Fate/Deep Engage   作:ゴマ助@中村 繚

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もう長くなっちゃって、全然収まらなくてェ……。
いっそのこと三分割しちゃってェ……。

まだ続きます。



20-2_チャイルド・クライ

 爆炎に照らされたおじさんみたいなゆるい顔は間違いなくしおどんだった。

 市役所の売店で販売しているしおどんのぬいぐるみである。本日のマルシェでも、市役所の出店で販売していた……心護が思わず叫んだように、何でこんなところにあるのだ。しかも自立しているし。

 あまりにも理解が追いつかない光景のためそちらに視線が向いてしまうが、軽トラックの爆発炎上に巻き込まれたライダーは、当然と言わんばかりに無傷だった。真夜中を燦々と照らす炎上の中で佇む鎧武者は、ちょっとしたホラーである。

 表情と正体を隠す仮面の奥から注がれる視線の矛先は、ついさっきまでライダーが立っていた旧青年会館の屋根だ。軽やかな音を立てて着地をしたのは真夜中に浮かぶ壮麗な白衣。アーチャーがライダーへ攻撃をしかけてきたのだ。

 

「アーチャー……てことは、まさかあのしおどん……」

「まさかですね。昨日ぶりですー」

「こんばんは。残念な夜だね。月が見えないや」

 

 杏華の呑気な挨拶に応えるように、アルジュンもまた暗闇の幕の向こうから姿を現した。このタイミング、絶対にあのしおどんに関係している。

 アルジュンが登場すると、しおどんは「ぽてぽて」という効果音が背景につきそうな足取りで動き始めてアルジュンへ近づき、彼の背後に隠れてひょこっとこちらを覗き込む。やっぱりアルジュン(お前)が関係しているだろうと、心護の警戒心が変な意味で緩んだ。

 

「何スかそのしおどん」

「私の魔術礼装だ。露店にぬいぐるみが並んでいたのを見かけてね、この表情が気に入って手に取ってしまったんだ」

「ぬいぐるみを魔術礼装に改造したんですか」

「趣味?」

「うん」

「で、何の用?」

「訊ねたいことがあってね」

 

 と、その前に。

復讐の魔女(メデア)』の攻撃による黒炎も、軽トラック爆発炎上も乗り越えてしまったチョウチンアンコウの子供たちがわんさか溢れているし、母体となる異形は炎上している状態でまた息をしている。一通りの産卵は終えたようだが疲労など露ほど見せていない。

 そして、異形の軍勢に怯みもせずに薙刀を構えた鎧武者。名乗りを上げることもなく、薙刀の斬撃が向かうは戦場の渦中に乱入してきた弓の武芸者……軽トラックの爆発炎上が収まり切らぬうちに、アーチャーの立つ旧青年会館の屋根と壁ごと真っ二つに切断された。

 足場を失ったが慌てる様子も見せないアーチャーと、建物内へと下りたアーチャーを追って旧青年会館の建物内へ突撃するライダー。埃の舞う狭い建物内で、瞬きをするのも憚れる高速の小競り合いが幕を開ける。

 放たれた矢が直進せずに柱を迂回し蛇行までするアーチャーの攻撃を前に、ライダーは設置されていた金属製のロッカーを投げつけて盾にしては薙刀で斬り込んでくる。崩れる建物の瓦礫など両者の障害にはならず一進一退の攻防戦を繰り返していたが、チョウチンアンコウの軍勢が転がり込んで来たのにはさすがに足を止めてしまった。

 魚の異形の(母体と比べれば)小ぶりな身体が砲弾として旧青年会館へ撃ち込まれると、天井が崩れて二階に保管されていた古びた学習机がチョウチンアンコウと共に降ってくる。アーチャーが一切の躊躇を見せずに矢をつがえて蒼炎を滾らせて魚の異形たちを一網打尽にしようとしたら、その時、背後にある手洗い場の欠けた鏡に人型の影が映り込んだ。

 幽鬼を連想させる影の顔部分に、白い仮面が浮かび上がる。異形の白い仮面が鏡面の境界を抜け出して現実へと顕現すると、鏡の中から仮面の男が這い出て来た。

 あまりにも不気味な演出を伴った出現にアーチャーの意識が一瞬そちらへ注がれるが、仮面の男はアーチャーには目もくれずに鉤爪の両手で魚の異形を切り刻む……突如、鏡の中から出現した仮面の男は気配を臭わせていても姿を見せなかったバーサーカーだ。

 彼の目的は特定の陣営でも、ましてやサーヴァントではない。突如出現し始めた魚の異形たちである。

 

「これは、一体何なのよ?!」

 

 騒ぎの渦中へやって来た涼乃が目撃したのは、つい先ほど柳洞神社に飛び込んで来た魚の異形とも異なる姿の同類だった。

 聖杯戦争において中立安全地帯であるはずの柳洞神社が魚の異形に襲撃され、社務所が崩壊した。嫌な予感がした涼乃がバーサーカーを伴って魔力を追って来たら、ここ旧青年会館に辿り着いたのだ。辿り着いたら、想像以上に巨大なチョウチンアンコウがいてちょっと引いた。

 あと、思った以上にマスターもサーヴァントもいた。

 

「涼乃さんも来ちゃった」

「涼乃さんも、この先の保育園が心配になったんスか」

「今、懸念事項が増えた。嫌な予感の要素がたくさんあってちょっと、混乱している……とにもかくにも、これはナニ?」

「チョウチンアンコウ」

「見て分かる」

「私も、このことについて訊ねたいんだ」

 

 心護のボケをランサーがスッパリと切り捨てた。本当のことであるが、今、欲しい答えではない。

 だが、この場にいる者は誰も詳細を答えられない。

 強いて言えば、心護が見かけてアリアが退治しようとしたら、産卵して増えてしまったという経緯しか説明できないのである。

 涼乃以外にも、現状について根掘り葉掘り訊ねたいのがアルジュンだった。そのために、こうしてランサーとライダーの戦いに乱入してまで邪魔しに来たのだ。

 アルジュンの手にしおどんのぬいぐるみがぴょんと飛び乗った。魔術礼装に改造されてしまったしおどんにアルジュンが魔力を流し、そのまま、崩壊を続ける旧青年会館へと放り投げた。

 このしおどんは、アルジュンが『生命循環(アーユル・プラマーナ)』の綿花と他の種をぎゅうぎゅうに詰め込んだにより、ある程度の自立行動を行うことができる魔力のポインターとしての役割をこなすことができる。それもこれも、アルジュンがワタ属の植物に対する魔術的扱いに秀でているからできる芸当だ。

 しおどんがいればアルジュンがいなくても『生命循環(アーユル・プラマーナ)』を発動することができる。精密さは期待できないが、植物が絡めとった軽トラックのエンジンを強制的に吹かせてぶん投げるぐらいは可能である。

 流された魔力によってしおどんの体内に詰め込まれた種が芽吹いた。旧青年会館へと放り投げられたしおどんがゆっくりと短い腕を上げると、青々とした葉が生い茂った蔦が噴出される。

 古い家屋の壁に茂っていそうなそんな蔦が崩壊の一途を辿る旧青年会館の壁に絡まりつき、これで崩壊しないように支えるかと思いきや、急激に成長した蔦は建物全体に張り巡らされながら成長して崩壊を支えるどころか締め上げて更にミシミシという音を加速させたのだ。

 建物を締めつけつつ内部に潜入した蔦は縦横無尽に這い回り、敵味方関係なく動く対象を片っ端から拘束していく。アルジュンから事前に知らされていたアーチャーは蔦から逃れるが、ライダーとバーサーカーと異形の魚たちは蔦に絡めとられていく。

 強度はそれほどではないがうざったらしい。しかも、この狭い建物内で拘束されては本当に鬱陶しい。こうなっては建物ごと破壊してしまった方が手っ取り早いと考える者は多いだろう。ライダーの行動が正にそれであった。

 旧青年会館の内側から、全てを食い破らんとする巨大な鮫が召喚される。その牙で何もかもを引き千切り、巨大な口で魚の異形も建物の瓦礫も何もかもを飲み込んだ。ライダーとアーチャーの小競り合いが始まって5分も経たぬうちに、旧青年会館が消滅してしまった。原因はチョウチンアンコウの異形と巨大な鮫である。

 訳が分からない。

 訳が分からないなりに現状を整理してみると……。

 ランサーとライダーの戦闘のど真ん中に、アリアがチョウチンアンコウの異形を落としたら、大量に産卵して軍勢レベルでチョウチンアンコウが増えた。増えたところでアーチャー陣営が乱入し、ライダーとの小競り合いで旧青年会館が消滅した。決定的な原因は、ライダーが召喚した巨大な鮫である。

 魚の異形の軍勢も、鮫に飲み込まれなかったものたちはアリアとランサーがほとんど片付けた。母体である巨大なチョウチンアンコウは、黒焦げで静かに転がっている。

 そして、もう1騎サーヴァントが増えていた。不気味な白い仮面を着けた長身の男が涼乃の隣に控えたのだ。彼女のサーヴァントことバーサーカーだ。

 先日の岳野の山林でその能力の鱗片を見せたが、その姿が他のマスターとサーヴァントたちの前に現れたのは今夜が初めてである。

 

「あなたは、監督役の任に就いている方の娘では。まさか、マスターだったとは」

「私がバーサーカーのマスターであることは、紛れもない事実です。ですが、積極的に聖杯戦争へ参加する意欲はありません。市内にもこの化け物?が出現したので、嫌な予感がして魔力を追いかけて来たまでのこと」

「本当にコレ、何でしょうね?」

「チョウチンアンコウ」

「だから見て分かります」

「そこのライダーは、これらについて知っているんじゃないかな」

 

 心護のボケに杏華のツッコミが入った。ボケをスルーしたアルジュンとアーチャーの視線はライダーに向けられる。

 背後には巨大な鮫……鮫と魚、種類は異なっているがどちらも海に生息する魚類だ。

 

「これらは、君が使役しているのか。その鮫と同じく」

 

 アルジュンたちアーチャー陣営は、魚の異形の原因がライダーではないかと考えたのだ。

 鮫を使役するのなら、他にも魔獣の如き魚を使役する逸話や宝具を持つサーヴァントなのではないか?

 だとしたら、ここで排除しておくべきだ。こうして乱入されて、更には深潮市にも被害が出てしまうのは神秘の秘匿にも問題が出てしまう。

 アーチャーがライダーを狙って弓に矢をつがえた。アルジュンの足元にいるしおどんも、ライダーと鮫の足元に体内の種を芽吹かせて、周囲にはうようよと蠢く蔦が伸び始めている。

 ライダーの返事次第では直ちに攻撃に移る体制となっていた。

 

「……我らはこの異形について存じ得ぬ」

「本当かな。君のマスターが放逐したものでは?」

「違う」

「マスターの姿が見えない以上、その言葉を鵜呑みにすることはできません」

「違うって言っているなら、違うんじゃないのか?」

「お黙りなさい、アサシンのマスター」

「ってか、こんなの使えるんだったら、最初の段階で俺の家に雪崩れ込んでくるはずだろう」

「鮫しかいなかったわ。最初にシンゴが襲われた時は」

 

 アレが明るいうちから家の周辺にいたら怖いな~と感じる心護を横に置いておいて、アーチャー陣営の疑念は解けることはなかった。そして、涼乃もコレの原因を知りたい立場だ。彼女は実際に被害を受けている側なのだから、知る権利がある。

 一瞬の膠着状態。部外者が口を挟むのを躊躇する沈黙を破ったのは、グラウンドに散らばる窓ガラスの破片を踏む足音だった。

 

「マスター」

「ライダーの言っていることは真実だ。俺たちは、この化け物とは関係ない」

「ライダーのマスターか」

 

 巨大な鮫の背後から姿を現したのは、暗い色のつなぎを着た男性だった。

「本人です。色が同じ」と、独り言のような小さな声で杏華が呟いた。間違いない。ライダーのマスターである桐月だ。

 年齢は心護の父親とそう変わらないだろう。曇り空の夜でも血色の良くないと分かる顔に無精ヒゲが目立つ。

 想像していたよりも、疲れた顔をしていた……アリアが召喚される前から心護を殺そうと狙ってきたライダーのマスターなのだから、見るからに悪役のような顔をしていると思っていたのに、心護の想像とは全く違ったのだ。

 

「身の潔白の証明のために、わざわざ姿を現したのかな」

「そう思ってもらって構わない。()()()()()()()()の犯人にされるのは、誰も気持ちがいいものではないだろう。ライダーは確かに鮫を使役しているが、こんなモノに関わりはない。むしろ、急に現れて迷惑している」

「ふーん」

「ライダーではない。ここにいるサーヴァントもマスターも分からない。じゃあ、キャスターかセイバーが原因?」

「もしくは、聖杯戦争の影響かもしれない。霊脈の乱れや設置された聖杯の影響で、魔物が実体化することがあるらしい」

 

 涼乃の疑問に、アルジュンが情報を提供した。

 この異形は、ここにいる五陣営にとってすべからく脅威である。

 昨夜や今夜のように、聖杯戦争に乱入して本能のまま暴れ回ったら実に鬱陶しい。現状どうだ、中断されてランサーとライダーの戦闘など遥か彼方へ追いやられた。

 そして、柳洞神社のような深潮市内にも被害が出ている。現在進行形で寺と保育園が危機に瀕し続けているのだ。

 百害あって一利なし。だが、原因も正体も分からない。

 ここに集ってしまった五陣営が無関係なら、アレは共通の敵ということになるのではないか。

 

「なら、みんなでアレの発生源を突き止めるために捜査でもします? 一時休戦でもして」

「それはない」

「拒否する」

「即断するじゃん」

 

 アルジュンと桐月の声が被って心護の提案がバッサリと切り捨てられた。

「一時休戦」がお気に召さなかったと思われる。

 マスターたちの協力体制やら詳細な情報共有ができないのなら、出現したらその都度対処しなければならないということか。今夜の討伐がこれにて終了したなら、ここで帰宅してもいいだろう。保育園に被害が出ない場所で暴れてくれれば、心護の心配はもうないのである。

 じゃあ、帰るか。と、心護がアリアに話かけようとしたその時……ビターン!と、ナニか叩きつける音が静寂の中に響いた。

 発生源は、ピクリとも動かなくなったはずの黒焦げ状態の巨大チョウチンアンコウ。その場にいた者たちの視線が一斉にそちらへ向けば、白濁した死んだ魚の目が見えた。巨大な触覚が動いている。人間の遺体がぶら下がっているかのような歪なチョウチンアンコウの触手が地面に叩きつけられ、人間が起き上がるかのようにむくりと起き上がったのだ。

 動かなくなっていたはずのチョウチンアンコウの巨体が、触手に引きずられて動き出す。完全に仕留め切れてなかったのだ。

 

「マスター! 焼き尽くします。しおどんさんを下げてください!」

「待ってください! 直線距離に保育園がありますから!(しおどん、さん?)」

「黒焦げになって産卵しても動くとは……凄い生命力(しおどんさん……?)」

「……マジか(しおどんさん)」

 

 焼き尽くそうとするアーチャーに焦る涼乃に、素直に感心する杏華に、ちょっと冷や汗をかく心護と、三者三様の反応を見せた。しおどんは慌ててアルジュンの後ろに逃げた。

 憎悪の黒炎でも焼き尽くせないのか。では、他の手は……あるにはある。問題は、心護の魔力がもつかにかかっている。

 

「……アリア、俺の魔力はまだ大丈夫かな」

「もうちょっと、魔力が欲しいかも」

「ちょっと踏ん張ってみる」

 

 自分たちが最初にちょっかいを出したのだから、ケジメをつけなければならない。

 あの異形を完全に仕留めるのは、心護とアリアの役目だと、かいた冷や汗を無理に引っ込めて腹を括った。




子供が泣く展開。
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