EMIYA in Another Fate   作:イスタ

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Ⅷ 衛宮邸へ

 

 

 

 

「衛宮君、無事!?ランサーが――――――、……え。デカっ」

 

 

 凛の言葉を聞いた男が渋い顔をする。

 

 土蔵から出てきたのは、凛が話していた学生の少年ではなく、両の手に陰陽剣を提げた赤いサーヴァントだった。

 

 

 

「貴様、何者―――!」

 

 

「何者、ときたか。やれやれ、それが他人の家に勝手に侵入してきた者の言い草かね」

 

「……それは其方も同じではないのか、サーヴァント(異分子)

 私のマスターは此処に住まう学友を訪ねてきた。―――貴様、この家の者をどうした」

 

 

 風王結界を纏わせた聖剣を構え、凛の前に立つ。

 

 

 油断はできない。先刻あのランサーを退けたということは相当の手練の筈。

 

 何故か呆けているマスターを護る為にも、必要とあらば宝具の開放も視野に入れて敵を睨みつけた。

 

 

 ―――しかし、

 

 

「待て、剣を下ろせ。―――降参する。私は遠坂凛やセイバーと争うつもりは無い」

 

 

 正体不明の赤い男は、あっさりと双剣を放り捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

「―――何のつもりです?」

 

「セイバー、君の方には少々誤解があるようだな。

 一応、私はこの屋敷の者だ。―――遠坂。彼女を止めてくれないか」

 

 

「……ちょっと待ちなさい。その恰好、一体……貴方―――衛宮君、なの?」

 

 

土蔵から出てきた赤い外套の同級生。

 

予想だにしていなかったその姿を視認して、私は思わず呆けてしまった。

 

その上何やら助けを求めてきたが、むしろ救いの手を差し伸べて欲しいのは此方である。

 

 

「……リン、状況が掴めません。どういうことです。説明を」

 

「わ、私にだって解らないわよっ。でも……こいつの顔はどう見たって―――…」

 

 

だって、その顔は間違いなく私の見知った同級生のもの。

 

ステータスが見える以上は間違いなく英霊(サーヴァント)だし、握った双剣は間違いなく宝具の類だというのに、私には目の前にいるこいつが偽物(べつじん)だとは思えない。

 

 

 

「―――答えなさい。貴方は私の知ってる(・・・・・・)衛宮君なの?」

 

「ふむ……参ったな。此処で"そうだ"と答えれば丸く収まるのだろうが、厳密には違ってしまっている以上、そうもいかん」

 

「はあ?」

 

「おかしな言い方をして済まないと思っている。だが此方もかなり複雑な状況に陥っていてね。

 総て語るとなると長い話になるのだが………そうだな、ともあれ―――」

 

 

衛宮君の顔をしたナニカが困った様子で頬を掻く。

 

私の問いによく解らない答えを返し、己の得物を捨てた双剣使いはそして、

 

 

 

 

「一先ず、お茶でも如何かね?」

 

 

―――などと。さも当たり前のように、あまりにも馬鹿馬鹿しいことを口にした。

 

 

 

 

 

 

「何ですって……?」

 

「先程降参と言っただろう?言葉の通りだ。此方に交戦の意思はない。休戦や停戦の提案をしているのではなく、完全な降参だよ」

 

 

「……戯言を。聖杯を求める限りサーヴァントは争う運命にある。そんな口車に乗ると思うのか」

 

 

「心外だな。私は本気だ、セイバー。君ほど高潔な騎士ならば、よもや剣を持たざる者の申し出を断りはしないだろうと踏んだのだがね」

 

 

  大袈裟に肩を竦め、皮肉の混じった笑みを浮かべる正体不明の"サーヴァント"。

 

 

  自陣に侵入した敵マスターとサーヴァントに対し、この男は有り得ない事に降参の意思を示した。

 

  更に飛び出したのは何時ぞやの征服王を彷彿とさせる誘いだったが、今回の提案は我々二人に向けられたもの。

 

  そして主従である以上、決めるのはリンだ。私は剣を構えたままマスターの様子を窺った。

 

 

 

 

「―――……はあ。良いわ、とりあえず剣は下げて、セイバー」

 

「―――はい」

 

 

「ふむ、交渉は成立と思って良いのかね?」

 

「構わないわ。ここまで来たんだもの、何があったのか知らないけど、根こそぎ全部聞かせてもらおうじゃない。戦う気の無い奴を甚振る趣味は無いしね」

 

  深い溜息をつきながらマスターが提案を受諾する。

 

  だがサーヴァントを前にして尚強い意志を宿した瞳は、エミヤと呼んだ英霊を一切の油断なく見据えていた。

 

 

 

「ただし、妙な考えは起こさないこと。言っておくけどうちのセイバーは強いわよ。接近戦で勝てるなんて思わないことね」

 

「無論だ。私とて彼女の力はよく理解しているさ。―――それこそ痛いほどにな」

 

 

 

 


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