【カオ転三次】旅する者   作:ユズ猪肉

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朝、それは一種の戦場と言えよう。
日も昇らぬ内から動き始める者も居れば、ひと段落し再び眠りにつく者もいる。
昼夜を問わず、眠らぬものなんてのも。


中途半端に長そうな1日

「あっくん、また徹夜しましたね?」

「あっハイ。アホ二名が口を割る前に壊れちゃったんで。」

何処かズレた問答をしている二人、そんな光景は特段珍しくもない。

狂気が漏れ出ているかもしれないが、ここの住人はそんなものはもう気にもならない。

冒涜的な神々の悪戯に関わってしまったのだから、そもそも気にする余裕がないのだ。

そんな余裕がない状況で、さらに世界の危機が迫っているなんて状況に私は合掌する以外の表現方法を知らない。(世界の危機×世界の危機)

「また、分家の人達ですよ。」

「あー、今度は何処の?」

気だるげにゆかりが聴取した内容が書かれたメモと連絡簿を見ながら溜息を吐けば、マキが呆れの声色で問う。

「白星さんの所が主犯みたいですね。」

「今月3回目じゃん。懲りないなぁ。」

襲撃の主犯が顔馴染みになりつつある現状に、二人が本格的に肩を落とす。

「アキくーん、あとで”ワンドとソードのスート“借りるね。」

「ああ、はい。どうぞ。討ち入りですか?」

「そうだよ。」

ヤル気満々でスートを持ち出そうとしているあたり、相当キているのだろうとアキヒロは察したが顔には出さない。

先日深夜に発生した襲撃事案は、言ってしまえば襲撃側から見てガイア連合と同質の技術を有しているにも関わらずそれを隠匿していることから生じた不満の発露だった。

実際には同質でも何でもない全く別種の技術大系なのだが、後進からすればどちらも先進的技術なのだから関係なかったのだろう。

タケヒロは関知していないが、寮の判断で実物を使わせてみた事もある。

結果は所持者ごと行方不明になったが、専用電源のレールガンだった為、レールガンだけは沖縄の在日米軍基地に保管されていたのをタケヒロが持って帰ってきた。

被害……まぁ、気にしてもしょうがない。

そんなこんなで、時折ここの面々がそれぞれの本家から事を起こした分家にお話しをしてもらって諌めていたのだが、ここ数週間の内に事態は変な方向に……いや、力……便利な道具を手に入れた人間の起こす事は大体同じだから簡潔に表現しよう。

ガイア連合の玩具を手にして増長した分家が、こちらに恭順するように要求してきた。

Rimworldで言うところの身代金事案である。

もちろん、寮はこの要求を突っぱねた。

その結果が、数日置きの襲撃である。

ある程度情報を吐かせて帰らせているが、これも良くない方向に拗れている。

つまるところ、命の遣り取りをする気がないと。

殺しをしない、これはこの寮に於ける一種のラインである。

一線を越えさせようとする側と、一線を越えないように踏みとどまる側。

アキヒロ少年が呪術的感染術式を行使しようとしたのを、あかりが全力で絞め落として止めたことは、寮の前衛チームの記憶に新しい。

とにもかくにも、外付けの力を手に入れて有頂天になった若者たちは話を聞かなくなった。

マキの討ち入りとはそういう事である。

タロットも外付けではないのか、と思うかもしれないが実のところタロットが引き出しているのは最も強い側面であり、彼女たちの持つ強さは日々の鍛錬によるところが大きい。

邪な神々の悪戯を乗り越える度、報酬がこの能力の拡張限界の上限拡張という、試練と言えば試練である。

 

閑話休題

 

朝の騒々しさを乗り切り、学生組を送り出し、社会人組が出社し、居残り組は何をしているかというと、地下に建設された水耕栽培プラントで収穫した作物を保管庫へと運んでいた。

レンズ豆に始まり、大豆・枝豆・カボチャ属・米や麦・トウモロコシ・ゴールドモス(加熱すると肉のような食感になるキノコ)・リンゴイチゴ樹・ポマト等など多岐に亘る作物を自動収穫システムを駆使し、時に手作業で収穫する。

光合成が必要な作物のエリアには太陽灯が一定間隔で配置され、逆に日光に弱いもしくは光そのものに対する脆弱性がある作物は、その作物自身の生物発光以外光源がないエリアが形成されている。

「な、なかなか豊作……いえ、これがこの”機械“の普通でしたわね。」

「そうね。ここまで多いと、枝豆エリアはもう少し狭くしておくべきだったかしら。」

東北イタコとアンジーことアンドロマリウスが収穫作業の傍ら、お茶休憩をしながら天を仰ぐ。

等間隔に並んだ太陽灯と、水耕栽培ユニット。

室温は一定……空調も整備され23℃前後で保たれている区画ではあるが、地下である。

暑いものは暑い、収穫作業をしている人員の総意であると言っても過言ではない。

約数名、この蒸し暑さを楽しんでいるのもいるが。

「ふん、地下でこのようなことが出来るとはな。科学というものも見るべきところはあるか。」

香香背男こと天津甕星、または何かに上書きされた第二の琴葉茜。

現在はほっかむりを被って収穫作業に加わっている。

タロットの縁が繋がり、その姿が上書きされ、怒り心頭でタケヒロに突っかかったはいいものの、そのタケヒロが姿を消した為、寮に居ついてはや1週間。

縁側で日向ぼっこをしたり、アイちゃん大先輩やショウタくん大先輩と並んで茶をしばいていたりと伝承に残る荒魂とは思えない姿を晒している。

ちなみに、アイちゃん大先輩は校長、ショウタくん大先輩は副校長をしている。

どちらも見た目は幼年学級生なのだが、調べたところによると1900年代には既に現在の姿だったという。

「そういえば、アキヒロくんのお義姉さんがガイア連合の勧誘パンフレット置いて行っていましたねぇ。」

「ガイア連合か、私も見たことはあるぞ。中々の手練れだった。」

「あら、かの荒魂が褒めるなら信用は出来そうね。」

「別に褒めてはいない、資質での力押しなら子供でも出来る。」

「術式自体は視聴きしたところでは、こんばーとしたもののようですわね。

 といっても、この世界に適した方法の一つに適用して無効化されにくくしているようですが。」

「それはそう。むしろ、力ある言葉を組み合わせ改造し変異させて使う寮長や坊やが異常なのよ。

 当人たちは気づいてるけど、そっちの方が使いやすいからあえてやってる節があるわね。」

「そういう意味合いだと、ガイア連合が使っているのは、けいおす・まじっく……カオス魔術という分類になるかもしれませんね。」

「「なるほど」」

2人と1柱の雑談に、ツクヨミちゃんが入って一旦この話題はお開きになった。

 

謎だ。

 

夕方、来客があった。

「すみません、恐山から派遣されてきました。中国うさぎでえええええ?!」

廊下の奥からやってきた爆炎が彼女を襲う。

領域下にタロットが入っていない非敵対者の存在を検知したアキヒロ少年から、隠者のタロットが派遣され爆炎が真理の追究によって形成された力場に沿って現象が誘導される。

「お客さん、大丈夫でした?」

土間の隙間からひょっこりと顔を出すアキヒロ少年。

オンとオフの差が激しいのもこの少年の特徴なのだが、中国うさぎはぶるぶる震えるばかり。

「と、東北さんはご、ご在宅でしょうか?」

意を決したような目で東北家の居場所を聞くうさぎに少年は頭を引っ込め、次の瞬間には床がせり上がって全身を露わにする。

「今の時間帯なら、第四娯楽室だったかな。新人さんの歓迎会やるって言ってましたし、案内しましょう。」

沈んでいく1マスエレベーターを後目に歩き出す少年。

右へ行き、左へ行き、真っすぐ進んで階段を上る。

「東北……タコ姐さーん、お客さんです。」

とりあえず、イタコさんに声をかける少年。

伴侶(紲星家的に)の攻略スピードを超えて生み出されつつあるずんだタワーは気にしないことにしたらしい。(なんなら1/6くらいの範囲を削り取って飲み込んだ時点で諦めた。)

「あら、うさぎちゃんではありませんの。恐山の訓練所以来ですわね。」

「あ、ょ、よかった。知ってる人、居た。」

「恐山は、ガイア連合と協定を結んだと聞いていましたけど。」

「あ、う、うん。でも、なんかあの人たちを、見てると、なんかざわざわして、巫女長に、相談したら、ここを紹介してくれた。」

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【No.13 死神(デス)】より剪定事象警告

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アキヒロ少年の視界に、タロットからの警告が表示される。

「すみません、少し外します。」

極力気配も雰囲気も変えず、その場を辞去し通信端末を取り出しながら廊下を歩く。

呼び出しボタンを押す前に弦巻マキ……と着信表示がされる。

「もしもし。無事?」

『ごめん!なんか軍人っぽい人に追われてる!』

「場所は?」

『っと!鈴蘭裏の交差点、今過ぎた!』

「わかった、ゆかりちゃんも居ますね?」

『うん!大丈夫、私の前走ってるよ!』

「無理だと思ったら、自分の安全を最優先に。ゆかりちゃんにもそう言い含めて。」

「学ランの人!ささっき、ここに来る前に!ひっ!?」

マキの返事に割り込むようにして、うさぎが第四娯楽室から声を発しながら飛び出してくる。

「わかってる。招かれざるお客様をお出迎えしよう。」

うさぎがこの世のものではないモノを見るような目で、アキヒロ少年を見続ける。

彼女は、今この瞬間パネルランプで明るいはずの廊下が、白を基調とした壁で明るさが増しているはずのこの場が、彼より先が光を飲み込む闇であるように幻視した。

「だめ、たぶんアレは……衛生2課。」

「だろうね。時々ちょっかい掛けられてるし。」

「え?」

「あら、剪定事象警告が出ていましたが、入江さんですか?」

「ええ、ちょっと周囲を異界化させてからマキちゃんたちの回収に行ってきます。」

「では、疾くお行きになってください。ここは大丈夫ですから。」

アキヒロ少年の輪郭がゆらゆらとブレたかと思えば、跡形もなく消え去る。

同時に窓の外が一瞬歪んだようにうさぎは知覚した。

「さあ、少し慌ただしくなってしまいましたが、歓迎会を始めましょうか。」

イタコの暗い雰囲気を打ち消すような声が、うさぎを引き戻した。

『ここがお前の安住の地とならないならば、かの地に呼ばれておるのだろうさ。』

ここに行けるように手配した巫女長の言葉が、うさぎの中で蘇る。

あの暗い雰囲気を出していたモノは、確信は出来ないが楽園の守護者なのだろう。

だからと言って恐怖心が無くなる訳ではないが、ほんの少しだけ、うさぎは彼の幸福を祈った。

 

暗転

 

ゆかりを先頭にマキは走る。

追跡者は目に見える範囲では少数だ。

だが、動きが素人ではないし、装備の質も昨日やってきた名家の分家筋たちのような街に紛れ活動する系統ではないことは一目で判った。

足を止めて迎撃は愚策、これだけの装備を用意できる相手が挟撃や後詰を用意していない訳が無いとマキとゆかりは考え、今は只管に寮へと駆けていた。

ぞわりと二人の肌が粟立った。

走りながら周囲を見れば、何かがおかしい。

そう感じるくらいには違和感があり過ぎる。

しかし、何がおかしいのかが分からない。

周囲に光源が少ないことも災いした。

彼女たちは、彼女たちを追跡する集団ごと、瞬きする間に両者の中間に現れたアキヒロ少年の鏡面領域に呑まれたのだ。

 

追跡者たちは目の前に現れた怪人にすぐさま反応した。

ヘルメットに装着した暗視ゴーグルによって、それが現れたことを彼女たちよりも早くに看破したのだ。

そして散開し、障害の排除を行おうとして味方同士で体当たりをすることになった。

鏡面領域は都度マニュアルで制御を行う必要があるという欠点が実はある。

しかし、その欠点によってその性質は冗長性に富んだものとなっている。

例えば、敵の思考と実際の動きをあべこべにしてしまったりなどは、朝飯前だ。

そして、間髪入れることなく無数の砲撃が如き拳打が降り注ぐ。

####

WARNING!WARNING!WARNING!

Activate:【No.1 魔術師】・【No.2 女教皇】・【No.6 恋人】・【No.7 戦車】・【No.8 力】・【No.12 吊るされた男】・【No.13 死神】・【No.15 悪魔】・【No.16 塔】・【No.18 月】

Status:Reverse 

Activate:【No.21 世界】

WARNING!WARNING!WARNING!

####

激昂はしている、しかしその表情は凪そのもの。

動きは激しくあるのに、敵と定めた者以外への破壊は無い。

正位置の世界、逆位置になった10枚の大アルカナ。

####

GM:実行状況を強制終了!

####

邪悪の樹(クリフォト)が世界に顕現し、根を張る前に上位管理者権限によって強制終了された。

ちょっと待て、上位管理者って誰だ。




Tips∶スート
テキスト
ペルソナ3以降をプレイしていれば馴染み深いかもしれない、(ソード)(ワンド)(カップ)金貨(コイン)各1〜10番まで存在し、小タロットとも呼ばれる。
本システム∶タロットに於いては、まだ到達していない領域を完成(10番)とする事で起動者に加算する方式で強化を行う形式を取っている。
変則的な使い方として、10番を装填し同系スートの5番などを追加装填することで、過剰強化(オーバーブースト)状態を行使することが可能。代償に過剰強化1スートにつき、別スート1つが使用不可能になる。(※非推奨)

Tips∶シンギュラリティグレード
テキスト
本来はシンギュラリティ単体で世界を変えてしまえるとんでも出力だが、現在世界には複数のシンギュラリティの存在が確認されている為、競合回避の為に本機の性能を細分化し性能ランクを下げようと模索した結果生じた規格外細分化ランクである。
もし、ここではない物語に出現した際はグレード1などではなく本来のレアリティ:シンギュラリティ……つまるところ世界を単独で打倒し得る怪物としてあるのだろう。
故に私は、彼を物語を以て縛るのだ。

Tips∶衛生二課(出典∶ジオ・ブリーダーズ)
厚生省内に設置された特殊部隊、この世界では対悪魔・対人間の両方を軍事的な交戦規定に縛られずに行う公務員集団分裂前のDGと言ったところ。
指揮官は覚醒者……剪定事象の度に『入江』という偽名を使うこととガイア連合員であること以外共通点がない人物が配役されている。
装備は概ねガイア連合製実銃群の純正品ないしベースにしたリバース・エンジニアリング品。
本作がガイア連合に関わることを避ける原因的舞台装置。

Tips:分家筋との確執
当初、この地域の本家と分家の対立は『小競り合いはあれど、競い合い高め合う』程度の物でした。
明確に確執が生まれ始めたのは、ガイア連合ホビー部の玩具が霊能力者間の市場に流入が始まった頃です。
最初は、そう……本当に最初の頃は本家側はホビー部の製品にインスピレーションを刺激され独自に研究を重ね術式の効率化を図りました。
分家筋は一部の先進的な思考を持つ若者が積極的に取り入れる方向性でした。
そして、その性能が旧来の術式を凌駕する物であると知れ渡り始めた頃、分家筋が下克上を試みました。
これは使い手の練度不足という根本的な脆さもあり短期間で制圧されることとなりました。
しかし、本家側にも死者・負傷者が多数生まれ地域の霊的勢力図は結果的に分家筋に傾きました。
時系列的にはこの頃、不知火が入り込んだタケヒロ君が出現しました。
紆余曲折ありましたが、アキヒロ少年とタケヒロ君のなんとなくというレベルの微弱な繋がりが彼らの交友関係から現在の……何処かの世界ではVOICEROID・CeVIO等などそんな呼ばれ方をしていた本家側に属する彼・彼女らを呼び寄せ、安全な場所を探していた家の助力もあり寮の建設となりました。
不知火は寮を起点とし、彼・彼女らに外付けの器としてタロットを付けました。
いえ、付けたというのは違いますね。
器となるように機能を拡張したという方が正しいでしょうか。
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