「はい、確かにダイミョウザザミの討伐確認しました」
その一言にふう、と息を吐き。報酬を受け取って、受付カウンターを離れる。
盾蟹の討伐クエストを受けてからおそよ三日。
硬い甲殻に覆われたダイミョウザザミはその巨体とは裏腹に中々に素早く動く強敵だ。
地面に潜り、足元から急に背中の巨大な殻ごと体当たりしてくる攻撃をまともに食らえば、自身など一撃で全身の骨が砕かれるだろう。
例え逃げ出そうとも、両脚四本の脚を器用に動かし、見る間にその背を追いかけてくる俊敏さは中々に厄介で…………。
「まあ、脚一本落とせば後は簡単だったけれど」
一部位を十度、二十度と斬り付け、切り落としてしまえば、後はバランスを崩し、爪を使ってのろのろと歩くだけのただの的だ。
まあ潜行攻撃には気をつけなければならなかったが、それだってその巨体故に、スペース的に絶対に地上に出てこれない岩間などに隠れれば防げる。
最悪防げずとも、浮上直前に地面が揺れるので、それを合図に背後に飛べばそれで威力は大幅に減少する。
そうしてじわじわりと体力を削っていき、およそ半日かけてダイミョウザザミを倒した。
基本的にクエストと言うのは対象となるモンスターを倒したら終了となる。
それは、討伐したモンスターの素材の鮮度と言った問題などによるものであるが、何より狩場を管理するハンターズギルドの決まりだ。
「まあ今回は道のりが長かったわね」
ダイミョウザザミの生息する砂漠までの道のりはそれなりに長い。特に、アプノトスの引く竜車は長距離を移動する持久力はあるが、速度の観点から見ると、首を傾げざるを得ない。
結局、移動だけで一両日を使ってしまい、移動した先での敵を索敵などを含め、三日で行って戻ってきた、と言うわけだ。
「二週間で三つ目…………一週間くらい休養しようかしら?」
この二週間、とある目的のためにクエストをこなしてきたが、少しハイペース過ぎるのは自覚している。
基本的にハンターなど一週間に一度クエストに出かけるのが常だ。特に、現状で勝てるかどうかギリギリの大物など一月に一度あるかないか程度である。
凡その人間にとってハンター業とは、あくまで生きる手段であり、そこに無意味の命を賭ける意味などありはしないのだから。
街の大道りはいつものように賑わっている。
雑多に通りを歩く人々の中には、自身と同じような装備に身を固めた人物がちらほらと。
ハンターかもしれない、もしくは城の衛兵かもしれない、あるいはどこぞの商談の護衛かもしれない。
まあどこの誰なのか、と言うのにはそれほどの興味は無い、だが彼ら、彼女らが身にまとうその装備を見て、思わず考えてしまう。
「そろそろ潮時かもしれないわね」
そっと腰に差した太刀に目をやる。これまで幾度と無く使い続けてきた相方がそこにある。
だがそれも限界だろう、これ以上この太刀は酷使すべきではない。
何せ、一度折れた太刀をもう一度接合したのだ。
「…………感傷、よね、どう考えたって」
そしてため息を付く。
「ちょっといいかい?」
そうして横合いから声をかけられた。
* * *
狩場と言うのはどうやっても危険を孕むものだが、密林と言うのはモンスター以外の危険も孕む。
じめじめとした亜熱帯気候。細い木々が立ち並び、視界の悪いジャングル。そして人を刺す毒虫の数々。
ランゴスタやカンタロスと言った類のものはまだサイズの問題で発見も難しくないが、もっと小さい、ムカデなどの毒虫は気をつけていなければ、気づかないことも多い。
虫除けの薬などを常に常備しておかねば、下手すれば毒虫の毒で、熱を発症し死んでしまった例と言うのも決して無くは無いのだ。
「暑いわね」
端的に言葉を零しながら、けれど足を進めていく。
事前にもらった地図を見ながら目的地がもうすぐなことを悟る。
「それにしても…………個人依頼、ねえ」
手に持った地図を眺めながら、これをもらった時のことを簡単に思い出す。
「依頼? 私に?」
「ああ、その装備、ハンターさんだろ? 頼みがあるんだ」
私に声をかけてきた男…………外見からして恐らく学者だろう、年齢は恐らく四十弱と言ったところか。
男の後ろには竜車が止まっており、中の様子は良く伺えないが、何かの荷物がぎっしりと詰まっているのは察せられた。
「見ての通り…………と言って分かるかは分からんが、私は学者をしていてな。実は今とある密林の遺跡の調査をしているんだが、その遺跡の周辺に最近になってイャンクックが住み着き始めてな。どうだ、報酬は出すからハンターさんにこいつを退治してきてもらいたいんだ」
「ふむ…………と、言っても。私はしばらく休養する予定だったのだけれど」
そう言って去ろうとする私に、男がまあ待て待てと告げ。
「報酬は…………………………ぐらいでどうだ?」
そう言って男が提示した金額はかなりのものだった。
代わりの太刀を探そうと思っていた私にとってはかなり魅力的な報酬と言える。
正直言えば、ここ最近クエストを連続してやっているのも、新しい太刀を作るための準備と言える。
もしこの報酬があれば、もっと良い太刀を作れるかもしれない、そう考えれば利は大きい。
受けないデメリットは、正直特に無い。個人的な依頼を断ったからと言って特に問題があるわけでも無い、これがギルド指名依頼などの場合は問題が起こるが、それ以外での依頼の受託など、基本的には本人の自由だ。
そして受けないメリットは、安全性だ。
個人依頼と言うのは、ギルドを通さない依頼全てを言う。
大概の場合は
だがその場合、依頼側は仲介料を、受託側は契約料を取られることになる。
それを嫌った一部の人間はギルドを通さず、個人的に依頼を出してくることになる。
それが個人依頼。ただしこれにも色々メリット、デメリットがあり、基本的にはデメリットのほうが大きい。
ある意味、この
ギルドを通した依頼と言うのは、依頼側からの情報をギルド側である程度精査しており、正確な情報のみがハンターに与えられる。
そして受託するハンターたちもギルド側が選別しており、達成できるだけの力のあるハンターが受託するよう依頼を回される。
依頼側は、ギルドへ任せておけば大体は安定して依頼を達成してもらえるし、受託側もギルドを通した依頼は基本的に信頼のおけるものが多い。
そう、個人依頼最大のデメリットは信頼性の欠如だ。
それが知り合い、友人、身内などであればまだ問題無いが、こう言った見ず知らずの人間から受ける依頼と言うのは偶に情報が間違っていたり、欠けていたりするものがある。
それらを踏まえた上で私が出した答えは…………。
「着いた、ここね」
密林の中に遺跡を見つけ、ようやく一息付く。
周囲を見渡してみる、木々が茂っていて視界は悪い、が一本一本は細く身を隠せるような太さは無い。
厄介な地形だ。平坦に広がった地形故に、木々に隠れて接近と言うのは難しい、木々のせいで視界は悪く距離感が掴みづらい、だがその細さのせいで木よりも大きければすぐに発見できてしまう。
「近づいて接近、と言うのは難しそうね」
ならばあの遺跡はどうだろうか? 奥まで行く必要は無い、入り口の辺りで身を潜めれればそれで十分なのだから。そう考え、遺跡の入り口へと近づいていき…………。
バサッバサッ、と言う羽ばたく音にすぐ様気づく。
キエェェェェェェェェェェェ
上空から聞こえる声に奇襲にすぐ様対応しようとし…………。
そこにいるはずの無いモンスターの姿を見て、一瞬、体が硬直する。
「っしま」
言葉を漏らしたその時にはもう遅かった。
ブレた斬線を辿った手の中の刃が上空からやってきたモンスターへと突き刺さり…………。
ピキン、と小さな音を立て、あっさりと折れた。
「!!!」
声にもならない悲鳴を上げ、自身の体が吹き飛ばされる。
ごろごろと転がりながら、勢いが止まる、と同時に立ち上がる。
ギャァァァァァ、と声を上げながらソレが追撃しようと猛然と襲いかかる。
「くっ」
折れた太刀を抉るようにして突き出す。
ピキィィィン、と音を立て、柄だけ残して刃が折れる。だがソレの目を僅かに傷つけることに成功し、ソレが数歩後退する。
その僅かな隙に視線を走らせる。見つけたのは遺跡、中がどうなっているか分からないが、他に選択肢が無い。
走る。全速力で走る。その後ろをソレが追いかけてくるのが分かる。
追いつかれれば、そのまま突進をもろに食らってただでは済まないことは自明の理。
生死のかかった走り合い、そのプレッシャーは想像を絶するものがある。
そうして。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアア
それが一際大きな声を上げ、助走の勢いそのままに跳ねる。
上から迫ってくる影、けれど自身は一切振り向かずに…………。
「あああああああああああああああああああ!!!」
叫び、叫び、叫び、そして跳ぶ。
ごろん、ごろんと二転、三転しながらそれでも自身の体は間一髪のところで遺跡の入り口へと滑り込んでいた。
狭い入り口にソレの巨体は侵入は出来ず、外から威嚇の声が聞こえる。
だがそれを無視して、中へ、中へと入ってく。
幸い、と言うべきか入り口付近は一本道のようで迷う心配は無い。
続けて内部の様子を探る、この上中にまで凶悪なモンスターが棲み付いている場合、本当の本当に万事休すのだが、幸い中からそれらしき音は聞こえてこない。少なくとも、今すぐ邂逅、と言うことは無いようだった。
そうして僅かな余裕が出来たらようやく入り口に陣取ったソレを見る余裕ができた。
「……………………随分と話が違うじゃない、黒狼鳥だなんて」
全身を紫色の甲殻に覆われたその怪物を見て、そう呟く。
黒狼鳥イャンガルルガ。
大怪鳥イャンクックに似たシルエットをしているが、その強さはまるで桁違いのモンスターだ。
造形が似ているので、過去にはイャンクックと間違われた討伐依頼がいくつもあったそうだが、今となってそんなもの過去の話だ。
その生態は獰猛の一言に尽きる。戦闘を好むと言う非常に特異な性質を持っており、一度獲物を見つけると決して逃さず、どこまでも食らいついてくる。
その癖、非常に狡猾であり、自身が不利と悟れば即座に逃げ出すこともある。だがその戦闘狂いな気質からか、本当に危険な状況にならない限り、ひたすら獲物を襲ってくる。
「…………目、付けられたわね」
一度接触してしまった以上、あれはもうどこまでも食らいついてくるだろう。
「あーもう…………これだから個人依頼なんて受けるんじゃなかったわ」
偶然なのか、それとも故意なのか、そんなことは知らないが少なくともあの依頼主の情報が正しくなかったのは確かだ。間違えたのか、それとも最近になって事情が変わったのか、はたまた嘘を吐かれたのか、今となってはどうでも良い。そんなことは生きて帰ってから考えるべきだ。
ふと手に握った太刀の柄へと視線を向ける。
最早刃は折れ、柄のみとなったそれ。
「……………………はあ、感傷だわ」
またその言葉を呟く。
結局、自身のツケだろう、これは。
ここまで酷使してしまったツケ。代償。
本来ならもうとっくに限界が来ているのは分かっていた。
それでも使い続けたのは、まさに感傷だろう。
たった一振り、義兄から渡された初めて手に取った武器。
子供だったなら良かった。多少短くたって、十分な長さで振るうことができた。
けれど、成長してしまった今となってはそれはあまりにも短すぎた。
太刀に限らず、武器の利点とは射程だ。自身の腕よりも、脚よりも長い間合いを攻撃できる。
それが故に、腕よりも短い太刀など使い勝手が良いはずが無い。脆い片手剣を振り回しているようなものである。
けれど諦め切れなくて、だから伸ばした。刀身を伸ばし、射程を延ばし。
そして脆すぎて折れた。
一度折れた刃など、最早使い物になるはずも無い。
けれどそれを無理矢理接合して、無理矢理使い続けてきた。
折れないように、潰れないように。
そんな風に武器に大きなハンデを背負ったままやってきた、ここまでやってこれた。
けれどこれから先はもう無理だ、そんなこと分かりきっている。
「…………ごめんね、今までずっとありがとう」
だからこれは自業自得だ。
だがそれを今考えたってどうしようも無い。
悔やんでも仕方ない、意味が無い。
もうそんなこと、今更、だ。
「…………どうにかしないと」
予備の太刀は無い。これが最後のつもりだったから、これで終わりのはずだったから、まだ買っていない。
バッグの中にはそれなりの準備はしてある。
イャンガルルガは本来、ハンターランク4…………上位クエストに分類されるような強敵だ。
クエストはその難易度に分けて、下位、上位と区別がされている。
下位クエストはまだ若かったり、傷を負っていたりと比較的弱い固体を対象としており、HR1以上、つまり全てのハンターが受けることができる。
上位クエストは成熟した固体と戦うことになるので、それなりの腕前が求められ、HR4以上の上位ハンターたちが受けることができる。
そしてHR7以上のハンターたちのみが受けることができる最上位クエストがG級クエストと呼ばれる。この領域に至ると、並のハンターですら想像を絶する強さの固体が現れる。
同じ下位クエスト同士でおさえ、敵の強さの上下と言うのは大きい。
まして下位クエストと上位クエストの間にある敵の強さの差など、推し量るまでも無い。
何よりもまず、武器が無いのでは下位モンスターにすら勝てはしない。
どうする、どうする?
そうして思考を巡らせていた、その時。
こつん、と背後のほうで音がした。
「っ!」
咄嗟に振り返り、臨戦態勢を取って。
「…………そこにいるのは、人か?」
向こうから発せられた声に、目を見開いた。
下位ハンターに、武器を奪っておいてさらに上位ガルルガぶつけるような最低な作者がいるらしい。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】