「―――――七騎目が召喚された。これで漸く、全てのサーヴァントが出揃ったというわけだな」
「フン、此度も薄汚い欲に駆られた雑種共が現れおったか」
教会の地下。
昏い闇の中で、棺桶に腰を掛け果実酒を呷る神父と金髪の男。
「有象無象共の争いなど我の知ったことではないが―――
とはいえ、お前の愛弟子が召喚したセイバー………クク、あれはいい」
その中に居て尚、ぎらりと輝く真紅の双眸。
邪悪な引き裂いた笑いを浮かべるその男は、十年前のある記憶を呼び起こしていた。
「全く愉快な女よ。まさか、たった十年で再び性懲りもなく聖杯を求めて現れるとはな」
―――――アレの正体も知らずに。と更に口の端を吊り上げて人類最古の英雄王は嗤う。
「前回あの騎士王と名乗る小娘が見せた醜い執念、その葛藤、散り際の慟哭の涙……
―――ああ、きっと奴はまたそれに勝るモノを見せてくれるのだろう」
「凛があれを召喚したのは偶然だったが……お前の退屈凌ぎになるならば丁度良い」
「我は暫時傍観に徹する。婚儀の続きは全てが終わった後で良かろう。
―――言峰、それまでの糸引きはお前がやるが良い」
「人聞きが悪いな。今回の聖杯戦争に於いて私の役目は監督役だ。私はただこの闘争の行く末を静かに見極めるのみだよ」
前回そのマスターであった昏い瞳の男は、心音のない胸に手を当ててそう言った。
「ハ、我の前で今更聖職者を気取る必要もあるまい。その役者ぶりがお前の美徳ではあるがな」
「―――――は、話は分かったわ」
「そうか。やはり君は理解が早くて助かる。では、今後の方針と協力体制についてだが……」
「ええと、実は衛宮君は魔術師で、貴方は未来の衛宮君で、英霊で。
さっき自分に召喚されて、しかもそのマスターに憑依しちゃったと……?そうなんだ。へええ、ふーん。そりゃランサーだって尻尾巻いて逃げるワケよね。あー納得。なーんだそういうことだったんだーウフフフフ」
……………あ、これまずい。
ぶつぶつと呟きながら顔に影を落としていくあかいあくま。
そして吊り上った口元から漏れる渇いた笑い。
ぞくりと、テムズ川の悪夢が甦った。
「―――リ、リン?」
不穏な空気を感じ取ったセイバーが声をかけるが、もう遅い。
「……………、ふ」
その時、オレは確かに見た。
俯いた彼女の艶やかな黒髪の中から、にょきっと二本の角が覗くのを。
「ふッ……ざけんなああああ――――――――――――――――――――!!!!!!」
真夜中の衛宮邸に響き渡る怒声。
ご近所の皆様の安眠と共に、遠坂の家訓である優雅は遥か彼方へと吹き飛んでいった。
「何それアンタ本気で言ってるの!?ぶっ飛んでるにも程があるでしょうが!!
アンタ今までそんな素振り微塵も見せなかったじゃない!言うに事欠いて英霊って――――ああもう、私、英霊になるほどの魔術師が近くにいたってのにちっとも気付かなかったなんて……!!!」
「遠坂凛、君もレディならば少しは落ち着きたまえ。君の家に代々伝わる家訓を忘れたのか。だから言っ――――――ぐふぉ」
綺麗に決まった顎ガンド。
久方ぶりに喰らう呪いの塊は相変わらずヘビー級だった。
「………だから言っただろう?この時点での衛宮士郎はまだ未熟で―――――」
「ていうかアンタ、そもそも本当に衛宮くんなの!?キャスターか何かのサーヴァントが化けてホラ吹いてるだけじゃないの!?だとしたら今のうちに正体明かしといた方が身の為よ!」
「その点については先程証明した筈だが。この時点で誰も知り得る筈のないそこのセイバーの正体。その宝具の真名。君の戦う理由。どこかに間違いがあったかね?」
「何よりこの手に宿る令呪。これこそ人の身であるという何よりの証になると思うのだが」
「ぐぐ………ッ!!」
「………有り得ないことではありません。アーチャー、貴方が未来の英霊であると言うのならば」
「セイバー………」
静かに私を見据え頷くセイバー。
嘗て私の剣として共に戦った少女は、今は赤い魔術師の傍らで私の言葉を吟味していた。