ちょっぴり大人っぽいサトシくんの冒険記録(レポート) 作:波導の勇者サトシくん
正直なところエタったと思われても仕方ないほどにお待たせしてしまいましたが、何とか体調も回復して復活する事が出来ました。
ちょっと久しぶりすぎて文章が変だったり、今後は以前のような更新頻度は難しいですけど、それでも構わないという方は拙作を楽しく読んで頂ければ作者冥利に尽きます。
それでは今回はヤマブキジム戦の1本でお送り致します。
割と難産というか、もしかしたら内容的には賛否あるかもしれませんが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
a月÷日-① 予定調和
ポケモンタワーから反転して、再びヤマブキシティを目指して西に進んでいく。その途中で、不思議な少女に出会った。
見た目10歳前後の少女が木陰からこちらを見ている。しかも、まるで幽霊のように波導の感知が上手く働かない。不気味というよりは、不思議な感覚だった。
波導の質からして幽霊とも思えないが、何故か幽霊と同じくらい気配が希薄なのだ。
こちらを誘うような仕草で森の奥に走っていくのを追うと、ほんの一瞬だけ姿が隠れた瞬間に気配が消えた。
確認してみれば気配だけでなく、実際に少女も居なくなっている。妙な力の残滓は感じるが、あまり覚えがない気配だったのでこの時は正体が掴めなかった。
何だったんだろうと話しているうちに霧が晴れると、崖の上から町が見えた。ヤマブキシティだ。
ヤマブキシティに到着して手持ちを入れ替える。
そろそろコイキングも研究所に送っても問題ないと思ったが、取り敢えず今回は保留した。
エスパータイプの天敵である悪タイプは持っていないので、有利を取れる虫とゴーストタイプを起点にしていくのがベターだろう。
ジム戦に向けてストライクとロトム、特防が高くて小技も使えるピクシーと少しレベルは低いが抜群の受け性能を有するポリゴン2を手持ちに入れておいた。
ちなみに、入り口で出会ったムコニャ(変装)は適当にあしらって放置だ。*1
そうして到着したヤマブキジムの側で怪しいおじさんに絡まれる。
ヤマブキジムに挑むのはやめておけと、どこかで聞いたような事を言われた。
チラリとタケシを見れば不思議そうに首を傾げられたが、逆にカスミには合点がいったらしい。
実はここのジムリーダーの父親だったりして、なんて冗談めかして言ったら、謎のおじさんは露骨に焦った顔をして瞬時に姿を消してしまった。
一瞬の出来事に「まさか幽霊!?」と場が騒然とするが、俺は少女が消えたカラクリも理解した。
恐らく、あれは超能力だろうという事を話して2人を落ち着かせる。
エスパータイプのポケモンを専門に扱うトレーナーには珍しくもない事であり、あの反応からしてヤマブキジムの関係者であるのは想像に難くない。
ヤマブキジムと言えば数年前に格闘タイプからエスパータイプのジムに入れ替わった事で有名だし、超能力者が居ても不思議ではないだろう。
気を取り直して、ヤマブキジムに入る。
やはりというかヤマブキジムでは超能力の研究がされているらしく、対応をしてくれた男性にジム戦をしたいと言えば、ナツメ様は君の相手をしている暇は無いとか偉そうに語り始め、超能力を疑うカスミの前でスプーンを曲げてみせた。
そのくらい俺も出来るぞ、と言って『サイコキネシス』を使ってみせたら鼻水垂らしてたけど。
すまんな、レベルが違いすぎた(ドヤ顔)
だが、超能力(実際にはポケモンの技)を使ってみせた事によって彼にも分かりやすく実力を示せたようで、素直にナツメの元へと案内してくれた。
俺の『サイコキネシス』に終始怯えていた男性は、案内を終えるとそそくさ去ってしまったのは余談である。
ナツメが居るという部屋の扉を開くと、そこはもうバトルコートになっていた。
早速ジム戦を挑もうとして、森の中で見た不思議な少女が奥の椅子に座る女性の膝に乗せられているのが見えた。
とはいえ、今はジム戦の方が優先だ。少女を膝に乗せた黒髪の女性、ナツメに勝負を申し込んだ。
何故か基本的な受け答えは少女がしていたのだが、改めて2人を見比べると波導が瓜二つだった。
同一人物だと言われた方が納得出来るほどだ。原理は不明だけど、分身でもしているのだろうか。そういえば、俺も『かげぶんしん』は使える。
もしかして超能力なら意思を持った分身を作る事も可能なのか? と考えた瞬間、大きいナツメが「似て非なるものよ」と疑問に答えた。
当たり前のように心を読まれたが、まあいいかと思考を切り替える。それを言うなら波導を使っている俺も他人の事は言えないのだ。
バトル中に心を読めたら無敵なのでは? とも思うが、所詮は人の力なので欠点や付け入る隙は必ずある。
改めてバトルを申し込めば、条件付きで承諾してくれた。
その条件というのが奇妙なもので、バトルに負けたら小さいナツメの遊び相手になって欲しいとのこと。
ナツメほどの力を持つと、対等に遊べる相手も居ないのかもしれない。
特に断る理由もないので条件を呑んだ俺は、やっとジム戦を始める事が出来ると喜んだ……束の間、突然暇を持て余したゴーストがナツメの真横に現れて、一発芸を始めた。
表情が薄いナツメを笑わせたいとでも思ったのだろうか。
しかし、ナツメは無反応。諦めずに顔芸をするゴーストの根性は大したものだが、これからバトルをするという時に気勢を削ぐような事はしないでくれないか?
そう思うと同時に小さいナツメがまだバトルが始まっていないのにどういうつもり!? と怒ってくるが、悪いけどゴーストは俺のポケモンじゃなくて勝手についてきただけなんだと釈明する。
ちなみに、こいつもそうだぞと頭の上のイーブイを紹介すれば、小さいナツメはポカンと口を開けたまま呆けてしまった。
そんなことあるの? と言いたげだが、実際あるのだから受け入れてくれ。
そして、ナツメの鉄仮面ぶりに、遂にゴーストは最強の持ちネタである『プレゼント』を発動。
なにこれ? と言いたげにプレゼント箱を見詰めるナツメと、舌の上にプレゼント箱を乗せながらニッコニコのゴースト向かい合って数秒後、ナツメ諸共しめやかに爆散した。
あれくらいの爆発で死ぬほどポケモン世界の人間は柔じゃないので、あちゃーと思いながら顛末を見守っていると、煤だらけになったナツメが声を上げて笑い始めた。
ここから先は完全に蚊帳の外だったので割愛する。
何があったかを簡潔に記すと、何がツボに嵌ったのか抱腹絶倒するナツメと、優しく微笑みながら消えていく小さなナツメ。
ジム前で絡んできたおじさんが訳知り顔で現れて、ナツメの側に知らない女性が現れて、その2人が泣きながらナツメを抱き締めて何やら感動的なシーンである事だけは伝わってくる。
何故かカスミとタケシはもらい泣きしているが、お前達も状況は全く分からないはずだよな? と謎の疎外感を味わうハメになった。
◆2ページ目◆
a月÷日-② 恐怖、ヤマブキジム! VSナツメ
約30分後、落ち着いたナツメ以下ナツメパパとナツメママから事情を説明された。
「実は、かくかくしかじかで……ナツメの笑顔を取り戻してくれてありがとう!」
話を聞いた感想は、超能力ってやばすぎるという一言に尽きる。
分身に関しては置いておくにしても、人間を人形に変えるとか実際に目の当たりにしなければ信じられない。
俺も大概人間離れしてると思っていたけど、ナツメも相当なものだ。
とはいえ、スプーン曲げだけで息絶え絶えの奴も居るし、超能力者もピンキリだとは思う。ナツメパパも当たり前のように瞬間移動していたけど、超能力者として上澄みなのは間違いないだろう。
しかし、そんなナツメパパよりも更に強力な超能力をナツメは持っている。或いは、俺よりも、だ。
トレーナーとしての経験や力量だけでなく、同じ特殊な力を持つ者としても自身を上回るかもしれない相手。
そんな相手とバトル出来るなんて────最高じゃないか。
勝つか負けるか分からないギリギリのポケモン勝負は、俺やポケモンたちを成長させる糧となる。
ポケモンマスターという頂きを目指すんだ。そういうバトルにこそ積極的に挑み、乗り越えていくべきだろう。
というわけで、
ルールは6対3の変則ルール。入れ替えは挑戦者のみだが、レベル制限は無しだ。つまり、ナツメは本気メンバーを使用してくる。
これは俺が求めているものを超能力で読み取ったナツメが申し出てくれた事であり、流石にレベル差が大きすぎるのでナツメパパから6対3という変則ルールが提案された結果だ。
その代わりに、バトルの結果に関係なくナツメのお願いを1つ聞く事になった。
何故か条件を出された俺よりも難色を示すナツメパパをスルーして快諾。人の心を読める以上は悪い事にはならないだろうと安請け合いした。
そして、互いにバトルコートで向かい合う。
俺がモンスターボールを握り締めると、ナツメは手で触れずにモンスターボールを超能力で浮かび上がらせる。
ほんの少し前までの無機質な表情は最早無く、目を怪しく光らせて不敵に笑った。
「貴方が望むなら、私のエスパー能力見せてあげるわ!」
ナツメパパの合図と同時に繰り出したポケモンは、俺がピクシーでナツメはバリヤード。Lv.56とかつてない強敵だ。
どうやら考える事は同じらしく、初手は壁張りで盤面を整える。
しかし、流石はバリヤードというべきか。こちらが『ひかりのかべ』を張っているうちに両壁を張り終えていた。
目に見えて技の練度が違う。これがジムリーダーの本気メンバーかと密かに戦慄する。
ナツメの目が光った*2瞬間、背筋に走った悪寒に従って『ちいさくなる』を指示すると、バリヤードは
幸い咄嗟の判断によって回避出来たが、問題はそこではない。
バトル中にポケモンが勝手に行動したのか? ……いや、違う。指示は出されていたのだ。
これがナツメのエスパー能力。テレパシーによる言葉を介さないポケモンとの意思疎通を利用した、極めて効果的な戦術である。
再びナツメの目が怪しい光を帯びて、小さくなったはずのピクシーの姿をハッキリと捉えた。
同時に、バリヤードが一瞬にしてピクシーの背後を取る。『テレポート』だ。
今度は指示をする間もなく『サイコショック』が直撃して、ピクシーが壁に強かに叩きつけられる。
ギリギリで戦闘不能にはならなかったが、気力だけで立っているような状態だ。ボールに戻すか逡巡するも、ピクシーの目はまだ強い光を湛えていた。
それなら俺はトレーナーとしてポケモンの覚悟に報いるだけだと、帽子のツバを親指で押し上げて集中を深める。
そして、またナツメの目が光る前兆を確認した瞬間、『アンコール』を指示した。
ナツメが小さくなったピクシーを捕捉するのと同時にバリヤードが『テレポート』────出来ない。予期せぬ展開に驚きも露わに目を見開くナツメと、戸惑いを隠せないバリヤード。
これ以上はないという隙を見逃さず、ピクシーの見事なフォームから繰り出された『コメットパンチ』が無防備なバリヤードに突き刺さり、大きく吹き飛ばす。
『リフレクター』込みでも大ダメージを与えられると考えていたが、波導から読み取れる限りでは想像以上にダメージが少なかった。
最後の力を振り絞った一撃で力尽きたピクシーを労いと共にボールに戻す。
恐らく、バリヤードの特性は『フィルター』だと予想を付けてから思考を切り替えた。
ピクシーには『ひかりのねんど』を持たせていたため、『ひかりのかべ』の持続時間が通常の1.5倍程度には伸びている。これである程度はレベル差をカバー出来るだろう。
次に選んだのはストライクだ。
最初から『アンコール』の効果は知っていたのか、或いはバリヤードの状態を超能力で読み取ったのか。
何にせよバリヤードが『サイコショック』で攻撃してくるのを『こうそくいどう』で躱す。更に、『ダブルアタック』の要領ですれ違いざまに『れんぞくぎり』を連続で入れると、流石のバリヤードも目を回して戦闘不能になった。
ナツメに考える暇を与えず、速攻勝負に持ち込んで何とか厄介な相手を倒し切れたのは僥倖だろう。
しかし、ここからが悪夢の始まりだった。
ナツメの次のポケモンは、スリーパー。同じくLv.56の強敵。
当然のように『テレポート』を使えたため、バトルフィールドは高速移動と瞬間移動が入り乱れる混戦と化した。
純粋なスピードではストライクが上回っているが、ナツメのエスパー能力の補助を受けたスリーパーは的確にこちらの攻撃を躱して反撃を狙ってくる。
紙耐久のストライクは一撃でも喰らえば戦闘不能は免れない。拮抗した戦況に焦りが募る中、ナツメの判断は早かった。
突如としてスリーパーが足を止めると、自分を中心とした球体の障壁を張って『ダブルアタック』&『れんぞくぎり』のコンボを受け切ったのだ。
見た事のない技と必殺の威力に達した『れんぞくぎり』を耐えられた事に俺とストライクは動揺が隠せず、至近距離からの『さいみんじゅつ』を受けて眠らされてしまった。
あっという間もなく、即座に『ゆめくい』が使用される。スリーパーがダメージを回復するのと合わせて、ストライクは戦闘不能に陥った。
続くロトムも、後続のために『エレキフィールド』を展開するまでは良かったが、テレポ催眠に対応出来ず『ゆめくい』で倒される。
あっという間に2体がやられた。
やはりエスパータイプは厄介極まりない相手だし、特に捕まえて日が浅いロトムには酷な相手だろう。
だが、相手は既に4つの技枠を全て使っており、こちらの対策にも恐らく気付いていない。
つまり、スリーパーは既に怖くないが、だからこそ誰を選出するかを悩んでいた。
例えば、ピカチュウなら確実に一撃で仕留められる。『エレキフィールド』が無くても確実にだ。
だが、一度見せてしまえば対策もされる。ナツメは侮ってはくれないだろう。
ナツメの最後の1体を突破するために、ピカチュウは切り札として残しておきたい。ポリゴン2も同じく、ここで見せるわけにはいかない。
となると、コイキングを出すのが最善という事になる。
そう結論づけてボールに手を伸ばしたタイミングで、イーブイが勇ましい声と共に頭の上から飛び降りた。
まるでこの場は自分に任せろと言いたげだが、残念ながらイーブイは手持ちのポケモンとは言えない。だから、ジム戦には出す事は出来ないんだと首を横に振る。
まさか断られるとは考えていなかったらしく、ショックを受けた様子のイーブイに内心で申し訳なく思っていると────俺の顔をジッと見詰めてから、覚悟を決めたように視線を鋭くしたイーブイが何事かを必死に訴えてきた。
何事かと波導で読み取れば、モンスターボールのイメージが伝わってくる。
まさかと思いながらも空のボールを取り出すと、それを見て僅かに震え出すイーブイに急いで仕舞おうとした。
だが、それを肝心のイーブイに止められる。改めて確認すれば、イーブイは震えながらも強い眼差しで俺から、モンスターボールから目を離さない。
これまでの旅の中で、イーブイが何故ボールに入る事を恐れるのかは理解している。
全てを聞いたわけではないが、かつての主人の元に居た頃は最低限のご飯しか与えられず、バトルに敗北すれば罵詈雑言は勿論として時には暴力を振るわれる事もあったらしい。
けれど、前トレーナーが一般的なトレーナーでない事はイーブイにも分かっている。
何故ならば、ロケット団に捕まる前は別のトレーナーのポケモンだったのだから。しかし、その前々トレーナーは相手がロケット団とは知らないまま、イーブイを他のポケモンと交換してしまったのだ。
そして、イーブイはロケット団に捕まって以降、数々の辛い思いをしてきたからこそトレーナーという存在、ひいてはモンスターボールにも強い忌避感を抱いていたのだ。
トレーナーに捕まりさえしなければ、あんな思いをする事もなかった、と。
俺という個人に懐きはしても、モンスターボールに入る事だけは頑として拒否し続けていたのは、そのような理由からだった。
そんなイーブイが、俺をトレーナーとして認めてくれた。
いや、認めてくれたというのは正しくないだろう。俺を信じてくれたのだ。
前々トレーナーのようにイーブイの意思を無視して手放す事はしないし、前トレーナーのようなクズではないと、勇気を振り絞ってくれた。
これに応えなきゃ、トレーナー以前に男が廃るってものだろう。
「イーブイ。お前さえ良ければ、俺のポケモンになってくれないか?」
「……! っ、ブイ!」
そう言ってモンスターボールをイーブイの前に差し出せば、最後に力強く鳴いてボールに触れた。赤い光がイーブイを包み込み、ボールに入っていく。
モンスターボールは、一度も揺れる事なくカチッと音を鳴らした。
急いでポケモン図鑑を操作してコイキングを研究所に送れば、これで手持ちのポケモンは6体になるのでイーブイは手元に残る。
バトルの事だけを考えるならば、イーブイよりもコイキングの方が勝ち目は多いはずだ。
だが、これで良いと……新しく仲間になった俺のポケモンを信じると決めた。
対戦相手のナツメや審判をしてくれているナツメパパに時間を取ってしまった事を謝罪する。2人が笑って許してくれたのがせめてもの救いだ。
観客側のカスミとタケシはイーブイの事情を知っているからこそ、涙ぐみながらも俺たちを応援してくれる。
ボールを握りしめながら「初陣の相手は強力だが、いけるか?」と尋ねれば、ボールは力強く震えた。
可愛い見た目に反して、意外と頼もしい奴である。
「イーブイ、キミに決めた!」
「ブイブイ!」
やる気満々のイーブイが、バトルコートに降り立つ。
イーブイの攻撃力では格上のスリーパーを倒すのは至難の業だが、幸いにも
あまり好みの戦術ではないけど、相手はポケモンの交換禁止というルールを利用させてもらう。
イーブイに『めいそう』を指示すればナツメは変わらず必勝パターンのテレポ催眠を狙ってくるが、スリーパーは全く眠る様子を見せないイーブイに動揺していた。
ナツメも驚いて目を見開いてこちらを見てくるが、それには構わず更に『めいそう』を積ませる。
続けて『うそなき』で相手の特防をがくっと下げてとやりたい放題だ。
しかし、この様子だとナツメは本当に知らなかったらしい、とほくそ笑む。
ポケモンバトルに於いて状態異常を主軸とした戦術は極めて厄介。『ねむり』は一切行動が出来なくなるため、今世でも前世でも非常に強力とされている。
けれど、無敵の技なんてものはあり得ない。対策は必ずあるのだ。
それが『エレキフィールド』である。
所謂フィールド技と呼ばれる技には、複数の効果が内包されている。
特定のタイプの威力を上げるというのが有名だろうが、実はそれだけではないのだ。
例えば、『サイコフィールド』なら相手の先制技を不発にする効果だったり、『ミストフィールド』なら状態異常の無効化、『エレキフィールド』の場合は『ねむり』や『ねむけ』にならないという効果がある。
この副次効果こそが『エレキフィールド』を展開した最大の狙いだった。
もう一度だけイーブイに『めいそう』を積ませたところで、遂に『エレキフィールド』の効果が切れる。
ナツメも状況から『ねむり』を無効化する原因に当たりを付けていたらしく、即座に黄金コンボを決めようとしてくるが、そうは問屋が卸さない。
元々『さいみんじゅつ』の技としての命中力は決して高くないし、イーブイは回避という一点に於いては俺のポケモンの中で最も上手いのだ。『みきり』を使わずとも躱わすのは難しい事ではなかった。
素早く身を翻したイーブイの『シャドーボール』がスリーパーの側頭部に突き刺さる。しかし、これでもスリーパーは倒れなかった。
だけど、ここで俺たちに運が向く。頭部に攻撃が当たった事でほんの僅かな間、スリーパーの意識が途切れたのだ。ナツメからのテレパシーによる指示を受け取るまでの一瞬のラグが、このバトルでは致命的な隙になった。
続けて放たれた『シャドーボール』がスリーパーを吹き飛ばし、今度こそ戦闘不能になる。
これでナツメの2体目を突破した。
だが、次が本番だ。最後のポケモンを倒せなければ意味がない。
胸に飛び込んできたイーブイを褒めながら思考を巡らせていると、不意にイーブイを進化の光が包み込む。この時は突然の事に驚いたが、改めて考えると進化の条件は満たしてたんだよな。
そっとイーブイを地面に降ろし、俺を含めて全員が固唾を飲んで進化を見守っていると、元気な声と共に光が弾けた。
「フィー!」
そこには神秘的な雰囲気を纏った華奢な体躯のポケモン、エーフィが居た。
薄紫色の体色に何処となく猫っぽい見た目。額にはルビーのような赤い玉があり、二股に分かれた尻尾がユラユラと揺れている。
俺にとって初となるエスパータイプ。ヤマブキジムに挑んでいる最中だと思えば、不思議な縁を感じざるを得ない。
頼りにしてるぞ、と声を掛ければ嬉しそうな鳴き声を上げた。
「私が視た未来と……違う!?」
そんな俺たちを見ながらナツメは驚いていたが、やはり完全な未来予知は出来ないのだろう。
スリーパーを倒されても余裕のあったナツメの姿に僅かな綻びが生まれたが、深呼吸を挟めばあっという間に動揺は収まっていた。
ナツメの手強いところは、超能力よりもこのような切り替えの速さかもしれない。
「なるほど、ね。
そして、ナツメが最後に繰り出したポケモンは、大方の予想通りフーディンだった。
ポケモン図鑑で確認すれば、遂にLv.60の壁を越えてきた。
何より存在感が先の2体と比べても圧倒的であり、エーフィは進化した事でより鋭敏になった感覚によって、その脅威を言わずとも理解したようだ。
俺としてもジムリーダーの相棒であり、本気メンバーのエースを見るのは初めて。桁違いの存在感に驚きを隠せなかった。
ここからは短期決戦になるだろう。
意識を研ぎ澄ませながら、短くエーフィに指示を伝える。特に異論もなく、頷いてくれた。
既にナツメ側の両壁は消えており、こちらも先程消えてしまった。
つまり、状況はイーブンに戻った。いや、こちらの方が明らかに分が悪いだろう。
審判の合図により、最後の戦いが始まった。
進化した事で素早さが上がったエーフィよりも更に速く、フーディンの『シャドーボール』がエーフィに直撃する。
幾ら『めいそう』によって特防が三段階上がっていても耐え切れるかは分からないが、敢えてエーフィが『みきり』で躱さずに攻撃を受けたのは俺の指示によるものだ。
しかし、予定と違いフーディンの動きが早すぎて僅かに打点を逸らすのが精一杯だった。咄嗟にエーフィの名を叫ぶと、壁に叩き付けられる直前で身を翻して『バトンタッチ』を発動させる。同時に、エーフィはモンスターボールに戻った。
実際のレベル以上の強さを感じさせるフーディンの一撃でエーフィは戦闘不能寸前になったが、完璧に自分の役目を果たしてくれた。
あと残るはこちらも2体。残念ながらポリゴン2では決め手に欠ける以上、この場を任せられるのはピカチュウしか居ない。
エーフィからのバトンを受け取り、ピカチュウがバトルコートに降り立った。
「決めるぞ、ピカチュウ!」
「ピカピィカ!」
「フーディン!」
「フゥゥゥ、ディン!」
スピード勝負ではフーディンに敵わないが、ここまで来れば力で押し切るしかないと速攻で『10まんボルト』を指示する。
しかし、フーディンはその場を動かず、攻撃もしてこなかった。
そのまま『10まんボルト』がフーディンを襲うが、致命的なダメージを与えながらも倒れない。レベル差があっても倒し切れる自信があったのに、倒し切れない。
そのカラクリは、ナツメが指示した『じこあんじ』である。こちらの能力変化をコピーした事により、フーディンの特攻と特防が三段階上がったのだ。
俺は事ここに至り、勝負を急ぎすぎてしまった。
ピカチュウが力を振り絞って電撃の出力を上げるが、フーディンは電撃を浴びながら『じこさいせい』で耐える。
体感で10分にも1時間にも思えるような時間が過ぎて…………ピカチュウの放電が途切れた。
間髪入れずにフーディンの『サイコキネシス』が限界を超えた放電の後で動きが鈍ったピカチュウを捉えると、天井に向かって
更にダメ押しのように地面にも叩きつけられると、ボロボロになったピカチュウが俺の足元に力無く転がってきた。
確認するまでもなく、ピカチュウは戦闘不能になっていた。
この時点で俺にはまだポリゴン2が残っていたけれど、ただでさえ高い特攻が上がったフーディンを止められるはずもなく、敢え無く敗北を喫する。
こうして俺は、公式戦での初めての苦い敗北を経験する事となった。
-追記-
ヤマブキジムへの挑戦はこれで終わってしまった。
ジムリーダーの本気メンバーを相手に最後の1体まで追い詰めた事で、ジムバッジを与えるための実力は充分に示したと言われたのだ。
本当は受け取りたくなかったが…………俺は、そのバッジを拒絶する事は出来なかった。
もしバッジの受け取りを拒否すれば、それは俺のポケモンたちの頑張りを否定する事になると思ってしまったからだ。
ポケモンたちの治療もあるので、ナツメからのお願いの詳細は後日に改める事に決まる。
そして、ヤマブキジムを後にしてからポケモンセンターに着くまでの間、変に気を遣わせてしまったのか俺とカスミたちの間に会話の類は一切無かった。
今回のバトルに関して反省も後悔も尽きないが、それはそれとして2人には明日謝ろう。
最後まで、応援してくれてたからな。
改めて、随分とお待たせしてしまいました。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
執筆再開後の最初の話で主人公が敗北するのはどうなんだと言いたいところですが、我ながら体調崩したタイミングが最悪でした。
これは勿論プロット通りなんですけど、ヤマブキジムで負けるって予想してた人はどのくらい居るんでしょうかね?
何はともあれ、格上相手に奮戦しましたが一歩及ばず負けてしまいました。
この敗戦を糧に、転生サトシやポケモンたちがどのように成長していくのか…………乞うご期待、です!
『旅の仲間(?)』
・カスミ
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『サトシのポケモン(合計25匹)』
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次回はナツメからのお願いに関連したストーリーと修行パートの予定です。
作者のモチベ維持のためにも高評価、お気に入り登録、感想、ここすき等、いつも楽しみに待っているのでよろしくお願いします!