リフレイム   作:アカネのメガネ

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CHAPTER.9「あなたに」

─その翌日、先生はミレニアムサイエンススクールに呼ばれていた。

本来であればベルやホムラの過去に何があったか聞きに行こうとしていたのだが、ウタハから「緊急の用事」と言われれば行かざるを得ない。先生はユウカに促され、とある部屋に入る。その部屋の中には、既にウタハがいた。

 

ウタハ「いきなり呼び出して悪かったね、先生。どうしても緊急で話しておかなければならないことだと思ったから」

“話っていうのは…その機械のこと?”

 

テーブルの上にはガラスケースの中に保管されたトランシーバのようなものが置かれている。

 

ウタハ「その通り。これはゲヘナの万魔殿議長羽沼マコトから解析を依頼された雷帝の遺産…。名を『エルピスの星』というらしい」

“エルピスの星…?”

 

エルピスといえば、神話においてパンドラが開けた箱の中に最後まで残っていたものだ。

どのようなものかは曖昧で、希望だったり災いだったりと解釈によって分かれているらしいが…。

 

ユウカ「いつ聞いても仰々しい名前よね」

ウタハ「…昨日から解析を進めていたこの機械だが…解析をするうちにこの機械がとんでもない機能を持っていることが明らかになった」

“とんでもない機能?”

ウタハ「…この機械は、精神を強制的に反転させることが出来る…らしい」

 

その言葉を聞いて数秒間、先生は世界のすべてが止まったかのような感覚に襲われた。

 

ウタハ「…正確に言うと、人の精神に干渉できる特殊な波長を発生させ、その人の性質を強制的に反転させられる装置…というのが現時点での私たちの見解だ」

ユウカ「…その言い方だと、まだ全貌はわかっていないのかしら?」

ウタハ「あぁ、何せ起動させていないからね。…できる限りの解析をして、何とかこの機能を突き止めたわけさ」

 

精神を反転。それはつまり…

 

“…色彩と…同じ…?”

プラナ「…本物とは比べ物にならないとは思いますが、機能だけを見ればそのような装置と言っていいかと」

アロナ「と、とんでもない危険物じゃないですか!?」

 

アロナとプラナ。二人の声は聞こえてこそいないが、ウタハは先生からの言葉に返答するように続ける。

 

ウタハ「…色彩。…そうだね、そう言っても過言じゃないとは思う。あくまでも、現時点では…だけどね。…さて、一番の疑問となるのは『雷帝が何故これを造ったのか』だ」

ユウカ「兵器として使うためじゃないの?」

ウタハ「最悪の場合、キヴォトスを滅ぼしかねない存在と同様の力を持つ機械をかい?」

ユウカ「…あまりにもリスクが高すぎるわね。じゃあ、研究目的とかかしら?」

ウタハ「その可能性が一番高いとは思うが…それにしたってこの機械は頑丈すぎる。破棄する時のことを考えていなかったのか?と言いたくなる」

ユウカ「…それもそうね…。好奇心…はないわよね。いくらなんでも」

ウタハ「…どうして私の目を見て言うんだい?」

 

いずれにせよ、今の段階では危険な機械である以上のことはわからないだろう。ウタハは解析を続けることをユウカと先生に伝えるのだった。

その後、ユウカとも別れ、先生はベルへ電話をかける。

 

─数刻の発信音。しかし、その電話に誰も出ることはなかった。

 

“…ハナエ?”

 

その後も何度もかけ直すも、やはり誰も出ることはなかった。

 

─そして、数日の時が流れた。

 

メグ「…」

 

メグは、特に何をする訳でもなく、ただそこにいた。この世界の自分を襲撃したいのはその通りだが、ヒナが近くにいる以上それも難しい。ハナエの元に戻るにしても、自分にはハナエと一緒にいる資格はきっとない。

 

フランシス「…しかし、このままでは良くない。そうだろう?下倉メグよ」

メグ「…うん。少なくともヒナを何とかしないとね」

デカルコマニー「そういうこったぁ!!」

フランシス「…ふむ、お前の客人が来たようだ。ここは失礼させてもらう」

 

そういうとフランシスはどこかへ去っていった。客人なんて、一体誰が…

 

「…やっと見つけましたよ、メグさん」

 

その声に、思わず振り返る。

 

そこには、私の世界の…私がよく知る朝顔ハナエが立っていた。

 

メグ「…久しぶり、かな?」

ハナエ「…そうですね、久しぶりです」

メグ「なんでここがわかったの?」

ハナエ「…なんででしょうね。勘、としか言えませんが…ここにいるような気がして」

 

実に数日ぶりとなる二人の会話。

しかし、その空気は非常に重たいものだった。

そんな空気を断つように、ハナエが切り出す。

 

ハナエ「…この世界の私や、温泉開発部の皆さんを…攫っていると、ミネ団長や色んな方が言っています」

メグ「…そうだね。言っておくけど、その犯人は私だよ」

 

聞きたくなかったその言葉を、めっちゃは淡々と告げる。苦い現実が、ハナエの双肩にのしかかってくるように感じられた。

 

ハナエ「…どうして、そんなことを…?」

メグ「………」

 

数秒の沈黙の後、メグは口を開く。

 

メグ「…ハナエには、関係のない話だよ」

ハナエ「そんなことないです!メグさんは、私にとって…!」

メグ「…そうだね。きっと私も同じだよ。でも、あなたは私じゃない。私の気持ちなんて、あなたにはわからない」

ハナエ「…それは…そうです。ですが、それはあなたを見捨てる理由にはなりません!」

 

その言葉を受け、メグは観念したか口を開く。

 

メグ「………ハナエにはさ、幸せに生きていてほしいんだ。この世界で…ね」

ハナエ「…もしかして、それでこの世界の私を…?」

メグ「そうだね。この世界のハナエを攫ったのは…それが理由だよ。温泉開発部のみんなを襲ったのは…ハナエに安心して暮らせるようにと…後は、私自身が、この世界の私を許せなかったから。私と同じなのに、私と違って何もなくしてない。それがどうしても許せなかった!私はすべて喪ったのに!何も失わずのうのうと生きているあいつが!認められなかったんだ!!」

 

メグのヘイローが更に歪み黒く染まり始める。

 

ハナエ「…メグさん…」

メグ「…どうしても、私を止めたいって…言うの?」

 

恨みや憎しみ、様々な負の感情を孕んだ眼光を向けられる。それでも、ベルは怯まない。

 

ハナエ「…あなたに、これ以上辛い顔はさせたくありません。私は、あなたに笑っていてほしいんです」

メグ「…そっか。なら…!」

 

メグはずっと愛用してきた武器である火炎放射器『メグマパワー!』を構える。

それを見て、ハナエも少しの逡巡の後、愛銃『ハッピースマイリー』を構える。

 

メグ「力づくでも、止めてみなよ」

ハナエ「…そのつもりです」

 

先に仕掛けたのは、ハナエだった。引き金を引いて一発撃ち込む。メグはそれをことなげもなく躱し、炎をベルに向けて放つ。

 

ハナエ「あつ…!」

 

躱せこそしたが、その熱は伝わってくる。ハナエは目の前のメグから目を逸らさず、負けじと弾丸を放つ。しかし、間隙を縫うように接近してきたメグの蹴りを食らって大きく吹っ飛ばされる。

 

ハナエ「う…くぅ…!」

メグ「…やめといた方がいいんじゃないかな?そもそもハナエってさ、戦闘慣れしてないでしょ?」

 

耳が痛い。確かに戦闘なんて殆どしたことがなかった。それでも…。

 

メグ「…なんでまだ立ち上がるの?」

ハナエ「あなたを…放っておけないからです…!」

メグ「………」

 

はぁ。と、大きなため息を漏らす。

風が、強く吹き始めた。

 

メグ「私のことなんて、放っておいてくれていいよ。私を助けたって、何も返せやしないんだから」

ハナエ「何かを返して欲しいわけじゃありません!」

メグ「じゃあなんで私を助けたの?助けてなんて…頼んでないよね?」

ハナエ「…それは…」

メグ「…昔さ、私何度も─

 

強く、風の吹き抜ける音が鳴る。

 

ハナエ「………」

メグ「…いや、助けてくれたことに、感謝してないわけじゃないよ。でも」

 

風の勢いが、少し弱まる。

 

メグ「こんな私を助けたところで、何にもならないと思うけど?」

ハナエ「ッ!」

 

リロードをすると再びメグへ向けて撃ち始める。しかし、それらはやはり簡単に躱されてしまう。

 

ハナエ「何にもならないなんて、そんなこと…!!」

メグ「じゃあ何?助けた理由があるんでしょ?何で私を助けたの」

ハナエ「…それは、あなたの笑顔が…」

メグ「違うでしょ!?」

 

次いで炎がハナエに向けて放たれる。何とか回避はするものの、その先にメグは攻撃を仕掛けていた。

 

ハナエ「う…!」

 

ハンドガンの銃弾をもろに食らってしまう。それでも、ハナエは怯まずメグに近づこうとする。メグも同じく近づき、二人は至近距離まで接近する。ハナエは銃撃を行うが、メグはそれを敢えて受けハナエの首元を掴む。そして─

 

ハナエ「きゃぅッ…!!」

 

足を払い体勢を崩させる。バランスを崩したハナエはそのまま地面に倒れ込んだ。

ハナエの視界に、青い空とメグの顔が映る。

 

メグ「…私の笑顔が見たいなんて、嘘だよ。だって、私の笑顔なんて見たって…何にもならないでしょ」

 

その言葉を否定しようとした。しかし、それは叶わなかった。

目の前に映る顔を見て、言葉を出せなくなってしまったから。

 

メグ「…ありがとう」

 

その顔は、後ろの青空に似合わない…

 

メグ「…今まで一緒にいてくれて」

 

暗く淀んだ、冷たい水のようだった。

 

メグ「…でも、ごめんね。私は─」

 

ハナエの耳にそう聞こえたと同時に、麻酔銃の銃弾が撃ち込まれる。

 

ハナエ(ま…って……メグ………さ……)

 

希薄になっていく意識の中、無音の声で呼びかけても届くはずもなく。

 

メグ「あなたに、幸せになってほしいから」

 

そう聞こえてきたのを最後に、ハナエの意識は混濁の底へと沈んでいった。

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