アトミック学園 倉庫部   作:はまなす改二

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オチなんてありません。



第1話・勧誘なんていう高度な対人技能は持ち合わせていません

キーンコーンカーンコーン×2

 

授業と教員対生徒による帰りの会合もおわり、放課後。

即刻帰るやつも居れば、部活しに行くやつも居る。

荷物を持ち、一段と騒がしくなる教室を出て部室へ直行。

 

ガチャ。

中央階段横の扉を開ける。

部屋の標識は『中央倉庫』

 

「だれかおるかー」

 

「ういー」

 

部屋の奥から返事がする。

部屋の形状は少しいびつになっている。

扉を開けてすぐ通路。突き当りを右に階段状に削られた天井の下を通路が伸び、教室ほどの大きな部屋がある。

その部屋は倉庫。主に文化祭で使ういろんな器具が置かれている。

体育倉庫とは別でスポーツ器具とかはない。

置かれているのは楽器だったり照明器具だったり古びた机と椅子だったりH30と書かれた文化祭の大弾幕だったり、なんか色々ある。

だって倉庫だもの。いろんな物があるに決まってる。

 

その部屋のすみっこ、比較的綺麗そうな机を4つ固めて部の遊び場になってるところに一人うつ伏せながら手をふるやつがいた。

 

「お疲れー」

 

二年の先元(さきもと)ミサだ。

一応副部長。

 

部員は私を含め三人、あと一人の姿がない。

 

「ノワは?」

 

「全般救護の教員に連れられてどっかいった。多分居残り」

 

週1イベ発生。

原因は一つか二つ。課題の未提出、もしくは、追試。

 

「じゃぁ二人だけかぁ、新入生勧誘するから人は多いほうがいいんだけど…」

 

「新入生勧誘するの?」

 

ミサが顔を上げるこちらを見る。

 

「こんなホコリみたいな部活に?」

 

「うっ…」

 

「本気で言ってる?新入生が可哀想だと思わない?」

 

「ぐっ…」

 

「高等部の華やかしいアオハル時代をこんな暗闇とカビ臭い世界に引き込むわけ?」

 

Over Kill。

私の心は四方八方に引き裂かれた。

一応こいつ副部長だぞ。部の存続はいいのか…。

 

「先元、お前女だからって言って良いことと悪いことがあるんだぞ」

 

「新入生のことを親身に考えた結果ですが何か」

 

ギロっと、睨む目が引き裂かれた心を貫通する。

というか貴女(オマエ)も女だろ、と追撃を加えてくる。

こえぇ〜〜…

一応3年生だからといって2年生に強くできるほど私の心は強靱に創られていない。

だからといって新入生を諦める私ではない。

部の存続のために、そして愛おしい後輩を捕まえて愛でるために。

もちろん本音は前者で、建前が後者。

ほんとだよ?

 

「でもでも、後輩って欲しくない?ホコリっぽいけど、人が増えれば掃除もできるし、それにこんなホコリっぽい所に似合うくらいの生徒のひとりやふたりいるって、多分…」

 

自信はない。

 

「私は言ったからな。新入部員が「不衛生だ!」って昼ノ部連れてこられても何もしないからな」

 

ミサは自前の枕に顔をうずくめて静止した。

 

そこまで言われると自信なくすよ……。

でも、可愛い新入部員を、愛おしい後輩を愛でるために!

ではなく、部の存続のために!

1人で頑張りまーす。

 

 

* * * * *

 

 

時は春。

桜が散り始めてもう3割が散ったかのような時期。

放課後は新入生へ向けた部活動勧誘イベが発生中。

在校生は授業だが、新入生は入学式が終わった後。時刻は昼過ぎ。

本校正門から校舎への通りには様々な部活や委員会が勧誘する祭りのような状況だった。

 

「バレー部でーす!よろしくお願いしまーす!」

「健康保健会に入りませんかー!」

「うさぎ同好会に来てくださーい!」

「バスで一緒に峠を攻めませんかー!」

「デモ参加者募集中でーす!」

「天体観測好きな人しゅーごーう!」

 

この通り、いろんな活動の勧誘が蔓延る。

屋台風に各部活や委員会、部活になれていない集団などがブースを設営し、新入生を勧誘している。

どこもかしこも複数名で勧誘していて、人数の多い委員会などは隣り合う2ブースを使い10人ほど勧誘する人がいた。

良いなぁ、としみじみ感じながら自分を見る。

大きく『倉庫部新入部員募集!』と書かれた画用紙を持った3年生が1人。

ブースといえるような物ではないが、倉庫に眠ってた学習用机を3つ並べた簡素な作りの設営。

他の集団のように屋台風の屋根などなく、青空が望む開けた造り。

倉庫に一応屋根らしき物はあったけれど、1人じゃ到底設営できない。

天気も良いので、このままでいいやと考えた結論である。

こんな雑な造りだからか、全然人がやって来ない。

この通りは溢れんばかりの生徒が歩き通り過ぎている。

もちろん、胸元に紙でできた花飾りをつけている新入生も多く目に付く。

半数以上が新入生なんじゃないのか?

そう思う程にはたくさんの新入生がいる。

 

「けど、そう簡単には来ないよなぁ」

 

忍耐力の見せ所か、と学習用椅子に座り、少し声を出して呼び込んでみる。

しかし、ちゃっちい造りのブースに1人の生徒。

他のブースに気後れしてそんなに声が出ない。

 

「倉庫部でーす、どうですかー」

 

けれども効果があるようで、2名の新入生が近寄ってくる。

 

「倉庫部って何する部活なんですか?」

 

黒髪ロングの小柄な新入生が訊いてきた。

 

「学園の倉庫の備品管理する部活だよ」

 

事実である。

学園の倉庫は各所にあって、それらの備品を維持管理するのが倉庫部の本分である。

先ほどの副部長を名乗る女子生徒は倉庫でダラダラと怠けてたけど。

 

「へえ~、部員って何人くらいいるんですか?」

 

その隣の緑髪のボサボサで目元が見えない新入生が訊いてきた。

 

「残念なことにあまり知られていなくって、少ないけど───」

 

ここで一瞬思考が止まる。

ここで律儀に「3人ダヨー」とか言ったら新入生に「えぇ、3人?」「うちら入っても5人しかいないの?」とか「ほぼ廃部じゃん」とか言われて終わりなので。

 

「───30人で活動してるんだよね」

 

さらっと大嘘をついしまった!

その幅、なんと10倍。

普段伸びてない背筋が引き締まる。

もう後戻りはできない。この新入生に入部届出してもらって、解約不可とか詐欺ろうかな。

もしくは、新入生をあと27人くらい見つけてくるとか。

 

「へぇ~結構少ないんですね~」

 

緑の新入生が言った。

それもそのはず、大量の生徒を抱えるこの学園、在校生の総数はあまりわかっていないが、数十万単位でいるらしい。

なので部活でも数百人とかザラにある。

委員会になるともっと多くて、昼ノ部推進委員会も万の単位に及ぶとか。

そんな学園の中で部員数30人は、なんかの集まり?と言われる位には少なくて、部員数3人とかは、もはや存在しないと同義。

冷や汗がにじむ。

 

「そう、少ないけど結構頑張ってるんだ」

 

絶対引きつっているであろう顔を最大限笑顔にしている私にエールがほしい。

 

「そうなんですね〜、ありがとうございました〜」

 

そう言って新入生2人は笑みを浮かべながら倉庫部のブースを離れていった。

え…

なんの前触れもなく人混みの中に消えていったので引き止める事も出来ず。

唐突であったから心の余裕がない。

おそらくどこかのタイミングで倉庫部は棄却されたのだろう。

放心しながらゆっくりと緊張している背筋を曲げ、背も、もたれた。

 

「はぁ、ふりだしに戻る。か」

 

それからというもの。

 

若干のクールタイムを経て再び「倉庫部でーす」などとブースから勧誘していても一向に近寄る新入生は現れず、時間だけが過ぎていく。

昼すぎであった時刻も、今やおやつが欲しくなる時間帯。

通りの生徒数も徐々に減り、ブースを片付け始める部活も出てくる。

 

「はぁ、終わりかな」

 

新入生を勧誘する熱さえも冷めてきて、今ここにいることが恥すらある。

途中からもはや耐久戦だった。座っているだけなのに苦しかったし。

早く帰ろう、と片付けを始めた時。

 

「すいません」

 

と声が聴こえた。

多分空耳だろうと思ったが、念の為声のする方へ目線を向ける。

そこには栗色の髪が陽光に照らされて綺麗に輝く、少し小柄の新入生がいた。

ブレザーとネクタイの白がホントに真っ白で汚れ一つなく、少しブカブカの制服が新入生だと証明してくれている。

 

「すいません、倉庫部についてお話聞いても、いいでしょうか…?」

 

まさかのうちに用があるらしい。

熱も冷め、帰る気満々だったので嬉しさ半分面倒くささ半分、いや、流石に面倒くささは2割くらい。嬉しさが8割。

 

「良いよ、アトミック学園倉庫部部長がなんでも答えてあげようじゃないか。まっ、とりあえず座りなよ」

 

座りなよ、とは言ったものの、座る椅子は既に片付けを始めていてそこにはなく、今、私の腕の中にある。

なので、持っていた椅子を新入生のそばへ持って行く。

流石に空気椅子をしなさい、なんて言わないし、机に座るなんて野蛮な副部長しかしないもんね。

すると、近づいて違和感に気づいた。

新入生が細かく震えている。

寒気がして身を震わせるでも、恐怖で怯えるでもなく、なんだろうか、脚に力が入っていないかのような、バランスを保つ為の震え。

椅子を置くと、新入生は「親切にありがとうございます」と言って、まるで椅子に座るのが不慣れかのように座面に手をつき、ゆっくり体勢を変えながら、最後は力を切り、重力に引かれる勢いで座った。

座るのに、新入生の身体からカチャカチャと音がする。

なんだろう。

 

「お客様に座ってと言ったのに椅子すら出さないわけには行かないからね。教室の椅子だけど、ゆっくりしてってね」

 

そう言って私も自分用の椅子を荷物運びに使う一輪車から取り出した。

新入生と対面して机を挟むのも良かったけど、新入生を逃さないという思いと、さっきのぎこちない行動が気になるので新入生の斜め前辺りに陣取り座る。

もう、楽な姿勢でいいや。

前に来た2人の新入生のときは姿勢も整えていたけど、今回は背もたれを前にし、大股で挟むように座った。

この体勢が楽なのである。

 

「さて、倉庫部に興味あるんだよね、早速なんだけど、我が部への志望動機についてー、なーんてね。まずは名前から聞いていこうかな」

 

「……。」

 

新入生は口を開こうとして閉じ、何も言わない。

新入生と話すなんていう高度なイベントは今までほとんどなかったから、こっちが距離感ミスってる。

相手の緊張を解こうとしたけど、逆効果なようで、新入生は質問にどう答えようか困惑してる模様。

ゴメンナサイ。

 

「あー、ごめんごめん、友達と話す感じで良いよ、名前とクラスを教えてくれる?」

 

恥ずかしくて火照ってきた。

3年でしょう?もっと頼れる先輩感出してよ!って頭の中の私が怒鳴り散らかしてる。

仕方ないじゃん、距離感わかんないんだから。

 

「…はい、普通科1年生の紫石見(しいしみ)チサクと言います」

 

新入生のチサクは多少なりともかしこまった状態で返事をした。

流石にすぐすぐは慣れないか。

 

「紫石見チサクさんっていうんだね、綺麗な名前、とても素敵だよ。じゃあ少しの間かもしれないけど、よろしくね」

 

対人技能がない私はとりあえず相手を褒めることから始まる。

そしてあることに気づいた。

そうだった、名前を名乗ってなかった。私は屋束(やたば)チタ。倉庫部の部長だよ。

 

「そうだった、名前を名乗ってなかった。私は屋束(やたば)チタ。倉庫部の部長だよ」

 

「や、屋束部長、よろしくお願いします」

 

「そーんなにかしこまらないでね」

 

部長って言ったのが不味かったか、チサクさんの姿勢がさらに伸びた気がする。

 

「さて、倉庫部について何が知りたい?屋束部長が何でも教えちゃうよー」

 

「はっ、はい!えっと、倉庫部って何をする部活、なんです、か?」

 

ぎこちない言葉、緊張がわかる。

こっちも緊張してくる。

 

「そ、そうだねー、倉庫部は学園の倉庫の備品を管理するっていうのが表向きの活動内容かな」

 

「表向き、ですか?」

 

いい所に目をつけるねチサクさん。

前に来た新入生には言わなかったけど、もう良いよね。

 

「そう、表向きー。実際は倉庫でダラダラしてるだけだよ」

 

そうです。アトミック学園倉庫部は特に何もしない部活。

私と後輩2人でダラダラと放課後を過ごすだけの何もしない部活。たまにはホントに倉庫の備品管理もするけどね。

発端は私が1年生の頃、昼ノ部推進委員会から倉庫の鍵を持ち出した事。

今の今まで不正利用してる状況。

昼ノ部推進委員会に何も言われてないのは昼ノ部の会長と私が友達だから。

これ以上の理由はない。

 

ってことをチサクさんに伝えたらなんて思うだろう。

少し失望させるかな。

なーんて考えながら、言葉を紡ぐ。

 

「部員は私含めて3人しかいないし」

 

ほら、顔が変わったよ。

 

「昼ノ部から倉庫の鍵をパクって不正占拠してる感じだし」

 

コレはもう王手でしょう。

 

「いつ消えてもおかしくない部活だからさ」

 

これから楽しい学園生活をしたいなら。

 

『やめたほうが良いよ』

 

あれ、副長と同じ事いってる。

やっぱり心の中ではそう思ってる。

だって薄汚いし、暗いし、ジメジメしてるし、風邪っぽい。

こんな純白でキラキラの新入生を連れてくるのは私の良心が許さないらしい。

多少は新入生と楽しく部活したいという欲望もあるし、3年として、部長としてみんなをまとめたい高次の欲求もある。

けど、今後長くもない倉庫部だし、私がいなくなって、2年生ズもいなくなったら。

この子だけ倉庫に残すの?

そんなことしてはいけない。

でましたね、結論。

ではでは、帰っていただきましょう。

 

しかし。

 

「あのっ、私も倉庫部に入っていいですか?」

 

え?

 

「え?」

 

ちなみにいうと、チサクさんの答えは早かった。

私が言った「いつ消えてもおかしくない部活だからさ」の「さ」の次の瞬間!みたいな。

「やめたほうが良いよ」っては言えてませんでした。

でも、驚いたのはホントで声が出てしまった。

 

「えーっと、なんで?」

 

チサクさんの姿勢は変わっていない。

けれどその姿からは緊張ではなく自信が感じられる。

 

「私の、理想の部活なんです」

 




音読お疲れ様でした。
また近いうちに出ると思われ。
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