絶対勝利の脚(一回限り)を貰ったモブ子ちゃんの苦悩   作:散髪どっこいしょ野郎

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今回の話だけ主人公以外のオリジナルウマ娘が出てきます


















ああ神様、兆しが見えます

「メリークリスマス」

 

「メリクリー」

 

「じゃ、今日はプールで」

 

「はいよー」

 

 

 トレーナーと迎えるクリスマスはこれで二度目。色気も何もあったもんじゃないがこれぐらいが私たちにはちょうどいい。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ぜーっ、ぜーっ、ぜーっ……」

 

「お疲れ。今日はここらで終わりにしようか」

 

「はぁ……うん。今日もありがと」

 

 

 クリスマス兼冬休みということでトレーニングしてる子は流石に少なかった。私は私で過密なスケジュールをこなしたこともあり、鍛えるのは午前中だけになっている。

 

 

「トレーナーはこの後どうするの?」

 

「僕はいつも通り仕事かな」

 

「……そうなんだ」

 

 

 せっかくのクリスマスということで、寮ではパーティーが開かれている。私もどうせ暇だし顔を出すかと思っているが、この人は私が休んでいる間もずっと働いているのか。

 

 

「トレーナーは……」

 

「ん?」

 

 

 休まないのか、と言いかけて口をつぐむ。この人にはこの人の事情がある。私の思いつきで振り回しては申し訳が立たない。

 

 

「……なんでもない。あんまり根を詰めすぎないようにね」

 

「はは、ありがとう、ソコラ」

 

 

 生まれてこの方誰かを恋愛的な意味で好きになったことはない。トレーナーには恩義を感じているが、胸の高鳴りが酷くなる感覚は未だ未知だ。

 

 周囲のウマ娘にはトレーナーに惚れる子も存在する。その大半が叶わない恋だが、その意識がより感情を増幅させるだとか。

 

 ちょっと前から、私はトレーナーに対して少し変わった感情を抱くようになった。しかしこれはどうも恋愛的なそれとは違う気がする。というか、言語化できる。

 

 似てるんだ。私の、死んだお兄ちゃんに。

 

 あの人は優しかった。歳はそれなりに離れていて、私が高等部に入る直前まで生きていた。

 

 では何故死んだのかと言うと、自殺だ。

 

 死ぬ前日、急に実家に顔を出して、私には電話をかけてきたお兄ちゃん。

 

 その声色からは何も窺い知ることができなかった。いつも通りの明るいトーンで、私は愚かにも何も心配いらないと思い込んでいた。

 

 自殺理由は遺書にしたためられていた。

 

 『疲れた』

 

 ただそれだけが書かれていた。

 

 

「……スゥ……」

 

 

 また雑念。思えば私がレースに集中しだしたのは、お兄ちゃんの分欠けた空白を忙殺して考えないようにするためだったのかもしれない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「やっほー、楽しんでる?ソコラ」

 

「君が顔出すなんて珍しいね、シービー」

 

 

 タニノギムレットお手製のモクテルを飲みながら黄昏れているとミスターシービーがやってきた。自由奔放な彼女ならクリスマス会には参加しないと思っていたのだが。

 

 

「散歩はしてきたし、せっかくのクリスマスだし、気分が良かったからね」

 

「ふーん」

 

 

 ちなみに私はこうやってシービーに話しかけられるまで窓際でぼーっとしていただけだ。惨め。

 

 

「ねえ、シービー」

 

「うん?」

 

「私って強くなったよね?」

 

 

 自認が弱者のまま変われていないように感じて仕方が無い。負け続きの人生だったのだから、自己肯定の術も私には得がたかった。

 

 

「ソコラは元々強いよ?」

 

「……君にそう言われてもなぁ」

 

 

 目の前にいるのは三冠ウマ娘。彼女から見て私の何が強いのか。なんにせよ皮肉にしか感じられない私はひねくれ者だ。

 

 

「キミはもう、素晴らしい武器を持ってる。自覚できてないだけでね」

 

「え?何それ」

 

「教えない。言っちゃうとキミのためにならないからね」

 

 

 そう言ってミスターシービーは人差し指を自らの口に当てる。そこら辺の一般人(モブ)がやったらキツいだけの仕草だが、彼女がやると──

 

 

「うおっ、顔がいい……」

 

「?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「やあソコラ。楽しんでくれているか?」

 

「あれ、ルドルフ?ツリーの仮装はどうしたの?」

 

 

 ミスターシービーが立ち去り何か食い物でも持ってくるか、と席を立ち上がろうとするとシンボリルドルフがやってきた。モクテルしか飲んでない私もしっかり視野に入っていたようで、いくつかの食物を皿に盛って来てくれた。

 

 

「私はお役御免だ。舞台は終わったからね」

 

「にしてもよくあんな格好引き受けたね」

 

「皆が喜んでくれるのならばこちらも粉骨砕身、ベストを尽くすさ」

 

「流石会長。……で?本題は?」

 

「ずっと聞きたかったんだ。……君は今、幸せか?」

 

 

 ……こりゃまた答えづらい話題だな。幸せ……幸せかぁ……。あ、ローストチキン美味っ。

 

 

「……んー。正直、今も思う時はあるよ。レースに重きを置かず、一般女学生らしい日常を過ごしてた方が、死に目に穏やかな気持ちで生涯を振り返られるんじゃないかって」

 

「……すまない。慶事(けいじ)の場に出す話題ではなかったな」

 

「まあ待ちなって、話は終わってない。……そうやって、後悔しかける時もあるけど、やっぱウマ娘は走ってこそだからね。トレーナーもいるし……ぼちぼち楽しんではいられてるよ」

 

「……そうか」

 

 

 それからは何故か立ち去ろうとしないルドルフの前で咀嚼しては対話、対話しては咀嚼と私にしては珍しく賑やかなクリスマスとなった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「「あけましておめでとう」」

 

 

 大晦日と元旦は実家に帰る子もいるが、私は相変わらず学園にいた。こんな時だからこそ自分を追い込むんだと、息を巻きながら。

 

 

「じゃあ今日はプールで」

 

「りょーかい」

 

 

 ……最近、というか以前からプールのトレーニングが多い。

 

 理由は分かっている。夏合宿の終わりに生じた疑問。それが答えだ。

 

 認めたくない。そんなハードル、踏み倒してしまいたいと思う。それでも現実は非情なまでに徹底的だ。

 

 速さ。ウマ娘の勝敗を分ける最重要項目。これが無ければ話にならない。

 

 それが、伸びない。タイムが一向に縮まらない。

 

 スピードはもう、成長限界なのだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あと十往復!」

 

「ぷはあっ、はぁっ、ぜえっ」

 

 

 気づかないフリをしてただけ。私の最高速は、これ以上伸びない。

 

 だからトレーナーはロングスパートという武器を授けたのだろう。凡骨の末脚で戦うにはこの世界は厳しすぎる。

 

 二段式スパートもそうだ。これは私が自力で編み出した強みだが、その背景にはこのスタミナトレーニングがある。

 

 だからこそ、諦観をコントロールする。私の速度はこれ以上伸びない。()()()()()()()()

 

 

「よし!終了!」

 

「ぶくぶくぶく……や、やっと終わった」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「今なら神社空いてるし、初詣にでも行く?」

 

「え?」

 

 

 正午過ぎ、食事が終わった後。

 

 仕事人間のトレーナーから初詣という言葉が飛び出すとは思わなかった。

 

 初詣かぁ~……。寒いのは苦手だけど、この人が行くならついてくかぁ……?

 

 

「僕はお参りする予定だけど」

 

「あ、じゃあ私も行くよ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 えーっと確か……二礼二拍手一礼だっけ?

 

 周囲の人を参考にお参りを済ませる。トレーナーは何を願っているのだろう。ちなみにだが私は神様は信じているが『お願い』をする気は無い。誰かに叶えてもらう夢なんて、つまらない。

 

 

「日差しが気持ちいー……」

 

「そうだね。晴れで良かった」

 

 

 ラインクラフトとの日向ぼっこ以前から、私は青空が好きだ。夏は太陽を呪いたくなるがそれでも晴れてる方が好ましい。

 

 そういえばこの人って、何が好きなんだろう。ビジネスパートナーみたいな形でいるのは気楽でいいけど、こうやって歩み寄ってくれた分お返しはできるようになりたい。

 

 

「トレーナー、なんか私にしてほしいことない?」

 

「どうしたの急に」

 

「いや、普段面倒見てもらってるからさ」

 

「……じゃあ、伝えるよ。次のレースは小倉大賞典。僕の願いは君がその舞台で勝つことだ」

 

「……私が、勝てると思う?」

 

 

 意図せず諦めるような言い方になってしまったが、勝算はあるのだろうか。

 

 

「君の限界は、まだ先にある。確かにタイムは縮まらなくなってきているけど、君ならその向こう側まで飛び立てる筈だ。大丈夫。ソコラならモノにできる」

 

「……フ」

 

 

 そこまで言われたら、諦めるわけにはいかないな。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ウソだろ……?」

 

 

 迎えた当日、小倉大賞典。私は生まれて初めての一番人気だった。

 

 更に今までとは違いゆっくりと体を作れたお陰でコンディションは抜群。

 

 更に更になんと──難敵候補が、一人もいない。

 

 注目すべきウマ娘はいない、コンディションは最高潮。こんな機会またとない。100%、出し切るんだ。

 

 ちなみに今日は雨が降っている。青空は、見えない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「じゃ、行ってくるね」

 

「うん。期待してるよ」

 

 

 今日は新しい武器も備えて来ている。試すにはちょうどいい機会だ。

 

 それにしても、一番人気かぁ。今まで誰かの後塵を拝するだけだったけど、こうも注目されるとドキドキする。

 

 緊張……とは違う、心地よい胸騒ぎ。とにかく走りたい。走って、私の力を示したい。

 

 

『各ウマ娘、ゲート入り完了しました』

 

 

 来い……来い……来い……

 

 

《絶対勝利の脚を使いますか?》

 

《はい》 《いいえ》

 

「お前は来るな」

 

『スタートしました!』

 

 

 よし、出遅れ無し。枠番にも恵まれている。唯一不安材料を挙げるとしたらこれが初の重バ場実戦というところぐらいだ。

 

 好位置(三番手)を奪取して第一コーナーを回りながら、私はとあるトレーニングを思い返していた。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 それはある日の練習時のこと。

 

 

「ねえソコラ。一つ聞いておきたいんだけど、走ってる最中他ウマ娘の位置関係はどう判断してる?」

 

「どうって……プレッシャーの強さで来たかなーとか判断する感じで」

 

「……よし、じゃあ、君に四つ目の武器を授けよう」

 

 

 トレーナーは珍しくドヤ顔でこう言った。

 

 

「俯瞰だ」

 

「フカン?」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「うあ゛ー、頭がごちゃごちゃする……。本当にこれで走るの?」

 

「負担はキツいけど、確かに力になれる。それは保証するよ」

 

 

 私が耳に取り付けたのはいつぞやのイヤホン。そこからは大音量でスクリーモバンドの曲が流れている。

 

 この状態で何をするのかと言うと、走る。それだけだ。……厳密に言うなら、背後から追われながら走る。

 

 その走りを録画し、走っている最中に捉えた背後の順位を当てていくというトレーニングだ。

 

 

「よーい、スタート!」

 

「うるっさ……!」

 

 

 走り出したのはいいものの背後のプレッシャーが爆音で曖昧になってしまう。

 

 あ゛ー!めっちゃストレスが溜まる!雑音でプレッシャー判断が疎かになる上になによりうるさい!

 

 

(……でも)

 

 

 でも、思考能力が培われていくのを感じる。煩音から逃れるために深く強い思考ができるようになっている。

 

 そんな奇天烈な練習が実を結ぶかどうかは、この小倉大賞典に掛かっている。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

 仕掛けるにはまだ早い。重バ場の感触にも慣れた。

 

 行ける。今日は、勝てる!

 

 色めき立つ周囲のウマ娘。間違いない。このレースの主導権は私が握っている!

 

 ロングスパートをかけるまでこの位置を保持する!そのために……!

 

 情報を処理しろ!あのやかましいランニングを思い出せ!処理処理処理処理処理──

 

 

「……!」

 

 

 見ずとも見える!全ウマ娘の位置が!

 

 ここで詰めてくる──から、少し伸びて、いなす。

 

 芝を巻き込んだ泥が跳ねる。体にぶつかるが不快感さえ今は遠い。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ」

 

 

 第三コーナーに入る。行くぞ!ここからだ!

 

 

「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」

 

 

 前衛のウマ娘を抜いていく。まず、

 

 

「一人目」

 

 

 二番手に立つ。まだまだ。ロングスパートはここからだ。

 

 

「二人目」

 

 

 必勝パターンに入った!ここからは一位をキープするのみ!

 

 

「────あ、っ?」

 

 

 何か、何かが、私を内側から食い破ろうとしている。

 

 限界を超えた自分。己を乗り越えていく瞬間。

 

 ──それは、選ばれたウマ娘が辿り着く境地。

 

 

「……ッフ……!」

 

 

 分かっている筈だ。ダンツフレームとの戦いで、確かに掴みかけた兆し。それは燃え上がる爆炎となって──

 

 今、理解した。これこそが、領域(ゾーン)だ!

 

 

「オオラアアアァァァッッ!!」

 

 

 走りに酔いながら、思考は冷静さを保っている。

 

 領域(ゾーン)に突入しながら、俯瞰は継続できている。

 

 ラストの直線。もうこれなら、勝て──

 

 

「──アンタに、だけはっ!」

 

「────え?」

 

 

 なんっ、だ?この威圧感。

 

 ウソだ。今日は難敵候補はいなくって、私は一番人気で……

 

 

「……あ」

 

 

 俯瞰が捉えた、私に追いすがる唯一のウマ娘。

 

 ──速い。

 

 ──本当に、速い。

 

 い、いや、だが、私だって、領域に突入したのに、

 

 

「──な、あ……っ?」

 

 

 抜かされた。ウソだ、だって、今日の私は過去最高地点に到達したのに。

 

 い、や、まだだ!反省なら終わった後いくらでもできる!脚を回せ!前を向け!前が──塞がれる。

 

 ──斜行しやがった。だが、そんな終わり、私は認めない──!

 

 

「くっ、そ、があぁぁぁっっ!!」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 結果は分かっていた。私が一着。だが──勝者は別にいる。

 

 その名はアルゴラシュメット。完全にノーマークのウマ娘に、喰われた。

 

 体中に纏わり付く泥も気にせずに私は奴の元へ向かった。アルゴラシュメット。奴は、笑っていた。

 

 

「斜行で降着、か。おめでとうソコラヘンノモブ。アンタの勝ちだ」

 

「ふざ、ふっ、ふざけんな!なんだよ、あの脚!私は今日掴んだ筈なのに……!」

 

 

 慢心していたのか?いや、違う!どの選手も思考に入れていた。そのプログラムを食い破られたんだ!

 

 

「……こんな勝ち方があるかよ……!」

 

「わたしはこれで終わりだ。まあ、最後にしてはよくやった方かな?」

 

「な……ッ。ふ、ふざけんな!次!レース出ろ!そこであんたを負かして──」

 

「無理なんだよ。もう」

 

 

 なんだよ。なんでそんな、悲しそうに笑うんだよ……。

 

 

「ソコラ。アンタが羨ましかった。自分弱いですよみたいなツラしてわたしたちのような落ちこぼれを置いて伸びていったアンタが妬ましかった。いつも凄い奴らと走り合えるアンタに心の底から憧れていた。けど……これで忘れられなくなっただろ?」

 

 

 まさか、コイツは、私を負かすために……?だからあんな凄まじい走りを……?

 

 

「一つサービスしてやるよ、ソコラ。わたしがアンタに追いつけたのは、それ以外何も求めなかったからだ。だからこの脚はもう使えない」

 

「……え?」

 

「ちょうど今、骨折した」

 

 

 膝が震えている。立っているだけでやっと……なのか?

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 アルゴラシュメットは怪我で引退。月刊トゥインクルの片隅に、そう書かれていた。

 

 勝ち逃げされた。私の中にあったのは同情でも憐憫でもなく、ただただ膨大な嫉妬だった。

 

 走りに酔わなくなった。スタミナをつけた。ロングスパートを習得した。二段式スパートもできるようになった。諦め癖を治した。トラウマを打破した。俯瞰を使えるようになった。領域も切れるようになった。それでも負けた。……やっぱり私は、あの力を使わないと勝てないの?

 

 

《絶対勝利の脚を使いますか?》

 

《はい》 《いいえ》

 

 

 私は……

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