兄妹で恋人ごっこ   作:叶斗

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兄妹の日常

「我が妹よ」

「どうした、我が兄よ」

 

 月額制映像作品見放題サービスでテレビに高校生ラブコメのアニメを流しつつ、リビングでだめになるソファ(でかいクッション)に仲良くだらしなく並んでいる兄妹がそこに居た。

 

「ラブコメで、兄弟・姉妹との買い物がデートに見られて……みたいな定番の展開あるよな」

「あ〜あれね。ラッキースケベと並ぶほど王道のあれね。絶対きょうだいかなんかだろと視聴者は心の中で思いつつ、まさかあの人の恋人? そうじゃなくても私より仲いいじゃん! みたいな疑心暗鬼から嫉妬を引き出したり、そのまま一緒にお買い物したり、ライバル心を燃え上がらせて展開にうねりを生み出すあれ。このアニメには無かったけど」

「創作物にメタ的なあーだこーだ言うんじゃありません。まあ、メタ的なこと考えないで見ろって方がむずかしいけどさ。できるならメタを捨てて見たい。その世界の住人か壁になりたい。まあそれで、そういうデート的なあれについて」

 

 スナック菓子をいくつか摘まんで、食べてから続ける。

 

「まぁ、それで、思ったのだよ。どういう状況ならそれが起こって、どうなるのか」

「は?」

「説明しよう! よし。この前置きを置けば日本語能力が向上して説明しやすくなるな」

「前置きを置くな、どこに置くんだ、日本語能力とやらは低下してんぞ」

「いいや、それでも説明能力は上がった筈だ。というか前を置くわけじゃなくて前に何かを置くから前置きなんじゃないか。だとしたら前に前置きを置いてもいいさきっと」

「どうでもいいけどさっさと話を進めなよ。『説明しよう』って言った後にですぐに説明しないと、"説明バフ"は附きませんよ」

 

 ちょこんと右隣の兄を小突く妹。ついでにその手にあったスナック菓子を奪って食べる。

 

「では改めて——説明しよう! 恋されている側を"主人公"と言うことにして、"主人公"を狙っている側のことを"BSS(僕が 先に 好きだったのに)被害者"と言うことにしよう」

「最悪だな"BSS被害者"って言うの」

「それで、"BSS被害者"が、例えば"主人公"と出会ってから少しとか、好きになるきっかけから少ししか経っていなくて、"主人公"周りの人間関係などが分かってない場合、そのきょうだいデート姿を見て、その内心は非常に面白いことになるだろう。デート中のきょうだいに話し掛けられず終わる可能性が高いのかもしれない。じゃあ、一方で、かなり親密な状態であれば、話し掛けに行ってどういう関係か見極めに行こうとするかもしれない。もちろん親愛度だけじゃなくて、積極性とか性格とかによっても、見て見ぬ振りをするとか、話し掛けに行くとか、内心慌てるか、余裕なままか、もし恋人同士だったら浮気を疑うとか、友達か〜と安心するとか、色々あると思う。それを実際にどういう組み合わせならどういうアクションを起こすか……気にならないか?」

「要するに、恋愛パラメータやそこでの行動がどうなっているかによって"きょうだいデート遭遇イベント"に於いてどういうアクションが発生するか、どういう分岐が発生するかということを調べたいと」

「そうそう、そういうこと! つーわけで買い物行くか」

「ほい」

 

 あほの会話も、アニメのきりのよいところで終えて、立ち上がる。

 と、思い立っても結局だらだらと一時間ほど掛けて支度を終えて、二人で家を出る。

 

 駅近くの家であるから、少し歩いて、駅から列車に乗って数駅もすれば目的地に着く。休日の昼間だからか車内は立っている客がぽつりぽつりと居る。

 

「で、話の続きだけどさ。もし、同じ家から出掛けてくるのを見られた時は、普通に『あぁ、家族なのか』ってなるだけで、全然『狙っているあの人がデートしている!?』ってならないのでは」

「デートのふりするなら待ち合わせしようと? 私が兄と外で待ち合わせする意味はどこに」

「それはそう。というか、たまたま家から一緒に出てくる所を見掛けたとして、そのまま買い物しているところまで着いていって、やっぱりあれはデートだ! 同衾してたから一緒に出て来たんだ! って判断してくれることになったとしたら、これは相当なストーカーで、それで何かしらのおばかさんじゃないといけないことになる」

「そんな恋人候補が居たらまず私がお断り」

「俺だってお断りだ。そもそも自宅から出るところを見られる可能性なんて最初から皆無みたいなものだから考えなくてよいのでは」

「そうね〜。中学生時代はともかく、高校生にもなると大体みんな電車通学になるくらいには遠くから来るようになるし」

「家が近ければ遊びやすいのにとは思うが、家が近いほどどうせ黒歴史量産し合ってる仲なんだろうから嫌だな」

「成程。だからおにいは今まさに妹である私に現在進行形で†漆黒†のVergangenheit(ファーガンネンハイト)*1を見せ付けているから恋愛対象じゃないと。くっくっく、痛い在りし日の思い出に私の右目が疼く」

「その兄の妹である方は上回るペースで、こうして黒歴史を生んだわけですが感想は?」

「英語は安直だしかっこよくないので苦労してドイツ語のかっこいい言葉を探しました」

「よろしい。あと、そもそも最初から、妹の時点で恋愛対象になるわけないんだよな」

 

 言いたい放題言いつつ、駅に着いた。

 休日であるからか、人混みは相当あるので、手を繫いで歩く。

 

 スマホの買い物メモを取り出して、そのまま食料品量販店(スーパーマーケットと呼ばれるような店)の目の前に着く。

 妹にもメモを共有して、カートと、カゴを二つ取ってから中へと入れば、中にも人が相当居る。

 

「デートというには家庭的で笑える。肉、野菜、冷食……しかもこれ買ったら帰るだけ」

「荷物多いからな。さっさと車の免許を手に入れたいな。駅に近い家とはいえ荷物が大変だ」

「エキチカという恵まれた立地を自慢しつつ更に恵みを欲するというのか」

「いいか、俺は働かないために働くんだ。最後はほどほどの大きさの家に住んで毎日ぐーたらだ」

「さいて〜。私も住まわせて!」

「仕方ねえな。最悪お前の美貌があれば、売れば高くなりそうだしいいぞ」

「おにいの方が高く売れそうだが?」

「二人で売られて幸せに暮らそうな」

「不幸せの間違い」

 

 なんだかんだ言いつつ、野菜や果物達を吟味してゆく。

 

「たまねぎさんたまねぎさん。あなたは右と比較すると良くないたまねぎさんですね。でも右の方も……この方と比較すると良くないですね。左のたまねぎさんが我が家へいらっしゃい」

「何か飲みたい飲み物ある? 何がいい」

「ぶどうジュースとりんごジュースとか、その辺。果汁系の気分」

「うい。取り敢えず後でアイス売り場で集合な。野菜、肉、あと好きなちっちゃい系のものよろしく」

 

 結局兄妹の日常とはこんなもので、デートがどうこうなんて抱腹絶倒もののコメディ(主観)だなと思う兄であった。

 ともかく、妹が野菜・肉系を買い回っている合間に、兄は米、飲み物、冷食、そのあたりのものを買い回る。

 

 数十分か経ってから合流する二人。

 

「ほい。カートにカゴ乗せさせて」

「ありがとさん。じゃあアイス十個選んでいいぞ」

 

 一目散に妹はアイスをあれでもないこれでもないと選ぶ。次の数週間を生き抜く為のアイスであるから慎重に。その様子はまるで歴戦の猛者(笑)だ。

 

「よし、決まり。我が相棒たちよ、この夏はよろしく」

「決まったな? 俺も決まった。そしたら時間との勝負だ!」

 

 実際は急いでもそれほど帰宅する時間が変わるわけではないが、冷食やアイスが溶けない内に帰らなければならない。

 並んでいる会計を気楽に待ちつつ、会計を終えたら、上手に袋に入れ替えて、冷食は保冷バッグに入れて、駅に向かう。

 

 帰りの電車では、荷物に囲まれながら、会話する。

 

「この姿もう言い訳もできないほど家庭的で笑える。誰かに見られても、『手伝いましょうか』かっこ本気あんど心配かっこ閉て言われるだけだろ」

「それに、アイス買ったから、この後服買って〜とか、ショッピング行こう〜とかできるわけないしねえ。デートかっこわらかっこ閉」

「服は来週行こうな。どこ買いに行く?」

「分かってるでしょ〜。通販」

「服を選んできゃっきゃうふふ……みたいな夢はどこだよ」

「妹に夢を求めるな。兄妹できゃっきゃうふふとかそもそも面白すぎる」

「本当にそう。年末くらい爆笑できる。いや、年末の爆笑番組も無いのか」

「それに……そもそも私って天使じゃん?」

「すっげぇ飛躍した。天使系の服を着ているただの人間だな」

「おい。素敵な美貌であることを附け加えろ。ついでにたまに地雷になる。地雷系の服だと、まあちゃんと売ってあるところ行けば売ってるし、天使系も売ってはいるけど、基本的に通販の方が買いやすいもの。他の服に興味わかないし、それは結局服買いにいってきゃっきゃうふふとか……そんなに私の服を選ぶ分好きじゃない。見ている分には楽しそうだけど」

「よくあんなふりふりな服とか、よく恥ずかしげもなく着れるよな。それ以外の服無いの?」

「無いが。それに、恥ずかしくないが。おにいも着るのだ」

「感性が違いすぎてなあ」

「感性が違うからこそ。来週、渋谷あたり行こう。見繕ってあげる」

「はいはい。お嬢様」

「知ってる? メイドさんって、メイドさんにも品格が必要というのもあるけど、基本的にお嬢様の服のお下がりを着るんだってさ。だからお嬢様っぽい服と使用人さんっぽい服は、立場が真逆なのに、似た系統だよね〜ってなるのは当然なんだと」

「へ〜、初めて知った」

 

 列車が家のある駅に着いた。

 

「よし、最後の踏ん張りだ。気合入れていくぞ」

「おにい体育会系じゃないよね」

「重いんだから気合の一つでも入れてくれ」

 

 なんだかんだ言いつつも、プラットフォームから階段を上がって改札を出て、すぐに自宅マンションであるからそれほど苦というわけでもなかった。

 

「はぁい。帰宅。整理したら休むぞう」

 

 冷やさなければならないものが沢山あるからぱぱっと冷蔵庫・冷凍庫へと放る。

 手分けして所定の位置に買った食品をしまっていけば、十分もせず、袋の中身は空になる。

 

「はい、よくできました」

「褒めろ、撫でろ」

「まず手を洗え。話はそれからだ。そして、俺も頑張ったからな」

「じゃあ、おにいも手を洗え」

「はい」

 

 手を洗ってから服の汚れを粘着ローラーで取ってから、再び、だめになるソファーへと仲良くダイブする。

 

「はい頑張りました」

「雑に撫でるな」

「はいはい。よしよし。妹はこの家の為によく頑張ってくれました」

 

 改めて、髪の流れに沿って頭を撫でると、満足そうににっこりする妹。

 簡単に髪を結んだだけであるから、撫でやすいなぁと思いつつ、絡まった髪をいっしょにほどいてあげる。

 

「愛って偉大だねえおにい」

「そう思うなら兄にも愛をくれ」

「はいはい、頑張ったね〜おにい」

 

 だめになるソファーに寝転んでだらけながら撫で合って愛を確かめ合い、与え合う謎の空間がそこにはあった。

 

「次何のアニメ見る?」

「じゃあ〜……」

 

 日常は続く。

*1
過去の意。ドイツ語

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