言う羽ばたく音が聞こえる。
気配探知にも大きな気配が引っかかっている、どうやら待ち望んでいた相手がやってきたらしい。
ギャァァァァ!!
相手もこちらに気づく。
一対の翼、藍色身を帯びた表皮、丸く細長い尾、そして頭部のトサカ。
名前を毒怪鳥ゲリョスと言う。
他の鳥竜種とは違い、鱗を一切持たないと言う不思議な特徴を持つ鳥竜種だ。
かと言って防御力が低いかと言われるとそれもまた違う。
ゲリョスの大きな特徴の一つとして、その皮膚が上げられる。
弾力に富むゴム質の皮をしており、打撃系武器の攻撃はほとんど通らず、また斬撃系武器や刺突系武器の攻撃もある程度以上の鋭さが無ければ表皮を撫でることしかできないと言う厄介な性質を持つのだ。
地上に降り立ったゲリョスがこちらへと向き直り、威嚇の叫びを上げる。
自身の数倍の背丈の怪物の叫びを前に、けれど眉一つ動かさず太刀を握る。
ゲリョスがその強力な蹴り足で巨体を軽々と持ち上げつつこちらへと飛び掛る。
だがその攻撃方法はすでに見知っている。ゲリョスの蹴り足の強さは有名だ。
だからこそ、それを読み切っていたからこそ、前のめりに転がる。
ゲリョスの脇へと避けるように転がると、自身の横をその巨体が過ぎ去っていく。
すぐさま立ち上がり、こちらへと背を向かえるゲリョスの、その尾へと太刀を振り下ろす。
ざくり、とその柔らかくも弾力性のある尾に斬線が刻まれる。
伸縮するこの尾は、ゲリョスの各部位の中で最も斬撃でダメージを与えやすい、この程度の個体の尾では素材としての価値は無く、切り落とすのも難しいのだが、それでもダメージを与え、体力を削り取ると言う意味でならこの尾への攻撃は非常に有効になる。
一閃、二閃と斬撃を重ねるたびにゲリョスが悲鳴を上げる。
だがゲリョスとてむざむざ攻撃されたまま黙ってはいない。
その巨体に勢いをつけて回転を始める。遠心力に引かれ、その尾がぐいぐいと伸びる。
長くしなやかな鞭のような太い尾、それが回転しながらこちらへと向かってくる。
咄嗟にしゃがみこむ。ゲリョスの背が高いので、こうすれば当たらない、と考えたのだが…………。
「っぐ……ぁぁ……」
尾がしなり、絶妙な軌道を描いて自身の顔面へと直撃した。
幸い直前に両手でガードしたが、それでも吹き飛ばされ、地面をごろごろと転がる。
「…………つぅ」
ここ最近の狩りで初めてまともに食らった一撃に、衝撃が隠せない。
だが動揺は驚くほど少ない、元々恐怖心と言うものが欠けているきらいがあったせいか、こう言った場面でもすぐに冷静に動けるようになる
慌てることなく体を起こし、立ち上がる。
こちらへと狙いを定めたゲリョスが再び飛び掛ろうとするので、サイドステップ。
バックステップでは恐らく飛距離で負けてあっさりと捉えられるだろうことは分かりきっている。
だが蹴り足で爆発的な飛距離を生み出す反面、その動きは直線的なものに限られているので、直前のサイドステップで簡単に回避できる。
だが脚力に優れると言うことは、爆発的な突進力と同時に想像を絶する制止力をも持つと言うことだ。
こちらが攻撃を回避したのと同時、即座に地面を蹴りつけて勢いを止める。
すぐさまこちらへと振り返って再び飛び掛ってくる。
厄介な、内心で思わずこぼす。
あの急激なストップアンドゴーは非常に厄介だ。最悪こちらがサイドステップを終えるより先に相手が再び動き出す、なんて展開もあるかもしれない。
早急に対処しなければ、と思うが、差し当たって考え付くのはあの足を攻撃してみること。
即決で結論付け、再び飛び掛ってくるゲリョスの脇を再度くぐり、すれ違い様にその足へと太刀を薙ぐ。
「かった…………ぃ」
通りはする、がかなり固い。弾力性が高いと言うべきか、なんとも肉厚で、恐らく今の一撃も表層の一部しか切れていないだろう。
これを歩行不能になるまで斬ろうとするならば、相当苦労することは必至だ。
やはり当初の予定通り、尻尾を切り続けて体力を減らし、頭部でトドメを差す方向で行くしかないだろう。
太刀を握り締める。
先ほど研いだばかりの刃は、月の光を受けて鈍く光る。
長い戦いになりそうだ。
目の前でこちらを見つめてくる巨大な姿を見て。
内心、そう呟いた。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
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習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+1】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】NEW