弓道場の掃除を終え踏み出した、夜の校庭。
「――――――なんだ、アレ」
見た瞬間に判った。
アレは人間ではない。おそらくは人間に似た別の何かだ。
「……、―――!」
「―――…ッ…!!―――…」
数は二つ。
ぎぃん、という鈍い金属音を響かせながら、幾度も眩い火花を咲かせる蒼と青。
ソレを演じるのは、時代錯誤な白銀の鎧を着込んだ少女と、タイトなボディースーツを身に纏った長身の男。
突き出された朱い閃光を風の束が流れるように絡め弾き、
それだけの動きで生じた衝撃波が冷えた空気を大きく揺らす。
………死ぬ。
びりびりと感じる濃厚な殺意に、ここにいては間違いなく生きてはいられないと体が理解する。
(―――逃げ、ないと)
目の前の剣戟に痺れた脳を再起動させ、走り出すための酸素を取り込もうとして―――――
「―――」
音が止まった。
―――一分の隙すら無い動きを以って、槍の男が必殺の構えをとる。
その総てが、ヒトの業としては余りにも完成され過ぎている。
あれだけの膨大な魔力を食い潰して放たれる一撃だ、正しくそれは必殺だろう。
殺される。
あの蒼い剣士は殺される。
いや、獲物が不可視である以上、彼女が剣士であるとは限らない。
が、衛宮士郎は風の衣に覆われたアレが恐らくは破格の剣であることを識っていた。
数瞬の後、碧眼の女剣士はあの男の一突きに絶命しているだろう。
ヒトではないけれど、ヒトの、女の子の形をしたモノが死ぬ。それは。
―――果たしてそれは、見過ごして良い事なのか。
一瞬生じたその迷いが張りつめた意識を溶かし、はあ、と大きく呼吸をした瞬間。
「誰だ――――――――!」
真紅の双眸が、こちらを凝視した。
「………っ!」
青い獣の体が沈む。その瞬間に、標的となった衛宮士郎は走り出していた。
(や、ば――――……ッ)
―――どこへどう逃げるか、そんなことは考えない。
あれを前にして、考えている余裕などあるわけがない。
ただ一刻も早くその場から遠ざかる為に、昏い無人の校舎へと駆け込んだ。
気付けばそこは、歩き慣れた生徒会室前の廊下。
倒れ込んだ床から伝わる冷たさが、未だ自分が生きていることを実感させてくれる。
今のは一体何だったのか。
いくら考えたところで明確な答えは出なかったけれど、ともあれ、ここまで来れば―――
「どうなるってんだ?」
「………!?」
「―――わりと遠くまで走ったな、オマエ」
「ま、運が無かったな坊主。正直こっちとしても胸糞悪いんだが……見た以上は死んでくれや」
息と思考が同時に止まる。
それでも、事実だけは正しく理解できた。―――衛宮士郎は、ここで死ぬ。