Re:ゼロから始める陰の実力者になりたい異世界生活 作:零月隼人
屋敷が全焼したので、僕達はメイザース家が管理しているらしい、“クレマルディの聖域”という場所へ向かう馬車へ乗り込んでいた。
後ろには、村人達が乗り込んだ場所が続いている。
ロズワールの炎により、村全体へ燃え広がったため、そこの住人も避難を余儀なくされた。
半数は王都へと避難し、後の半数が僕達と同じ、いわゆる“聖域”という場所へ向かうことになる。
その後は、”聖域”にて待機している、ロズワールの親戚にあたるアンネローゼ・ミロードという人物の指示を仰ぐことになるらしいが・・・・・・
━━それにしても、聖域ね。
僕は陰の実力者らしく、静かに呟いた。
「過去を精算する時が来たか。
そこは、いにしえの記憶と魔女が眠る墓場。」
「突然喋ったりしてどうしたの、シド?どこか体が悪いところとかある?」
「なんでもないよー」
隣で俯いていたエミリアが、不思議そうな目で僕を見てきていた。
この世界に降り立った“七陰”は、瞬く間にルグニカ王都の一角へアジトを作り、その地へ適応していった。
配下のナンバーズ達は、元の世界でのシャドウガーデン勢力維持を命じたため、こちらにいるのは七陰のみ、圧倒的な人員不足だ。
いずれゲートでの自由な移動が確立した場合は、ミツゴシのルグニカ支店を出店するのもアリかもしれないが、目下の最優先事項は、シャドウの全力支援だ。
シャドウの力は、この間のロズワールとの戦いにおいても、決して衰えてはいないことが確認できた。しかしそれでも、こちらの世界での任務遂行には、時間が掛かってるということだ。
なれば自分達は、陰ながら支援するしかあるまい。
アルファは状況を確認する。
「エミリア陣営の現状は?」
ベータが報告する。
「現在、王選候補エミリアと、シャドウ様を乗せた馬車が、陣営領地とされる、“クレマルディの聖域”という場所へ移動中。村人の半数も、避難のため同行。陣営の現状把握ですが、当主ロズワール・L・メイザースは死亡、同氏屋敷の禁書庫の番人であったとされる、ベアトリスという名の大精霊は行方不明。同じく屋敷のメイドであったラムという名のメイドとその妹であるレムについても、消息を絶っています。」
アルファは思考する。
(・・・・・・レムという少女については、シャドウがあの夜保護していたはず。それを一度返した?一体なぜ・・・・・・いいえ、彼のことよ、何か目的があるはず。今はそれよりも・・・・・・)
「ディアボロス教団については?」
「この世界において、教団の動きは確認されておりません。しかし、それに類似するものとして、“魔女教”の存在が上げられます。彼らは、世界の半分を飲み込んだ存在、『嫉妬の魔女』サテラを信奉し、その勢力を拡大しております。」
「魔女・・・・・・『災厄の魔女』アウロラとの関係は?」
「不明です。魔女には他にも六大罪の魔女というものが過去存在していたようですが、全てサテラにより滅ぼされました。現在は、大罪司教という名の幹部達が、その罪を冠しているようです。」
「ディアボロスにラウンズ、たしかに構造としては似ているわね。
それ以外の要注意人物は?」
「まずその代表格として上げられるのが、『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアです。彼は、「騎士の中の騎士」と呼ばれ、家系として代々ルグニカ王国を支えてきた一族ですが、中でも歴代最強と評されています。もう一人が、セシルス・セグムント。ルグニカ王国南方に所在する、ヴォラキア帝国最強の剣士です。
さらに、王選候補エミリアの傍に控えるとされている、大精霊パック、こちらも要注意個体とされています。」
アルファがため息をつく。
「なるほど、下手に刺激してはその者の怒りを買うわね。ここはやはり、シャドウに任せるしかなさそうかしら。
ベータ、貴方は今後、シャドウに同行し、サポートに徹しなさい。イプシロンは王都に潜入、ゼータは魔女教の方の情報を集めなさい。・・・・・・一刻も早く、こちらの世界での任務を片付け、元の世界へ戻らなくては・・・・・・」
聖域へ向かう馬車の中で、エミリアは回想する。
時は屋敷が全焼した数日前に遡り、エミリアは村人達へ避難を呼びかけるため走り回っていた。
村人達への説得は、困難を極めた。多くは、エミリアの身の上、ハーフエルフに対する偏見・差別によるものだ。エミリア側がいくら誠実に話したとしても、聞く耳を持たれない。頭を下げても、信用されない。
それでもエミリアは、なんとか懸命に話し続けた。やがて、火の手が近づき、村人達も危機感を共有したのであろう、エミリアに完全な理解は示さないものの、なんとか言葉を聞き、王都に向け出発した。
そしてエミリアは、他に逃げ遅れた者がいないか村中を走り回った。
そこで見つけたのが・・・・・・大火傷を負い倒れていたシドであった。
「ッ⁉ちょっとシド、一体何があって⁉」
エミリアは、これまでの諍いのことも忘れ、慌ててシドに回復魔法を行う。
やがてシドは意識を回復し、うっすら目を開ける。
「サ・・・テラ・・・」
「エミリアよ!」
やはり氷漬けにしてやろうかと一瞬思いつつも、すでに火の手は身近まで迫っていた。
冗談を言っている場合でもなく、エミリアはシドを連れ、火とは逆の方へ急いだ。
そして、森を抜けたところで竜車を拾い、時は現在に戻る。
「━━それで、パックのことなんだけど・・・・・・」
聖域に向かう竜車の中、僕はひたすらサテラの話に耳を傾けていた。
「何度も声はかけてるし、契約の繋がりは感じるんだけど・・・・・・長く顔を見せないことはそうあることじゃないから、ちょっと心配で・・・・・・」
「ふーん」
「あ、でも、微精霊の子たちとも契約してるから、何かあっても戦えるから!」
竜車、たしかに普通の馬車よりも速いんだけど、やっぱりまどろっこしいな。
本気ダッシュでもすれば、一瞬で着くだろうに・・・・・・はああ~~~
そんなことを考えていると、突然、サテラの胸元の石が青い光を発する。
「え、これ・・・・・・⁉」
サテラが驚きの声を上げた。
「う~ん?」
僕は徐に、その宝石を取り上げた。その瞬間。
「━━━ぁ」
バタッ
振り返ると、龍車の床にサテラが力なく倒れ込んでいた。
ん?なんだろ、急な立ちくらみかな?
そしてその光は、さらに一際強く輝きだして、僕の全身を包み込んだ。
気づいた時には、すでにいたはずの竜車の車内ではなく、そこは見覚えのない森の中であった。
「ん?どこだろここ?」
僕は悠然と周りを見渡す。
そして背後から、草木の揺れる音が聞こえた。
僕が振り向くと、薄紅色の長髪の、白い貫頭衣を着た十代前半に見える幼い少女が、そこには立っていた。
「あの~、ちょっと聞きたいんだけどさー」
僕はとっさに声をかけた。
「━━━」
すると、彼女は何も答えず、回れ右して去っていった。
(これは・・・・・・ついてこいってことかな?)
僕はそのまま、少女の姿を追う。
やがて、開けた空間に出る。正面には、緑の蔦や苔の生えた奇妙な石造りの建物があり、まるで何かの遺跡、あるいは神殿のようであった。
すでに少女の姿はない。
とりあえず、前には遺跡、これに入らない手はない。
僕はその建物の中へ、足を進めた。
建物の中は一直線で、ただ暗闇が続く。
いいね、陰の実力者にうってつけの場所だ。
一瞬いつものローブに着替えようか迷ったけど・・・・・・まあ、この先どうなってるか分からないしね。とりあえずはいいや。
僕はそのまま、奥の闇へと入った。
その歩みを進めていると━━━
「━━なるほど、それが君の欲の根幹か。なかなか興味深いことだね」
突然、僕の視界が大きく歪んだ。
後ろを振り返ると、そこには来た道はなく、頭上には雲一つない青空が、目の前には壮大な草原が広がっていた。
━━━と来れば、ここはテンプレの!
僕はニヤリとした笑みを浮かべつつ、ゆっくりと後ろを振り返った。
「おや、意外と驚かないのかい?」
僕は悠然と答える。
「無論だな。謎の人物というものはこういう場合、背後に控えているものだ」
そこにいた白髪に黒装束の女性は、可笑しそうに笑う。
「君、面白い人だね。人と話すのはずいぶん久しぶりだから、つい気持ちが逸ってしまったよ」
僕は黙って、続きを促す。
「ボクの名前は エキドナ。」
さらに彼女は微笑みながら━━、
「━━『強欲の魔女』と、そう名乗った方が通りがいいかな?」
・・・・・・
知りません。