蒼い悪魔の英雄譚   作:魚の目108

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特別授業

 

 バージルと一輝は現在、学園内の第三訓練場の入場ゲートへ繋がる廊下を、二人で並んで歩いていた。

 

「すみません、先生。わざわざ声を掛けてもらっちゃって」

「全くだ。連絡しろと言ったはずが、一週間以上も連絡を寄こさんとはな」

「あはは……。なんだか声を掛け辛くって。折木先生のサポートの事だったり、最近だと正体がバレて学園の皆とか、後はテレビの人とかも来ちゃったりで忙しそうだなって……」

「いらん世話だ。生徒の事はともかく、テレビの連中に関しては一切の取材を拒否しているからな」

 

 つい先日の、《狩人》桐原静矢との試合の後、医務室に連れてかれた一輝は、治療中にずかずかと入室してきたバージルに、いつ特別授業をやる予定なんだと急かされた。

 一輝としては気遣いのつもりで連絡を送っていなかったのだが、バージル当人としてはいらない気遣いだったということで、とりあえず直近で選抜戦の予定もない今日の放課後にようやく初めての授業となったのだ。

 

 一輝としては、逆にこうして急かされたことに嬉しさを感じていた。

 それは、どちらかと言えば人に対して無関心そうだったバージルが、自分にわざわざ声を掛けに来てくれるほど興味を持ってくれているということなのだから。

 しかも、あのステラを圧倒して見せた彼との実戦による授業は、恐らく値千金の価値がある。

 正直、学園の通常の授業では物足りないと感じていた一輝としては、これほどありがたいことはない。

 

 そして歩くこと数分、入場ゲートの入口へと着いた二人はリングへと上る。

 観客席には誰もいない。

 選抜戦において手札を晒す事による不公平さを無くすため、教師であるバージルと審判である黒乃以外の立ち入りは禁止にしてある。

 既に黒乃はリング上の中央で待機しており、二人に気付いた彼女は声を掛けた。

 

「来たか……。それでバージル。今回の授業に関してだが、どのように考えているんだ?」

「単純だ。俺と《実像形態》で闘い、()()()()()()()()()()改善点を指摘する。それだけだ」

 

 一輝は「生き残っていたら」という言葉に驚愕の表情でバージルへ視線を向けた。

 

「あれ!? 生き残っていたらって言いました!? 殺す気満々ってことですか!?」

「当然だろう。何しろ実戦だ。だが、先日のお前の実力を見た限りでは、生き残る可能性は十分ある。それに、即死しなければ新宮寺もいるのだから問題あるまい」

「つまり、即死したら助からないってことですよね……」

 

 それを聞いた黒乃は、真剣な顔で一輝へ視線を向けて忠告する。

 

「いいか黒鉄。この校内で殺人事件を起こしてくれるな。取材陣への対応が面倒だからな」

「それ、僕に言う言葉じゃなくてバージル先生に言う言葉では?」

「こいつがそんな事、気にする様な奴に見えるか?」

「時々思うんですけど、この学園の教師って変な人しかいないですよね」

 

 一輝はこの学園の教師陣の顔ぶれを思い浮かべる。

 折木、寧々、バージル、そして黒乃も、この中では比較的まともではあるが、ステラの着替えを覗いてしまった際、ハラキリしろと言うステラに乗っかって悪ノリしてきたことがある。

 全員尊敬はできるし、かなりの実力者ではあるのだが、一癖も二癖もあるような人物ばかりだ。

 

 バージルは、そんな遠い目をした一輝を静かに見つめ挑発する。

 

「怖気づいたか? だが安心しろ。俺も本気を出すわけではない。でなければ一瞬で終わるだろうからな」

「……嫌だなぁ先生。むしろ僕は楽しみにしてたんですよ。バージル先生に、一太刀浴びせる方法をずっと考えていたんですから」

「ほう。では試してみるといい。無駄に終わるだろうがな」

 

 互いに挑発を飛ばし合い、火花を散らすように、リング中央を挟んで二十メートルほど距離を取って向かい合った。

 そして黒乃も闘いの邪魔にならないよう、リングの外へと出ていく。

 

「よし、ではお互い、準備が出来たら霊装を《実像形態》で展開しろ」

「来てくれ《陰鉄》」

「……《閻魔刀》」

 

 刀を武器として扱う者同士ではあるが、それぞれの構えは異なる。

 一輝は両手で柄を握る、正眼の構え。

 対するバージルは刀身を鞘に納めた状態の刀を左手で持ったまま、特に構えの無い自然な立ち姿。

 一輝はバージルのそんな姿から、できる限りの情報を取得する。

 相手は自分よりも遥か格上。

 今この時点で出来るだけ多くの情報を手に入れなければ、先ほどバージルが言ったように一瞬で終わる可能性があるからだ。

 

(ステラと、ショッピングモールでの闘いを見た感じ、先生は居合をベースにした剣術を主体にして戦う武術派の伐刀者(ブレイザー)。だけどそれだけじゃない……。魔術の方も桁外れの技術を持っている)

 

 一輝はショッピングモールでバージルが見せた、≪解放軍(リベリオン)≫の戦闘員の周囲を取り囲む、幻影剣の群れを思い出す。

 あの時は、珠雫が《障波水蓮》を準備している後に登場したにも関わらず、敵に気付かれずに一瞬であれだけの魔力の剣を生成してみせた。

 そこから考えられるのは、接近戦だけでなく遠距離戦も十分にこなせるということ。

 

(それに、ステラとの闘いの時に見せた、最後の技……)

 

 次元斬

 観察眼に関しては一家言のある一輝だが、あの居合術に関しては一体、どのような原理で成し遂げられるものなのか想像がつかない。

 霊装を寸断するほどの攻撃力を持った居合術を近距離だけならまだしも、任意の場所に遠距離で飛ばすなど、出鱈目も良い所だ。

 だからこそ、あの技だけは出させるわけにはいかない。

 幸い一輝はあの時観客席にいたため、あの技に少しの溜めが必要なことは分かっていた。

 故に一輝の取る戦術は――

 

(開始直後に、即クロスレンジの間合いに持っていかないとだめだ。……そして、あの技を放つ溜めを作る暇を与えないようにしないと……!)

 

 一輝は粗方のプランを頭に叩き込み、一気に近づくために足の筋肉をリラックスさせる。

 そして、双方の準備が整ったと判断した黒乃は、開始の合図を宣言する

 

「よし。……それでは、試合開始ッ!」

 

 開始の合図が出された瞬間――

 バージルの背後に八つの浅葱色の魔力の剣が表れた。

 先日も見たバージルの十八番、幻影剣。

 その型の一つ、急襲幻影剣だ。

 

「ッ!」

 

 一輝はバージルの背後に現れた幻影剣を見るや、身体を出来るだけ低く保ち、全身のバネを駆使した勢いままにバージルへ向かって疾走しだす。

 そして、音速を超えた速度で一つずつこちらへ向けて射出される幻影剣を前にし、微塵も速度を緩めぬまま斬り払う。

 体勢を低く保つことにより、狙いを頭部に集中させることで弾き返すことを容易にしたのだ。

 たとえどんなに速度が早かろうと、当たる箇所さえ分かっていれば一輝の目からすれば止まっているも同然。

 そして、最後の一本を弾いた一輝はバージルの目の前まで無傷で到達することに成功した。

 

(ここからだ……!)

 

 一輝は遠距離技を持たない。

 故にクロスレンジへと移行してからが本当の勝負。

 だが今までバージルの闘いを二度見てきたとはいえ、そのほとんどが一刀の下に勝負が着いている。

 そのため彼の剣戟がどれほどのものか、まだ一輝には分からない。

 だからこそ、ここから先は未知の領域。

 バージルはまだ刀身を鞘に納めた状態のまま、棒立ちの状態。

 一輝は隙だらけのバージル目がけて、疾走した勢いのまま左から剣を振り切ろうとする。

 しかし――

 

「くっ……!」

「ふむ……」

 

 その一撃は目の前の鞘によって防がれる。

 先ほどの幻影剣をいなし、近づいて来たことに感心したかのような声がバージルから漏れた。

 そして、バージルは一輝の刀を押し返すと、鞘に納められた刀の柄を握り、おもむろに抜刀。

 そのまま一輝に袈裟懸けに斬りかかる。

 だが、一輝も防がれるだろうことは分かっていた。

 故に押し返された勢いそのままに、体ごと後ろへバックステップで回避。

 すると直後に、鼻先に振りぬかれた刃が通るのを感じた。

 

「ハァッ!」

 

 そして、バージルに納刀をさせる隙を与えないため、再度突進。

 一輝の斬撃が再度バージルに襲い掛かるが、返す刀で迎撃される。

 

(なんて鋭くて、重い攻撃だ……!)

 

 迎撃されるが、何とかその斬撃を受け流すことに成功した一輝は、先ほどの一撃を受けて手に残る痺れを感じながら歯噛みする。

 何しろ、先ほどの一撃だけで剣術家としての一輝は確信したのだ。

 バージルの剣術は恐らく、最低でも自らと匹敵するレベルだと。

 しかもその膂力は、あのステラよりも遥かに高い。

 まるで、自分とステラの長所を組み合わせた、伐刀者(ブレイザー)の理想形のようだった。

 

「手加減はしてやる。精々耐えて見せろ」

「……ッ!」

 

 バージルは一輝の懐に入り込むと腰を落とし、まるで嵐のような連撃を一輝に浴びせる。

 対する一輝はバージルの身体の動き、視線から迫りくる斬撃軌道を予測し対処する。

 一輝の人生において、これほどの太刀筋を持つ者を見るのは初めてだった。

 だが、自分には相手の剣術を模倣し、その上位互換を作り出す《模倣剣技(ブレイドスティール)》がある。

 ステラとの闘いの時も、彼女の剣技である皇室剣技(インペリアルアーツ)を模倣し上回ることで、自分よりも遥かに強い力に対抗することが出来た。

 そして、バージルの太刀筋も明らかに何らかの術理が存在する。

 故にその『枝葉』を辿り、『(ことわり)』に至るため一輝は、襲い掛かるバージルの剣戟の一挙手一投足に目を凝らす。

 だが――

 

(これは……何だ……!?)

 

 斬り結ぶ事で徐々に判明していくバージルの剣の理合。

 嵐もかくやと思わせるほどの猛攻を前に、一輝はそれでも彼の動きを見逃さない。

 しかし、一輝は彼の剣技を理解するにつれ、頭の中が謎で埋め尽くされていくのを感じていた。

 なぜならば――

 

(まるで……人間以外と闘うことを想定しているような……)

 

 そう、一輝の照魔境の如き洞察眼はバージルの剣筋にある違和感に気付いた。

 もちろん刀を用いている以上、バージルの動きには日本古来における刀剣の技術がふんだんに含まれており、人間相手にも十分に対応できるものだろう。

 だがこの動きはどちらかと言えば、対人間というよりも対動物。

 いやむしろ、現存する生物という枠に収まらない、まるで対化物を想定しているような――

 

(一体、先生は今までどんな相手と闘ってきたんだ……!?)

 

 しかもバージルの動きの中には、魔力放出を用いることを前提とした動きがあることを見つける。

 これもまた不思議なことだ。

 伐刀者(ブレイザー)は、確かに魔力を用いて闘うものではあるが、その元となった武術の動作には魔力の使用を前提として動くものなど存在しない。

 あくまで、元となった武術の動作に魔力を乗せて闘うのであり、その逆はあり得ない。

 故に魔力量が少なすぎる一輝には、バージルの剣技を上回るどころか、再現することすら出来ないのだ。

 

(くっ……! だけど、かなりの時間を凌いだおかげで、ある程度の『剣筋』は見切った……!)

 

 真似ることは叶わずとも、バージルの動きをある程度予測して対処することは可能。

 先日の試合にて習得した相手の思考、価値観を掌握することにより、敵の二手、三手を先読みする《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》。

 まだ、完全にバージルの思考や価値観を把握した訳ではないが、《模倣剣技(ブレイドスティール)》によって記憶した剣筋が、自然とバージルの攻撃を予測させてくれる。

 しかし――

 

「やるようだな。では、もう少し速度を上げるぞ」

「なっ!?」

 

 バージルは、まるで()()するように目を細める。

 すると、先ほどの宣言通りバージルの剣を振るう速度と力が徐々に増していく。

 

(ま、まずい……! このままだと崩される!)

 

 《完全掌握(パーフェクトヴィジョン)》による先読みは、未だに一輝を辛うじてこの剣戟の嵐から守ってはいるが、このままではいずれ先読みしたところで一輝の身体がこの速度に追い付かなくなることは自明の理。

 

「ぐっ……!」

 

 一輝は思わず、バージルの刀から逃れるため攻撃をあえて受け流さず、弾かれるように剣をぶつけることで間合いから離脱した。

 そしてお互いの距離が離れるが、バージルはあえて追撃をせず、その場に留まって一輝を見つめていた。

 

「ハァ……ハァ……」

「ふん、どうした? この俺に一太刀浴びせるはずではなかったか?」

 

 試合前に一輝が言っていた挑発を指摘し、煽るように言うバージル。

 そして、それに対する一輝は、息も絶え絶えで余裕のない表情を浮かべていたが――

 

「ハァ……ハ…ハハハッ……!」

「……む?」

 

 何故か、一輝の顔に笑みが零れる。

 しかも普通の笑みではなく、まるで牙を剝きだすような獰猛な笑み。

 バージルはそんな一輝の様子に、まるで意味が分からないとでもいうような怪訝な顔で尋ねる。

 

「何を笑っている? ふざけているのか?」

「いえ……、こんなに剣戟で圧倒されたのは久しぶりだったから……。どうにも楽しくって……」

「楽しい、だと?」

「はい、とても。……驕るわけではないんですけど、剣術に限って言えば、僕を超える人はそうそういないと思っていたので、こうやって張り合ってくれる人がいてくれて、すごく嬉しかったんです」

「…………」

 

 バージルは、まるで子供のような笑みを浮かべた一輝をただ静かに見つめていた。

 ただ、それを見た一輝はバージルが怒ったのかと思い、申し訳なさそうな顔を浮かべて謝罪する。

 

「……すみません。ちょっとはしゃぎ過ぎました。せっかく先生が――」

「構わん」

 

 短く返された一輝は、予想外の返答にポカンとした顔を浮かべた。

 

「え……?」

「構わんと言った。……俺もこれほど打ち合える者に出会ったのは久しぶりだ。……少しは楽しめた」

「……ッ! 先生……!」

 

 若干顔を背けながらも『楽しめた』と語るバージルを見た一輝は、自分と同じ楽しさを共有してくれる彼に、強い親しみと頼もしさを覚えた。

 何しろ一輝は、剣の技術だけで言えばプロの魔導騎士も顔負けの腕前だ。

 故に強くなるためには、誰かから師事を仰ぐことなどできず、自分一人で強くなるしかない。

 もちろん、ステラというライバルは存在するが、ステラと自分は強さのベクトルが根本から違う。

 だからこそ同じ鍛え方をしても、全く意味は無い。

 だが、まさに孤独な旅と言っても差し支えない一輝の道の先には、バージルという先人が立っていた。

 しかも、そのバージルは、こうして自ら教えを授けようとさえしてくれるのだ。

 

 

 バージルは一輝に視線を戻し、おもむろに右手を掲げ幻影剣を出現させる。

 その幻影剣を人差し指の上で弄ぶようにクルクルと回転させながら「それに」と続け、一輝に向けて誘うように言う。

 

「今日は初回の授業だ。……Let's have some fun(少し遊んでやろう)

「~~ッ! はいっ! 先生! ありがとうございます!」

 

 一輝は喜色満面の笑みで頷いた。

 対するバージルは、人差し指の上で回転していた幻影剣を握りしめて砕く。

 そして、それが合図だったかのように一輝が叫んだ。

 

「《一刀修羅》―――ッ!!」

 

 一輝から蒼い魔力の奔流が溢れ出す。

 これこそ、彼の最弱(さいきょう)伐刀絶技(ノウブルアーツ)《一刀修羅》。

 ただの身体能力倍加という、伐刀者(ブレイザー)であれば魔力放出という代替可能な技術で補える、いわゆる外れと言われる能力。

 しかし、一輝は脳のリミッターを意図的に破壊することで、本来の人間が手を付けてはいけない領域にまで手を伸ばす。

 そうすることで得られる身体能力の出力は通常時の十倍以上。

 これであれば、速度の上がったバージルの剣戟に何とか追いつける。

 彼の様子を見る限り、まだ力を隠し持っているようだが、だからこそ、挑み甲斐があるというもの。

 

「僕の全力をぶつける! 行きますよ! 先生ッ!」

Try me(かかってこい)

 

 瞬間、一輝はバージルに向かって疾走する。

 そして、それに合わせるようにバージルも居合の構えにて突撃。

 互いの距離が一瞬で縮まるが、そのまま互いの横を通り過ぎるように交差し、すれ違いざまに刀を振り抜く。

 

「ハァッ!」

「第七秘剣、雷光――ッ!」

 

 刀同士がぶつかり合う音がリング上に響き渡る。

 二人の身体はそのまま疾走した勢いで互いの背後へ移動し、足で急ブレーキをかけ、その勢いのまま地面を足で滑るように急ターン。

 お互いに正面を向く形となり、再度切り結ぶ。

 

「ハハッ!」

「ふっ」

 

 互いに短く笑い合いながら、都合十度の斬り合い。

 一輝はまるで、至福の時を過ごすかのように常に笑顔が絶えなかった。

 だが、バージルの膂力は《一刀修羅》を用いた一輝でも及ばず、間合いの外に弾き飛ばされる。

 

(なら、これはどうだ!)

 

 一輝は、弾き飛ばされながらも《陰鉄》の刀身に左手を添え、柄を握る右手を思い切り引き絞る。

 その姿勢は明らかに突きのモーション。

 そして一輝は下半身のバネを用いてバージルへ突進。

 この技は《一刀修羅》を使用している間でしか使えない限定技。

 だが、《落第騎士(ワーストワン)》の持つ数々の秘剣の中でも、最も攻撃力に特化した対物奥義となる。

 その名も――

 

「第一秘剣、犀撃――ッ!」

 

 バージルは弾いた一輝を追撃しようと、既にこちらへ真っすぐ突き進んでいるため、もはやこの一撃を避けることはできない。

 故に受け止めるしかない。

 そのまま、バージルの胸元目がけてふり絞られた右手が、勢いよく突き出される。

 

(もらった!)

 

 いくらバージルといえども、この岩をも砕く一撃を防ぐことはできないだろう。

 そう一輝は考えるが、次の瞬間、それは甘い考えだということを思い知ることになる。

 

「なっ!?」

 

 そのまま貫くかと思われた、一輝の刀は勢いを完全になくし、その場に停止する。

 なぜならば――

 

「面白い。お前の手札の多さには驚かされるな」

 

 《陰鉄》の切っ先。

 それを受け止めるかのようにバージルは、自らの刀の切っ先を突き出していた。

 しかも、片手で軽々と。

 厚さ一ミリもない刀の切っ先同士を合わせるという神業を、事も無げにバージルは実行して見せたのだ。

 さしもの一輝も、これには動揺せざるを得なかった。

 

「ハ……ハハハ。すごいですね……先生」

「お前にも出来るだろう。大したことではない」

 

 そしてバージルは、その切っ先を押し出すように強く押し、またもや一輝を間合いの外に弾き飛ばす。

 バージルは、まるで次の技を見せてくれとでもいうように、こちらを静かに見つめていた。

 だからこそ一輝は、次の手を考える。

 《一刀修羅》の残り時間は少ない。

 今の手札の中でバージルの期待に応えられるものを頭の中から探す。

 そして一つだけ、自分の中で名案が浮かんだ。

 これはさすがのバージルといえども驚くだろう。

 とはいえ――

 

(この技は結構失敗する確率が高いから、あまり使いたくなかったけど……。でもこれが成功したら先生、驚くだろうなぁ)

 

 一輝はまるでこれから悪戯でもする子供のような笑みを浮かべ、バージルの視線を見つめ返した。

 

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