【カオ転三次】旅する者   作:ユズ猪肉

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ナレーター
「長々とした説明なので、裏側や周囲に興味がないなら読み飛ばしていいですよ。」


夜に消える。(蛇足)

ここ最近の不知火の様子を見てみよう。

今、不知火が入っているのは青島武広という青年の肉体だ。

この武広くん、実はもう死んでいる。

あれは、偽アザトース事件以前……この世界に入り込んだ俺が不知火に意識を分けた頃まで遡るが、あの頃ムーンビーストに拷問されて死んでいた武広くんがそこに丁度あったので再利用させてもらった次第。

しかし、遠すぎた。

そして、多すぎた。

関知し得ない距離で異変は起こり、異変に関わるツールを所持しておらず、何より命の危機が多すぎた。

何もわからぬまま、危険を排除し、営みを守り、そして破局を目の当たりにした。

気付けば違う肉体に入って、インストーラーを手にし、あの少年の因果を捻じ曲げ、再び今を生きている。

なんという身勝手かと不知火は思う。

正された世界で、不知火が成したことを知るのは当人と私“たち”しかいない。

接続し直された世界には、異界の一事象に過ぎないのだから。

家のごたごたを終わらせ、財布を上着のポケットへ無造作に突っ込み街へと歩き出す。

 

犬も歩けば棒に当たる、そんな私はことわざを思い出す。

いつものことではあるが、歩き出すと途端に死が迫ってくるなこいつ。

誰かの危機を手繰り寄せているのか、そんなことは関係ないとこいつはずんずんと進む。

人払いの結界を気に留めることなく素通りし、姿が変わる。

カボチャ頭のライダースーツを纏う怪人の姿へと。

この町に在って、その姿を知らぬ裏の者はいない。

ずんずんと、戦いの中を征く。

人と怪異、双方から縦横無尽に飛び交う砲火をするりするりと通り抜け、視認した危機迫る者に迫る危機を横合いから無造作に殴りつける。

着弾から数拍遅れて音が、衝撃波が危機を危機として扱うことなどなく周囲を蹂躙する。

突然の荒天が過ぎる頃には、怪人も怪異も姿を消し赤黒く染まった世界に静寂が満ちる。

 

「あー、びっくりした。

 射線が被ったくらいで納得してくれないかなぁ。」

 

殴りつけたのは、死の運命だった。

ただの怪異だということで流れて欲しいと願うような声色だった。

ここに立ち寄ったのはある種の既定路線なのだろう。

ガイア連合は別口かもしれないが、名家は占星術で、不知火はつい十数分前に頭に叩き込まれた不吉の予感で。

死者が出る、これだけでもこの異常事態下に於いては面倒極まりないのだが、可能性の話としてだがガイア連合は……現地人と敢えて表記するがこの手のあまり有用と感じないところの死はあまり重要視しないフシがある。

 

「結果としては、まぁまぁの筈なんだがなぁ。」

 

思考が移り変わりやすいのが不知火の欠点だ。

危機への対処と日常が混在しすぎているのだろう。

 

「射線が被る、かぁ……あ。」

 

ふと、不知火の脳裏に疑点が浮かぶ。

彼女らが現時点であの事件当時の能力を保持していない可能性だ。

アレは結局のところ、アザトースの夢という権能を介した未来予測でしかない。

偽物であっても本質が違ってもアザトースであれば発現する権能だった筈と、古い記憶を探り続ける。

不知火は不知火で、本来の不知火以外の何かが混ざっているのはタロットを例に置いても分かりきっていることだ。

では、現状発現していない事を前提にして不知火は今回の件を予測で組み立てる。

1.死者が出る、これは名家にも当て嵌まる。

名家の現状戦力ではガイア連合の道具で底上げしなければ、相応の被害が予想されるだろう。

放置すれば民間人に、対処に当たった場合は処置が遅れればといったところか。

1に対して名家とガイア連合が対処に出たと仮定した場合、おそらく1は回避できた可能性が高い。

なら、不知火の頭に叩き込まれた不吉の予感は何だったのか。

これも憶測であるが、1を現実にするための因果律であると思われる。

怪異を捉える能力が未発現の人間を使ったトラップだったのだろう。

もしかしたら、名家は研修くらいの感覚で連れてくる程度の因果律干渉を受けた可能性がある。

 

「状況更新、アフターケアを開始する。」

 

不知火の思考が危機の徹底的な打破へと切り替わる。

手遅れである事を前提とした行動でしかないことは重々承知し、ここから数日、警察との不審者チェイスが度々発生することとなる。

 

 

 

1991年11月15日

最近、硝煙の臭いを体の芯から漂わせている不審者が居ることに不知火は気付く。

見た目武器を携行しているようには見えないが、ガイア連合の人間だと仮定するならばあり得ない話ではない為、顔を記憶し要警戒タグを付けて分割思考領域に投げる。

バイオ液化燃料と先進コンポーネント、プラスチールの製造が物資的に可能になり不知火がどうにかこうにか頑張って買った一軒家は、限定的ながら不知火に混ざったものたちがかつて営んでいたコロニーの様相を呈している。

あくまで一人で回せる範囲に留めているが、それでもモノ(作業台)は増えていく。

ビームアサルトライフルは作ったものの、どうにも精錬・鍛造・研ぎが納得いかず金属バットくらいしか棒状の物は作れていないのが現状である。

知識を引っ張り出して無理矢理西暦5500年代の技術を現代で使えるように、元々リバースエンジニアリングした物を更に1900年代の技術でリバースエンジニアリングするのは勉学が苦手な部類に入る不知火の心が折れかけていたが、どうにかこれを達成した訳だ。

下準備の為の下準備の為の下準備を繰り返すこと3か月、武広の父母に心配されるくらいには昼夜を問わず作業を続けていた訳であるが、市街地で発砲音を響かせる訳にはいかないという騒音問題に対する常識的意識でビームアサルトライフルを作った為、異界に潜って紲星や結月といった話を何とか通した家経由での珍品屋に買い取ってもらって溜め込んだ備蓄は底をついた。

 

ザ・SFな音を響き渡らせながら、暗闇を真っ直ぐ過ぎる雷光が奔るる。

かつて太郎坊モドキが裏に居を構えていた異界は、魔を払うどころか風穴を開け焼き尽くす光によって蹂躙された。

天使ではない、科学だ。

しかし、純粋に科学と言えるかは怪しくなっている。

怪異を撃ち抜き、焼き尽くす。

これだけでも、現在の魔祓いからは異常言われる。

だが、扱う側からは異常とは思われていない。

手の届く場所だからこそ最大の威力が出るというのならば、視認して手を振るよりも早く直線で結べるこれが弱い訳がないだろう。

そんな顔をしていた不知火に向けられたのは、不可解の視線のみ。

ちなみに、ビームアサルトライフル……核属性かと思いきや万能属性になってしまっている。

「・・・」

不知火が目を剥く。

「わ、笑いたければ笑え。」

戦慄き絞り出すような声。

「どう、何が……この気配は……香香背男殿か?」

不知火も不知火で慄いている。

「ふ、ふは、ははは……。目が覚めたら、こんな姿に……な。」

香香背男、またの名を天津甕星。

日本における、星の神である。

「ごほ、いや、なんというか……琴葉さんちのお嬢さんに似てるな。

 いや、笑うとかはせんよ?俺も女性の中で顕現するとかあり得るし。」

「なに?このような姿に似た娘がいると?」

「何処かで概念的な何かが混ざったのかもしれませんね。」

調子を取り戻し始めよくある事のように流す不知火を香香背男が締め上げようとするものの、体格差による筋力の違いが如実に表れ胸倉を掴むくらいで止まる。

「失礼します。お取り込み中でしたか?」

「わぁ、ここもかあ。」

「おや、結月と紲星のお嬢さん方か。いらっしゃい。

 この人関連かな?」

落ち着き払った様子で入って来たのは、結月と紲星のお嬢さんたちだ。

問いに目が泳いでいるから、隠せてはいないが表層を落ち着かせているだけでも大したものだと不知火は思う。

「ここもと言うと、他にも出てるのか。」

「主に、茜ちゃんのところですが。」

「行くの怖くなってきたな。」

惨状の詳細を想像できなくなり、不知火は恐怖を覚える。

 

「うわぁ……。」

琴葉家…否、通称∶寮に到着した不知火は開幕頭を抱えた。

ここは今、琴葉家長女琴葉茜が複数存在するという珍事に見舞われていた。

頭を抱えたのは、原因の一端に己に内蔵された異能が関わっていると確信したからだ。

タロットとは本質を表すと同時に、多数の側面を内包している。

この珍事を増殖と呼称しよう。

この増殖は、何らかの理由で独り歩きしたタロットによる側面の召喚だと不知火は直感で判断した。

そして、見覚えはないが気配だけは面影のある背中を見た。

「そうか、あの枝豆の子は出立したのか。」

土地柄、自身の異能、遠い昔の記憶、思い出しては結合し、起こった事実を淡々と補強していく。

混ざった何処かの標が連れてきた、消えかけの命。

居つける場所が出来たら離れるという、約束未満の契りのもと、今の今まで忘れていた。

バックアップに入っていたタロットは、【No.5 法王(ハイエロファント)】。

長き時を生きてきたのか、はたまた成熟的な意味かは知り得ないが彼女は年長としての知性と礼節を備えていた。

そしたら、対応タロットが勝手にサポートに入っていた。

不知火が目を凝らせば、視界に居る者たちから自分のタロットの存在を視る事が出来た。

自身以外のタロットの気配がするが、おそらく明宏少年に居ついたタロットだろうと考える。

「ちょっと、外出てきますよ。」

「え?あ、はい。」

回れ右して外に出ると、寮を見上げため息を吐く。

この寮は、最初は彼・彼女たちの境遇の細を知り気を抜けるように整備した場所だ。

いつの間にか住み始めた一部を皮切りに、次から次へと越して来るものだから、今なお増改築を繰り返しており、ダイニングキッチンが6つ出来ている事くらいは確認出来たが、管理は不知火の手をほぼ離れた物件と化している。

本拠点が手狭になった原因の一つだが、不知火は特に気にした様子も見せない。

ただ、彼・彼女らの隙間を埋める手伝いをしているくらいの感覚だ。

彼・彼女らが会話の端々で出すマスターという隙間は補完できないという諦め、罪の意識の表れでもあるかもしれないが。

 

/////////

「はぁ、たまには頼ってくれてもいいと思うんですけどね。」

結月ゆかりはため息をつく。

「あはは、あっくんもそうですけど抱え込む以前に分別されてるみたいですからねぇ。」

ため息とともに漏れた愚痴に紲星あかりが合いの手を入れ同調する。

彼女たち、否…寮に住まう者たちは不知火にもアキヒロにも明かしていない事柄がいくつかある。

その一つをここに開示しよう。

彼女たちは、タロットを認識している。

その延長によってタロット同士の縁を認識し、完成には遠くもある程度のステータスを得ている。

それこそ、神話生物と渡り合える程度には。

そんな彼女たちが不知火のステータス開示をすると、こんな表示がされる。

【シンギュラリティ∶グレード1 不知火夜明男】と。

以下スキルが羅列されるが、これは後書きにでも回しておこう。

「ねぇ、なんかタケさん茜ちゃんに絞められてたけど。」

「彼女、名のある神格なんですよ。何の因果か茜ちゃんの姿被せられたみたいで。」

「あーなるほど、原因がタケさんにあるって判って絞めてるんだ……。でも、大人しすぎない?タロウくんの時、お腹見せるまで威圧したよね。」

弦巻マキが事情を大雑把に悟りながらフライパンを振る。

両名は「あー、」という顔をして数週間前の聖獣・ハヤタロウ降参事件を思い出した。

厨房は激戦区なれど、とても平和だった。

なお、タケさんとは言わずもがな現不知火の肉体の愛称である。

/////////

「このまま捩じ切られるか、疾く戻すか選べ。」

「神の概念ってそうそう曲げられるもんではないし、どっかで専門の術者でも生まれてるのでは?」

先程よりも勢いがある絞められ方をしているが、不知火はどこ吹く風。

実際、こいつ自身は肉体がどんな状態になろうと極限環境下でも生存可能な為、この変わり用のなさは特段不思議な事ではない。

人に非ずとはそういうことだ。

人の思考をしていない、性質を帯びていない、模倣しているに過ぎない、故に非ず。

人としても魔としても怪異としても定義されなかったモノに、何処かで作られたモノが混ざった。

故に、不知火は人を模倣し魔を、怪異を、人に仇なすモノを打ち倒す。

世界の敵の敵であれ、人の心壊すをモノ(世界の敵)の敵であれ、誰かの哀しみを癒すモノであれ、痛みの風を遮るモノであれ。

どれだけ道化のような配役であろうと、根底は変わらない。

標たれ、破壊者たれ、姿見えずとも支えであれ。

「やろうと思えば、元の姿に戻る事も出来るでしょうに。」

「我も神だ。願いを無碍にする気はない。

 原因が分かっていることに関しては別だがな。」

さあ、疾く戻せと霜月の青空に声が木霊する。




蛇足書いてる時がなんか楽しかった。
メインは主観なんですけどね。

Tips:寮
テキスト
ボイロ寮とかボイボ寮とかちぇびお寮とか問わず、女子寮と男子寮で居住空間は分けられているが、使われていない家族部屋なども作られている。
共有スペースが建物全体の7割ほどあり庭付き、敷地面積は約7.5平方㎞ほどある。
どこにそんな土地があったんだという疑問は、不知火をして名家怖ぇなあという感想になった。
名家の修練施設なども建設されており、悪魔と式神と人間がほぼ無尽蔵に投入され、リムワールド入植者流の高強度高速建築技術を用いる不知火が割と洒落にならない速度で建築を担当した。

Tips∶ハヤタロウ降参事件
テキスト
寮が出来てしばらくした頃、引っ越し組が霊視による霊的な点検をしていた時それは現れた。
自らを信濃の光前寺で飼われていた山犬の早太郎とする、ハヤタロウが床下から這い出てきたのだ。
床下に収まるとは思えない巨大な犬の登場に現場はパニック。
パルスレーザーの試射実験をしていた不知火が引っ張り出されて、本拠の一角(鉄筋コンクリート造)がエネルギー供給の不備で爆発した。
聴取の結果、寮自体光前寺とはなんの縁もない為霊的力場に触発され限定的状況を解釈して現れた雑な再現怪異であると判断、不知火がピンポイントで殺気塗れの霊的威圧(サイキック・コールド)を投射。
ハヤタロウは徐々に強く激しくなる圧力に耐えきれず腹を見せた。
現在は、寮の番犬としてタロウという名で柴犬程度の大きさにリデザインされて就役している。

Tips:【シンギュラリティ∶グレード1 不知火夜明男】
テキスト
人に非ず、怪異に非ず、魔に非ず、神に非ず、暗き海に灯る(おか)への標なり
概要
タロットを通して、不知火夜明男を端的に表そうと表層を読み取った結果、なんか物凄いレアキャラという風に脳が理解するとこの表示になる。
あくまでタロットを通した一側面を見ているに過ぎない、タロット自体が論理トラップとして機能している側面を持っている。
以下【蛇足時に開示されたステータス】
  名前:青島 武広
 レベル:ー
覚醒状態:半覚醒
スキル
俺を()んだか?
効果:名を呼ぶものが助けを願った時、その場に召喚される。(自動発動)
鉄拳制裁だ
効果:武器を装備していないことを条件として繰り出される防御無視・耐性貫通打撃。
飛べよ。
効果:強力な蹴り。地対空時、威力上昇。空対空時、連続攻撃からの鉄拳制裁に力・速を参照して1d100のCON対抗派生。
コンバットアクション
効果:フリーアクション/与ダメージ上昇・体勢崩し補正・連続攻撃判定補正
寸勁
効果:フリーアクション/与ダメージ上昇・貫通属性付与・関節・骨格破壊付与
鎌鼬:片手で扱える刃物を近接戦闘時に併用
効果:フリーアクション/与ダメージ上昇・斬撃属性付与・出血・大出血付与
魔力付与
効果:パッシブ/近接戦闘時魔力を付与することで打撃透過を無効化する。
超常存在系神経伝達
効果:パッシブ/打撃・斬撃・銃撃・魔法、その他自然災害含む物質・霊的領域下での回避行動時300%の値を乗算。
支援機能
タロットLv3 起動中
効果∶メインタロット1種、サブタロット3種をキャストにセットアップし、強化する。
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