EMIYA in Another Fate   作:イスタ

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Ⅸ 衛宮邸(Ⅰ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――――なに、これ」

 

 

 

 

 

「む。紅茶はお気に召さなかったかね?すまなかった、何分この家にはまともな道具が無くてね」

 

 

「いや、普通に美味しかったわよ。だから問題なんじゃない。当たり前みたいに英国のゴールデンルール抑えてる英霊って何なのよ」

 

「なに、昔茶坊主の真似事をしていた際に体得した技能だよ。生憎と茶葉は安物なのだが、喜んで貰えたようで何よりだ」

 

「……頭痛くなってきた。どういう経験よそれ。あんたホントに英霊(サーヴァント)なの……」

 

何しろ紅茶だけでなく、それを提供するまでのエスコートやサービスの一連の流れまでが熟練された超一流の動きなのだ。ひょっとしてこいつ、フットマンかバトラーのサーヴァントなのではないだろうか。

 

「いや、生憎私のクラスはアーチャーだ。もしそのようなエクストラクラスがあったなら、適性はあるだろうがね」

 

「真面目に答えなくていいから」

 

 

 

 「……って、今はそういう話をしてるんじゃなくて」

 

 

 

 

「単刀直入に訊くわ。えみ――――いえ、アーチャー。貴方の狙いは何?」

 

「―――同盟だ。私を君達の陣営に加えてもらいたい」

 

 

―――即答だった。

 

 

 

 

衛宮君(仮)にエスコートされてお邪魔した衛宮邸。

 

居間のテーブルを挟んで、私とセイバーと衛宮君(仮)は対峙していた。

 

 

風の鎧を実体化させたままのセイバー同様、警戒は解かない。

 

何故なら此処は敵陣の中。おかしな動きを見せればすぐにでも仕掛けられるよう、宝石を握る手に力を込める。

 

 

 

「ふうん、同盟ね……」

 

 

アーチャーを名乗ったサーヴァントを見据える。

 

どこからどう見ても衛宮君の顔をしたこの男は、私達の仲間になりたいと言い出した。

 

 

「しかも"私を"か。成程。この場に契約者(パートナー)が同席していない以上、貴方の陣営は何かしらの不利を抱えていると考えて良さそうね」

 

「推察の通りだ。とはいえ、それだけが理由ではないのだが」

 

 

「ま、現状戦力が増えるに越したことはないわ。私は最優のセイバーを従えてるけれど、それだけで勝ち抜けるなんて甘い考えは持ってないし」

 

「だから条件次第では応じることもできる。……でもね、その交渉に入る前に、まずは話すべき事があるんじゃないの?」

 

「―――ああ。では本題に入るとしようか」

 

 

「さっき、貴方は『英霊』と呼ばれて否定しなかったわね。だったら貴方は衛宮君の顔をしただけの別人(サーヴァント)、てことでいいのかしら」

 

 

いい加減そこをハッキリさせておかなければ、話し合いも何もあったものではない。

 

とりあえず衛宮君が魔術師であることは確定で良さそうだけれど、私達はこの男を魔術師(衛宮君)英霊(サーヴァント)のどちらとして認識すればいいのか。そしてその片割れはどこへ行ったのか。

 

そんな不確定要素満載のままここまで付き合ってあげたのが破格のサービスなのだ。そうしてしまったのは多分こいつの間の抜けた顔のせいだろうけれど、それもここまで。

 

 

「……そうだな。一先ずはそういうことにしておいた方が話が解り易いだろう」

 

「一先ずはってあんた………」

 

 

 

「ふむ、少々長い話になるのだが、構わないだろうか?」

 

「勿論よ。これから組むかもしれない相手だもの、一つだって不確定事項は残したくないし」

 

「ええ。アーチャー、我々は話し合いの誘いに乗りましたが、まだ貴方を信用したわけではない。共闘を望むのならばそれだけの姿勢は示してもらいます」

 

 

 

「それじゃ訊かせてもらいましょうか。衛宮君に何が起きて、どうやってランサーを追い払ったのかもね」

 

「―――そうだな。では一先ずその質問に答えよう」

 

 

「まず大前提として、衛宮士郎は魔術師だ。そしてサーヴァント召喚を行い、その力を以ってランサーを撃退するに至った」

 

 

 

「やっぱり……そういうコト。今まで一度だって魔力を感じることはなかったけれど、何らかの封じをしていたってワケか」

 

「いや、それは違う。君が感知できなかったのは、衛宮士郎が魔術師として未熟故、常時魔力を生成することが出来なかったからだ」

 

 

「―――そんなバカな話あるわけないじゃない。そんなののどこが魔術師なのよ。魔力も運用できない奴にサーヴァント召喚なんて」

 

 

出来る筈がない。

 

だって英霊の召喚には相応の力量と万全の準備が必要で、それすら用意できない其処らの盆暗ではそもそも令呪を授かる筈もないのだから。

 

 

「そんな未熟者が召喚を果たせたのは、地脈に繋がった魔方陣を通して聖杯の方からバックアップがあったからだろう。後者については単なる数合わせだな」

 

「だが……ここからが問題なのだ」

 

赤い外套のサーヴァントは溜息をつきながら、顔に影を落として赤銅色の髪を掻き上げた。

 

 

「実は―――アレが魔術師としてあまりにも不出来だった為に、通常あり得る筈の無いイレギュラーが発生してしまったのだよ」

 

「それが衛宮君の顔した貴方ってワケ?」

 

 

「そうだ。あろうことか衛宮士郎は、自らが召喚したサーヴァントの魂を自身の肉体に取り込んでしまったのだ」

 

 

「「は?」」

 

 

 

私とセイバーが同時に声を上げた。

 

 

………この男は、今何と言った?

 

 

衛宮君がサーヴァントを召喚して、その魂を自分の中に取り込んだ?

 

 

有り得ない。

 

実際目の前におかしなモノがいる以上それなりの覚悟はしていたけれど、それは冗談に対するものではない。ホラ話にしてもぶっ飛び過ぎている。

 

だって、そんなことは絶対に有り得ない(・・・・・・・・)のだから。

 

 

英霊とは、世界によってヒトの理から外され昇華された、途方もなく強大な魂のことだ。

 

他人の魂を取り込むだけでも拒絶反応で自滅するのに、英霊なんて破格の魂―――試みた瞬間に身体が砕け散る。

 

 

「ふざけないで。本気で言っているんだとしたら同盟の話はお断りするわ。頭のイカれたサーヴァントなんて冗談じゃない」

 

 

「いや、私の言は全て事実であり、決して錯乱しているわけではないよ」

 

 

「確かに通常であればヒトの器に英霊を宿すなど不可能だ。が、私達の場合は入った中身が特殊でね」

 

「じゃあ何。その体は正真正銘衛宮君の身体で、私達と話しているあんたは召喚されたサーヴァントだって言いたいの?」

 

 

そんなことが本当にできたならそれは降霊術の最高峰にあるべき領域だ。

 

それを半人前のド素人が成し遂げたなど、バカバカしいにも程がある。

 

 

 

「その通りだ」

 

 

だが目の前の大男はそれをあっさりと肯定した。

 

 

「……リン?」

 

「ああ大丈夫、何でもないから。平気よセイバー」

 

 

額に浮いた青筋にセイバーが反応した。咄嗟に笑顔を作って取り繕う。

 

危ない危ない。落ち着け、まだキレる時じゃない。ひっひっふー。余裕を持って優雅たれ。

 

 

 

「…………アンタがマスターである衛宮君を乗っ取った。そこまでは分かったわ。一先ずそういうことにしておきましょう」

 

 

「でもね、となるとちょっとおかしいんじゃない?あんたの言ったことを信じるなら、私達は初対面の筈よね。どうして私のことを知っていたのかしら」

 

「乗っ取ったと言われるのは些か不服だが……ああ、確かに君の主張も尤もだ」

 

 

「―――とはいえ、私もエミヤシロウであることに違いは無いのでね」

 

「……解せないわね。此処まで来て言葉遊びなんて、どういうつもりかしら」

 

「厳然たる事実だ。これこそ私がこの身体に収まった要因であり、君達のことを知っている理由でもある」

 

「アーチャー、先程から貴方の言は要領を得ない。我々を信用を得たいのであれば、まずは貴方が何者かを簡潔に述べるべきだ」

 

核心から外れ続ける言葉の応酬にいい加減痺れを切らしたのか、セイバーが口を開く。

 

セイバーには先程衛宮君のことを多少話してあるが、それでもこの場で一番状況を掴みかねているのは彼女だろう。

 

 

「私が陥ったのがあまりにも非常識な状況なのでな。正しく理解してもらう為の布石だったのだ。―――だが、前置きはこの辺りで良いだろう」

 

「では最後に、君に一つだけ訊かせてくれ。セイバー、君は英霊というモノをどう理解している?」

 

 

「何を今更。英霊とは英雄が死後、人々に祀り上げられ精霊化した存在でしょう」

 

 

  世界によってヒト以上の霊格に昇華された英傑達。

 

  英霊の"座"に召し上げられた時点で、彼らは輪廻転生の理からすらも外され、永劫不変の存在となる。

 

  世界の外側に位置するが故"座"に時の概念はなく、古今東西総ての英霊は残らず其処に集められるのだ。

 

 

  ……私は死を迎える寸前で世界との契約によりサーヴァントとなったが、それは極稀な例外。

 

  この地に喚び出された私以外のサーヴァントは、恐らく全て英霊の座から招かれた者たちだろう。

 

 

 

「その通りだ。そこまで解っているのであれば、マスターはともかく君は私の言を疑いはすまい」

 

 

どうやらこいつはセイバーを味方につけて私を丸め込む肚らしい。

 

 

「どういう意味よそれ。あんたがどんな奇天烈な真名を出すつもりなのかは知らないけど、

 私だって自分の意思で聖杯戦争に参加したマスターなんですからね。英霊やサーヴァントシステムのことくらい熟知しているわよ」

 

 

どこまでもふざけた態度をとるこの男は、察するに相当ぶっ飛んだ話をするつもりなのだろう。

 

最初からこいつは、"私が"ソレを信じないものと決めつけて、"私を"説得にかかっている。

 

 

だが道理が通っているならば、私も頭ごなしに否定などしない。

 

いいからさっさと話せとカップをソーサーに叩きつけ睨みつけた目前の男はそして、

 

 

 

 

 

 

「では話そう。――――私の真名は英霊エミヤシロウ」

 

「……は」

 

 

 

などと、この夜最大級のとんでもない核爆弾を投下した。

 

 

 

「君の知る衛宮士郎の未来の姿であり、正義の味方の成れの果て。

 ただそれだけの話なんだ、遠坂」

 

 

 

 


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