絶対勝利の脚(一回限り)を貰ったモブ子ちゃんの苦悩   作:散髪どっこいしょ野郎

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ああ神様、一発ぶん殴らせてください

「ハァ……ハァ……」

 

 

 茜色の空の下、コース脇にて、息を整える。今はそれだけに集中する。

 

 我ながらよくやるなーと思う。確かにここ、中央トレセン学園には努力家が山ほどいる。だからといって私が頑張る理由にはならない。

 

 それでも足掻いてしまうのは、ウマ娘の(さが)なのだろうか。

 

 

「お疲れ、ソコラ。今日はもう終わりにしようか」

 

「んー……もうちょっと走っていい?」

 

「居残り特訓は三日目。頑張り屋なのは君のいいところだけど、引き際を見計らわないと」

 

「……りょーかい。じゃあシャワー浴びてくるね」

 

 

 ソコラ。私の愛称であり自分でも結構気に入っているのだが、問題なのはフルネームだ。

 

 『ソコラヘンノモブ』。名付け親ぶん殴ろうかと何度も迷ったくらいに、変わった名前だ。

 

 ……加えて、今の私は中央に在籍しているとは言ってもイマイチパッとしない成績だからより悔しかった。名は体を表す、なんて言うけど否定しきれない分余計たちが悪い。

 

 

「……空、綺麗だなぁ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ねえねえソコラ、ボクと併走しない?」

 

「ルドルフによじ登りながら言われてもな」

 

 

 日を跨ぎ昼休みになり、私を含めた生徒たちはカフェテリアに集まっていた。思い思いの食事を摂りながら私とシンボリルドルフ、そしてトウカイテイオーが向き合っている。

 

 

「え~?嫉妬してるの~?」

 

「誰がするか」

 

 

 嘘です。バリバリ嫉妬してます。強いあんたらが羨ましくて仕方ないです。

 

 

「いっつも思うけどなんでみんな私と併走したがるの?私この学園内だと下の方なのに」

 

「キミと走ると負けないぞー!って気持ちになれるからね」

 

 

 おいこらテイオー、それってつまり私が体のいい負け役みたいって言ってるようなものだぞ。

 

 

「……君と走ると、昔を思い出す。思いのまま走っていた、在りし日の自分を。そういった意味でも、君は唯一無二だよ。ソコラ」

 

 

 ルドルフもなんか賛同してるっぽい雰囲気。あーまったくエリート様はいいなー。あ゛ー!!

 

 

「残念ね。今日は先約が入っているわよ」

 

「ラモーヌか。なら邪魔はできないな」

 

「ちぇー」

 

 

 ひょっこり顔を出すウマ娘──今日はラモーヌ、メジロラモーヌと併走する約束をしていた。断りきれない私も甘ちゃんだよなぁ……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 私はソコラヘンノモブ、高等部三年生。そろそろ将来のことを考えなくちゃいけないのに、未だレースに執着している。

 

 学力は中の下くらい。このままじゃヤバいなーとは思いつつも走ることをやめられなかった。

 

 憧れていた。世界に名を刻む、時代を覇するウマ娘になりたかった。

 

 けど、憧れだけで戦えるほどレースの世界は甘くなかった。オープン入りはできたけど戦績はボロボロ。ちなみにメイクデビュー戦はスマートファルコンに叩きのめされて惨敗。ここまで這い上がるまでかなりの時間を要した。

 

 ちなみに私はダート専ってわけじゃない。普通に芝もいけるし距離の壁もそこまでない。故に選択肢は多かったけどこれがまーヤバくて。

 

 ──私が出るレース悉くにさあ!!超弩級のウマ娘が参戦してくるんだけど!!

 

 マジでどうなってるのこの世代。OPレースにGⅠ級ウマ娘が出張ってくるとか悪夢でしかないんだけど。

 

 

「それじゃ、始めましょうか」

 

「……やるかぁ」

 

 

 いけないいけない。まずは目の前のレースに集中だ。

 

 放課後の空き時間、空きコースにて私とメジロラモーヌは相対している。届け出は出してあるため心置きなく勝負に没頭できる。

 

 

「ルールをおさらいしましょうか。芝800m右回り、先に三勝した方が勝ち……で、いいわね?」

 

「委細承知、万事OKだよ『魔性の青鹿毛』サマ。今日こそその鼻っ面へし折ってやる」

 

「よく吠えるわね。……それでこそ、貴方よ」

 

 

 お上品に微笑むメジロラモーヌの笑みが更に濃くなる。……あーやば、本気にさせちまった感じか……?

 

 ……やってやる。メジロの至宝がなんだ。私の雑草魂を食らえ!

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「フー……いいわ。貴方と走ると調子がついてくる」

 

「ぜー……はー……。私は前座扱いですかコノヤロー」

 

 

 えー結果ですが、ボロ負け!最後まで影すら踏めませんでしたとさ。

 

 ……とまあこのように、私は慣らしの一走としてあてがわれることが多い。この前もジェンティルドンナに挑むためとヴィルシーナに併走を願われた。

 

 トレーナー勢からも一定の需要がある。担当が次のレースでフルスペックを発揮できるように、と併走依頼が届いたことも一度や二度ではない。……なんかだんだん腹立ってきたな。

 

 腹立ちながらも認めざるを得ない。私は、みんなにとって『気持ちよく勝てる相手』なのだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ~……」

 

 

 でっかいため息をつきながら帰路を辿る。敗北に次ぐ敗北で私のプライドはズタズタだった。

 

 

「……空、綺麗だなぁ」

 

 

 どんな日もどんな時も空は変わらずそこに在る。私の悩みを受け止めてくれる、唯一の世界。あー……一応トレーナーもいたか。

 

 トレーナーには()()()()もらっている。それが仕事だと言ってしまえばそれまでだが、私の勝利を諦めないでくれている。

 

 結果で返したい。だからトレーニングも必死にやってきたのに、成績はボロボロ。

 

 

『ソコラヘンノモブ……』

 

「?誰か呼んだ?」

 

 

 突然、私を呼ぶ声が聞こえた。周囲を見渡してみてもそれらしき影は見えない。

 

 

『こちらです……ソコラヘンノモブ……』

 

「な、なんなの?なんで私を……?」

 

 

 誘われるまま歩いていった先は──三女神像の前だった。

 

 

「……誰なの?まさかドッキリとか?」

 

 

 たちの悪いイタズラに巻き込まれているの?──いや、後から分かったことだけど、その方がまだマシだった。

 

 

「──っ、あ」

 

 

 意識が暗転する。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「え?」

 

 

 辺り一面″黒″だった。その中で唯一存在していたのが目の前のウマ娘と、私。

 

 

「あー……あなたは誰ですか?てかここどこ?」

 

『私は三女神。貴方たちを見守る者です』

 

 

 どこか(グランドマスターズ)で見た三女神とは違う、仰々しい姿のウマ娘。

 

 彼女は心底哀れむように、私を見つめていた。

 

 

『ああ、モブ。哀れなモブよ。貴方に絶対勝利の脚を授けましょう』

 

「ワレ何様のつもりじゃコラ」

 

 

 思わずタマモクロス(アウトレ○ジ)仕込みの関西弁が迸る。何が哀れなモブだ。ふざけやがって。

 

 それになんだと?絶対勝利の脚?私が勝つか勝たないかはこっちが決めるんじゃボケ!

 

 そう言ってやりたかったが声が出ない。体が動かせない。

 

 

『この力を使えるのは一回きり。故に使い所を見極める必要がありますが──貴方なら大丈夫。私はいつでも見守っています』

 

(い、嫌……!)

 

 

 なんとなく、本当になんとなくだけど、ここが分水嶺な気がした。目の前のウマ娘が近づくほどに怖気が立つ。

 

 彼女が近づく。

 

 

(やめろ、やめろ──!)

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「先輩……ソコラ先輩!」

 

「……あ、エア、グルーヴ……?」

 

「大丈夫ですか?うなされていましたが……」

 

 

 ……噴水の音、エアグルーヴの声。ここは現実。しかしアタマは覚えていた。絶対勝利の脚とやら、そしてそれを与えてきた三女神とやらを。

 

 

「ごめんごめん、ついうたた寝しちゃった」

 

「うたた寝って……先輩は地面に倒れていたのですよ?」

 

「大丈夫。……本当に、大丈夫だから」

 

 

 心配する後輩の膝元から起き上がる。気遣ってくれるのはありがたいが今の私はとても平静じゃなかった。

 

 

「……念のため診察に向かいましょう。私が同伴しますから」

 

「あー……うん。じゃ、お願いしようかな」

 

 

 やだなー。病院は嫌いなのに。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 診断結果はいたって健康。病気の影はこれっぽっちも見えなかった。が、やっかい事が一つ増えた。

 

 

《絶対勝利の脚を使いますか?》

 

《はい》 《いいえ》

 

「……なんなんだよ、これ」

 

 

 目の前に現れたのは、選択肢。そして停止する世界。

 

 この力を使えるのは一回きり。奴はそう言っていた。だからって一々出てくんなよと思う。

 

 性格の悪いことにこの選択肢は私が走ろうとする度に現れる。そしてどちらかを選ぶまで時間は止まったままだ。

 

 ……こんなものに頼る気は無い。自分が培ってきた脚で走ってこその競走ウマ娘。与えられた外法に縋るなんて愚の骨頂。適当な練習時に使ってしまえば、悩まされることはなくなる。

 

 …………だから。使ってしまえば、いいんだ。分かってるのに、

 

 

「……いいえ」

 

 

 ……手放せない。勝ちたい。でも外的要因を使って得た勝ちなんて、卑劣極まれる。卑怯な手を使って奪い取った勝利に価値は無い。

 

 ──でも勝てる。使えば、勝てる。私が欲してやまなかった勝利が、目の前にぶら下がっている。

 

 

「……クソッ!」

 

 

 苛立ちを地面に叩きつけるようにして走る。今日も負け尽くしだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ……」

 

 

 この学園に来てからというものため息をつく頻度が増えた気がする。カフェテリアの美味しい食事を前にしても気分は憂鬱だった。

 

 

「あっ、ソコラちゃん!ごはんいっしょに食べよー!」

 

「ん?ああ……ウララちゃんか。どうぞ」

 

 

 ハルウララ。底抜けに明るい、ド根性ウマ娘。

 

 

「はぁ……」

 

「どうしたの?ため息ついて」

 

 

 こういうのは優劣をつけるものではないが、どちらが生き物として優れているか敢えて決めるとするならばハルウララの方が上だ。どれだけ負けてもへこたれない、どれだけ報われなくても気丈に前を向き続ける。その姿に魅せられたファンは山ほどいる。……私とは、違って。

 

 私が今もレースに執着してるのは、彼女の存在に勇気づけられているからという面もある。

 

 

「……ねえ、ウララちゃん。どうしたら君みたいになれるかな」

 

「わたしみたいに?どういうこと?」

 

「この学園に来てから、走るのが楽しくないんだ。いつも誰かの後ろで終わって、気づけば嫉妬してて。そんな自分が惨めで」

 

「?よくわかんないけど……じゃあ今日のトレーニングでいっしょに走ろ!トレーナーに言ってみるから!」

 

「……君は優しいね」

 

 

 微妙に話が通じてない気がするが、気を遣われたのは確かだ。

 

 私はハルウララに勝てる。ただそれだけだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁっ!」

 

「ひぃ……ひぃ……。速いですねー、ソコラ先輩」

 

 

 日と場所を改め、真っ昼間のコース。今日はヒシミラクルと走っていた。

 

 一応私にもオープン入りできるぐらいの実力はある。最底辺でないだけに、余計苦しかった。

 

 

「ふー……。ありがとミラ子ちゃん」

 

「いえいえ~」

 

 

 これも勘だが、ヒシミラクルは恐らく私より強い。そう思わせるだけの素質がある。今でこそゆるふわな雰囲気を纏っているが、たまに瞠目させるほどの脚を放つ瞬間がある。

 

 

「ミラ子ちゃんって普段の勉強どうしてる?私成績がちょっと危なくて……」

 

「高等部から急に勉強難しくなりますもんね~。わたしの場合はトレーナーさんと要相談です。たまに教えてもらうこともありますよ?」

 

「トレーナーと、かぁ……」

 

 

 私のトレーナーはいつも忙しそうにしている。新人なだけあって熱意は感じられるが目の前の課題に四苦八苦しているようだ。

 

 きっと私が言えば手伝ってくれるだろう。だけど、ただでさえ日頃世話になっているのにこれ以上負担をかけたくなかった。

 

 レースはダメ、勉強もダメ、大した特技もない。私に存在価値はあるのか?……っとと、メンタルがちょっとおかしくなってるな。

 

 こんな時は誰かに縋りたい……とは思えど、私に親友と呼べるほど仲の良い友達はいない。惨めだなぁ……本当に惨めだよ。

 

 

「……空、綺麗だなぁ」

 

「あ、出た。ソコラ先輩の空発言」

 

 

 ……え、何?有名なの?

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