EMIYA in Another Fate   作:イスタ

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Ⅲ アーチャーvsランサー

 

 

 

 

 

 

現界を確認。

 

 

この身はアーチャーのサーヴァント。

 

『座』より招かれし●●●●●●。

 

 

―――訂正、真名の読み込み不可。記憶に欠落多数。

 

マスターとのパスを検索。該当なし。

 

 

(―――待て。サーヴァント現界の楔たるマスターとの繋がりがないだと)

 

 

それどころか、そもそも召喚を行った筈のマスターすら見当たらない。

 

 

今私は保有魔力、単独行動スキルだけで現界しているということだろうか。

 

しかも何故か魔力の巡りがひどく悪い。

 

自らの身体を探査した結果、魔術回路が一本も開いていなかった。

 

このままではまともな戦闘もままならない。強引に魔力を流し、閉じた回路をこじ開ける。

 

荒療治の為、相応の反動(リバウンド)が発生するが致し方ない。

 

 

「……オイ、何の冗談だそいつは」

 

 

何故なら周辺にサーヴァントの気配が二つ。その一つは目の前に。

 

ならば現状把握は後回し。込み上げた血を飲み下し、二振りの中華剣を投影する。

 

 

「っ、チィ――!」

 

 

忌々しげに悪態をつくクーフーリン。

 

後退しつつ振るわれたゲイボルクを交差した陰陽剣で払いのけ、土蔵の外に躍り出た槍兵(ランサー)を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦いの場は開けた庭へ。月明かりに照らされ、赤と青が睨み合う。

 

 

 

「……ふざけたヤロウだ、只者じゃねえと思っていたが、まさかサーヴァントとはな」

 

 

「それは称賛か?非難か?生憎此方は召喚されたばかりなのでな。正直、現状把握すらままならない有様だ」

 

 

「だがどうやら君は私の召喚に立ち合ったようだ。良ければ状況を説明してくれると助かるのだが」

 

「けっ、抜かせ―――!」

 

 

踏み込みからの爆発的な突進。

 

繰り出される鋭い刺突の全てを赤の剣士は流れるようにいなす。

 

 

響く剣戟。火花を散らしつつ的確に対応する正体不明の双剣使いに、最速を誇る槍兵は未だ一撃を叩き込めずにいた。

 

 

だがそこまでだ。本調子でない身体と魔術回路では防戦が精一杯。

 

 

ならばこの場の選択肢は一つ。

 

干将と莫耶を投擲し、一アクションでそれらを打ち落とす槍兵との間合いをとる。

 

 

 

「自らの武器を棄てるとは、貴様―――」

 

ぎらりと光る獣の瞳。

 

「非難は尤もだが……勝負まで棄てたわけではない。此方の本領は、此処に在る」

 

静かに見つめ返すは鉛色の瞳。

 

空の筈だったその手にはいつの間にか、何の装飾もない無骨な黒弓が握られていた。

 

 

「成程。セイバーとは既に()ってきた。その武練、消去法で行けばライダーかアーチャーってことになるんだろうが、それにしても……」

 

 

「接近戦で槍兵(ランサー)と鍔迫り合うとは……貴様、本当に弓兵(アーチャー)か」

 

「生憎と私は真っ当な英霊ではないのでな。戦場を生き抜く為には剣であろうと槍であろうと使わざるを得なかったのだよ。

 ランサー、君は他者の戦闘スタイルに文句をつける気か?」

 

 

皮肉めいた言動と笑みで注意を引きつつ、装填すべき弾丸を検索する。

 

先程まで思い出せなかった生前の経験も、英霊との死闘の中で自身の戦闘スキルと共に急速に取り戻しつつあった。

 

 

「へっ、まさか。他人の戦いにケチつけるほど野暮じゃねえよ。手数が多けりゃその分戦いも面白くなる」

 

だが挑発には乗らず、ボディスーツの男は肩を竦めて笑う。

 

 

「実に英霊らしいことだ。勝利よりも戦いを求めるか」

 

「ったりめぇだろうが。元より聖杯に託す願いなんてのは持ち合わせちゃいねえし、興味もねえ」

 

 

「俺の願いは唯一つ、伝説に名を刻んだ英傑共との死闘だ。ま、今は無粋な制約が掛かっちゃいるがな」

 

「―――成程、令呪か」

 

「ほう?えらく察しが良いじゃねえか」

 

「七騎の内最速のサーヴァントがこの程度の筈は無い。そこへ、君自身の望みが戦いとなれば―――。

 戦いに於いて戦士を縛るとは、酔狂なマスターもいたものだ」

 

 

「ああ全くだ。だがアーチャーよ、テメエのマスターも相当ぶっ飛んで―――」

 

「ならば提案がある。アイルランドの光の御子よ」

 

 

 

 「――――――あ?」

 

 

 

「今夜は私の方も本調子ではない。甚だ不本意ではあるが、決着は次に持ち越しとしないか。

 次に見えた時こそ、私は全力を以って君を討ち果たそう」

 

 

「……はっ、俺の真名を識った上で言いやがるか―――いいぜ、撤退はマスターからの指令でもあることだしな」

 

「だがな。令呪と言えど、六戦全てに対する絶対的な拘束力なんざあるわけがねえ」

 

 

「互いに不調。この状態で潰せる相手なら、次の機会を待ったところで結果は同じだ。そうだろう?」

 

明確な殺意を孕んだ眼光が弓兵を射抜く。

 

だが、その中にある愉しみの色は未だ消えていない。

 

「……成程。確かに、道理ではあるな」

 

「お前を見逃す(・・・)のは、お前がそれだけの価値を持っていた時の話だぜ」

 

つまり早い話、休戦を持ちかける以上は、何か面白いモノを見せろということ。

 

 

「―――ならば、それに足り得るモノを披露しよう」

 

 

「はっ、漸く本領を見せるか。いいぜ、やってみな……!!」

 

くるくると軽やかに宝具を振り回し、ランサーはいつでも来いとばかりに低く構えをとった。

 

 

「―――」

 

 

対する赤の弓兵は、無言で虚空から一本の矢を生み出し番える。

 

 

 

 

「な」

 

 

 

それを見たクー=フーリンの動きが止まる。

 

 

張りつめていた筈の意識に僅かな緩みが生じ、万全の構えが一瞬綻ぶ。

 

それほどまでに彼を驚愕させるものを、見開かれた双眸は確かに映していた。

 

 

―――だって、あれは。

 

 

 

 

「――――――I am(我が骨子) the bone of(は 捻じれ) my sword.(  狂う。  )

 

 

 

 

奇妙な詠唱と共に放たれるは、彼の英雄と同じ時代を駆け抜けた、とある男と共に在った稲妻の螺旋剣。

 

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!!」

 

ソレが形を変えて今、嘗ての盟友に襲いかかる―――!!

 

 

「っ、―――チィッッ!!」

 

一瞬の逡巡。

 

反応が遅れたが、この身は矢除けの加護を授かっている。ならば弓兵が何を放とうとも、その悉くを躱して―――…

 

 

待て。

 

つい今し方、この男は此方の真名を看破してみせなかったか。

 

ならばこの一撃は、それを弁えた上で

 

 

 

 

 

「―――『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

 

 

 


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