Re:ゼロから始める陰の実力者になりたい異世界生活 作:零月隼人
ミドガル王国、王都。
ミツゴシ商会屋上の邸宅の一室にて、シャドウガーデン・七陰のイータを除いた六人が、意気消沈としていた。
先日のオリアナ王国での一件で、彼女らの主・シャドウの消息が途絶えた。それは、自分達を救ってくれた救世主にして、組織の象徴を失ったと同義だ。
同じく現場にいた559番を除く、ナンバーズ並びにその他構成員にはこの事実を伏せているが、いつ情報が漏れるか分からない。組織の混乱は必至だ。
何より・・・・・・自分達ですら、この現実を受け入れられていないのに。
「シャドウ様・・・・・・なぜベータを、置いていってしまわれたのですか・・・・・・」
「ボスぅ・・・・・・」
アルファが嘆息した。
「シャドウ・・・・・・一体どこに、行ってしまったのよ・・・・・・?」
ルグニカ王都の盗品蔵の店での戦いの後。
気絶したフリをしていた僕は、王都からかなり離れた辺境の屋敷へと運びこまれた。
そこは打って変わって、森林や小さな村に囲まれるという、日本出身の僕からしたらザ・田舎といった場所だった。
しかし、屋敷はその地に似合わず豪勢だ。
少し、カゲノー男爵家にも似た雰囲気を感じ取り、親近感が湧く。
そして、僕は数多ある部屋のうちの一つのベッドまで運びこまれる・・・・・・
しばらくたった後。
僕は、今目覚めたばっかりのフリをしながら、体を起こした。
横から女の子達の声が聞こえる。
「あら、目覚めましたね、姉さま。」
「そうね、目覚めたわね、レム。」
左を見ると、よく似た顔のメイド少女が二人、控えていた。
僕はぼーとした様子で彼女らを見つめる。
「大変ですよ、今お客様の頭の中で卑わいな辱めを受けています、姉さまが。」
「大変だわ、今お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ、レムが。」
「そんな妄想しないよ。」
そういう感情は、とっくの昔に捨て去った。
━━━ふと、彼女らを見て、七陰のみんなのことを思い出した。
アルファとかベータとか、今ごろどうしているだろうか。
僕のこと心配してたりするのかな?
・・・・・・いや、それはないな。彼女らはいつも通り、ミツゴシの運営を続けているだけだろう。
そんなことを考えながら、僕は二人のメイドの間を通り、この部屋を出た。
歩いて、屋敷の中を探索する。
うん、さすがは貴族のお屋敷だ。廊下まで豪勢なつくりとなっている。
壁の照明、額縁の絵画、紅の絨毯。
かなり凝ったつくりだ。
これはひょっとして・・・・・・地下に金銀財宝とか、埋蔵金とかがあったりして⁉
もしそうなら、貰い受けたいな、全て。
部屋の中のつくりはどうなっているんだろう?
僕は気になって、徐に一室のドアを開けた。
そこには金銀財宝・・・・・・ではなく、金髪の幼女が座っていた。
「なんて心の底から腹立たしいやつなのかしら。」
僕は肩を竦める。
「人の顔を見るなり失礼な子だね。」
そう言いながら、僕はその幼女を観察する。
う~ん、強さはそこそこかな。サテラよりは強いけど、パックには届かない感じ。
まあ、七陰で言うと、アルファ以外であれば、そこそこ苦戦しそうだ。
僕は幼女を無視して、中に入る。
「へぇ、これはすごい、ものすごい量の本だ。」
中は、巨大な図書館のような、本棚に溢れていた。
(陰の実力者演出の時に使えそうだな。ひと本棚分くらい拝借しよう。)
「ちょっと!ベティを無視するんじゃないかしらッ‼」
(本の中身は・・・・・・ああー、日本とも、ミドガルとも文字が違う。これを解読するのは無理だな。)
「ぐぬぬ・・・なのよ・・・」
(しかしこの書斎、さすがに大貴族のお屋敷なだけあるなあ。)
徐々に、背後の幼女の怒りボルテージが上がってきたように感じる。
そしてついに彼女は、掌を上に掲げ、魔法を発動させた。
「ミーニャ。
時の静止したマナの矢。存分に味わうがいいかしら。」
あぶッ!
幼女の直上に紫色の物体が出現し、僕に向かって飛んできた。
僕はギリギリで交わすも、幼女は次の矢を用意している。
「ちょっと、待ってくれよ!僕はご覧の通り、どこにでもいるモブ学生だぜ?」
「冗談はそのまぬけ面を晒した顔だけにするかしら。」
さらに矢が複数、僕のまわりを掠める。
この幼女、この見た目でやってること狂犬じゃないか!
「年季の差なのよ。そのまま砕け散るがいいかしら。」
さらに追撃が飛んでくる。
僕は魔法を避けながら、慌ててドアの外へと飛び出した。
「うわッ」
「キャッ」
勢いよくドアを飛び出したからか、廊下で誰かにぶつかっていた。
イテテ・・・・・・
僕は頭を抱えながら前を見ると、そこには銀髪の少女・サテラが、同じように倒れていた。
サテラが僕を見ると、頬を膨らませる。
「もう!もうちょっと、大人しく部屋から出られなかったの?」
「・・・・・・はいはい、悪かったね、サテラ。」
すると、サテラは一瞬顔を顰めたが、やがてふうっと一息ついた後、言った。
「そういえば!本当の名前を言うのを忘れてたわね。サテラっていうのは偽名、有名な魔女の名前だから、気づいていると思っていたけれど・・・・・・
私の本当の名前は、エミリア。ただの、エミリア。
・・・・・・貴方の名前も、聞いていなかったわよね?」
そういえば、名乗っていなかったか。
僕も自己紹介を返す。
「僕の名前はシド・カゲノー。よろしくね、サテラ。」
「―ッ‼」
僕は氷漬けにされた。
サテラが去った後、こっそり氷漬けを溶解して、僕は元いた部屋に戻っていた。
そして、こっそりと盗んできた、図書館幼女が大事そうに抱えていた本を手に取り、読んでいた。
まあ、この世界の文字は読めないから、読んでるフリだけどね。
すると、ノックがなされ、扉から姉様と呼ばれたピンク髪メイドと、レムと呼ばれた青髪メイドが入ってきた。
僕が首を傾げて聞く。
「ん?二人ともどうかしたの?」
すると、二人は口を揃えて言った。
「「お客様、当主 ロズワール様がお戻りになられました。どうか食卓へ。」」
どうやら、また物語が動きそうだ。
姉様とレムに案内された部屋は、さっきまでの寝室より一際大きい食卓だった。
そして、中には先客がいた。
「―ッ⁉お前‼ベティの本を返すかしらッ‼あの本は・・・あの本は・・・‼」
先ほど図書館のような場所で出会った、金髪幼女だった。
どうやら、こっそり一冊盗んでたことがバレていたようだ。
しかもその本は、彼女の地雷に触れるレベルの、大切な本だったようだ。
僕は、声色を変え、厨二風に言う。
「我が故郷には、有名な格言がある。
━━━お前の物は俺のもの、俺のものは俺のもの、とな・・・・・・」
「エル・ミーニャ‼」
「あぶッ!」
僕はまたしても、ギリギリのところで紫の魔法矢を避けた。
この幼女・・・・・・やっぱり狂犬すぎるぞ‼
そして、後ろからもう一人やってくる。
「ちょっとベアトリス、朝から騒がしいわよ・・・・・・って、貴方⁉」
「やあサテラ、とりあえずこの金髪幼女を止めてくれないか?」
「―ッ‼ッ‼」
なんでだよッ‼
僕は巨大な氷魔法を、なんとか避ける。
狂犬二人目だよ・・・・・・
後ろのメイドは無関心。頼む、ここの使用人なら二人を止めてくれ。
そこへ、さらにもう一人やってくる。
「おーやぁー?エミリアさまに、ベアトリスまでそんなに怒って、一体どうしたんだーね?
久々の皆での食事だといーうのに、剣呑じゃなーいの?」
そこにいたのは、ピエロだった。
双子メイドに、幼女、少女ときて、最後ピエロとは、なかなか愉快な屋敷じゃないか。
「ちょっとそこのピエロさん!頼むからこの二人を宥めてくれないかい!!??」
「いいとーも。なにせ私がこの屋敷の当主━━ロズワール・L・メイザースだーからね。」
当主だった。
そこからの三すくみの激戦は、手に汗握るものであった。
ロズワールvsベアトリスvsパック&サテラ。
サテラはすぐについていけなくなりリタイヤしてしまったものの、残り三者の決戦は、各々一歩も譲らず、辺り一帯に破壊と絶望をまき散らした。
戦いの様相を見るに、おそらくベアトリスも精霊だね。ロズワールだけが人間だ。
この当主様、”人間の中では”最強クラスなんじゃないか?
僕もシャドウの姿で参加しようか迷ったんだけど・・・・・・今回はパス。まだ日中だからね。
いつか、この内の誰かと、相まみえることがあるのだろうか?
やがて、なぜかベアトリスとパックが協力し、2対1の構図となった。
困り果てたロズワールは、座りこんでいたサテラに火の魔法をぶっ放し、パックを防御に回らせ、その隙にベアトリスを羽交い締めにして抑え付けた。
これにより、戦いは収束する。
この騒動により、屋敷が半壊した。
なんとか皆落ち着いたようなので、朝食が始まった。
しかし、依然として空気が重い。
全く、こんな朝っぱらからいがみ合うなんて、どうかしてるよ。
ロズワールだけは、意気揚々としている。
「まったく、シド君には迷惑をかーけたね。エミリア様もベアトリスも、普段からそんな血気盛んな性格じゃなーいんだけども。」
ほんと、困ったものだよ。
・・・・・・って、エミリア様?
なんで屋敷の主が、サテラのことを様付けで呼ぶのだろう?
僕の表情を察してか、ロズワールは言葉を続ける。
「エミリア様は私より、地位が高いのだーよ。自分より地位の高い方を敬称で呼ぶのは当然だーね。」
?
僕がサテラの方を見ると、しばらく僕を睨んだ後、嫌々ながらも、教えてくれた。
「・・・・・・今の私の肩書きは、ルグニカ国王42代目の王候補の1人。ロズワール辺境伯は、私の後ろ立てよ。」
「おぉ、サテラって、王族だったんだ。」
サテラは、再び氷の魔法を発動させようとするが、さすがにガチ顔のロズワールに止められた。
やれやれ。
でも、なるほど、王族ね。だったら狂犬なのも理解できる。
元の異世界にもいたからな~狂犬。
アイリス王女とか、アレクシアとか。
僕の表情を見てか、サテラはさらに顔を顰めた。
深夜。ロズワールの執務室にて。
シド・カゲノーの様子について、ラムから報告を受けていた。
「それでー、その後のシド君の様子はどんなもんだい?」
「失礼千万で空気の読めない人間ではありますが、行動自体は極めて平坦に見えます。平坦すぎて、少し不気味なくらい。」
「まあ、朝の騒動からすると、意外だよねー
・・・・・・それで、間者の可能性はどうかな?」
「否定はできませんが、その可能性はかなり低いように感じます。よくも悪くも、というか特に悪い意味で目立ちすぎもすぎです。」
「・・・・・・そりゃ、普通に考えて、間者が初日の朝から、エミリア様とベアトリス両名に喧嘩吹っかけるなんてことはないよねーえ・・・・・・」
いや~動いた、動いた。
朝食の後、僕は屋敷内を巡り、そのあと村の方へと赴いた。
農村の人達は基本的に皆親切な人ばかりだったけど・・・・・・僕は目ざとく、何人かの盗賊を見つけた。
フェルトと同業だろうか?
どちらにせよ、盗賊のいるところに宝あり。
日が暮れるとすぐに、僕は盗賊達のアジトを襲って回った。
斬って、殴って、奪う。
いいよね、無法都市ルール。
ここは無法都市じゃないけど。
まあ、この世界での戦闘に慣れたい、ということもあったしね。
僕は集めた宝を、誰にも見つからない場所へこっそりと隠す。
そして、誰にも屋敷を抜け出していたことがバレないように、こっそりと窓から自分の寝室へと戻った。
そしてベッドにつこうとして・・・・・・ん?あれ?
なんだか、目眩がする?
体も、だんだん寒気がしてきている気がして・・・・・・
・・・・・・
なるほど、これはあれだな。
伝染すれば、誰でも死に到るという“アレ”
そう、“風邪(呪い)”だ!
フ、この我をも蝕むほどとはな・・・・・・
だがしかし!
陰の実力者にとっては、ちょうど良いハンデだ。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
僕は悶え苦しみ(演技)ながらも、なんとか部屋の外へ出る。
こういうとき、モブなら・・・・・・
そこら辺にいる誰かに、死力を尽くして最期の言葉を遺し、そして倒れる、これが鉄板だ!
僕は、ここはまあ無難にサテラでいいかと思い、彼女の部屋まで足を運ぶ。
━━━と、背後から微かにキリリと、鎖を引く音がする。
フ、気配は隠しているようだが、この僕にはバレバレだぜ。
僕は徐に、背後を振り向く。
・・・・・・と、目の前には、鉄球が迫ってきていたーーー!!!
慌てて、僕は左横へと転がり込み、ギリギリのところで交わす。
その鉄球の正体は・・・・・・
「何も気づかれないまま、終わってくれるのが一番だったのですが、仕方ありませんね。」
青髪のメイド服姿。
この屋敷の妹メイド、レムであった。
「はあ、はあ・・・・・・どうしたのレム、この屋敷では、人を鉄球で殴る遊びが流行ってるの・・・・・・?」
「なにをふざけているのですか・・・・・・というかどうしたんですか、そんな息切れして・・・・・・?」
「気にしないで、ただの風邪だから。」
次の瞬間、また鉄球が飛んでくる。
「ぐへぇ」
次はわざと避けないで、当たってあげた。
さらに追撃がくるかと思ったけど・・・・・・レムはそのまま佇んでいた。
「シド君にお聞きします。あなたはエミリア様に敵対する候補の陣営の方ですか?」
「・・・・・・違うよ、どうしてそんなことに・・・・・・ぐわっ」
鎖で打たれる。
「誰にどんな条件で雇われているんですか?」
「・・・・・・だから違うって・・・・・・あでっ」
すると、レムが激昂したように叫んだ。
「とぼけないでください!そんなに魔女の臭いを漂わせて、無関係だなんて白々しいにも限度がありますよ!」
僕、そんなに臭ったのかなあ・・・・・・
この世界に制汗スプレーは売ってるだろうか?
そんなくだらないことを考えていると、ふと元の異世界で出会った、バイオレットさんのことを思い出した。
ん?どうしてだろう・・・・・・?
「答えないようなら、もう用はありませんッ‼」
そして、ついにレムは我慢の限界だったようで、僕に鉄球をぶち当て、そのまま窓を突き破り、僕を落とした。
「うわぁーーー」
僕は叫び声を上げながら、地上へと落下する。
割れた窓から、冷たい目で僕の屍を見下ろした、レムの姿が見えた。
ベアトリスの髪色について、僕の目には黄色に見えたので、黄髪にしていたのですが、設定上「金髪」のようなので、修正入れてます。もしかしたら、直ってないところがあるかも。
シドが盗んだ、ベアトリスの本、それ・・・・・・(^^;)
三すくみ戦は、とはいえ三者とも、手加減はしています。三人とも本気を出したら、屋敷半壊どころでは済まない。