ただ誰よりも速く駆けぬけたいと願う男と――
ただ誰をも愛してやまないという女の――
ありえない物語が……
その日、間桐の家に雷が落ちた――
いや物理的に落ちたとかじゃなくてどえらいお怒りをかってしまったとかそんな感じの方だ。
しかも彼らにとって人生初と言ってもいい程のそれはそれは大きな雷だったという。
そもそもの発端は間桐雁夜が臓硯の命令でサーヴァントを召喚した事にある。
臓硯が聖杯戦争に参加させるにあたって予め用意して媒介はアーサー王の盟友にして円卓の騎士の一人であり同時に裏切りの騎士の異名を持つ、『湖の騎士』サー・ランスロットのモノ。
もちろん、召喚されるのは彼以外にはありえなかった。
もし正しく召喚が成功していたならば、今彼らの前には漆黒の鎧を身に纏ったバーサーカーとして存在していた事だろう。
だがそうはならなかった。
天の悪戯か、はたまた運命の巡り会わせか……
単純に作者の嫌がらせか。
召喚されたのは二人の男女だったのだ。
この時点で既にありえない事が起きてしまっている。
男の方は、金色の髪に洗練された顔つきをしている。
歳は二十くらいだろうか、見た目よりも若い印象を受ける。
青の衣に鎧を身に纏っている姿から察するに騎士のモノだろうが、それにしてはやや軽装。
腰周りと両脚を覆うように存在する銀のプレート。上半身は籠手くらいで装備らしきモノは無し。
しかも剣や槍などの獲物を持っていない。
セイバーかランサーかすら分からない謎の男。
女は、男と同じく金色の髪で腰まで届くほどに長く美しい。
顔もまるで芸術品のようであり完成されている。彼女以上の女性などいるのかと疑問に思えるほどにだ。
歳のほうは二十歳手前くらいで若さを感じるがそれ以上に威圧感や凄みというモノが半端無い。
なんか直視するのが戸惑われてしまうほどにだ。
装備はこちらも軽装であり、赤の衣に金色の鎧。
両腕の籠手とスカートのような形状の鎧に両脚の装備くらいだろう。
そしてこちらも獲物は見当たらない。
一体この二人は何のサーヴァントなのか……
いやそれ以前に、
「馬鹿な……二騎を同時に召喚したとでもいうのか?
あの雁夜が?」
これにはあの臓硯も目を見開くしかなかった。
才能のかけらも無い、使い捨ての急ごしらえの魔術師が前代未聞の召喚をなしえたのだからそれは驚いて当然だろう。
当の本人である雁夜も何が起こっているのか理解出来ていない。
そもそも一騎でさえ魔力を維持するのは大変だというのに二騎同時召喚だ。
普通であれば既に意識を渾沌させているか魔力が枯渇して死亡していても可笑しくは無い筈なのに……
雁夜は多少の体力低下は感じているもののこうして普通に立っている。
全てが前代未聞だった。
すると男の方が口を開いた。
「私たちは貴方によって召喚されました。
さあ、願いを……私たちは貴方の願いを叶えるべく、召喚されたのですから」
「!!」
狂っていない。
本来バーサーカーであれば口を利くことすら出来るほどの理性も残っていない筈だ。
だがこの男は自然に話をした。
バーサーカーであればありえないことだ。
狂化されていないとなればバーサーカーでは無かったという事。
ならば……
「まったくもって貴様等には愛が足らん!!」
その瞬間、男の傍らに立っていた女が口を開いた。
館中に響き渡るほどの声。
聞いた瞬間に跪きたくなる程の威圧感を持ったその声に、臓硯も雁夜もその場で動けなくなってしまう。
「そこの翁! そしてマスター権限を持つ貴様もだ!
そこに直れ! 膝を付け!! つまり正座!! さっさとしろ!! 三秒以内だ!!」
「ぬおっ!?」
「うわっ!!?」
言われたがままに無理やりに彼女の眼前でで正座をしてしまう二人。
有無も言わさず命令に逆らう事すら出来ずに二人はいとも簡単に正座してしまった。
これではどちらが主か分かったものではない。
「これから貴様等にはたっぷりと説教してくれるわ!!
愛を学ぶまで説教は終わらんからそのつもりでな!!」
「なんじゃと!!?」
「ちょっ!」
さあさあこれから楽しい説教タイムである。
先ほどの命令によりまったくその場から動くことも出来ない二人は最早逃げる事すら叶わない。
「ああ、アルトよ。
その間に桜という少女の方を頼む。
多分そこらへんの虫の海の中に居るであろうから見つけておいてくれ」
「分かったよ」
「さあ虫達も手伝ってやってくれ」
すると影の中に潜んでいた虫の大群が一斉にワサワサと動き出した。
規則正しく動き桜の場所へと誘導していく。
「な!? ワシの虫達が命令を聞いているじゃと?」
「あれくらいは当然だ。なにせ我が愛しているのだからな!」
本来その虫たちは臓硯の命令しか聞くことは無い。
というか臓硯の半身と言っていい筈の虫達がただの一声で命令を聞くなどある筈が無いというのに。
だが現実では虫たちは部屋の隅にある穴へと男を誘導し、穴に居た虫達は中から桜をゆっくりと運び出している。
「あ、桜ちゃんを見つけたよ。ちょっと衰弱してるね」
「それはいかん! 我の宝物庫から栄養剤を出さねば……あと毛布に食事もいるな。
ああそんなに汚れて!! お風呂にも居れてやらねば!!」
「それは僕がやっておくよ。君は説教があるんでしょ?」
「当然だ! そこを分かってくれるアルトはさすがは我の旦那様だな愛しておるぞ!! ダーリン!!」
「はは、ありがとう。じゃあ桜ちゃん行くよ~」
桜を抱きかかえてアルトと呼ばれた男は地下から出て行く。
それを見届けて女の方は再び正座する二人の方へと向き直った。
その時の彼女の表情は、それはそれはイイ笑顔だったと後の雁夜は語っている。
「では我は説教タイムだ! なに、眠くなったら貴様らの中の虫を使って無理矢理にでも叩き起こしてやるから安心しろ!」
「何も安心できないんだが……」
「なぜお主はワシの虫をそこまで操れるんじゃ?
今もこうして動けぬでいるし」
「我の溢れる愛情とカリスマのおかげだな。
ん? 我に椅子はいるかだと? なぁに、説教をするのであれば我にそのようなモノは必要ない!
我が説教は愛であると知れ!! 立ちつかれたなどとほざく気は毛頭無い故にな!!
だがその心遣いは感謝するぞお前たち」
女の隣にいつの間にか居た虫達はどこからか椅子を持って来ており、彼女に座るように勧めていたらしい。
何を言っているかすらというか表情も意識も何も分かったもんじゃない筈なのにこの女はさも当然のように虫と会話している。
愛があるからなどという理由で納得出来るモノではなかった。
「……なんか爺よりも言う事を聞いているような」
「ワシの虫なのに……」
気が付けば虫達は正座する二人の周囲に集まっており、まるでこれから彼女の説教を一緒に聞くかのように彼女の方を見ていた。
「よろしい! さあ、説教タイムじゃお前ら!!」
こうして間桐の長い夜ははじまったのである。
「貴様は子供をなんだと思っておるのだ!?
子供とは人類の至宝、人類の未来そのものなのだぞ!?
それを私利私欲のために道具のように扱いおってなんと嘆かわしい!
子供は育み慈しむモノであると何故に分からぬのか!!」
「魔術師の悲願がなんじゃ!
そんなもんのために誰かを犠牲にするなど言語道断!!
やるなら一人でやれ! 他人を巻き込んで悲願だなどと恥じと知れ!!」
「貴様もかつては自身の力で願いを勝ち取ろうとした者の一人なのだろう?
ならば何故自身の願いを忘れた!?
その願いは、夢は! その程度のモノでしかなかったという事か!!
貴様の悲願というモノはたかだか数百年で摩耗する程度のモノなのか!!」
「貴様も貴様だ!!
少女を救いたい……その想いは確かに正しく、まさに愛だと我が断言しよう!
だが!!
その果てに自分を投げ出すのは許されざるべき事だ!!
貴様が死んでは彼女があまりにも可哀想だとは思わんのか!!
自分も救われてこその救いであると教えてくれる!!」
「恨みだと!?
ああ、確かに自身の子を魔術ごときのために外に出すだなどと許されるべき事ではないのは当然だ!!
これに関しては我も同感と言おう、むしろ我も殴ってやらねば気が済まぬ。
だがこれとそれは話が違う!
貴様はかつて恋した女を取られたという恨みをもって復讐をしたいというあまりに私欲な考えで動いておる!
それでは愛が無いではないか!!
愛があるなら! 恨みある男であろうと正してみせよ!!
魔術など関係ない! 一人の親であるなら! 子は須らく愛してみせよと! 子を手放すは愚かな事であると!!」
「そしてこの聖杯戦争だ!
何も知らぬ者を巻き込み自身の願いを叶えようだなどと馬鹿か貴様等は!!
誰がこんな馬鹿げた事を考えおったのか……
何? 貴様がその一人だと?
そこに直れ!! 貴様には一から説教をしなおしてくれるわっ!!!
そもそも人と言うのは!!!」
説教が終わった頃、日が昇り始めていた――
ちなみに作者はFate/Zeroを小説版も漫画版も所持してませんしまともに読んだ事もありません。
アニメも中途半端です。
なので内容は大半がwikiと二次創作からの受け売りとなります。
そういうわけで色々と間違いがあるかもしれませんがご容赦を。
あとこのSSは完全不定期更新です。
作者の気まぐれで更新されますので次回投稿は完全に未定というか不明です。
あしからず。