「数奇な運命もあったものだ。またこの戦争に参じることになるとはな」
総ての記憶は取り戻した。
再び降り立ったこの夜に去来する感情は歓喜か、後悔か、希望か、望郷か。
だが戸惑いは無かった。エミヤシロウのスタートに、この戦争以上に相応しい場所は無い。
何より、頑張っていく、と彼女に宣言したのだ。
こんなことで腑抜けていては、彼のあかいあくまが宝石剣片手にエミヤ君をぶちのめしに来かねない。
ともあれやるべきことは決まった。
決意も新たに、陽剣干将にあの聖剣を投影し、変わり果てた姿でこの夜に現界した、今の己を見つめる。
「……。―――――――は?」
いや、見つめようとして、失敗した。
白剣に反射した鏡写しの自分は、見知った錬鉄の英霊の姿ではなかった。
あの槍兵が困惑していたのも当然だ。今ならあの言動の真の意味も理解できる。
「なんでさ」
思わず、長らく口にしていなかった嘗ての口癖が零れる。
だがそこに違和感は全く感じられない。
何故ならその姿は、その口癖を使っていた頃の己そのもの。
――――訳も判らず、剣の中の自分の姿を凝視する。
褐色に灼けた筈の肌は、紛れもなく東洋人の特徴である黄色。
とうに色素が抜け落ち、白く変貌したはずの髪は、理想に燃える赤銅。
エミヤシロウを正しく再現しているのは、青年期に急激に伸びた身長と鍛え上げられた体躯、灰色の瞳、そして赤原礼装くらいのものだ。
もしやと思い右手の外套を捲ってみれば、そこには赤々と輝く令呪が。
……疑いようもない。この身体は、衛宮士郎そのものだった。
「ふざけてるよな……本当に」
あまりに想定を超えた出来事の連続。
赤い弓兵は深く溜息をつきながら、鍛錬に明け暮れた在りし日の己と同じように、ブルーシートの上に転がった。
(……理由は分からないが、どうやらエミヤシロウは過去の衛宮士郎に融合、または上書きされてしまったらしい)
私と融合したことで、召喚を行った未熟者の姿は消えた。
ならば我がマスターはこの身体そのものなのだろう。
通常、人間という殻に英霊を押し込んだところで、待っているのは自滅。
ヒト以上のモノへと昇華された霊格の強大さに人の身が耐えられるはずも無い。
そもそも魂を受け容れようとした時点で、拒絶反応によって自壊する確率が高い。
しかし私と衛宮士郎は特別だ。
大きさは違えど根本を同じくする物なのだ。それが馴染まないはずは無かった。
肉体に引っ張られたのか、それとも不出来な召喚の弊害か。おそらくはその両方だろう。
魂のみを召喚された英霊は、同位体の肉体を器にして現界してしまった。いや、受肉したと言ってもいい。
その結果がこれ。衛宮士郎の肉体はエミヤシロウという規格外の魂によって膨れ上がり、このカタチを成した。
そして右手には、本来サーヴァント自身が握ることなど有り得ない筈の懐かしい三画の令呪が。
それこそ仮説を裏付ける確かな証拠であり、是を以って自らの置かれた状況の把握は完了した。
因って現状、まず考えるべきは―――
この世界の衛宮士郎はどうなったのか、ということ。
そこまで考えが至った時、屋敷の方から鐘の音が響いた。
―――警報。
ここは魔術師の家。敷地に見知らぬ人間が入ってくれば警鐘が鳴る、程度の結界は張ってある。
だがそれだけだ。行く手を阻んだり、対象の能力を低下させるような高度な罠は施されていない。
「侵入してきたか。まあ仕方あるまい、本来ならばこちらから出向くはずだったのだからな」
けれど問題は無い。誰が来たのかは既に分かっている。
そして警報が鳴った意味を相手も理解しただろう。
即ち、衛宮士郎は魔術師であると。
それでも救援の為迷わず此方へ向かってくるのは、ミスを犯した自分を許せない彼女の性質故か。その懐かしさから知らず笑う。
ここが此度の分岐点。
一度目は何も知らずただ巻き込まれた。
二度目は知っていながら、自身の為に沈黙し戦い裏切った。
―――だからエミヤシロウは決意する。
ならば、今度ははじめから総てを話してみようと。
土蔵から出て、深く息を吸う。
門の方から姿を現したのは、黒髪の少女と鎧姿の騎士王。
前者の方が先導していることに今更驚くことはしない。
私はこの若き魔術師をよく識っているから。
これが三度目の彼女達との出会いだ。
ここまで来ると真剣に腐れ縁というものの存在を信じるしかない。ああ。きっと私は君達と―――
「衛宮君、無事!?ランサーが――――――、……え。デカっ」
―――遠坂。流石にそれはオレも傷付く。
CLASS アーチャー
マスター 衛宮士郎
真名 エミヤ
性別 男性
身長 187cm
体重 78kg
属性 秩序・中庸
筋力 D
耐久 D
敏捷 D
魔力 B
幸運 E
宝具 ??
クラススキル
対魔力 D
単独行動 B
保有スキル
心眼(真) B
千里眼 C
魔術 C-