EMIYA in Another Fate   作:イスタ

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Ⅻ 衛宮邸(Ⅲ)

 

 

「ぐっ……。そりゃ確かに、アンタの言うことを信じるならそれで合点がいくけど―――」

 

 

平行世界の第五次聖杯戦争。

 

一度目はセイバーのマスターとして。二度目は私のサーヴァントとして参戦したというこの男。

 

確かに英霊の座のシステムを考えれば、筋道は通っている。

でも突然そんな話を聞かされて、簡単にハイそうですかなんて頷ける筈がない。

 

違う世界の情報を持ち込むなんて暴挙、あの万華鏡(カレイドスコープ)じゃあるまいし……。

 

「しかし信用するかについてはまた別の話です」

「む」

 

良く言ったセイバー。味方にできると思っていたセイバーからの反論にアーチャーが渋い顔をした。

 

「アーチャー、貴方は我々について多くを知っているようですが、我々が把握したのは貴方の正体と経歴だけだ。今の貴方がどのような思惑で動いているのかについてはまだです」

 

「成程、尤もだ。では君は私が参戦した理由と目的を明かせと?」

 

 

「そうです。貴方はこの三度目の聖杯戦争で聖杯に何を求めるのですか?」

 

「………生憎、私は聖杯に懸けるような願いは持ち合わせていない。期待外れの返答になってしまって済まないな」

 

「私の目的は、私がこの戦争で止めることのできなかった悲劇を回避することだ。人的被害を可能な限り抑え、敵の思惑を潰し―――そして、姉を救う」

 

「姉?」

 

衛宮君に姉がいたとは初耳だ。以前生徒会長から、父親は数年前病没したと聞いたことがあったけれど。

 

「そうだ。私にはただ一人、血の繋がりこそないが確かに姉がいる」

 

 

「衛宮士郎だった頃、私は彼女を救うことができなかった。前回は叶わなかったが、今回こそ私は彼女(かぞく)を救いたい」

 

「………、ふうん」

 

 

唐突に見せた強い眼差し。

 

常に、それこそファーストコンタクトの一言目から飄々としていて、どこか信用の置けない男というのが正直な見立てだったけれど、一瞬で焔の灯いたその目を見た私は―――

 

 

この話だけは、信じて良いかもしれないと。何故なのか、心の隅でそんなことを思っていたのだった。

 

 

―――姉弟……か。

 

 

「ま、お姉さんを守りたいってのは分かったけど……その当人はどこにいるのよ?」

 

「恐らくアインツベルン城だろうな」

 

「……オーケー。続けて」

 

「セイバー、君は知っているのではないかね?イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの名を」

 

「イリヤスフィール―――?いえ、私は……」

 

「君は第四次でアインツベルンのサーヴァントだったのだろう?ならば会ったことがある筈だ。彼女は衛宮切嗣の一人娘なのだから」

 

……ちょっと、それ初耳よセイバー。

 

 

「キリツグ……アイリスフィールの!?確かに二人には娘がいました、ですが―――」

 

心当たりがあったらしいセイバーが目を丸くする。

 

「ああ。これまでアインツベルンは聖杯戦争の度に新しく人型のマスターを鋳造していた。だが今回に限っては特別でね」

 

「彼女がマスターとしてこの戦争に………」

 

「そうだ。キリツグはそれを防ごうと幾度もイリヤを迎えに行っていたが、その度に返り討ちにされたらしい」

 

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。どういうこと?何でアインツベルンが衛宮君のお姉さんになるわけ?」

 

「第四次でアインツベルンは外部から魔術師を招き、彼をマスターとした。その際アインツベルンのホムンクルスとの間に成した子がイリヤというわけだ」

 

「で、その魔術師っていうのが衛宮君のお父さんか……ホント、呆れるくらいの経歴ねアンタ」

 

「……成程。エミヤ、シロウ。そして彼女を姉と。貴方はキリツグの子でしたか」

 

「そういうことだ。切嗣は私にイリヤのことを話さなかったから、それを知ったのは随分後の事だがね」

 

感情を孕んだ声でアーチャーが呟く。彼女のことを余程大切に想っているのだろう、アーチャーの貌からはその一瞬だけ皮肉屋の仮面が外れたように見えた。

 

けれど、そんな空気はセイバーが不意に放った一言で砕け散ることになる。

 

 

 

「ふむ――――しかし、まさか舞弥との間に隠し子がいたとは」

 

 

「……………………………ん?」

 

 

 

「彼女と愛じ―――…そういった関係であることは知っていました。アイリスフィールも黙認しているようでしたし……ですがまさか子まで成していたとは」

 

 

ぱりーん。

 

どこかで硝子の割れる様な音が聞こえた。幻聴だろうか。

 

 

「……セイバー。ナニかカンチガイしているようだが、オレはヨウシだ。マイヤサンとかいうジョセイはシラナイ」

 

「え」

 

いつの間にか先程の決意の灯が消え、鉛の様な死んだ瞳のアーチャー。何故か笑顔でカタコト。

 

 

「衛宮君……じゃなかった。ええと、アーチャー?」

 

「こ、紅茶ヲ淹れてクル。貸シタマエ。ポットの方もダイブ冷めてしまったダロウ」

 

「え?あ―――ええ、お願いするわ」

 

 

呆然自失。正にその言葉がぴったりだと思った。

 

どうやらこの英霊は、突然セイバーによって暴露された父親の不貞が相当に応えたらしい。

 

受肉している筈なのに、ティーポットを抱きかかえた赤いサーヴァントは、幽霊のような虚ろな動きで台所に入っていった。

 

………大丈夫だろうか、あいつ。

 

 

 


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