絶対勝利の脚(一回限り)を貰ったモブ子ちゃんの苦悩   作:散髪どっこいしょ野郎

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ああ神様、私は──

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

 今ではもうすっかり習慣づいてしまったのか、夜明け前の河川敷を軽くジョギングするのがルーティンとなっていた。

 

 最近は外気温も暑くなり、寝苦しい夜が続く。

 

 

「ッ……」

 

 

 汗をぬぐい駆け出す。太陽がその姿を見せても、私の心は晴れなかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「一……二……!あ、ところでっ、だけどっ、トレー、ナー……!」

 

「なにかな」

 

「五……六……!大阪、杯のっ、反省会は、しないのっ?」

 

「……それについてなんだけど、どうする?今の君にとってあまりいい話じゃないから、聞かずにいるという手段もあるけど」

 

 

 筋トレをしながらする会話はなんだか不思議だ。……いい話じゃない。それは大体予想がつく。

 

 

「九……十!ハァ……ハァ……聞かせて」

 

「……分かった。この前の大阪杯だけど、反省点は無いよ」

 

「…………やっぱり?」

 

「自分で予想がついてたみたいだね。うん。あれがソコラのベストパフォーマンスだ。あれ以上のスペックは、望めない」

 

 

 それはウマ娘にとって死刑宣告にも等しい。限界を知ってしまう。それでも気丈に前を向き続けられるのはほんの一握りだ。

 

 トレーナーにとってもいい話ではない。試しに顔を上げて見てみると苦虫をかみつぶしていた。

 

 反省点は無いということは、改善できる部分がないという証明。これ以上の地位を望むなら、あの忌々しい力を使うしかない。

 

 ソコラヘンノモブというウマ娘は、そこまでなのだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁ……」

 

 

 ため息混じりに廊下を歩く。最近、力を使うことに肯定的な自分が増えてしまっているのを感じる。

 

 妹からは何も言われなくなった。入着してそれなりの賞金を稼げるようになったからだ。

 

 だけど、認めたくなかった。小倉大賞典ではお飾りの一着。大阪杯では決定的な力の差を見せつけられ三着。

 

 

「あらあら、どうしましたか~?ソコラちゃん」

 

「……クリーク」

 

 

 ある意味では最善、ある意味では最悪な相手が目の前に現れた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いいこいいこ~♪」

 

「……ねえ、クリーク。私頑張ってるよね」

 

「もちろん!ソコラちゃんはいつも真面目に努力してますよ~」

 

 

 膝枕をしてもらいながら撫でられる。うぁ~、ヤバいなこれ。体が溶けそうだ……。

 

 ──コイツも、私より速い。

 

 

「ッ!」

 

「?どうかしましたか?」

 

 

 焼き爛れるような嫉妬心が意識を揺り起こす。

 

 スーパークリークの膝元から跳ね起き、自分の胸を抑える。

 

 落ち着け……今はまだ敵じゃない。コイツは私を労ってくれてるだけだ。勝手に劣等感抱いて腐ってんじゃねえ。

 

 

「……ごめん、クリーク。私行かなきゃ」

 

「またいつでも頼ってくれていいですよ~」

 

「フ。ありがと。それじゃ」

 

 

 空き教室を出るとちょうどトレーニングの時間十分前になっているのが確認できた。

 

 休憩はした。まだ私は走れる。今はそれだけでいい。

 

 

「ソコラちゃん」

 

「ん?なんか忘れ物でもあった?」

 

 

 立ち去ろうとするとやけに深刻そうな顔をしたスーパークリークに呼び止められた。ついさっきまであらあらウフフみたいな表情だったのに。

 

 

「……私以外でもいいです。本当にダメってなっちゃった時は、誰かを頼ってくださいね?」

 

「……うん」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 根本的な原因は解決できないまま次のレースを迎えた。

 

 東京レース場。距離は1600m。安田記念だ。

 

 今日もトレーナーは薄く微笑みながら私を見送ってくれた。もう言葉ですら、手のつけようがないのだろう。

 

 ……勝ちたい。私は、勝ちたいんだ。

 

 なのに今日の有力候補は──

 

 

「ハウディ、ソコラさん!今日はよろしくお願いシマース!」

 

「全力で行きますよ、ソコラ先輩!」

 

「……フ」

 

 

 タイキシャトルとグランアレグリア。

 

 ……これ無理ゲーでは?

 

 ……何を考えてるんだ、私。こんなところで諦めて。またあの弱かった自分に戻ってしまうだろう。

 

 ──お前は元から弱いだろう?

 

 

「……黙れ……!」

 

『各ウマ娘、揃ってゲート入り完了しました』

 

 

 来る。来てしまう。私を今日まで散々悩ました選択肢が。

 

 

《絶対勝利の脚を使いますか?》

 

《はい》 《いいえ》

 

「……ッ、クソ……!」

 

 

 私が答えるまで世界は停止している。首を縦に振ってしまえば望んでいた勝利が貰える。

 

 

「……分かってんだよ……!」

 

 

 卑怯な手を使って与えられた勝ちに意味は無い。そんなことぐらい私が一番分かってる!分かってんだよ……!

 

 

「……ちくしょう……ちくしょう!なんなんだよお前は!どれだけ私を嘲笑えば気が済むんだ!」

 

 

 あの三女神はきっかけを与えただけだ。使ってしまえば勝てる──そんな甘露を目の前にぶら下げているのは私自身。

 

 ……私は、

 

 

「……い、いいっ!いいえだよっ!クソ野郎!」

 

『スタートしました!』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 さっきまで脳内は煮えたぎっていたのにいざレースが始まると思考は冷静さを取り戻していた。

 

 ……せめて、目の前の勝負には真剣に取り組む。力を使うか使わないかはその後決める。

 

 私は一枠一番。最内からのレースとなった。……まあ、このコースは内でも外でもそこまで差は発生しないが。

 

 緩やかに坂を下っていく。ポジションはいつもの三番手。これぐらいが一番落ち着く。

 

 

「ハッ、ハッ……スゥ……」

 

 

 脳に酸素を叩き込む。俯瞰の時間だ。

 

 タイキシャトルは私のすぐ後ろ、グランアレグリアは七番手に位置している。先行が増えないのはありがたい。

 

 このコースはマイルながら中距離並みのスタミナを求められる。持久戦なら、私に分がある筈だ。

 

 体力だけは私の方が上回る。ならば、ロングスパートを更に早い場所から発動させるか?いや、流石にコーナーへ突入してもいないのに全力を出しては潰れるだけだ。

 

 坂を上り、下り坂から第三コーナーへ突入。行くなら今か?

 

 俯瞰で仕掛け所を見極めるんだ。今、タイキシャトルとグランアレグリアは──

 

 

「──BANG」

 

「はあっ──!」

 

「……え?」

 

 

 こ、ここからスパート?まさか、コイツら──

 

 ──私を対等に見ている?

 

 記憶を掘り起こして悟った。そういえばこの二人、最近プールに顔を出していた。あれは私の対策のため……?

 

 ……いや、まだだ。無理をしてるのは二人も同じ。私の領域で、差し返す!

 

 

「アアアアァァァッッ!!」

 

 

 来た、領域!私の打ち出せる最高速!だが──

 

 

「く、っそ、ちく、しょう……!」

 

 

 差が縮まらない。二人だけが今日の主役だった。

 

 対策される。それだけで機能不全に陥る程に私の計画性は危うかった。そうだった、ゴールドシップ戦でも思い知ったけど、ロングスパートは私だけの武器ではない。

 

 そして思い知った。打ちのめされたと言ってもいい。

 

 ああ、私は、これにはなれない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ソコラさん?」

 

「……ソコラ先輩?」

 

「ハーッ、ハーッ、ぜえっ……お、おめでと──って、どうしたの二人とも?そんな顔して」

 

「……気づいて、ないんですか?」

 

「え?……あ」

 

 

 そこまで言われてようやく頬を滑り落ちる涙に気がついた。私は泣いていた。勝負事で涙を出したら、もう終わりだ。

 

 ……終わった。確かにGⅠで三着を取れるようになったのは凄いことだ。賞金だって貰える。だけど、私の欲しかったものは……

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「トレーナー……」

 

「……しばらく、レースを休む?このトゥインクル・シリーズはあくまで始まりの三年間だ。そこに全てを賭けなくても──」

 

「ドリームトロフィーリーグに行っても同じだよ」

 

 

 この世代はおかしい。時代を覇するウマ娘が多すぎる。その中でも戦うことを決めたのは私だ。

 

 ……もう使ってしまおうか?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 どうやって帰ってきたか覚えてない。幽鬼のように歩き、自室に戻った。それでも意識は鋭く尖っていて、私は門限破りを決行した。

 

 

「……空、綺麗だなぁ」

 

 

 無意識に歩いていると小丘に辿り着いた。ベンチから見上げた夜空は不相応な程に美しかった。

 

 大阪杯、安田記念、どちらも求めてやまなかったGⅠレース。その両方で負けた。

 

 一度味わった敗北は、勝つことでしか返納できない。

 

 それでも私は、ああはなれない。

 

 だったらどうする?力を使うのか?

 

 ……使ってしまおうか。もう疲れた。

 

 期待に応えられない自分に嫌気が差していた。

 

 確かに卑怯な行為だ。それでも、刹那の享楽が欲しい。私は、勝ちたい。

 

 勝ちが欲しい。そのためなら、もうなんだって──

 

 

 ──僕は君を信じている。

 

 ──よかったよー!ソコラヘンノモブー!

 

 

「……なん、だよ。なんで、今になって……!」

 

 

 せめぎ合う心。使えばいい。使うわけにはいかない。

 

 どうする?私は、どうしたい?

 

 ……考える。考えて、答えを出す。

 

 GⅠで三着。私はかなり強くなっている。それは事実だ。しかしこれ以上の決定打は与えられない。()()()()()()()

 

 

『一つサービスしてやるよ、ソコラ。わたしがアンタに追いつけたのは、それ以外何も求めなかったからだ』

 

「……!」

 

 

 あの日。アルゴラシュメットは私に勝つ、ただそれだけのために全てを犠牲にした。

 

 ──彼女は自分の力で、お前を打ち破ってみせたぞ?

 

 何かを捨ててでも、選ぶ強さが欲しい。

 

 ──ならもう、分かってるんじゃないのか?

 

 

「……もしもし、トレーナー?次のレースなんだけど……」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 あの時。札幌日経オープンで掴みかけた領域。真っ向から勝てたあの時間。あれに近いレース条件は2500m──有記念。

 

 今が私のベスト、最盛期。これでダメだったら、もう諦める。レースそのものを諦める。

 

 人質にするんだ。レースの権利を。アルゴラシュメットがそうしたように、誰にも譲れない″芯″を作り上げるんだ。

 

 そのためにまず選択したのは──

 

 

「ねえライスちゃん。絶対に負けられないってなった時、どうする?」

 

 

 助力を求める。今の自分の最大限でできることを突き詰める。

 

 交友関係の広さは私の数少ない長所だ。その分浅いけど。

 

 

「……ライスは……」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「お、ソコラやん。どないした?そないな思い詰めた顔して」

 

「……タマモ」

 

 

 叫びたいこと(主に嫉妬心)があったので大樹のウロ前ベンチで佇んでいるとタマモクロスが現れた。彼女とも走ったことがある。同学年ということで交流もあった。

 

 

「出るんやってな。有記念。ウチもやるで」

 

「出走意欲を示してるだけだけどね」

 

「謙虚やなぁ。アンタなら人気投票で出られるで?」

 

 

 浮かない顔をしているとのことでお茶を奢ってもらった。お金を出そうとしたら『ええよええよ、大人しく奢られとき』と突っぱねられてしまった。良い奴だよな~タマモクロス。

 

 

「それで、どないするん?今のアンタで勝てる程ウチは甘くないで」

 

 

 その通りだ。タマモクロスの強さはこの学園においても最上級。並大抵の覚悟では立ち向かうことすらできない。だから、

 

 

「夏合宿が終わったら山篭もりしようと思うんだ」

 

「……なるほど、ええなそれ。応援するで。ま。負けたる気はないけどな」

 

 

 山篭もりについてはトレーナーと初めて言い合いになった。君の脚を有記念で潰させるわけにはいかないと。

 

 それでも私は選んだ。自分を捨ててでも、勝ちたいレースがあると。

 

 そこで折衷案として二ヶ月に一回は病院に行くことと、トレーナーを付き合わせることを条件にその許諾は下りた。私の都合で振り回すのは申し訳ないと思っていたが、一心同体という初心を掲げられて自分の過ちに気がついた。

 

 きっとアルゴラシュメットもそうだ。この世界は一人だけで輝くことはできない。だからトレーナーを、同じ地獄に心中させる。その心意気で挑むことにした。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 夏合宿はあっという間に終わった。祭りをやっていたようだが今の私はレース以外考えられない。

 

 

「ということで、改めてよろしくね、トレーナー」

 

「うん。勝とう。絶対に」

 

 

 本格的な山篭もりが始まった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ゼェ……ゼェ……」

 

「フォームが乱れてる!どれだけ疲れてても走り方は崩さない!」

 

「ハァ……ハァ……りょー、かい」

 

 

 食料や日用品の買い出しはトレーナーに任せている。お金を惜しまないで私に尽くしてくれているんだ。必ず勝つ。

 

 またある日は。

 

 

「ハァッ──!……タイムは?」

 

「自己ベストよりコンマ二秒遅い。もう一本行こう!」

 

 

 体力作りは大前提だが、スピードを速めることにも手をつけた。成長限界を突き破るためにただ走る毎日だった。

 

 外界から完全にシャットアウトされた生活。不安が逆巻く日もあるが、山小屋を使わせてもらっているためベッドや風呂を確保できたのはありがたい。

 

 無心で鍛えていると、嫉妬や劣等感といった穢れが洗い流されていくようだった。もちろんそれらの感情は昇華できる分必ずしも悪いとは言わないが、私にそんな力は無い。

 

 そんなこんなで時は過ぎ、約束の日まであと一ヶ月となったところで、その来訪者はやってきた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「や。来たよ」

 

「……え?」

 

 

 夕飯のカレーを食べていると彼女はふらりと現れた。

 

 

「ステゴ?なんで君がここに?」

 

「ソコラ。ちょっと話そう」

 

 

 ステイゴールド。普段は各地を旅するウマ娘が、何故か私の前にいる。ちなみにトレーナーはテントの中で眠っている。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「旅の終着点は決まったか?」

 

「うん。有記念を私の最後にする。ところで、なんで私の所に来たの?」

 

「今のソコラ、ちょっと危ういからな。オルから聞いた」

 

 

 正直に言うと困惑していた。確かに私は前のめりになりすぎている。だからといってステイゴールドが気にかける意味は無いと思っているからだ。

 

 それから何を言われるかと身構えていると、世間話から始まり学園の珍事や旅の途中で見た景色など、実に平穏な会話が繰り広げられていた。私はつい毒気を抜かれておしゃべりに没頭していて。

 

 

「あ、ゴルシからのLANEだ」

 

 

 スマホの写真を見せてもらっているとLANEの通知。私は薄く笑いながら、思いをそのまま口にした。

 

 

「君は愛されてるね、ステゴ」

 

「そうかな。あんたにも、周りに目を向けてみればちゃんと″見て″くれてる人がいるんじゃないか?気づいてるか、ソコラ。あんた学園内でかなり人気なんだぞ」

 

「体のいい負け役って意味でしょ。私自身なんて」

 

「……やっぱり勘違いしてたか。説教なんて柄でもないけど……いいか、ソコラが紡いできた糸は、トレセン学園の中で多岐に広がってる。もちろん、私にも繋がっている。気づいてないなら思い出せ。あんたを取り巻く糸は、本当にそれだけか?」

 

 

 そういえば、私は今まで自分のことに精一杯でありながら、自分を俯瞰したことがなかった。

 

 私を取り巻く環境、人々。改めて目を向ける。

 

 そういや私って、友達がいないとか自虐しておきながらそれを不要だと振り払おうとしていた。普通に痛いな。

 

 ……私は──

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 今日に至るまで『ド軽量』シリーズのシューズをいくつもダメにした。心火が荒ぶる限り走り通してきた。

 

 その全ての結晶が、今日のレースで証明される。

 

 有記念。年末の大一番だ。

 

 

「じゃ、行ってくるね」

 

「うん、いってらっしゃい」

 

 

 交わす言葉はそれだけで十分だった。私とトレーナーは今、一心同体だ。心を連れていく。

 

 今日のメンバーはありえないぐらいヤバい。なにせ、

 

 

ナリタブライアン

シンボリルドルフ

ミスターシービー

オグリキャップ

タマモクロス

トウカイテイオー

オルフェーヴル

テイエムオペラオー

キタサンブラック

ゼンノロブロイ

 

 

 等々……バカの取ってきたバイキングみたいな面子だ。つーか三冠ウマ娘が()()って、時空はどうなってんのさ。

 

 だけど、なんとなく分かる。

 

 今日のレースは誰が相手とかじゃなくて、自分自身との戦いになるということ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「スゥ……」

 

 

 地下バ場から出ると圧巻の光景だった。果てしなく続く青の中光る太陽。割れんばかりの大歓声。

 

 出走メンバーは誰も彼も目をギラつかせ、ゲートが開くのを今か今かと待っている。

 

 

「行くか」

 

 

 私が最後のゲート入り。待たせてスミマセンね。係員の人。

 

 

『スタートしました!』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 ……やっぱり凄い大歓声だなぁ。流石有記念。

 

 先行争いは無理矢理奪取した。体力を持っていかれるのではとの懸念があったが存外保つものだ。

 

 初めの第四コーナーを回り、直線に突っ込む。まずここで観客は沸く。

 

 主導権は握らせない。途中までキタサンブラックをマンマークする。

 

 この大舞台で逃げを打つには相当の覚悟がいる。──お手本にするにはちょうどいい。

 

 もし前の逃げが乱調したら?その時は共倒れだ。

 

 どうせ賭けに出るのは変わらない。何が起きるか分からないからレースってのは楽しいんだ。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

 第一コーナーを回る……が、この坂はあの山篭もりで経験した。上るフォームは……こう!

 

 ……よし。上出来だ。後は下るだけ。

 

 頼むぞ、キタサンブラック。あんたの力を信用してるよ。

 

 向正面に入り、後続がざわつく。……そろそろ勝負所だな。

 

 ずっとあんたらに憧れていた。最強の末脚、無尽蔵の豪脚、緻密な作戦。どれも私が欲してやまなかったものだ。

 

 あんたらは私より強い。私一人じゃ届かない。だから、トレーナーがいた。今日まで走ってくれたみんながいた。

 

 私は幸せ者だ。こんなに多くの俊英が、ライバルがいてくれたのだから。

 

 ──ずっと、みんなみたいになりたかった。でも、それは違う。

 

 ()()()()んじゃない。()()()んだ!

 

 

「があああああッッッ!!」

 

 

 早仕掛け。ロングスパートに全てを賭ける。

 

 スピードとパワーは頭打ち。今日この日のためにスタミナをとことんまで鍛え上げた。

 

 私にはみんなみたいに強烈な武器は無い。

 

 それでも勝ちたい。

 

 私にレースIQは無い。

 

 それでも勝ちたい。

 

 私は強くない。

 

 それでも勝ちたい。

 

 証明したい。『特別』じゃなくても、『優駿』じゃなくても、『素質』がなくても、『そこら辺のモブ』でも、勝てるって知らしめたい。

 

 抗え──抗え!

 

 敗北という、日常に抗え!

 

 勝ちたい、勝ちたい、勝ちたい……ッ!

 

 苦汁は飲み飽きた!届かない背中も見飽きた!

 

 私は──私という物語の主人公だ!

 

 

《絶対勝利の脚を使いますか?》

 

《はい》 《いいえ》

 

黙ってろダ女神ッ(いいえ)!!」

 

 

 領域を切る!やや早すぎるかもしれないがこうでもしないと勝てない!

 

 しかし……背後からのプレッシャーがヤバすぎる!息を、しろ、できない、いきが、できな

 

 

 ──もうダメだって思ったら、僕……いや、僕らの言葉を思い出せ。

 

「がんばれー!ソコラヘンノモブー!」

 

「ッ!?」

 

 

 声援。私には無関係だと思っていた、言葉。

 

 

「がんばれー!」「がんばってソコラヘンノモブ!」「ソコラーがんばれー!」

 

「がんばれ!」「がんばれー!」「がんばれー!」

 

 

 そうか……そうか。そうだった。私にも、応援してくれる人は、いるんだったな。

 

 選べ。走るか、死ぬか。この高鳴りを手放すくらいなら、潔く腹を切れ。

 

 答えは決まってる。

 

 走る。走るさ。だって私は、ウマ娘なんだから。

 

 ああ──なにこれ。私の領域も、二段式だったってことか。

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

 地が爆ぜる。どこにそんな力が残っていたかは知らないが、私は駆け抜けている。ゴールまでもう200mもない。

 

 俯瞰を使う。どこまでも広がる空から見えたのは、私が私を追い抜き去っていく絵。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はっ、…………はは、ハハハッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……同着」

 

 

 この場合ウイニングライブどうすんだろ。

 

 

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