遠い昔の記憶、けれどもとても新しい記憶。
うちは、これを手放さなければいけないのかもしれない。
本当を探して今日も廻る。
琴葉家長女:琴葉 茜視点
あの夢を見た後の朝は『本当探し』の時間だ。
誰が言いだしたかは分からないけれど、いつ頃からか『本当探し』と言われ始めた。
みんながみんな、遠い昔にあったような気がする・・・からこれは自らの『起こり』の記憶と自覚し、では今は何処から与えられたのかと話し合った時、タロットに行きついた。
今のマスターさんは自分をマスターと呼ばせない。
否、自分を誰かの上位に当たる存在としての呼称を使わせないという方が正しい。
隠そうとする気も無い様で、『いつかは自分を越えて行って欲しい。』という始末。
あの人から感じるのは、家族に向ける愛情であって、恋情ではない。
「あら、茜さんですか。おはようございます。」
「ゆかりさん、おはようや。」
タロットカード片手に歩いていたら、ゆかりさんが居た。
ちょっと記憶にない服を着ている。
「あれ、その服、ずんだもんの新作?」
「ええ、キャミソールなんですけどパジャマなんですよね。」
『マキさん、興奮しちゃって』と続く話に目が泳ぐ。
葵とはそういう関係ではないが、そういう関係に持って行こうとする節が葵にはある。
「おはようさん。モーニング・E出来たぞー。」
空気を読まないセイバーさんがモーニングセットを乗せたお盆を持って入ってきた。
「あ、どうも。ではいただきます。」
セイバーさんにタロットを向けるが反応はなし。
出会い頭という幸運は無いようだ。
「それは適当ではなく、己の内面と向き合うのが大事だぞ。」
そう言って頭を撫でられる。
男性特有の匂いもない。
年齢的な油感もない。
生物として存在しているのかと不安になるが、自称蜃気楼の無限存在だからなぁとなる。
「ありがとうな。あ、注文ええか?」
「フリャー・Gだったか?」
「それで頼むで。あ、ご飯は並盛で」
フリャー・G……60㎝エビフライ2本が特徴的な定食。
「あいよー。余計なお世話かもしれんが、いやもう遅いか。」
たぶん、油の摂取量についてのお小言だったのだろうけど、笑顔で見ると諦めたように調理場に行ってもうた。
朝食を食べて、ふと昨晩使った道具の手入れをしていないことに気づき手入れをする為に地下へ降りる。
地下3階、射撃場に入ると龍星さんが三点バースト仕様のデザートイーグルを撃っていた。
覚醒した人間を相手にした場合、個人差はあるがレベル1程度でも熊並を想定するようにと言われる。あの拳銃はそれをより強く実感させてくれる。
何せ強力な50口径のAE弾を3連射するトンデモ拳銃なのだ。
普通の人間なら大怪我は必至な代物の反動を抑え込んで的を破壊する。
どう考えても人間にはオーバーキルな代物。
せやけど、うちらはこういうレベルの兵器を持つことを常にしとる。
っと、こっちはモルグやったな……仏さんはあんまし見とない。
いうて、死体に悪魔が降りてグールとかゾンビになる前に超高温で火葬処理されとるだけやけど。
更に下へ降りると、無数の不知火さんが所狭しと走り回る製造区画。
タロット片手に念じる。
細い糸のような繋がりを感じる。
だけど、そこで辿ろうとしてはすぐ切れてしまうだろう。
それだけ繋がりが薄いのだ、関わったことがないのだ。
幅広の台車が余裕をもって4台はすれ違える程に広い主通路、タロットが示す繋がりは壁を通り抜け右へ左へと忙しなく動き続ける。
「すまねぇ、OCP一式頼む。」
腰巻を付けた不知火さんが入ってくる。
「腰巻ぃ?!」
「おっと年頃の嬢ちゃんの前ですまんな。」
「中国の嬢ちゃんか。服って括りなら材質無関係なんだな。」
「らしいな。プラスチールウィーブを持ってかれるとは思わんかったわ。」
HAHAHAと擬音語が付きそうなテンションで笑い合う二人の不知火さん。
うち的にはドン引きなんやけど、ここ更衣室とか無いからなぁ。
(クイックイッ、スー、サッサッ)
「ハンドサイン?」
階段の方に居た不知火さんがなんかハンドサインをやっているのを見ていると、気づけば周りに居た不知火さんが全員消えとる……。
「おねえちゃん!見つけた!」
葵ちゃんが駆け下りてきた。
葵ちゃん、男性不信やからなぁ。
見た目が女性なカーペンターさんとかなら、まだ平気な部類やけども、ここに居た不知火さんらは全員男性型やったし。
「そういや、葵ちゃんはなんでそんな」
「いいから、学校遅れるよ?!」
言われて思い出す。
そうや、今日は休みやない……と。
side out
とことこと通学路を歩く琴葉姉妹、寮を出て十数分経った頃……茜が塀に手を付き深い溜息を一つ。
「やっぱ、不知火さん軍団を朝から見るんは辛いわ。」
「え、不知火さん軍団?」
「ああ、葵ちゃんは見たことないんやったね。
B5に詰めてる不知火さん達のこと。」
「なにそれ。」
「男性不信の人が来たら、クローク使ったりで隠れとるんよ。」
「うわぁ、無駄な気遣い。」
葵が心底どうでも良さそうな顔で呟く。
いつの時代も個人の認識と周囲の認識に差が出るのは仕方がない。
「葵ちゃん、葵ちゃんが思ってるより明らかに差があるんよ?」
姉からのツッコミが突き刺さる。
「だ、大丈夫だよ。昔みたいに悲鳴あげたりしないもん。」
「悲鳴あげんくなっただけで、固まったり反応遅れたりしとるやん。」
姉妹のじゃれ合いをすれ違う人々は、いつもの事かと微笑ましげだ。
一部を除いて、だが。
「お嬢、少しよろしいでしょうか?」
その一部が姉妹に話しかける。
「松東さん?お久しぶりです。なんでしょうか?」
「当主様からの言伝です。『学校終わりに本家に顔を出して欲しい。』とのことです。」
松東(しょうとう)と呼ばれた青年が用件を伝える。
「分かりました。何人か連れて行ってもよろしいでしょうか?
何分、先日襲撃が起きたばかりなので、寮長から固まって動くようにとの事なので。」
「人数については特に指定されていませんからね。
こちらからもそのように言っていたと報告させていただきます。」
「では、放課後に。」
松東と分かれ、少し歩き板状の携帯端末・・・転生者が見ればスマートフォンと認識する物を取り出す。
『はい、CP笠尾美です。』
「あ、笠尾美さん?茜です。
放課後におとんに呼ばれまして、何人かを借りたいのですけど、空いてる人居ます?」
『えーっと、高橋くんと鈴木さんが同じくらいの時間帯になりそうですから、こちらで調整してみます。
もう一人……アサルト15が動けますね。』
「あー、アサルト中隊の人ですか?」
『ええ、装甲殺し系統ですね。』
「……分かりました。お願いします。」
逡巡したが、結局最大限に備えようと思い茜は決断する。
装甲殺し、今朝方射撃訓練用レーンで青島龍星が使用していた三点バースト機構付きデザートイーグルを更に先鋭化しストライクガン化を施し、弾薬を50AE弾ハイパワーとした怪物銃器の使い手である。
当人は単独でも戦車を破壊できるとまで言い切ったが、それが事実か見栄かと聞かれると茜を含め不知火とは何かを朧気ながら知っている者は閉口するしかない存在の一つだ。
何事もなく(予め不知火たちが調べた、ガイア連合構成員リストにある者からのちょっかいは含まない。)放課後になり、姉妹は高橋アマト・鈴木つづみ・アサルト15こと佐伯秀樹(偽名)達と合流し実家を目指した。
旧家の縄張りであっても、ガイア連合関連の物を見ないことは少ない。
あくまで表に普通に置けるものに限ってではあるが。
一つ路地に入れば、出張所があったりするくらいには、旧家の縄張りとは形程度にしか残っていないことが感じられる。
路地を歩く人々は既にカタギの人間ではなく、祓魔師やデビルサマナーと言ったその界隈の人間が視界の大半を占める。
薄っすらとしたスーツ姿の男性とすれ違う一行、隣り合わせの
「ここだ。」
佐伯が一見何の変哲もない雑居ビルの前で立ち止まると、受付に向かい二言三言会話し手招きする。
それぞれが数分も経たない間に、2Way仕様のハンドバッグを持ってビルを出た。
「琴葉さん、なにか騒がしいわ。」
雑居ビルを出て数分、鈴木つづみがそんなことを茜の囁く。
「さっきから、妙にカタギじゃない人が目につくね。」
高橋アマトが周囲に目をやりながら同調する。
茜と葵が周囲をよく見れば、確かに以前よりも退魔師……ではない。
腕に機械を付けていたり、ガイアフォンを持っていたりとサマナーが多くいることに2人は気づく。
「なあ、葵……うちの周り、こんな人おったか?」
「いなかったよ。界隈的には落ち目だもの。」
困惑する2人や警戒する2人を他所に、佐伯はバッグから装備を取り出し身に着け始める。
1名の空気を無視した挙動に対し、周囲のサマナー達に緊張が走る。
「待って?佐伯さん、それ使うん?」
茜はサマナー達とは別の物に対して慄き問いかける。
「念の為、ですよ。」
デザートイーグル2丁とキャリコM950を取り出した佐伯はぶっきらぼうに、それを腰のホルスターと胸のサスペンダーに吊り下げたホルスターに挿し込む。
「あ、ちょっと」
門に触れるより先に潜り戸が開く。
「いらっしゃいませ、茜お嬢様のお連れのがっ」
潜り戸が開いた時には既にデザートイーグルを引き抜き、顔を出した松東を地面に押し付けるように頸部を起点に叩きつける。
茜達が静止する暇もなく、発砲。
轟音が弾け、土埃が舞い上がり、
「し、松東さん?!って、誰?!」
自らの言葉に疑問を呈する茜、言葉にしてから、否、破壊されてからその人物が己の知己ではないという認識が追い付いた。
そして、ここがそもそも実家でもない事にも。
「やっと、気が付いたかしら?」
「特定のワードだけ阻害されてた感じだったからね。
申し訳ないけど、ショック療法をお願いしたんだ。」
そんな声に振り向けば、高橋と鈴木の周りで頽れるサマナー達……ではない、首を撥ね飛ばされ、心臓を刺し貫かれ等々、死の概念を叩きこまれた異形の骸の山がそこにあった。
「お、お嬢……さ、ま。いらっしゃいませぇぇぇ。」
そんな声のする方向に茜が向き直る。
俯き表情は窺えないが、震える肩は怒りか悲しみか。
学生服の胸ポケットから、タロットカードがぼうっと光ながら浮かび上がる。
カードはゆっくりと燃えるように姿を変えていく。
【No.7 戦車】が【No.8 力】へと姿を変える。
「嘗めくさりよって……。
これ考えたのは何処のヘボや。」
怒りが【No.8】に伝播し、それが茜に纏わりつく。
「どつき倒したるわ!」
激情が発露し、茜の頭に狐か狼か、三角の耳が生え、腰からは犬系統の尻尾が3本生える。
スカートに変化がない辺り、この尻尾は物質に影響を与えない霊的な性質のものであると思われた。
「お、お姉ちゃん……。」
「お、おおう?葵どしたん?」
そんな茜は背後から葵に飛びつかれ困惑顔になっていた。
Tips:琴葉 茜(当異界)
琴葉家8代目当主・琴葉
両親からは次女・葵共々寮に入っていると認識されている。
代々巫術師の家系。
日本全体で見れば巫術の適性は高いが、現代では本編でも示唆されている通り日本のオカルト系は壊滅状態である為に独自流派化し新興とはいえれっきとした術体系と霊的技術を持つガイア連合の足元にも及ばないと言える。
不知火との出会いは、姉妹で偶然異界に呑まれた折、武広と行動していた当時は本当に蜃気楼と呼べる状態の頃と、この時代では割と古い分類がされる。
低反動のビームアサルトライフルをメインアームとし、現代では否定されている神代文字を用いた札をサブアーム1、短刀をサブアーム2としている。
神代文字が駆動している原因は、言うまでもなく不知火である。
蜃気楼として定義されたにも拘らず、蜃気楼の条件を無視してそこら中に居るのだから神代文字くらいは機能を取り戻してしまうだろう。
『【No.8 力】:怒れる力がなんか変な作用をしたようだね。他意はないです。』などと供述している。
Tips:旅人
【No.0 愚者】に至る為に与えられた力を返納する為、己の影に当たる不知火を探すこの寮の住人の通称。
Tips:デザートイーグル(三点バースト仕様)
最大で50AE弾(12.7×33mm弾)を使用可能な大口径拳銃に三点バーストを搭載した覚醒者専用小火器。
非覚醒者でもパワードスーツなどを着用すれば使えないこともないが、推奨はされない。
本文中にも登場しているが、ストライクガン化した本銃で補遺弾薬を用いる危険個体は少なくとも2個小隊規模で存在する。
補足:ストライクガン化
悪魔に対して、射撃攻撃の効率が悪いという検証結果に対して考案された対抗案。
対抗案:ストライクフェイスによる打撃性質を用いた射撃攻撃への打撃属性の付与を参照
射程がゼロ距離になるデメリットがあるものの、50AEハイパワー弾の初速は1125m/sにも達し、その圧倒的な破壊力は速やかな目標撃破が可能になった。
50AEハイパワー弾の反動制御は各人任意の制御策を実行されたし。
50AE弾時:攻撃力50
50AEハイパワー時:攻撃力312
.44マグナム時:攻撃力44
補遺:50AE ハイパワー
デザートイーグルの専用弾薬である50AE弾を、強装弾化した規格外弾薬モジュール。
使用する際には、銃本体もプラスチール以上の材質の物を使用することが推奨される。
検証:初速2.5倍、反動15.6倍、威力6.25倍、射程2倍。
反動が強力過ぎて、タロットで底上げされた身体能力を以てしても手首を痛めてしまうロマン極振り弾薬。
もっとも、これを使う連中は高速再生・治癒でゴリ押すか肉体強度が常識的な覚醒者の十数倍高かったりするのであるが。(Saberに龍の因子ぶち込んだマッドは何考えてたんだろうね。)
Tips:キャリコM950(不知火仕様)
9×19㎜弾モデルをベースに口径拡張・