想像以上、と言うのが自身、レーティアの相方リオに対する感想であった。
敵と近づいて戦う剣士は、どうしても敵からの被弾率も高くなる傾向にある。
特に、太刀はその切れ味のために、刀身が大剣などよりも薄くなっている、とてもではないがモンスターの攻撃をガードするようなことはできない。
故に太刀使いは回避に特化することを強いられる。そんな太刀使いにとって一番嫌な攻撃とは、小技の連続だ。反撃の隙も見いだせず、回避し続ければ攻撃ができないため一方的に攻撃を避け続けるハメになる。
そして避け続けているうちにモンスターが大振りした攻撃を見切って反撃。と言うのがこれまでのレーティアのやり方だった。打ち合い上等、なんてモンスター相手にできない以上、そうするしかない、と言うのが正しいのだが。
だが今は違う、そう違う、余りにも違い過ぎる。
連続した攻撃、その間隙を縫って飛来する弾丸。
モンスターの急所や傷口を正確に、そして容赦無く抉るその一撃に僅かながらモンスターも怯む。
その一瞬の隙でいいのだ、こちらが反撃の一撃を繰り出すのは。
一閃。薄暗い洞で銀光が煌めき、血飛沫が舞う。
違うのだ、余りにも違うのだ。これまでの戦いと。
たった一人増えただけなのに、リオと言う少女の存在は、レーティアの常識をあっさりと覆した。
動けないガンナー。確かに字面だけ見れば余りにも酷い。致命的と言ってもいいかもしれない。
だが実際に彼女と共闘すればすぐに理解する、その凄まじさを。
百発百中のその腕前もそうなのだが、何よりもその狙いが素晴らしい。
とにかくモンスターの動きを阻害することに特化したような狙い撃ちは、自身の反撃のチャンスを次々と生み出してくれる。
独りで戦っていた時よりも、ずっとアグレッシブに戦えるし、こちらのペースにすぐに巻き込める、と言うのは想像以上に精神的にも楽だった。
びゅう、と翼を大きくはためかせながらヒプノックが後方へと飛ぶ。
その口から吐き出される白い吐息は、ハンターの意識を一瞬で奪う強烈な催眠毒だ。
けれどそれも、口を閉ざし顔を下に向けて突っ切れば問題も無い。
ぶん、と太刀を振るう、薙がれた刃は翼の放つ風圧を切り裂き、一足飛びに開かれた間を詰める。
直後、だん、と音がする。直後、ヒプノックの嘴を弾丸が直撃し、浮き上がった巨体がバランスを崩し、地へと落ちる。
大きな隙を晒すヒプノックに、薙いだばかりの太刀を再度構え直し。
【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】+【??+1】
振り抜いた刃が先ほど傷つけたその首の傷をさらに抉り。
そうして、眠鳥が完全に沈黙した。
* * *
「お見事、だね」
眠鳥が完全に沈黙したのを確認した後、リオがやってくる。
「まさかそんな武器でこいつを狩るとは思わなかったよ」
「そうね、その辺りに関しては貴女のお蔭かしらね、リオ」
刀身に着いた血を拭い、鞘へと納める。
周囲を見渡すが、敵の気配は無い。
今のうちに剥ぎ取りをしておくが良いだろうと、ハンターナイフを取りだす。
「嘴はまだ使えそうだね、剥いでしまおう、貴重な素材だ」
そんなリオの言葉に従いながら眠鳥の死体から素材として使えそうな部位を剥いでいく。
一応最低限の剥ぎ取り部位は知識として詰め込まれてはいるが、リオの豊富な経験はこんなところにまで現れる。
簡単に言えば、素材の数、だ。
新人ハンターとベテランハンターを比較した時、ベテランハンターになるほど同じモンスターを狩猟しても持ち帰える素材の数は多くなる、と言う。
それは経験則として、どの部位が使えるか、そしてどうすれば上手く剥ぎ取れるか、と言うのを知っているからだ。
特に貴重な素材ほどベテランハンターのほうが上手く持って帰ってくる。
新人ハンターはその経験が無いため、すぐに貴重な素材をダメにしてしまい、何度も狩るハメになったりするのだが、そう言った部分も含めて新人なら通る道、と言うやつなのだろう。
実際自身もそこそこな回数剥ぎ取りをしているが、それでもリオと比べたならその回数は天と地ほどにも差が開いていることは想像に容易い。
なるほど、この辺りもメリットかもしれない、と思う。
モンスターの素材の数と言うのはとにかく膨大なので、自身も完全に把握しているとは言えない、と言うかむしろ知らない素材のほうが多い。
しかも手に入れた素材の使用用途とまで考えると、最早キリが無い。
だがリオなら自身よりも数段多くの知識を有しているのは明らかだろうし、何よりも、素材ごとの有用性を知っている、と言うのは大きい。
どの素材が何に使えるのか、そしてどのくらい必要なのか。武器を作るにも、防具を作るにもモンスターの素材は必要になる以上、そう言った計算ややり繰りは必要となってくる。
特に上を目指すのならば…………自身の目的を考えたならば、無駄な時間を過ごしている暇は無い。
決め時かな、と考える。
ここまでメリットが多い上に、デメリットもそれほど感じない、否、リオ自身は感じさせないように立ち回っているのかもしれない。同ランクで、どころか、上位ハンターまで範囲を広げてみても、リオよりも有用な仲間と言うのは少ないだろう確信がある。
ならば、パーティーを組まないか、と言う彼女に対する答えは決まったようなものだ。
「…………取れるだけは取ったし、帰ろうか」
いくつかの部位を剥ぎ取られたヒプノックから視線を外し、リオがこちらに確認してくる。
「ええ、分かったわ」
必要な部位だけ取って、後は自然に還す。それが暗黙の了解だ、ならばこの辺りが引き上げ時だろう。これ以上時間を置けば、眠鳥の死肉を求めて別の大型モンスターがやってくるかもしれない。
「引き上げましょう」
そう告げ、洞の出口を目指して歩き出す。
そうして、洞から外に一歩踏み出し。
「……………………………………」
その違和感に気づき、足を止める。
「……………………っと、どうしたんだい、レーティ……ア……」
遅れてやってきたリオも訝し気な表情をし、直後にその違和感に気づいて言葉を止める。
静かだった。
いっそ、異様なほどに、樹海は静まり返っていた。
「…………一応聞いておくけど、リオ。見える範囲で異常はあるかしら?」
「…………そう、だね。一つある、かな。逆に聞くけどレーティア、キミのほうで異常はあるかい?」
互いに尋ね。
「「生物が居ない」」
呟いた声がぴたりと重なる。
「ヒプノックと戦う前に通った時は樹海のあちこちに他の生物の気配があったのに、今は全部消えてる」
「そうだね…………見える範囲にモンスターどころか、何の生物の姿も確認できなくなっている」
異常、明らかな異常。
「…………急いでキャンプまで戻りましょう」
「そうだね…………何か嫌な予感がするよ」
互いが互いに、脳内で警報が最大レベルで鳴っていた。
何かおかしい、何か、何かが。
足の悪いリオに肩を貸しながら急ぐ。モンスターがいる時は咄嗟に対応できないために避けるが、今この周辺にモンスターどころか生命の一つも感じられないので問題は無い。
「すまないね、私のせいで」
「構わないわこの程度は最初から考慮済みよ」
そうしてもうすぐベースキャンプにたどり着くと言った距離。
もう、目視できる範囲までキャンプが迫った…………その時。
グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
轟音、としか言いようの無い咆哮が樹海に響き渡った。
直後。
「リオ!」
「レーティア!」
互いが互いに叫ぶ。
自身は気配で気づき、リオはそれを視認した。
「…………なんだ、あれは」
呟くリオの声が震えている。その視線の先へと向いて。
ドォォォォン
まるで世界を揺らしているかのような錯覚すら覚えるほどに大きな地響きと共に。
自身たちの目の前にそれが降り注いだ。
「……………………りお…………れいあ?」
「違う…………
自身の言葉を、けれどリオが強く、強く否定する。
そこにいたのは、リオレイアと呼ばれる飛竜によく似た存在だった。
リオレイアが全身が緑がかっているのに比べ。
開かれた赤い瞳が、その視線が、自身たちへと向けられ。
グアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!
轟、と
「きゃあ」
「なっ」
ごろごろと地面を転がりながら、素早く体勢を立て直す。
だがリオは片足が動かないせいか、起き上がるのに少しばかり苦労しているようだった。
「…………なんなの、こいつ」
黒いリオレイアなど、存在すら聞いたことも無い。
目の前のソレが一体何なのか、理解ができない。
分からない、分からない、分からない。
分からないからこそ、恐ろしい。
一手試すか、そんなことを考え、けれど即座に否定する。
今優先すべきは、未知の敵から逃げることだ。倒すことではない。
だとすれば余計な危険を冒す必要は無い。
「…………リオ、戻り玉で戻って、早く帰還の準備をお願い」
後方で起き上がろうとしているリオにそう告げながら、一歩、前へと進み出る。
キャンプシップで合図を上げれば迎えが来る。だがそれをむざむざ目の前の黒い竜が見逃してくれるとは思えない。だから引きつける必要がある。
そして、できれば引き離す必要がある。
「……………………済まない」
リオがそれだけ呟き、緑色の煙に包まれて消える。
視界からリオが消えたことにより、黒い竜の視線がこちらを向く。
ただそれだけのことで体が震えた。
恐ろしい、とそんな感情を抱く。
それは遥か昔に死に絶えたはずの感情だった。
あの日、あの雪の日、あの雪の山で、あの時、あの神に出会った時から。
死に絶えたはずの感情が、再び芽吹きだす。
恐ろしい、恐ろしい、恐ろしい。
なんて怖いのだろうか。
まるで闇そのものの化身であるかのようなその威容は、ただ見るだけで恐怖を駆り立てる。
ぶうん、と竜がその翼をはためかせる。
直後、ぶぉん、と爆発でも起きたかのような音が鳴り響き、周囲の草木が千切れ飛んだ。
そして。
ずどん、ずどん、と竜が一歩、また一歩と足を踏み出す。
一歩、それが踏み出すたびに挫けそうになる心を無理矢理奮い立たせる。
かちり、と太刀を握り、鍔を掴みながら、ゆっくりと溜める。
【気刃放出斬り】+【抜刀改心】+【攻撃力UP小】+【見切り+2】+【一閃+1】+【剣術+1】
そうして無造作に近寄ってくる竜の頭部に向け、十二分に溜めこんだ練気を載せた刃を振り抜く。
けれど。
ずぶり、と確かにその刃は竜の頭を切り裂き…………指先一つ分ほどの傷をつけた。
竜の巨体からすれば、痛みすら感じなかったらしいその威容は揺らぐことも無く、そして反応すら返さなかった。
今の自身にできる精一杯だと言うのに、だ。
「…………さすがに、傷つくわよ、それは」
引きつった笑みが零れる。
最早笑うしかないだろう。
何と言う化け物だろうか。
そして。
ガアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!
全身を突き抜けるような咆哮に、目の前のが真っ白になる。
ふわっ、とした浮遊感。直後に戻ってくる現実感。
意識が飛んでいたのだとすぐに気づく。攻撃でも何でもない、ただの咆哮で、だ。
と、同時。
どん、と空高くに火花が舞った。
救難信号、リオがどうやら出してくれたらしい、さすがに仕事が早い。
問題は。
「…………どれだけ待てば来るのかしら、ね」
救援が来るまで、自身がこの化け物相手に生き残れるかどうか。
そして。
この化け物が自身を逃がしてくれるかどうか、だろう。
「…………やるしかない」
太刀を握る手に力が入る。
こんなことになるならば、新しいものがきちんと打ち上がるまで待てば良かったと今更に思う。
手の中の安物の太刀が、今は酷く頼りない。
獲物を理由にするなど余りにも情けないが、それでも自身はまだ義兄ほどの腕前に到達していない以上、武器でその差を少しでも埋める必要がある。
「…………やるしかない」
再度呟く。
そう、それでもやるしかない。
負けられない、死にたくない、こんなところで諦めていられない。
義兄の言葉ではないが。
「そこにやるべきことがあるなら」
やらなければならないことがあるのならば。
「やり通す、それだけよ」
そしてまた一歩、正体不明の黒竜へと踏み込んだ。
称号:ストレンジャー
名前:レーティア・ブランドー
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP小】【ダメージ回復速度+2】【防御+60】
習得スキル【体力+20】【ランナー】【一閃+1】【見切り+2】【抜刀改心】【体術+1】【集中+1】【業物+1】【剣術+1】【氷耐性+10】【耐雪】【酔っ払い】【暑さ倍加小】【寒さ半減】【回避性能+1】【受け身】【調合成功率+10%】【ハンター生活】【地図常備】【採取+1】【探知】【隠密】
称号:ストライダー
名前:リオレイシア・ハーティス
HR:2/10
装備スキル【攻撃力UP大】【防御+30】【隠密】【気絶無効】【装填速度+3】【反動軽減+2】【装填数UP】【狙い撃ち】【ボマー】【通常弾・通常矢威力UP】【貫通弾・貫通矢威力UP】【散弾・拡散矢威力UP】
習得スキル【体力-30】【鈍足】【腹減り半減】【早食い】【火事場+2】【見切り+4】【毒無効】【激運】【弱点特効】【軽銃技銃傑】
店売りの鉄刀装備の下位ハンター相手に、アンノウンをぶつける鬼のような作者がいるらしい。
ベースキャンプの設定とか、あとその他色々、独自設定多いですので、注意。