ようやく街に戻ってこれたのは、遺跡を脱出して八日後のことであった。
と言うのも、片足しか動かせないリオがいる現状、移動速度の低下は否めない。
近くの村まで五日ほど、ちょうどいいタイミングで着ていた隊商に同行させてもらう形で拠点としている街まで三日。
命からがら生き残り、ようやく戻ってこれた安心感からまる一日布団の中で過ごし、ようやく起きてこれたのは九日目のことだった。
一方のリオはと言えば、さすがに自身よりもベテランのハンターと言うべきか、帰ってきてすぐにギルドのほうに今回の件についての報告に向かったらしい。
詐欺を行った男はすぐ様、衛兵に捕らわれ連行されて行かれたらしい。
天罰覿面と言ったところか。まあこれ以上あの詐欺師に関わることはもう無いだろうし、記憶に彼方に忘却すべきことである。一発くらい殴っておけば良かったかと思ったが、まあそれももう終わった話である。
終わった話があれば、始まった話もある。
例えば、自身とリオの関係とか。
「パーティーを組まないかい?」
ほぼ二週間ぶりに顔を出したギルドで自身を待っていたとばかりに座椅子に腰かけたリオが居た。
リオと顔を合わせ、先ほどの話を聞いた後、唐突に彼女はそう言った。
「…………パーティーね」
基本自身は単独でクエストを受け、向かうが、本来ハンターとは複数人で協力してモンスターたちと戦う。その協力の最小単位をパーティーと言う。
二人から四人までの人数が基本であり、これはこれ以上の人数は隠密に向かない、と言うのが大きな理由に挙げられる。
あくまでハンターは狩人であり、兵士では無いのだ。獲物に忍び寄り、罠にハメ、狡猾に殺すのが本業であり、人数を増やして正面からモンスターに挑む、と言うのは職業を間違っているとしか言いようが無い。
さらに言うならば、人数を増やそうが、報酬額は一定な以上、増やした人数分、報酬は頭割りされていく。ハンターの大半は、生きるために、明日生きる糧を得るために、つまり金のために戦っている。
だがハンターとは何かと物入りな職だ。武器、防具を作るのにも、手入れするにも、道具類を揃えるのにも、罠を作るのにも、そしてクエストの受注にすら契約金が取られるとんでもない金食い虫な職業だ。
だが一番就職に対しての敷居が低く、うまくやれば大金を得ることができる職でもある。
何かと博打なのは確かであり、金のために少しでも人数は減らしたい、と思うのも当然の心理ではある。
だが減らした人数は、反比例する危険度の上昇を意味する。
だからこそ、ジレンマなのだ。
そして最大四人と言う数字にはちゃんと意味がある。
先ほど隠密に向かないと言ったが、大人数で狩場を荒らすことは、その地域に潜み棲むモンスターたちを無暗に刺激することとなりかねない。目的としたモンスターだけでなく、他の余計なモンスターたちまで呼び寄せてしまわないためにも、人数と言うのはある程度絞るべきなのだ。
さて、話を戻すが自身はパーティーと言うものに肯定的である。だが同時に、まだ必要無いとも思っている。
義兄が何度も言っているように、モンスターとハンターの差と言うのは余りにも大きい。その差を少しでも埋めるために、一番良いのは単純に人数を増やすことだ。だが同時にHR2で戦う程度の敵ならば、現状で戦う程度の敵ならば、まだ一人でも戦っていけると言う確信もある。
そして単独でモンスターと戦うと言うのは、自身を非常に成長させていると言う自覚がある、モンスターとの死闘を潜り抜けるたびに強くなっていると言う自負がある。
パーティーを組めば、その利を捨てることになる。
「……………………」
「悩んでいるみたいだね。まあ当然か…………こちらから提供できるメリットは、後衛としての私、そして
その言葉に、顔を上げる。
「HR…………8?」
HR1~3までの下位ハンター。HR4~6までの上位ハンター。
そしてHR7以上のG級ハンター。
HR8とはつまり、そういう事である。
あの義兄と同じ、人外魔境の領域に踏み込んだ存在の一人。
「……………………分かったわ、一度、一緒にクエストに行って試してみましょう」
どうしてG級ハンターが今となってはこんなところでくすぶっているのか知らないが。
「…………ああ、是非そうしてくれると嬉しいよ」
明らかな格上がこうして誘ってくれているのだ。
存外、幸運なのかもしれない。
そんなことを思った。
鬱蒼と茂る草木を払いながら、見えてきた巨大な洞に、目的地がすぐそこであることを察する。
後方を見れば、後ろのほうからゆっくりとした足取り…………それでも本人からすればそれなりに急いでなのだろうが…………でやってくる仲間の姿。
「すまない、待たせたね」
ようやく追いついてきたリオに、首を振って問題無いと告げ、洞のほうを見やる。
「ここにいるわ…………準備は良い?」
「ああ、問題無いさ」
がちゃん、とライトボウガンの弾倉の交換を終えたリオが頷くと、ゆったりと、足音を殺し、気配を殺し、息を殺して洞の中を伺う。
何せその中は最早洞窟と呼んで相違ないほど巨大であり、大型モンスターたちが中で暴れたとしても支障ないほどの広さを誇っている。そしてその洞を作る樹は見上げれば天を衝くかのごとき高さを誇っており、しかもその高さで、その実、幹が半ばで折れているのが分かる。
一体、当初の大きさとはどれほどのものだったのか、想像を絶するその規格外のサイズに誰もが絶句するだろう。
その頂上部に住み着くモンスターたちもいるのだが、今はその洞のほうに用がある。
「いた」
小さく呟き、後ろでこちらを伺うリオにこちらに来るよう合図を出す。
「…………気配を読む、ていうやつかい、私には良く分からないものではあるが…………凄まじいね」
小声でリオが苦笑する。歩きながらモンスターの気配を探知し、目的のモンスターを探る、と言うのは義兄に教えられたことの一つなのではあるが、同じG級ハンター…………ただし元ではあるが…………であってもリオには分からない感覚であるらしい。
代わりに、自身はこの相方の凄まじいまでの視力と観察力に驚かされることになったが。
「そっちこそ…………どんな視力してれば遠くで空を飛んでるモンスターなんて見えるのよ」
ベースキャンプからこの巨大な樹の姿なら誰にでも確認できるだろうが、そこからさらに樹の付近を飛ぶモンスターの姿をはっきりと視認するなどはっきり言って、ハンターであることを鑑みても異常としか言いようが無い。
まあそれはさておいて。
洞の中、洞窟と化したそこには、器用に体を立てたまま、翼を畳んで眠る一匹の巨大な鳥がいた。
眠鳥ヒプノックと呼ばれるそのモンスターは、どうやら現在睡眠中らしい。
チャンスだ、と太刀を握り、いざ行こう、とした時、背後から肩を掴まれる。
「…………何?」
リオだった、一瞬気勢を削がれた、と思ったが彼女がくだらない理由で止めたりはしないだろうと考え、そう尋ねる。
「…………ヒプノックは良く寝ている、ただ警戒心が強いのか迂闊に近づくとすぐに気づかれる」
その言葉に視線をヒプノックへと向ける。
うつら、うつらと頭を揺らしているその姿は警戒心の欠片も無いが、けれどリオがそう言うのならそうなのかもしれない、と考える。
モンスターを人の常識で図るな、とは義兄の言葉である。自分にはそうと見えずとも、どんな可能性を秘めているものか分からないのがモンスターなのだ。
故に慎重になる。
先手を取る、と言うのは戦いにおいて非常に重要なことだ。
モンスターの攻撃の隙を見ながら一撃入れると言うのがそれなりに難しいことである以上、先制を取れる余地があるならばできるだけ取っておきたい。その一撃が戦いの趨勢すら決めてしまうかもしれない。
故にここで取れる選択肢は二つとなる。
一つはリオが遠距離より攻撃。相手が視認できるとは言え、まだそれなりに距離はあるが、先の遺跡で見たリオの腕前ならば問題無く攻撃できるだろう。
ただ問題はそれをすれば確実にヒプノックの視線はリオへと向く。自身が距離を詰めてこちらへ視線を向けるまでにどれだけの間を詰められるか、その距離はリオを確実に危険へと晒すこととなる。
普通のハンターならば別に問題のあることではない。いざとなったら下がればいいし、逃げ出しても良い。
だがリオに限って言えばそれができない。何せ片足が動かないのだ、咄嗟に逃げ切るなんて真似難しいに決まっている。
一応戻り玉…………使うと緑色の煙に包まれいつの間にかベースキャンプまで移動している不思議な玉…………は持っているようだが、きちんと発動しないこともある以上絶対の安全ではない。
まあ色々言ったが、選択肢としてはもう一つのほうが良いだろう。
つまり、リオがダメならば自身がやる、と言うこと。
これはまあ当初の予定通りではある、ただリオが一筋縄ではいかないぞ、と忠告してきたのでやり方は多少変えるが。
それに、パーティーを組んでほしいと言ってくれた相手に、こちらの信頼を勝ち取るために自身の
「…………私が行くわ」
「大丈夫かい?」
まあ向こうからすれば自身はまだHR2のひよっこなのだ。心配になるのも当然かもしれないが。
「最悪でもこちらに視線を釘付けにできるわ…………まあ見てなさい。アナタが組もうとしている人間の実力を」
意外、と言えばそうでもないのかもしれない。
それでも安易にこちらに任せなかった理由の中に、自身への気遣いが含まれていることに、自身の判断が決して間違いではなかったことを知る。
人間性はやはり問題無い。と言うか誰に習ったのか知らないが、とてもHR2の新人とは思えないほどこちらの…………プロハンターの流儀と言うものを知っている、慣れている。それに風格もある。
後は肝心の実力、それさえあれば、最早言うことなどない。
そしてその実力も、すぐさま知れることとなる。
「…………凄いな、これは」
頬に伝わる汗は、果たしてどう言う意味のものなのか。
彼女が無事やってくれるのだろうか、と言う疑心の冷や汗なのか。
自身の想像を遥かに超えてしまうだろう狩人の誕生を間近に見ている、と言う興奮なのか。
彼女…………レーティアは、無だった。
上手く説明するこができない、だが感覚的に言うならば、一歩、踏み出したレーティアの透明感が増した、とでも言おうか。
そこにいるはずなのに、見えているはずなのに、そこにいるように感じない、そこにいることがあり得ないと思ってしまう。
一歩、また一歩とレーティアがヒプノックとの間を詰めていく。
とっくにヒプノックの警戒範囲内。少なくとも自身が同じように間を詰めてもすでに気づかれているだろう範囲。だがヒプノックは眠っている、何も気づいていない風に。
隠形
自身も戦い方の性質上必須であり、取得している技能ではあるが。
格が違う。
目の前を歩いているはずの人間がまるで錯覚でも見ているかのように思えてしまう。
そこに居ないのだと、視界が否定しても脳が納得してしまう。
ヒプノックの目の前までついにたどり着く。
ヒプノックは相変わらず眠ったままだ。
太刀を抜き、上段に構える。
所持している太刀は、あの遺跡の一件で折れてしまった太刀の代わりの太刀を見つけるまでの繋ぎとして購入した鉄刀だ、とてもじゃないが切れ味が良いとは言えない。
だが、斬れる。
当事者ではないリオにすらそう確信できた。
まるでそれが当然のことのように、レーティアは太刀を振り下ろし。
【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】
振り下ろされた一刀がヒプノックのその細く長い首を深く傷つける。
ヒプノックの絶叫が洞窟に響くと同時に、自身…………リオレイシア・ハーティスもまた自身が武器を構えた。
「……………………カイ?」
脳裏に過去に出会ったレーティアと同じ太刀を使う男の名が過った。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】
称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】
説明⇒軽銃技銃傑
モンハンフロンティア限定スキル。秘伝書スキルと呼ばれる秘伝防具のみで発動するかなりレアなスキル。
以下原文
・超高級耳栓が発動
・ライトボウガンの攻撃力が1.3倍に上がる。
・弾が跳ね返される確率が下がり、その際に受けるダメージが大幅に減る。
・武器を出したまま消費アイテムの一部が使用できる
・ジャストショットに加え、より攻撃力の高いパーフェクトショットが使用可能になる