EMIYA in Another Fate   作:イスタ

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 「私もエミヤシロウであることに違いは無いのだよ」


俺の身体を奪った誰かはそう言った。


遠坂が先刻の蒼い剣士と一緒に乗り込んで来たことにも驚愕した。

彼女が巨大過ぎる猫を被っていたことにも仰天した。

今此処で展開されていた話の内容もあまりに信じ難いものだった。

が、男の言葉には思考が止まった。


………こいつは何を言っている?


衛宮士郎は俺だ。

あの光に紛れて俺を乗っ取った"サーヴァント"とかいうらしいこの男は、いきなり何を言い出すのか。


もうたくさんだ。いい加減黙っていられない。主導権なんて知るものか。

俺を押しのけて居座るこの侵入者をさっさと追い出して、遠坂に―――



 「では話そう。――――私の真名は英霊エミヤシロウ」



………その瞬間、未来を見た。







                                       ―――――――――朱い空。


(―――、『英霊』?)

それは俺が目指すべきものだ。『英霊』、『英雄』。正義の味方の呼び名の一つ。


                                       ―――――――――廻る歯車。


何故こいつがそれを識っている。

俺を騙る偽者は、あろうことか俺の理想(ユメ)そのものを名乗った。


 「君の知る衛宮士郎の未来の姿であり―――」


低い声音。それに相応しいカラダを以って英霊エミヤが告白する。


                                       ―――――――――無限の剣が突き立つ、


(ふざけるな。そんなことは有り得ない)

声と共に流れ込む記憶(イメージ)は男のものだ。別人であるはずの男の、理想に徹した生涯。



 「―――正義の味方の成れの果て」


ああ、それでも確かに、その根底にあるものは、あの決意の夜の―――


                                       ―――――――――錬鉄の丘。


 「ただ、それだけの話だ」






Ⅹ 憑依経験

 

 

 

 

 

 

その顔を憶えている。

 

 

目に涙を溜めて、見つけられてよかったと、ひとりでも助けられて救われたと、心の底から喜んでいる男の姿を。

それがあまりにも嬉しそうだったから、まるで救われたのは俺ではなく、男の方ではないかと思ったほど。

 

『―――ありがとう。ありがとう―――……』

 

オレはあの日、地獄の底でたったひとり救われた。

 

 

 

 

 

 

 

――――迎えたのは決意の夜。胸に刻んだ月下の約束。

 

中身の焼け落ちた伽藍堂(ロボット)に、男の語ったユメは眩しすぎて。

あまりにも綺麗だったから、その尊い理想に涙し憧れた。

 

それを追えば、いつか自分もあんな笑顔を浮かべることが出来るのではないか。

 

衛宮士郎が手に入れた唯一つの感情(のろい)。此処に理想の体現者は誕生し、ただ運命の夜へと加速する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――借り物の理想を掲げ、ただ走り続けた。

 

 

少数を切り捨てて、大勢を守るために自分を殺して、何よりも大切だったものを置き去りにして。

その総ての為に止まる事はできないと、サバイバーズ・ギルトの権化は(てつ)でその心を覆い隠した。

 

その果てに辿り着いたのは、殺戮を繰り返す守護者という終わりのない環。

 

―――総ての人間を救う。

 

そんな馬鹿げた理想を抱いた自分を悔やみ恨んだ。

 

オレは英雄になどなるべきではなかったと。求めていたのはこんなものではなかった筈だと。

 

 

だがもう遅い。

 

オレがこの環から抜け出す術は無い。抑止(システム)に組み込まれた自分はただ殺すしかないのだから。

―――ああ、それでも。もし叶うのならば。

 

 

 『消え去ってしまいたい』

 

 

その願いがいつしか呪いとなって、摩耗した正義の味方を塗り替えた時、遂に私は全てをやり直す機会(チャンス)を得た。

 

 

降り立ったのは何の因果か、オレが走り出した夜。

 

 

憧れた少女。未熟な衛宮士郎。胸に抱き続けた聖剣の輝き。汚れた聖杯。

 

記憶を失くしたと己を隠蔽し、目的の為だけに行動した。

 

 

衛宮士郎を殺す。

 

消滅は叶わないかもしれない。それでも悔やみ続けた過去の己を前にして、そんな理由で止まれる筈も無かった。

 

 

だがそこで、嘗ての己に答えを見た。

 

 

古城の決闘。幾度も斬り伏せた未熟者が叫んだ揺るがぬ決意。

 

 

 

――――正義の味方になる。

 

 

その理想だけは、間違っていなかったのだと。

 

アラヤの抑止力として召し上げられ、その果てに積み上げたモノが虐殺した人間の屍だけだったとしても、

 

 

 

『我が死後を預ける。―――その報酬をここに貰い受けたい』

 

 

最期まで貫いたその理想を、決して後悔などしてはいけなかったのだと。

 

 

 

 

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