「あ………つ」
吐き気と共に目が覚めた。
べっとりと血で濡れた制服が気持ち悪い。
朦朧とした頭のまま、自分が死に、生き返ったことをどうにか自覚する。
何が起こったのかは解らない。助けてくれた誰かの顔すら憶えていない。
血の海の他に唯一つこの場に残されたのは、同じく血の様に朱いこの宝石だけ。
―――帰宅できたのは日付が変わってからだった。
未だ罅の入った心臓を抱えて、それでも自力で帰ってこられたのは奇跡としか言いようがない。
「がっ、は――――――――!?」
だというのに、青い殺人者はここまで追ってきた。
奴の放った回し蹴りで俺は今、ボールのように空を飛んでいる。
強化した藤ねえのポスターは先刻の打ち合いでぐにゃぐにゃにひしゃげてしまった。
「ぐっ――――!」
背中から土蔵に激突し、崩れ落ちた。
背骨が砕けていないのは奇跡としか言いようがない。
だが砕けなかったところで、こんな体勢のままでは刺し貫かれるだけ。
「くそ……ッ!」
迫る槍の穂先に体を奮い立たせるが、膝が折れてみっともなく転がってしまう。
「チィ、男だったらシャンと立ってろ……!」
だがなんという悪運か。俺の首を抉る筈だった赤槍は鼻先を掠め、背にする土蔵の扉を弾き開けた。
(逃げ込んでも袋の鼠……いや、それでも、ここしか――――!)
僅かに繋がった活路。
今度こそ足に力を籠め、全力で土蔵に飛び込む。
何でも良い。工具、投影品、武器になるようなものがあれば―――
「そら、これで終いだ―――!」
「くっ……、こ――――のぉぉおおおおお!!!」
放たれた避けようのない必殺の槍を、四つん這いのままポスターを広げることで防ぐ。
―――だがそれで終わり。
一度きりの楯は破壊され、衝撃だけで俺は後方へと吹っ飛んだ。
(ぁ―――――、づ――――)
一瞬の思考停止。
心臓に喝を入れる代わりに、武器を手にする機会を失った。そこへ、
「詰めだ」
眼前には、槍を突き出した男の姿があった。
「今のはわりと驚かされたぜ、坊主。……しかし、分からねえな。機転は利くくせに魔術はからっきしときた。筋はいいようだが、まだ若すぎたか」
男の声など耳には入らない。ただ突き付けられた凶器を穴が開くほど見つめる。
だって、これは俺を殺すもの。既に一度殺されているのだから、その威力は折り紙つきだ。
「もしやとは思うが、おまえが七人目だったのかもな。ま、だとしてもこれで終わりなんだが」
―――迸る赤。
綺麗に心臓へ吸い込まれるだろうその名槍の味を知っている。
それをもう一度?本当に?理解できない。なんだってそんな目に遭わなくてはならないのか。
……ふざけてる。
そんなのは認められない。こんな所で意味もなく死ぬ訳にはいかない。
この身はもう二度も助けて貰ったのだ。
なら。命を拾われたからには、簡単には死ねない。
俺は生きて義務を果たさなければいけないのに。
月下の約束。あの尊い
「ふざけるな、俺は―――」
俺は。
こんなところで意味もなく、何も判らず、何も叶えられないまま、
おまえみたいなヤツに、
殺されてやるものか――――――!!!!!!
「――――――…、え?」
それは、本当に。
「なに………!?」
魔法のように、巻き起こった。