□【炎王】フュエル・ラズバーン
「…改めて、貴様のエンブリオについて話せ。私の弟子になりたいというのであれば、隠し立ては許さん。無駄に時間を使わせるようなら、即刻貴様を破門とする」
屋根の崩れた庵から離れ、フュエルと青年は燃え移るものの少ない岩場に移動していた。
いつの間にか山火事は止んでおり、恐らく【導竜王】が襲撃前に鎮火させたのだろうと予測が着いた。
「はい師匠!!僕の<エンブリオ>の名前は先程もお伝えした通り、【炎星転身 クトゥグア】です!!」
無駄にハキハキとした声で、青年は自身のエンブリオ――【炎星転身 クトゥグア】の説明を始めた。
「【炎星転身 クトゥグア】
TYPEはボディ!!
保有スキルは先程もお伝えした通りたった一つです!!
その名も《生きる炎》!!
これ、実はパッシブスキルでして!!このスキルで僕はあの炎の姿になってるんです!!!炎星体って言うんですけど!!今のこの姿は僕がキャラメイクした、というかリアルまんまの姿なんですけど!!!【クトゥグア】が出た時に完全に炎になっちゃってて!!!MPが減ったり炎が落ち着くと戻れるんですけど!!!!それが今の僕なんです!!MP減りすぎるとどうなるかは僕も知りません!!!で、《生ける炎》は僕を炎にする上に!!!僕自身のステータスなんかも含めて触れる全てを燃やして燃料にするっていうスキルなんです!!!炎になるから物理攻撃も基本的に効きませんし!!!同じ炎熱系の攻撃も無効化できます!!!!」
「……はぁ。わかった。…少し待て。お前の胡乱な説明を飲み込む」
頭を抱えながら、馬鹿みたいに垂れ流された情報をまとめる。
つまりは、こういうことだろう。
【炎星転身 クトゥグア】
TYPE:ボディ
・固有スキル
《生ける炎》:パッシブスキル
マスターの肉体を炎属性のエレメンタルのようなものに置換し、ジョブやスキルを含めた自身のリソースや自身の炎で燃やした物を侵蝕し自身の燃料や自身の炎の一部に変換する。
「…と言ったところか。恐らくはスライム種の共通スキルである《液状生命体》に近いものだろう。……後者の性質はエンブリオの特異性と考えるのが自然か」
「おお!なるほど!!!そういうことだったのか!!!」
自身の<エンブリオ>だと言うのに、まるで今初めてちゃんと理解したかのように納得した顔を見せる青年にため息をつく。
……選択を誤ったかもしれない。
「……エンブリオは、もういい。先程撃破した【導竜王】の特典武具があるだろう。それを見せろ」
「特典武具ですか!?あ、さっき燃やした時にいつの間にか入ってきたやつか!!はい!!」
無駄に喧しく叫ぶと、青年は再びローブと上半身の衣服を脱ぎ捨て、自身の胸を指さした。
「……ふざけているのか」
「違います!!大真面目!!!えっと、つまり―――こうです!!」
突如、自身の腕を胸に向かって勢いよく突き刺した。
しかし血が溢れることはなく、青年の腕が刺さっている部分だけが淡く燃え、青年は自身の身体の内側をまさぐっている。
「……私は何を見せられているのだ」
「ま、待っててくださいね師匠!えっと、えっと……あった!!!」
そのまま腕を自身の心臓部まで動かしたかと思えば、そのまま腕を勢いよく引き抜いた。
「これです!!これ!!!」
引き抜かれたものを見てみれば、その手には先程の【導竜王】の鱗と同じように白く半透明な球状の複雑な形をしたナニカが握られていた。
それは定期的に脈動を繰り返しており、姿だけ見れば先程引き抜いた場所と合わせて心臓のようにも見える。
――だが、それよりもフュエルの目を引いたのは、ソレから溢れ出している目には見えないはずのもの――魔力だった。
ソレは脈動する度に大気の魔力を吸い込み、循環させ、魔力としての質も量も何倍にも膨れあげさせて放出している。
「えっとなになに……これは……」
驚きに目を見開いているフュエルに気づいてか気づかなくてか、青年が呑気に手に持っている特典武具についての説明を見ようとウィンドウを開いていると――、
『この吾を雑に握って抜くんじゃないこのタワケェ!!!』
「うわっ!?!?」
「ッ!!?」
青年の手に握られたソレがひとりでに宙へと浮かび、どこか聞き覚えのある怒声が響いた。
『意味もわからず殺され、魂ごと燃料にされかけたと思えば今度はこの仕打ちか!!貴様らは礼儀というものをまるで知らんのか!!』
「しゃ、しゃ―――」
「……なんだ、これは」
「喋ったーーー!!!!!!!!!!!」
『騒々しいわ!!』
困惑しているだけのフュエルはともかく、青年の叫び声が謎の声を余計に怒らせてしまったらしく、ソレはさらに怒鳴り立てた。
『少しは静かにできんのか貴様は!!』
「あっ、はい、すいません!!」
『まだ煩いが許容範囲だな。うむ、許そう』
「ありがとうございます!!」
「……はぁ。で、おい。貴様。先程の導竜王だな?何故そんなことになってるかは知らんが…」
二人?の馬鹿げた会話に呆れた様子のフュエルが尋ねると、ソレは『そうだとも』と勢いよく宙を飛び回り、青年の前に静止した。
『吾は【導竜心核 ドラグコンダクション】!!世界最高の魔導炉心にして魔力循環器にして補助機!!!人間界で名を馳せていた"フラグマン”とやらが作った炉心すら容易く上回る圧倒的な性能を誇る伝説級特典武具である!!!』
『魔力増幅、循環、操作及び補助!!全てが可能なハイパースペック!!まさしく特典武具に相応しい、伝説級の枠組みに収まらない代物だ!!』
「なんかキャラ違くないっすか?」
『貴様に殺されたせいで【導竜王】としての立場や【天竜王】陛下から賜った役回りも無くなってしまったからな。今の吾はフリーダムだ』
「……」
沈黙するフュエルは「私はこんなものに敗北しかけてしまったのか…」という、人生で初めての感情を処理するのに少し時間がかかっていた。
「……貴様の性能は凡そわかった。<伝説級>とはとても思えない破格の性能だな。私が手に入れたかったくらいだ」
言うが、それは不可能だっただろうと脳内で断じる。
自分では【導竜王】を倒すことができず、精々がしっぽを巻いて逃げる程度だろう。
事実、一度殺されかけているのだから。
それ故に、自身が熱望する類の特典武具を青年が得たとて、フュエルはそれになにか思うようなことはなかった。
ただただ、自らの弱きを憎み、高みを目指さんと燃ゆるのみ。
そんなフュエルを知ってか知らずか、ソレは明らかに上機嫌になって語り始めた。
『そうであろうそうであろう!やはり今代の【炎王】は見る目があるではないか!!師匠である貴様がそうだと言うのに…おい小童!!』
フュエルに近づき、やけに親しげかつ嬉しげに騒いでいたソレが球状の体を翻し、青年を小突き始める。
『貴様は貴様で、こんな世界のどこを探しても手に入らないような逸品を、何故手に入れてそうそう燃やそうとしているのだ!!』
「え、え!?なんのこと!?」
小突かれている本人は少し痛そうにしながら甘んじて受けていたが、言われたことの自覚はまるでないようである。
そんな青年の姿に、ソレは更に憤慨を浮かべた。
『たわけぇ!気づいてないなら尚たわけぇ!!―――貴様の炎が、特典武具と化した吾すら燃料としようとしていたと言っているのだ!!
吾が咄嗟に魔力を増幅させて身代わりとし、魂との繋がりを更に強めて貴様の炎と一体にならねば、吾の魂ごと貴様の魔力にされておったのだぞ!?』
「はい!すいません!!」
ビシッ!と背筋を伸ばして謝罪する青年にソレは『うむ!よろしい!』と許しを与える。
そのまま青年の顔の前ほどまで移動して、ソレは言い聞かせるように続けた。
『貴様の炎は馬鹿げた性質をしているし、火力も中々だが、死ぬほど燃費が悪い』
『だが、吾がいれば魔力を生成し、増幅させ、効率よく循環させることもできる!!貴様の炎の魔力ロスも極限まで減らせるのだ』
『それと、気づいているかは知らんが、貴様、人間の皮を被っているときですら恐ろしく燃費が悪い。自然回復する魔力の量が常に消費している魔力量を僅かに上回っている程度だ』
『しかし!吾のお陰で、平時であらば常時秒間1%程度の魔力回復ができる!!世界中の魔法職が妬むような性能だろう』
『貴様があの炎星体とやらになっている間はまた違うがな。あれはそもそも周囲の自然魔力すらまとめて燃料にしている。となると、いくら吾でも大した量の魔力は生成できん。だがそれでも魔力効率は十分に上げられるだろうよ』
「……ふむ」
聞けば聞くほど、フュエルが考えていた青年に必要なものの大部分を補ってくれるような代物だ。
青年の雑な魔力操作と出力、炎の制御についての課題が、【導竜心核】一つで全て解決してしまう。
フュエルが考えていた青年への指導方法を変える必要があるかもしれないと思案していると、青年がソレに向かって手を挙げた。
「質問いいですか!?」
『よかろう。申してみよ』
「ありがとうございます!さっき【導竜心核】…えっと、長いですね。なんか他に名前ありませんか!?」
『……アルマレギル。吾の真名だ。次からはそう呼べ』
「はい!アルマさんに質問なんですけど!!」
『さっそく略しおったな小童が』
「はい!!さっき僕の魔力の効率が死ぬほど悪いとか回復が遅いみたいなこと言ってたと思うんですけど、でも僕ここに来るまでレジェンダリアからずっと歩いてきてたんですよ!!なのになんで魔力が尽きなかったんですかね!?」
青年の質問に、アルマレギルは呆れた様子で答えた。
『貴様が通ってきた跡は吾も見たからな。大方、木々もモンスターも、通り過ぎるもの全て燃やしてきたのだろう?そうしてそれらを燃料として燃やし燃やしまた燃やし……災害か何かか?己は。無差別にも程があろう』
「すみません!」
『全く反省してないだろ貴様。まぁ、そうやって無理やり燃え続けて魔力を得ていたというわけだな。全く…吾が途中で気づいて消火を始めていなければ、何処ぞで高名な<UBM>かティアンにでも討伐されていたぞ』
まぁ、その第一号にして最初の犠牲者が吾なのだが。
と笑えない冗談を零しながら、アルマレギルは突如思い出したように声を荒らげた。
『というか、貴様の相手をしている最中にも遠くの山火事を抑え込ませていた分体すら完全に燃え尽きてしまったせいで、一部の炎は消しきれておらん。そのせいで、遠くでは炎の精まで湧いてしまっているのだぞ。少しは自分のしでかしたことをだな…』
「アルマさん分身できるんですか!?」
『メインはそこじゃないぞタワケ』
生物の体を成していないにもかかわらず、アルマレギルは疲れた様子でハァと溜息を吐く。
『…【天竜王】陛下が自身の魂を分割して"眼”を放っているのを模倣したものだ。陛下のように無数にとはいかんが、小さいものなら10体程度は作れた。しかも分体も吾と同程度にスキルを行使できる。まぁ、分体が死ねばリソースは戻ってこないため、あまりやりたくはなかったのだがな』
吾は死霊術には長けぬ故、真似事に過ぎぬがな――と言うが、そもそも魂を分割する、ということ自体がちょっとした規格外の芸当だ。
少なくとも、フュエルの発想にはない領域のもの。
なるほど、これも弟子をとるメリットか――とズレた思考を重ねているが、「多分違うだろう」と彼の誤解を訂正してくれるものは誰もいない。悲しいかな、フュエルは親しい間柄の相手もおらず、少しばかり常識に欠け、【大賢者】や火属性魔法に関することでは愚直にしか進めないのであった。
『元より吾の肉体は半分ほどエネルギー体だったからな。意外とできた。それに、今こうして喋れているのもそれが影響している。……そして、吾がこんな小童の炎にいとも容易く侵された理由でもあるがな』
「なるほど〜…なんかごめんなさい!」
『今の主が貴様でなかったら殺していたところだぞ本当に』
心底恐ろしい殺意を漂わせつつ、アルマレギルは再び意味の無い溜息を吐いた。
『まぁ、説明はこんな所で十分だろう。吾はそこのタワケの中に戻る。なぁに、心配せずとも役目はちゃんと…』
「……待て」
話を締めくくり、青年の体内へと戻ろうとしたアルマレギルを、フュエルが低音で制した。
『む?なんだ【炎王】よ。聞きたいことでもあったか?それとも自身が師として不足しているから、この吾に代わって欲しいのか?』
「…違う。むしろ逆だ」
『逆とな?』
「…今の貴様は、補助輪としても過ぎたものだろう。それこそ、そこの未熟者ですら一端の魔術師程度に魔力を操れるようになる程度にな……しかし、それでは修行になるまい」
『……ふむ。続けろ』
アルマレギルが宙で一度不気味に脈動し、その半透明な球体をフュエルへと向けた。
「……そこの莫迦は自身の肉体とも言える炎の制御すらままならないのが現状だ。私の弟子になるのなら、まずは自力で炎精体から人型に戻れる程度の制御を身につけてもらう」
「魔力を制御し、火力を制御し、手足のごとく意のままに扱えてこそ、魔導の真髄に迫れるというもの」
「…私に弟子入りする以上、炎の制御だけではなく、火属性魔法そのものも修めさせるつもりだ。それこそ、<エンブリオ>の力を使わずとも、充分に炎を扱える程度にな」
「…貴様を活用させるのは、それが最低限こなせるようになってからだ。それまでは貴様の使用を固く禁ずる」
と言い切ると、アルマレギルは何やら感心した様子で喉(そのような器官はないが)を鳴らした。
『言うことは尤もだな。良かろう、小童の中に戻るのは取り止めてやる。だがアイテムボックスに放置されるのも嫌なのでな。しばらくこうして小童の周りを漂わせてもらうぞ』
「……構わん」
許可を得るや否や、アルマレギルは退屈そうに青年の周囲をゆったりと回遊し始めた。
そしてフュエルは改めて青年へと向き直る。
真っ赤に燃えるような髪。
輝き焦がれるような瞳。
――明るい様相とは裏腹に、思考も感情もまるで読めない。
屈託のない人好きのする笑顔の奥に潜むのは、果てすら見えない深淵だ。
<エンブリオ>は、そのマスターの気質を表すともされる。
であれば、この青年は。
ただ全てを炎だけに捧げようとするこの青年は、その見えない心の奥に、どれだけの熱量を秘めているというのだろうか。
だからこそ――その炎を育て上げることが、
「……それでは、貴様の修行を始める。言っておくがジョブスキルの使用も禁止だ」
「はい!師匠!!」
意気揚々と帰ってきた返事に鼻を鳴らす。
こうしてようやく、青年の修行が始まった。
To Be Continued.
【炎星転身 クトゥグア】
TYPE:ボディ
到達形態:Ⅲ
・固有スキル
《生ける炎》:パッシブスキル
<マスター>の肉体を炎星体という炎属性エレメンタルに類似した状態に置換するスキル。炎星体に転じている間、ジョブやスキルを含めた自身の保有するスキルやレベルを魔力に変換し、自身の炎で燃やした物を侵蝕し自身も魔力や炎として変換する。
ステータス補正:全てマイナス50%以上
(´・ω・`)<現状だと他二人のボディと比べてとても単純な性能をしているが、中身の異常さなら劣っていないと思います。
(´・ω・`)<レジェンダリアから歩いてきた時に木々やモンスター・自然魔力を燃やして燃料(MP)にしていましたが、余剰分は全てリソースとして蓄えて結構な速度で進化していました。それでもスキルは一つですが、その分の性能は上がっています。
(´・ω・`)<MP=HP=SPにもなっていますが、一応理由もちゃんとあります。いつかそこまで書けるといいな。
【導竜心核 ドラグコンダクション】
<伝説級武具>
世界を構成するリソースを支配する導竜種の王の魂と権能を凝縮した心核。
ステータス補正:MP+100%
《導竜の心》:自然魔力や循環するリソースを取り込み、魔力を生成する。その他魔力の循環を高め、魔力やリソースへの干渉が可能。
《???》:???
(´・ω・`)<今作のマスコット枠。ぽっと出。元々キャラがハッキリとしていなかったとはいえキャラ変わりすぎ。
(´・ω・`)<実はハイエンド寄りの才能を持っており、生前の技巧もさることながら、特典武具と化す時にも少しだけ方向性を弄ったり自身の魂が【クトゥグア】の炎で焼き尽くされないように保護したりしている。多分エンブリオの中止卵にも干渉してるのかもしれない。イレギュラーやSUBMでもないくせに自我を持って好き勝手喋ってるしやりすぎ。
(´・ω・`)<真面目だが意外と芯がなく、優柔不断というか流されやすい面もある。そのためこんな強めのモンスターとティアンが多いだけの辺鄙な山奥を縄張りとしているだけの<伝説級>に収まっていた。今は産まれた頃からついて回っていたしがらみなどから解放されてちょっと浮かれてる。