□???
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
嘆く、嘆く、嘆く。
この世の愚昧を嘆く。
この世の腐敗を嘆く。
この世の不条を嘆く。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
祈る、願う、希う。
全ての浄化を祈る。
全ての破滅を願う。
全ての滅却を希う。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
喜び、祝い、悦ぶ。
壊滅の降臨を喜ぶ。
太陽の祝福を祝う。
聖炎の終末を悦ぶ。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
謳い、詠い、唱う。
其の神の名を謳う。
天の星の姿を詠う。
暗き炎の声を唄う。
星々の果て、外なる宇宙、フォーマルハウトにて座し、来るべき時を迎えたかの炎を讃える。
聖炎の主、如何なる混沌をも焼却し、善悪すら分かたず全てを焼き払う、まばゆき暗黒の炎へと手を伸ばす。
―――熱い、熱い、熱い
皮膚が蕩け、目玉が溶け落ち、四肢が形を見失い、それでも尚、心臓の脈動は逸っていく。
―――痛い、痛い、痛い
遠く、遥か遠く果てに輝く灼熱の星。
永劫に煌めき届く輝きを放ち、あらゆる全てを焼き尽くす、「炎」あるいは「熱」の具現。
伸ばした手は、熱波の一撫でで蒸発した。
捧げた視線は、瞳ごと氷菓のように融け落ちた。
頭蓋が視界を得る器官も、とうのとうに失われた。
けれど、―――けれども確かに。
脳も、血も、心臓も、骨も、全てが灼熱に呑まれてしまって、それでも。
それでも確かに、その炎を。
かの神の―――暗黒の太陽の姿を。
心を瞳を脳を血を肉を骨を、魂を。
そのすべてを灼かれ、熔かれながら、それでも離れない光を焼き付ける。
嗚呼、嗚呼、嗚呼。
燃えよ、燃えよ、燃えよ。
遍く全てよ、かく燃えよ。
遍く全てよ、かく吠えよ。
遍く全てよ、かく終えよ。
讃えよ、称えよ、頌えよ。
かの神を讃えよ。
混沌さえ恐れる旧き神を。
全てを終わらせる生ける炎を。
眩き燃ゆる、暗黒の炎を。
かの神を、讃えよ。
―――かの星の火に、焼かれし者よ。
□???
「っは……!?」
バッ――、
全身を焼かれ、骨の髄まで灰と化すような感覚に見舞われ、飛び跳ねるように起き上がる。
荒れた息を整えながら、己の身体に視線を移し、手のひらを何度も開閉する。
喉を滴る汗に手を伸ばし、自分の身体が未だ燃え尽きていないことを知る。
「……また、あの夢」
小さい頃から、ずっと見続けてきた悪夢。
灼熱にその身を晒し、火炎にその身を焼かれ、太陽に祈りを捧ぐ。
まるで、自分もそう在るべきだとでも言うように。
夢の中の自分は、いつも、あの暗黒の炎に焼かれていた。
全てを、灼熱に。
全てを、炎熱に。
全てを、太陽に。
己の全てを、ただひとつに注ぎ、この世の全てを、ただひとつ灰へと帰す。
そんな存在に、自分は―――、
「……<Infinite Dendrogram>、だっけ」
頭をくしゃりと撫で、ベッドの脇に置いたままにされた奇妙な機械に目を向ける。
まるでヘルメットのような形をしたそれは、今現在、ネットなどで話題沸騰中の<Infinite Dendrogram>と呼ばれるゲーム機だった。
今から凡そ十数時間前。
突然にインターネットやテレビなど、様々な場所で姿を現したそのゲームは、有り得ざる四つの要素を表した。
そのどれもが、世間一般から不可能だと笑い捨てられるようなものだった。
それは、自分も同じ。だからこそ、ルイス・キャロルと名乗る人物によって渡されたそれを、自分もまた触れずに置いていたのだから。
しかし――、
「……無限の、可能性。もしかしたら、そこなら」
そんな淡い期待と、どこか確信めいた感情に従って、<Infinite Dendrogram>へと手を伸ばした。