Fate/Deep Engage   作:ゴマ助@中村 繚

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月末までに完了させなきゃならない大切な仕事が、連休をとって不在の人のミスで大変なことになり先々週は夜中まで連日残業していました。
労働はクソである。(愚痴)


21_THE 有頂天公民館

 あなたはわたしの光だった。

 美しく、麗しく、朗らかに微笑むあなたは、少しだけ西に傾いた刻に差し込む暖かな陽光だった。

 それなのに。

 それなのに……。

 

 ■■■様……どこに行ってしまったの?

 

 あなたの御身は地上になく、あなたの魂は冥府へと。

 もう二度と、光の差す世界で暖かな微笑みを見せてはくれないのですね―――

 

 何故、哀しんでいるのです?

 ■■■様が、姿を消してしまわれたのです。

 何故、哀しみを理由に、■を放棄したのですか。

 哀しみに染まった、陽光のない凍てつく世界で■などできません。

 涙が枯れることがありません。

 後悔は絶えず湧き溢れてきます。

 ■■■■様が■■■様の名を呼ぶ声を耳にする度に、心は打ちひしがれてこの身を静寂(しじま)の■へと落とし投げてしまいたいのです―――

 

 ならば、これからは■で生きなさい。

 哀しみを理由に■を放棄した。

 ■をして、■を■■、■を■■、■の■■■と■■■■■ことを放棄した■■■■■は、ただの■■■■です。

 もう二度と、■を手に入れることはできない。

 もう二度と、■を■■することはできない。

 一度手放したものを手に入れたいと願う恥知らずは、■■■■■■■■■■■■■■■。

 

 

 

 これは、呪い―――

 

 

 

 夢を、見た。

 内容はよく覚えていない。女性の声が聞こえていることだけははっきりと理解できたが、所々でノイズが走り、詳しい会話はまったく聞き取れなかった。

 けれども、心臓を突き刺されたかのような()()……哀しみと、後悔を感じて反射的に目を開けば、円い蛍光灯に揺れる電灯の紐が見えた。来客用の布団からの上から見える自宅の天井を眺めながら、バクバクと忙しなく鼓動する心臓の音が五月蠅くて二度寝することはできなかった。

 

『……えー、ということで』

 

 ハウリングの酷い有線マイクの音が、視聴覚設備の劣化具合を教えてくれた。建物自体は築30年以上が経っているが、さすがに中身の設備も同い年とは思いたくはない。せめて21世紀になったタイミングで入れ替えていて欲しいものだ。

 ただ今の心護は、公民館にある大会議室の端の席に座っていた。テトラポットが積み上げられた海景色を背に建てられた深潮市の公民館では、漁協に所属する漁師たちを対象にした説明会が行われている。

 説明会の内容は、先週発生した遺体の漂流事件やら、地震による漁協の倒壊やら、密漁船の乗り上げによる漁船の破壊やら、聖杯戦争が始まってからの様々な事件の起因する漁禁止の話である。県警のお偉いさんからの説明があると、漁師たちは公民館に集められたのだ。

 

『先ほどご説明しましたとおり。えー、ご遺体の身元も、犯人に繋がる手がかりもなにもなく……えー、事件の早期解決のために徹底した調査を行うため、えー、皆さまにはご協力をいただきたく。えー、つきましては、夜間から早朝にかけての漁禁止は継続し、船を出されるのは、えー、夜が明けてから昼間の時間帯だけをお願いしたく……』

「ンなこと言ったって! 出せる船がねーんだよ!!」

「そうだ! 修理代だって馬鹿になんねェんだよ!」

『それにつきましては。えー、先の密漁船の乗り上げによって破損しました船の補償につきましては、えー、市役所の担当者の方から説明がありますので』

「密漁していた連中に弁償させれないのか?」

「市の補償っつったって、一部破損は駄目って言われたぞ!」

「保険屋も連絡とれねーし!」

「先週までの稼ぎをどうしてくれんだ!!」

『それにつきましては。えー、後で県の担当者の方から説明がありますのでェーー』

「お役所仕事じゃ話になんねェんだよ!!」

「そうだそうだ!!」

 

 一層酷いハウリング音と、苛ついた漁師たちの野次が警察のお偉いさんの発言を遮った。さっきからこの繰り返しである。

 心護が柳洞神社で聞いた話が真実なら、聖堂協会の息がかかった県警のお偉いさんは聖杯戦争を秘匿するために、夜間に行動を制限するために心護を始めとした漁師たちへ漁禁止を出している。遺体の漂流による殺人事件の調査によるその縛りも、そろそろ進展させなければ怪しまれると思ったのか、聖杯戦争のゴールデンタイムである夜間以外なら漁をしてもいいよとの進展を見せたがそもそも漁船が破壊されてしまっているので漁に出ることができないのだ。

 漁船が破壊されたのは、元はと言えば密漁していた反社会的な連中のせいだが、(多分)聖杯戦争の影響で発生した異形による事故なので、聖杯戦争が原因でとことん漁師たちは不利益を被っているのである。何も知らないが、彼らは怒る権利があった。

 本日は、先日取り付けられた漁師たちと漁協から県警本部への直談判の場(※15話参照)だったが、たった1日で事体が急変してしまったのがいけなかった。密漁船の乗り上げによる漁船大量破壊事件がなければ、朝から昼までの時間帯のみの漁の解禁でいくらかは丸く収まったはずだった。がしかし、現状ではハウリングの酷いマイク音声は火に油を注ぐだけである。漁師たちの不満を溜め込んだ風船が膨らみ続けて、針を刺したら大爆発しそうである。

 そんな危なっかしい空気の中で、心護はとにかく眠かった。長机の隣に座る徳田から時々起こされるほど眠いのだ。

 昨夜……と言っても、気がつけば日付を越えていた旧青年会館での異形退治にて魔力切れを起こした心護は、とてもバイクを運転できるようなコンディションではなかった。やっと起き上がって、アリアに支えられながらバイクを押してやっと帰宅できたのは午前4時を過ぎた頃……そこから布団に倒れ込み、2時間も経たないうちに妙な夢を見て起きてしまい、二度寝はできなかった。

 仮眠と呼べる睡眠しかとっていないし、魔力切れが完全に回復していない。なので、今の心護は猛烈に眠いのである。

 ちなみに、旧青年会館の消失は朝一番で市内に知れ渡……ってはいなかった。

 なんと、まだ人々に知られてはおらず、あと1時間ほどで近所を通りかかった市役所の職員に跡地が発見されることとなる。警察の発表によると、不法投棄されていた軽トラックに残っていたガソリンが破損したエンジンによって爆発し、その衝撃で旧青年会館が倒壊したとのこと。

 荒唐無稽を絵に描いたような無理がある言い訳だった。

 

『えー、私どもからの説明は以上になります。続きまして、えー、県庁農業水産部の担当者からのご説明をー』

「何勝手に終わってやがるんだ!!?」

「何も解決してねェだろうが!!」

「無能が! 税金返せ!」

「そもそも朝から昼なんて魚いねーんだよ!!」

「さっさと補助金出せ!!」

『皆さん、落ち着いて! 冷静に……!』

『……「会議は踊る」って誰の言葉だったかな』

 

 警察のお偉いさん+行政の担当者とやり合う漁師たちの喧噪をBGMにして、ぼんやりとそう考えていた心護はゆっくりと船を漕ぎながら眠りに落ちたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「漁夫の利」と言ったか。

 アーチャーとランサーの戦いに割り込んで、あわよくばどちらも共倒れしてもらえたのならば、その「漁夫の利」を掴めるかと考えたが甘かった。そもそも、あんな風に堂々と乱入するのは性に合っていなかった。

 岳野山林の戦いでは不在だったアーチャーのマスターが直接現場に赴いているのを()()だと捉え、だからこそ乱入した。相手の仕草や表情がはっきりと目視できる方が、プロファイリングを行うにあたり好都合なのだ。

 プロファイリングは、行動科学的に統計と分析によって相手の行動と心理を推定する統計学である。犯罪者プロファイリングという言葉は、昨今の刑事ドラマやミステリー映画でもよく耳にする単語だ。まるで心の中を読んでいるかのように相手の行動と心理を言い当てるが、あくまで積み重ねた統計による心理分析による「推定」であり、必ずしも正解している訳ではない。

 それでも、使い方次第で十分な武器となる。魔術師相手でも十分に活用できるかもしれないと踏み込んでみたが、どうも上手くいかなかった。むしろ、こちらが散々痛いところを突かれた。オマケに、何かの変な魔獣みたいな魚みたいな化け物も出て来たし。

 慣れないことはするもんじゃなかったのかもしれないと、レィム・ロホルト・ウーサは、小さく溜息を吐いた。視線の先に見える、太陽の光によってキラキラ光る海面とテトラポットがちょっと恨めしい。あの夜、三騎士の三つ巴の戦いのあった夜に、アーチャーのマスターはテトラポットに座っていたから。

 潮風が微かに差し込む海辺を特に目的もなくフラフラと散歩する。平日のお昼前の穏やかな時間帯。レィムが眺める深潮の風景には、様々な人々が映っていた。

 右も左も一瞥もせずに横断歩道のない車道を渡った初老の男性は、自分本位で共感能力に劣っている。会話中に相手が少しでも異なる意見を言えば、自分が否定されて攻撃されたと誇大に解釈して攻撃的になる。

 散歩をさせている小型犬から視線を離さずに赤ちゃん言葉で話しかける中年女性は、ペットを可愛がっている自分が可愛いと思っている。真新しい犬の服は女性が着ているアウターと同じ柄だ。着せ替え人形感覚でペットに着せているのだろう。

 ベンチに座って文庫本を読む老婦人は、これと言ったこだわりはなく変化を嫌っている。肩にかけた鞄にぶら下がるキャラ物のグッズは所々塗装が剥げていて、読んでいる文庫本にはカバーもかけず表紙は擦り切れていてスピンに至っては千切れていた。惰性で現在の状況を維持しており、変化を起こす気もなければその必要もないと自己完結している。

 レィムの目には、そう見えた。あくまでそういう傾向がある人たちがしている仕草や行動を見つけてそう推定しているだけだが、大きく外れることはないだろう。

 こんな風に、俯瞰しながら相手の顔色を窺ってしまうのは、昔からの癖だった。しかし、推定できるだけで、レィムは彼らを思い通りに操ることすらできない。できることと言ったら、彼らが好感度を抱く振る舞いをして攻撃されないようにすること。好感度を抱く振る舞いを通じて、少しだけレィムの利益になる方向へ進ませるだけである。

 奢ってもらったりとか、オマケしてもらったりとか、そんな感じに。

 

「やっぱり向いてないかなー」

 

 ハーリキンチェックのスカートを翻しながら、レィムは誰にも聞こえない独り言を呟いた。

 聖杯を願う魔術師とサーヴァントたちを相手に立ち振る舞ってみても、どうも上手くいかない。そもそも、彼らには愛らしく振る舞うのは効果がないと涼乃から指摘されたばかりである。

 だが、向いていなくてもレィムに叶えたい願いはある……だから、性に合わなくとも慣れなくとも向いてなくとも、運命的に転がり込んできた聖杯戦争を戦い抜くと決めたのだ。

 海岸沿いを歩くレィムは公民館に辿り着いた。ほぼ満車になっている駐車場を通り抜けると、正面入り口前の芝生の一画にジャングルジムと鉄棒が設置されているのを発見する。ちょっと錆ついているが、子供がはしゃぐには十分な遊具であるみたいで、現に、今この瞬間に子供の甲高い声が聞こえてきた。

 

「ねーえ! えいがの歌うたってよー!」

「アニメの歌とか、分からないでしょもー! すいません」

「歌えるわ、その歌」

「ホント?」

「テレビで観たから」

 

 申し訳なさそうに喋る母親らしく女性の声を宥めるかのように、鈴が鳴るような可憐な声が旋律を紡ぎ出す。

 甲高い声の主である男児が言った「映画の歌」とは、この国の長寿アニメの映画主題歌だった。いかにも!なアニメ主題歌ではなく、長編映画のラストを飾るためのJ-POPである。

 軽快なメロディーの独唱と、ショートブーツの踵が奏でるテンポがレィムの耳から脳へと染み込んだ。

 歌詞の内容と言えば、1人よりも2人で一緒に生きて行こうから始まり、スルリと耳に入ってくるメロディーにしては哲学的なものであった。歌い手である彼女は歌詞を気に入っているのだろうか、海面を撫でる潮風のように軽やかに、綻ぶように穏やかに、それでいて極上の歌声で奏でるのだ。

 サビに入ると、男児も一緒に歌い始めた。メロディーもテンポも外れた子供らしい乱雑な歌であったが、そんな男児とのデュオに彼女の表情と歌声は朗らかに跳ねた……ああ、とても楽しい音楽だと、レィムは感嘆の息を吐く。

 自然とレィムの足取りも軽くなる。アスファルトの地面を歩く靴音が、無意識に歌に合わせて跳ねてしまう。

 はっきりと宣言すると、レィムは聞き惚れていた。

 男児と一緒に楽しそうに奏でる歌は、ほんの鼻歌のような場面なのに、彼女の歌声は立ち止まってお捻りを渡すのに十分なものだ。それも、黙って聞き惚れるものではない。選曲のためか、それとも彼女の感情がレィムにも伝染(うつ)ってしまったのか、歌に合わせて踊り出したい衝動に駆られるほど、レィムにとって酷く魅力的だったのだ。

 レィムの足音が聞こえなくなった。アスファルトの道路から、小さな音楽会が開かれている芝生の地面まで侵入したからだ。

 そこで歌は終わり、母親の小さな拍手で締められて、レィムは我に返ったかのように歌い手である彼女を見た。

 

「もう一回!」

「駄目よ! ほら、そろそろお昼だから帰るわよ! お姉ちゃんにバイバイして」

「バイバーイ」

「バイバイ」

 

 名残惜しそうに手を振る男児は母親に手を引かれ、遊具の前にはレィムと彼女だけが取り残されてしまった。

 親子を見送った海色の瞳は、芝生に侵入してきたレィムへと向けられる。棒立ちの観客に向かって、公民館前の歌姫は歌声にも劣らない麗しい笑顔で話しかけてきた。

 

「踊りがお好きなの? まるで踊っているかのような、楽しそうな足音だったわ」

「え……踊りだなんて。わたし、踊りは下手ですから」

「そんなことはないと思うけど」

「本当に下手なんです。ただ、くるくる回るだけになっちゃう。踊りと言えるようなものではないんです。勝手に歌を聴いて、拍手の一つもしないなんて失礼でしたね。ゴメンナサイ」

「いいえ。聴いてくれてありがとう」

 

 あまりにも魅力的な歌に思わず足が動いてしまっていたけれど、レィムが踊りが下手なのは真実だ。でも、嫌いではない。幼い頃は、踊りとも言えない動きで、音楽に合わせてただくるくると回っているだけで楽しかったのを覚えている。

 下手な踊りの鱗片を見られてしまったせいか、レィムの視界が上手く機能していなかった。恥ずかしくて彼女の仕草や顔色を窺うことができていなかったのだ。

 そうこうしているうちに、公民館の中から続々と人が出て来た。大会議室で行われていた漁師たちへの説明会が大混乱を経て終了したのだ。不満不平を抱えたままの漁師たちは、公民館から吐き出されるようにぞろぞろと出てきていた。

 

「アリア。お待たせ」

「お帰り、シンゴ」

「アリア? お姉さんの名前ですか」

「ええ。シンゴが呼んでくれる名前よ」

「ん、友達できたの?」

「……友達に、なりたいかもしれませんねー! なれたら。それじゃあ、バイバイ! アリアさん!」

 

 出会い方が違えば、友達になれたかもしれない。でも、友達になることはできない。

 だって、彼女の隣にいるのは()()()()()()()()()だから。

 

『あのおじさん、嘘を吐くときいつも爪をいじっている。あっちのおばさんは、お世辞を言う時は必ず口元に手を添えるの』

『全部当たっている! やっぱり君は凄いや!』

 

 レィムは幼い頃の記憶を思い出した。

 レィムには、同じ村で育った親友がいた。その親友と交わした大切な「約束」のために、彼女は聖杯を欲している。

 だから、6人のマスターに打ち勝ち、6騎のサーヴァントを薪として焚べなければならない。性に合わなくても慣れなくても向いてなくても、レィムは勝たなくてはならないのだ。

 

「そっかぁ……ちょっと喋って友達になりたいって思った人よりも、わたしには「親友」の方がずっと大切だよね……」

 

 少しだけ、ちくりと心臓が痛んだ。

 アサシンであるアリアは、友達になっちゃ駄目な人である。

 楽しいひと時に有頂天になっている暇はないのだ。

 素敵な歌を奏でてくれたアサシンは、マスターの青年――心護に手を引かれ、ヘルメットを受け取ってバイクの後ろに乗り込んでいた。

 ちょっとスリープ状態になっていたレィムの視線が動き出す。心護の行動と仕草を見て感じて推定した彼の姿が弾き出された。

 

「うーん……あれは、格好つけかな」




イメージしている選曲は『Honto』っぽいの。
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