「はい、チェック」
「ぐぇっ」
体勢崩しに掛けて投げを差し込み、視線が外れたところで背後に回り込む。
心は折れていないが、背後の警戒が甘かったからついチョークスリーパーで絞めてしまった。
1992年4月7日
なんでこんな事をしているのかと言えば、あかりちゃん経由でアキヒロにうちがバレた事に端を発する。
別段これは問題ではないのだが、アキヒロにバレるとあいつの家族にここがバレる事に繋がる為、セキュリティ完備してからの方が良かったと思っている。
特にアレだ、寮の地下の製造プラント、あそこには入らせてはダメだ。
食糧も弾薬も銃器製造もほぼオートメーション化したはいいが、やっぱり俺の手でやったから科学と神秘が混ざってるっぽいんだよなぁ。
困ったもんだ、地脈を弄り倒して変なモノが湧かない様にある程度処置はしたが、確実とは言えないしなぁ。
アキヒロ少年の組手は、まぁあかりちゃんにいいとこ見せたい感じかな。
中学最後の夏休み、偽アザトースに乗っ取られる前の正常と言ったらいけないが、彼らがエンディングを正しく迎えられた日からの付き合いだそうだし。
ま、思春期というのはそういうもんだ。
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いやだ、死にたくない!
誰かっ!
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風が、助けを求める声を連れてきた。
少し遠い、だが聞いたからには出向く。
それこそが、我が矜持、我が存在意義。
出向いて駄目ならそれでもいい、だが動かずに見捨ててはいけない。
「アキヒロ少年、すまないが稽古はしばらく出来なくなった。」
そんな自分の言葉に動じる様な素振りのがないアキヒロ少年が静かに頷く。
彼にも聞こえたのだろう。
「寮に行ってきます。何が必要ですか?」
「いや、ない。あ、香香背男殿に代わりに詫びを入れといてくれ。」
「えー……。」
思考を共有出来る者が増えたのは、メリットと言えるな。うん。
プレートキャリアを着用、M1911を太腿のホルダーに1丁挿し、モールの両脇腹にさらにM1911を2丁、マガジンポーチと水と食料袋を括り付ける。
メインアームはAS(Ancient Science)アサルトライフル、古代科学なんて付いているが、あくまで人々が星々を渡り歩く技術を手にし西暦5500年代に至った世界線時点での【古代科学】だ。
工作精度の要求が天井知らずなことに加えて、本西暦は未だ1990年代。
手作業きつい。
一品入魂の心構えで部品一つ一つ手作りの職人技と自画自賛したいところだが、あの地でのランクで言えば低品質か標準品質と言ったところだろう。
本気で最初期の作品だからなぁ。
弾薬は7.62×45mmを採用、神話生物とかリムの生き物って足が速いから遠距離弾薬ってキルゾーンへの誘引用だし。
っと、予備弾薬よし、水・食料よし。
書き置きよし、親と寮への連絡よし。
セキュリティよし、時間遡行準備よし。
降下ポイント捕捉、3・2・1。
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Are You Ready?
Drop Now!
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「今日は下かぁ。」
この召喚、安定しないんだよなぁ。
2025年7月
「ふぅむ……。」
荒廃した町の中を救援要請者を探し歩いて3日、2025年7月と書かれたカレンダーを見て二の句が継げない。
フェイクでないなら、少なくとも34年後の未来に来てしまったということで。
『あ…ァ…ア、シュぅウゥう』
振り向くと、首から触手を増やした元人間の異形、いや異形に堕ちた成れ果てが数体、サブマシンガンのトリガーに指を掛けたところだった。
咄嗟に伏せ、四肢を使って真横に跳躍する。
正常な人間の動きではないが、銃弾を躱すには有効な動きだ。
一体目、胴体に入った衝撃が肩に流れたのか両腕が血飛沫と一緒に脱落する。
二体目と三体目がほぼ同時に胴を薙ぎ払われ上下に泣き別れ。
四体目がこちらに再照準、五体目がスタングレネードのピンを抜いて投擲態勢。
四体目の腕を掴んで照準を五体目に強制指向、スタングレネードが炸裂するが、閃光を直視していない為、被害は聴覚のみ、小気味よい振動がサブマシンガンの発砲を知らせてくれる。
一本背負いで四体目を五体目に投擲、衝突音。
ASアサルトライフルを接射、10数発の7.62×45mm弾が魔力が集中しているコア……心臓を二体まとめてひき肉に変える。
どう考えても貨幣が機能している状態とは思えず、物々交換に備えて死体を漁る。
整備不良でガタガタのサブマシンガン3丁、使えそうな部品で共食い整備して1丁組めるかも怪しいが。
シュールストレミング程ではないが、膨らんだ缶詰がある……果物系か野菜系だな。
安全性に難はあるが、明らかに安全ではないと分かるものよりはマシと言ったところだ。
死体漁りを続けていると、遠くから微かに地響きが聞こえた。
同時に、地響きに混ざってエンジンの音……それと甲高くはない銃声……M2重機の発砲音だ。
崩れかけのビルを駆け上がり、発砲音の正確な位置の把握を開始。
この手の地形では遮音されて、余程近いか高い場所でないと正確な位置を捕捉するのが困難だ。
近づいてくる、ロケットモーターの作動音?
爆発音、見つけたぁ。
縁を手繰る、助けを求めたる者が居ないか、俺に縁を結んだのは誰だと。
ビルを一足飛びに飛び渡り、それを見つける。
「ヘイッ!猫の手はいるか?!」
「え?!き、きいちゃん!変な人が降ってきたあ!」
「い、今取り込み中なんで」
「御仁!手が空いているなら」
「オッケイ!」
混乱させてしまったが、女子高校生?の足元で銃を荷台のアオリと腕で固定、10数発間隔でのフルオート射撃を開始。
三射程で弾倉を撃ちつくし、再装填。
手数が増えたことで余裕が生まれたのか、ポニーテールのサムライガール(見た目)がコンカッショングレネードを投げる。
怯む怪異、あれダゴンか?
「なあ!あれダゴンか?」
『然り、アレはダゴンだ。つい先ほど召喚された個体だ。』
「召喚?どういうこった、アレが通れるような術式を誰かが作ったのか?」
『不明、しかし我が此処に居ることがその術が有効であるという証明となろう。』
「よく見たらハスターじゃねぇかよお。」
デフォルメされているが、ハスターだ。
すげぇな、この女子高校生たちの中にハスターと接して正気で居られる有望株がいるのか。
「ねえ!コレ本当に効いてる?!」
「出血量は増えている。このまま消耗させれば倒れるはずッ!」
空間絶対座標取得開始、成功。
「リロード!」
M2の射撃が止まる、立ち上がる。
「む?どうした。」
腰を落とす、今から殴るという意思を込めて。
根源から術式が出力され、心臓を介して全身を駆け巡り、右の拳に収束する。
一歩、踏み込む。
「わわ?!」
視界が一段下に下がる。
どうやら、踏み込んだせいで前輪が浮いたようだ。
視界が戻る頃にはダゴンが眼前に、俺もダゴンに拳を叩きつけた。
「っ!バカあ!」
ダゴンがヒレと尾びれを僅かに残して消滅、車は制御を失って瓦礫を突き破って駅の構内に落ちた。
すまん。
「いきなり現れておもっくそ要らんことしたようで申し訳ありませんでした。」
意識を取り戻した女子高生たちに土下座をした。
「いや、まあ……結果オーライってことでどうかな?」
「助けに来たつもりなのに、危機を誘発したんだ。謝罪させてほしい。」
黄色い服……気配からしてハスターの契約者はこの子か。
「キイロ、この御仁も引く気はないようだから受け入れてやったらどうだろう?」
「あー、霧継さんに似た感じですからねぇ。」
「迫水、私はそれ程頑固に見えるか?」
迫水と呼ばれた少女がいえいえとやっているのを、霧継と呼ばれたサムライガールがジト目で見ているのを視野外視覚で眺めていると、キイロさんが溜息を付く。
「はぁ、ガイア連合の人達もまだ来れてないみたいだし、謝罪は受け入れるから移動しよっか。」
「ありがとう。それはそうと……。」
「あ、話ついたんだ……あれ、なんだろ?」
迫水さんがこちらを見ようとして、何かに気づいたのか空いた大穴から見える空に視線を向ける。
「っ!伏せろ!」
連日の戦闘で麻痺しかけていた第六感が全力で退避勧告を発した。
言葉が出る頃には女子高校生三人を一纏めに抱えて、より安全が確保されていると感じた地下鉄への階段に逃げ込んでいた。
直後、衝撃波が地上を駆け抜けたのを、地下へ吹き込む風で認識する。
「なんだ今の!?微かに見えたのは巡航ミサイルっぽかったが!」
ミサイルの着弾にしては爆発音も聞こえなかったが、何が起こった。
「頭出すと危ないんじゃ…。」
『警告。バッテリー残量低下、対精神汚染結界消失まで推定20分。直ちに精神汚染影響外へ退避せよ。
なお、直近のデータから地下への退避を推奨。』
少しでも地上の状況を知る為に階段を上ろうとしたところ、迫水さんに引き止められ、次いでハスターから警告が飛んでくる。
対精神汚染結界なんて、なかなか丸くなったじゃないか。
地下鉄の構内を進んでいるが、驚くことに地下には異形が居なかった。
本来、暗闇を得意とする筈のグールさえ居ないというのは作為を感じる。
「そういえば、えっと……」
「ああ、自己紹介をしていなかったな。
タケだ。本名は、ここじゃ話すほうが危ないから、そう呼んでくれ。」
「あ、本名を用いた呪術の心配ですか。」
迫水さんがこの名乗りに理解を示してくれた。
推定二回目的な雰囲気があると思ったが。
どうにも、話に聞くと色々噛み合わない地名があったが、未来方向の近似世界線であると確信した。
世界規模で異界化するとか、そうそうあることでもないが枝がくっいているなら条件は変わる。
ガイア連合を知っているということは、多少なりとも彼女たちの世界線にも表に介入出来る数が居たのだろう。
「ガイア連合、か。」
「あ、すみません。嫌いな部類の方でした?」
「いや、少々無理矢理な所はあるが、得物の質は悪くなかったし、実力は認めてる。」
出来る限り言葉を選んで無難に流す。
「そのグロックはオーストリアの?」
「いえ、ガイア連合の銃器クラブのライセンス生産品ですね。」
「この時代のガイア連合は、銃と分かる物を作るようになったのか。」
「この時代?さっき聞いた異界化して、10年以上過ぎてるって話ですか。」
現在地は札幌駅の地下街、そこの一角を拡張して作られた荒くれ者の避難シェルターと言ったところ。
俗に札幌シェルターと呼ばれているようだが、道中拾った物品がそれなりに纏まった現地通貨になった為、いくつかのモバイルバッテリーと弾薬を購入し野営している。
いやまぁ、準備ってやっぱ大事だなって思ったよ。
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夜が更け、いつもなら悪魔との戦いが始まっている頃の時間。
不審な集団が寮を取り囲んでいた。
手には一見玩具にしか見えないモノを携え、今風の服装だが服にも術的に強化された痕跡を多数残している。
不良には見えない、しかし命のやり取りをした影がある。
「こんばんは。当寮に何か御用でしょうか?
生憎と夜分遅く、住人の迷惑となりますので御用ならば夜が明けてから改めていらしてください。」
出来る限り、穏当で落ち着いた口調と気配で不審者集団に語り掛ける。
「必要ない。押し通らせてもらう。」
「おや、抜けると考えていますか?」
口調も気配も変えない。
相手から苛立ちを感じる。
だけど、退けない。
瞬きの間、空気が一変する。
戸惑い、驚き、不可解、畏れ。
まるで理解の外のモノにでも遭遇したような、そんな空気だ。
「服が変わった程度で何を驚いているんですか?
退く気がないと宣言したのは、あなた方の頭目でしょう。」
『【鏡面領域:鏡小路】展開完了』
『No.0【愚者】:己を知る者・未だたどり着けぬ者・抜け殻・歩み出した者・愛と恋を知った者・決意した者・誰かの犠牲の上に立つ者・神秘の道を歩み始めた者』
愚者のタロットが側面を読み上げる。
「がっ、ぐ……」
「は?お、おい!どうした?!」
「戦を連れてきて、何を戸惑っているのか。」
変質せよ、汝は我が厄災に非ず。
凝固せよ、汝の形は我が意のまま。
ここに成せ、汝に我が求めたるは。
「成すは力。」
小瓶からこぼれた液体は、数瞬の内に一本の刀へ変質し、温度を無視して凝固する。
「さあ、お前たちの幻想の終焉はここであると知れ。」
恋人の安眠邪魔されての寝起きの襲撃ほどキレる要素は無いんだよ。
「って、あれ?」
武威を示して啖呵を切ったが、何故か敵は鏡小路の外側……つまるところの結界の外へと逃げ出している。
いやまあ、結界から出れば逃れられるけどさ、そんな特徴丸出しだとすぐ捕まるのではないかな。
ともあれ、こいつらの泥を吐かせようか。
「ち、近づくなっ!」
「君たちの心情なんて関係ないよ。
ただ、何を企図してこんな暴挙に出たかは吐いてもらう。」
第参から第陸の腕を使って愚物二名を捕獲する。
片方は突然不可視の、霊視にも反応しなかった腕のような何かに掴まれパニックになって藻掻くが何の意味もない。
僕は、少しでも有益な情報が出ることを願って地下に歩を進めるだけだ。
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別視点の主?
アキヒロ少年だよ。
多腕化してるって?
うん、数多たる霊視に対する隠蔽方法のいくつかを重ねて作った腕機能・身体能力補助型の式神(近代魔術製)だよ。
ガイア連合の式神程で多機能・高性能ではないけど、機能を絞った分ゴリラみたいなパワーがあるよ。
側面の読み上げは、自己バフみたいなものです。
平時、己のみに当てているリソースを世界に対して世界の欠片たるタロットが読み上げる事で世界に己の在り方を刻む。
逆説的に世界が辻褄を合わせようとして強化される訳です。
自己限定型異界化と情報の正常化とでも言いましょうか、それともリレンダリング?
まぁ、何にしろ起こったことは不審者集団の目の前にアナライズなしでも判る程度には明確な化け物(無自覚)が出たということです。
そんな訳で主人公がおでかけしていた(過去形)ので、ちょっと不在時の蛇足でも書きましょうか。
流石に少し名前変えても最近出た新作さんだからね。