Fate/Deep Engage   作:ゴマ助@中村 繚

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34-2_魔女集会で会いましょう

 時に、黒ミサとはどのような魔術儀式なのか?

 書物等で残る記載によれば、聖堂教会のミサに相反する悪魔召喚および悪魔崇拝の儀式のことを指すらしい。サバトとほぼ同一視されており、テンプレートな黒魔術を得意とする魔女がやっていそうな儀式のことだ。その内容は、世間の教義や道徳に犯行する冒涜的なものとされ、胎児の生贄を用意して血を飲み欲し、参加者たちは暴行や淫行に耽ると記載されている。魔女狩りが隆盛を極めた中世においては、魔女狩りを主導する聖堂教会への反抗のために開催されていたらしい。

 だが、魔女ラ・ヴォワザンが黒ミサを開催したと言っても、彼女が本当に悪魔を召喚・崇拝したりしたのかは不明である。ラ・ヴォワザンが主催した黒ミサの内容ははっきりと残されていない。ルイ14世の命令で全てが焼失されたからだ。

 ラ・ヴォワザンの使用人たちの証言では、モンテスパン侯爵夫人がルイ14世の寵愛を取り戻すために黒ミサを行い、裸の彼女に胎児の血をかけただとか、モンテスパン侯爵夫人自らが黒ミサで使用するための胎児の遺体1,500人分を自ら調達したともあるが、その真偽は不明である。

 故に、ど(・)の(・)よ(・)う(・)に(・)も(・)解(・)釈(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)。記録が残ってないからこそ、魔女ラ・ヴォワザンが執り行った黒ミサはこ(・)う(・)だ(・)という絶対的なテンプレートはない。人々が面白可笑しく恐怖に苛まれて噂して肥大した内容が、どれもこれもが該当する可能性だってある。

 絶対的な事項は、彼女は儀式の中心で女主人として振る舞っていたことだけ……詳細不明でどのようにも解釈できるからこそ、ラ・ヴォワザンは儀式を執り行う絶対的な支配者として君臨することができていたのだ。

 マスターの令呪によって続行された黒ミサに、グラスフィード家の毒魔術が追加された。

『酸泉の浴槽(アシッド・バス)』。硫酸のような空気よりも重い毒性のガスが呪いとして恐れられた頃の神秘はとうに廃れた。しかし、足元に蓄積する呪いという特性だけはこの魔術に残っている。

 毒がもたらす死の呪いが土地に蓄積する。商店街として機能するか否かという点では既に死を迎えていたこの地との相性が良かったのか、マスター(エルウィン)の援護を受けたラ・ヴォワザンは、もう38人の「参加者(ゲスト)」がいた瞬間より出力は劣るが、終盤の足掻きができるまでには強化されていた。

 寂れた商店街で、またもや現実を疑うような光景が起きている。

 飛び交う蒼炎に、槍の一突きで粉々に崩れる竜騎兵、薙刀の一振りで切断される空き店舗。そして、宝石魔術を斬り伏せて魔女に迫る翼のある騎士。これは、キャスター討伐戦が終わった後の商店街は更地になっているかもしれない……と、ここの住人である爺さんを担いで物陰に引っ込めていた心護は、現実を疑うような戦闘を眺めながらそう感じた。なお、ステージギミックの如く転がっている怪魚たちの死骸は、心護とアリアが元凶であることを忘れてはいけない。

「今日はもう降りるなら手伝ってくださいよ!」と杏華に尻を蹴られて、アリアの歌によって失神した商店街の住人たち12人たちがサーヴァントたちの戦闘に巻き込まれぬようにとせっせと運ぶ。失神した人間は、老人と言えども結構重い。

 無事に爺婆たちを収納し終わると、杏華が急いで護符を飛ばした。いくつもの三角形が集合して鱗のように一面に展開されると、防御のための結界が張られた。これで、無防備よりは安心はできるが、サーヴァントの攻撃を真正面から受けて防ぎきれる可能性はほぼ0とのことだ。

 

「いざという時は、心護くんとアリアさんで自衛してくださいね」

「もう魔力残ってないっスよ」

「わたしも霊基がまだ不安定……」

「まあ……案外、瞬きほどの緩みで一気に決まってしまうかもしれません」

 

 ラ・ヴォワザンが相手にしているサーヴァントたち4騎は『対魔力』のスキルを有している。本来ならば、キャスターにとって非常にやり難い相手ばかりだが、彼女には呪いによってバフがかけられた。呪いは『対魔力』のスキルが発動しないのだ。

 それに、サーヴァントによっては生前に呪いに蝕まれた逸話を持つ者も少なくはない。呪いがそのまま死因と結びつく者だっている。呪われた土地で行われた黒ミサによって、宝石魔術も毒を吐き出す毒花も、ラ・ヴォワザンの攻撃には呪いの属性が付与されていた。

 中でも、最も苦戦を強いられていたのはアーチャーだ。

 彼が射出する蒼炎の矢は『酸泉の浴槽(アシッド・バス)』によって熱膨張を起こしてしまい、ラ・ヴォワザンに届かない。矢がどのように突飛で正確な軌道を描いても、土地そのものに有毒な気体の呪いが蔓延しているため、戦場が黒ミサの場である限りラ・ヴォワザンの弱点を突こうとすると手前でガス爆発が発生するのだ。

 それに気づいたライダーは炎による攻撃の手を止めていた。アーチャーも蒼炎の放出を止めていたが、空間の支配権がラ・ヴォワザンにある現状では矢による攻撃が機能していない。こちら制空権を奪わなければ、空間を斬り裂く矢の攻撃が届かないのだ。

 

「……っ!」

「攻撃が通らなくて焦っているようだな、アーチャー。いや、『マハーバーラタ』の英雄アルジュナ!」

「キャスターの真名を暴露された意趣返しのつもりかい。私たちじゃなくて、ランサーに返すのが筋ではないかな」

「真名に心当たりのあるサーヴァントがいるなら、そいつから攻略していくのが筋だろうが! 知っている者にとっては、思い切り分かり易いサーヴァントだ……インド系、纏う白、炎の魔力を宿す大弓、弓の名手(アーチャー)。そしてなにより、マスターの名前! 炎神アグニから大弓を授かったパーンダヴァ五兄弟が三男、アルジュナ(白銀)だろう、お前のアーチャーの真名は。自国ならまだしも、知名度もないこの国で生前の能力が奮えるのか?」

「……まあ、魔術師相手だとバレはするか」

「真名が分かったところで、貴方がたには何ができますか? パーンダヴァ王が第三子、雷霆神インドラが息子……このアルジュナにとって、真名を知られるなど恐れるに足らず」

 

 エルウィンによってアーチャーの真名を突きつけられたが、アルジュンも真名を暴露されたアーチャー本人も焦る様子は見せなかった。そもそも、そこまで隠す気はなかった。

 アーチャー――アルジュナは、真名が判明したぐらいで聖杯戦争の優位性を取られるような英雄でないことは、自国の魔術師であることをアルジュンはよく知っている。推測されるほどの知名度を持つサーヴァントは強力だ……神と人との距離が現在よりもずっと近かった頃の英雄の神秘に、近代の神秘が敵うことはまずあり得ない。

 

「まだ、奥の手は隠しておこう。アーチャー……否、アルジュナ」

 

 アルジュンのジャケットの袖口から、棘の生えた細い茎が蔦のように這い出てきた。腕に巻いている認識阻害の令装から生えて来たのではなく、服の下……アルジュンの腕の皮膚を突き破って這い出て来た細い茎は、彼が自らの肉体に植え付けている魔術で改良した植物だった。

 茎はアルジュンの右腕に巻きついた。ジャケットの下でも、素肌に直に茎が巻きついて棘が皮膚を突き破る。この植物を使用するということは、アルジュンの魔術回路から魔力を強制的に搾り出すドーピングだ。アルジュンの魔力で、ジャケットの上に巻き付いた茎には野イチゴの葉が生え黒い実が生る。黒い実に光が灯って白く変色すれば、精製された純度の高い魔力がアルジュナへと届いた。

 

「戦っておいで、戦士(クシャトリア)として」

「感謝します、マスター」

 

 アルジュナは『炎神の咆哮(アグニ・ガーンディーヴァ)』を構えなかった。アルジュンから届いた魔力は蒼炎として大弓から噴き出し、地面を蹴って大弓で接近戦に持ち込んだのだ。その時のアルジュナの表情は……誰も見ることはできていない。恐らく。

 ガス爆発を起こしてもぶち抜けば善かろうと突進して竜騎兵を一刀両断にする。その勢いのままラ・ヴォワザンへと接近するが宝石魔術で防壁を展開されて大弓は防がれる。しかし、アルジュナは開いていた右手でそのまま防壁をぶん殴った。防壁は微かなヒビが入ったのを見逃さず、間髪入れずに弓に矢を番えて、ヒビを狙ってゼロ距離から矢を連射したのだ。

 神代の神秘を纏う弓から放たれた矢によって、宝石魔術の防壁が砕け散る。それでも次の一手と、ラ・ヴォワザンが指を鳴らせば毒薬をたっぷり溜めたウツボカズラが次々と破裂して毒をまき散らしたと同時に、二体の竜騎兵がアルジュナの背後から銃剣を振り下ろそうとしたのだ。

 結果として、アルジュナの白い長手袋は毒薬で汚れやしなかったし、竜騎兵は二体まとめて頭部を貫かれた。毒薬は『魔力放出』の蒼炎で爆発させられ、竜騎兵はランサーによって頭部を貫かれてからそのまま芯まで破壊されたのである。

 

「儂も混ぜろ。アルジュナと言ったか、天竺(インド)の弓兵!」

「良いのですか? 毒が駄目だと貴方のマスターがおっしゃっていましたが」

「呵々! 弓兵の癖に殴りかかるような血の気の多い輩がいると分かれば、こちらも逸ってしまうものよ」

 

 結果的にアルジュナを助けることとなったランサーの乱入だったが、彼らの背後から殺気を飛ばしたのは竜騎兵だけではなかった。否、背後ではなく、上空から……白銀の翼を広げて呪いが充満する空間をジグザグに駆け巡り、その反動で商店街の空き店舗が崩れたためにその存在に気づくことができた。

 アルジュナとランサーがいるのもお構いなしに、彼らとラ・ヴォワザンもエルウィンもいる動線全部を巻き込んで、セイバーの斬撃が走ったのだ。

 ラ・ヴォワザンの反応が遅れたのは、エルウィンを逃がしたからだった。あまりにも咄嗟の判断で、魔術も使い魔も使わずにエルウィンの身体をぶん投げたのだ。エルウィンはエメラルドグリーンの鉱物に背中をしたたかぶつけたが、セイバーの攻撃に巻き込まれなかった……その代わりだったのか、ラ・ヴォワザンの右手の人差し指・中指・薬指の指先がセイバーの攻撃で落ちた。

 自慢の霊薬で止血している暇などなかった。

 確かに黒ミサが続くこの空間はラ・ヴォワザンの支配下にはあったが、それでも勝てない神秘は確かにある。

 現代の神秘よりも、神代の神秘が濃いのは当然だ。科学の発展によって神秘が急速に希薄になって行った時代を生きたラ・ヴォワザンがいくら強化されても、神話の時代を生きた半神の神秘には勝てるはずはない。

 

「……意趣返しをしたかったのは分かるけれど、アーチャーの真名を明かしてしまったのはとんだミステイクだったようね。でも、ま(・)だ(・)子(・)供(・)だ(・)か(・)ら(・)許(・)し(・)て(・)あ(・)げ(・)ま(・)し(・)ょ(・)う(・)。この失敗を発条(バネ)にして、精々研鑽しなさいな」

 

 魔女の血が儀式の場に落ちた。それが胎児の血の代替となる生贄と解釈するならば、次の一手は実に魔女らしい魔術であった。

 砕け散ってエメラルドグリーンの鉱物に戻った竜騎兵だった物が集まり、今だ森のように聳え立つエメラルドグリーンの鉱物が隆起して、竜騎兵よりも大きな使い魔が形成された。エメラルドグリーンの鉱物で出来ていても、それがどんな姿なのかははっきりと分かる……短い角を持ったヤギだったのだ。

 

「黒ミサが悪魔召喚の儀式として伝承されているならば、彼らがこ(・)の(・)場(・)にいても不思議ではないでしょう。ヤギは悪しきものの象徴……悪魔の姿は、しばしばヤギの頭で表現されるのですから」

 

 黒ミサで悪魔召喚の儀式が行われたのならば、魔女はヤギの頭の悪魔(バフォメット)を喚(よ)んだはずだ。

 異端審問官の決めつけのような概念によって顕れたヤギは甲高い声で鳴き、聞いた者の鼓膜をビリつかせた。特殊な能力はない。だが、その大きさ故の純粋なる破壊力は竜騎兵よりもずっと激しく、蹄で地面を踏みしめれば近隣の店舗が微かに揺れた。

 本来ならば、人間が戦車を持ってきても太刀打ちできやしないヤギだったが……黒い靄の剣で頭から胴体まで貫かれ、貫かれたまま魔力が放出された。内側からの攻撃によって、バラバラになったヤギはエメラルドグリーンの鉱物に戻った。と思ったが、バラバラになった鉱物の欠片が森へ還ると、エメラルドグリーンの鉱物は再び集まってさっきよりも大きなナニかが形成される。

 次もヤギだった。さっきのヤギより一回り以上も大きく、立派な角を生やしたヤギが再び顕れたのだ。

 最初のヤギよりも破壊力は増しており、立派な角が生えた頭を振り回してセイバーを吹っ飛ばし、蹄の足音は震度1ぐらいは揺れそうな衝撃だった。

 そのまま突進でもすれば、サーヴァントと言えど骨の一本や二本は折れるだろう。だが、突進は鎧武者によって受け止められてしまった。鎧の所々が破損しているライダーがヤギの頭を鷲掴むと、ヤギはびくともしない……そのまま、ヤギの頭部と胴体に手をかけたライダーは、とんでもない膂力でヤギを真っ二つに引き千切ったのである。

 一頭目のヤギも、二頭目のヤギも倒された。だが、二度あることは三度あるとはよく言ったもので、そもそも三位一体の法則は魔術世界のみならず世界中で秩序に組み込まれている。鉱物の欠片は再び集まり始めた。

 今度は、エメラルドグリーンの鉱物で形成されている森の殆どが集まってきた。二頭目のヤギよりも大きく、商店街のアーケードが存命だったならば確実に頭をぶつけていたほど大きく。頭に生える角は樹齢何百年もの歳月を経た樹木のように枝分かれをした、トロールでも刺し殺せそうなほど禍々しくも美しいエメラルドグリーンの角だった。

 

「さあ、三度復活した悪魔をどう斃す……?」

 

 アルジュナが三本の矢を射出しても、ヤギにはヒビ一つ入らなかった。最初の小型のヤギよりも、次の中型のヤギよりも、その何倍もの力が凝縮されたエメラルドグリーンの悪魔として召喚されたのだ。

 大型のヤギが蹄を鳴らすと、深潮全部のテレビに緊急地震速報が流れた。震度3強だった。

 圧倒的な暴力の化身として、このまま暴れられたら大変なことになっていただろう。ヤギに踏みつけられてランサーの槍が折られた瞬間は、アルジュナもアルジュンも少々の焦りを見せていた……が、刹那に、再び地面が揺れた。震度2ぐらいだった。

 

「臓腑もなく血も通っていないが……詰め込まれた呪も魔も、全て撒き死ねぃ!」

 

 ランサーがアスファルトの地面を踏み抜いた。震源である。槍を手放した拳が闘気を伴ってヤギにぶち込まれてエメラルドグリーンの身体は毀れ落ち、そこから全身にヒビが回りって一気に砕け散ったのだ。

 

「……槍、いらねー」

「それな」

 

 思わず、心護からこの感想が出た。

 杏華の発言にどこか既視感を抱いたのは、マルシェで藍愛たちが同じ言葉を言っていたからだった。




ランサーの槍は宝具でも何でもないので、槍がなくても殴ればいいので問題ないのである。
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