地下生活者「あ、あれが『炎の悪鬼』[イブリース]…!ヒヒ…なんと恐ろしい…」
フランシス「…あぁ、それに加えて神々の星座もある。この物語の結末は決定づけられたとも言えるだろう」
吹き上がる火柱から炎が飛び散るように辺りに広がり、それらがあちらこちらに引火していく。その火柱の中心部に、メグのような姿をした何かが佇んでいた。
ヒナ「…あれは…!」
イオリ「委員長!」
騒ぎを聞きつけ校舎内にいた生徒たちが外に出てきた。
ジュンコ「何よこれー!至る所が燃えてる!」
ハルナ「ここまでの規模の被害はゲヘナでも珍しいですわね」
フウカ「落ち着いてる場合じゃないでしょ!?」
日没が近くなり、そろそろ空が暗くなるはずだが、一面に広がった火が辺りを明るく照らしているため空は暗くなる様子を見せない。燃え上がっているのはゲヘナ学園の校舎のみならず、様々なところに火の手が回っている。このままにしていてはそれこそゲヘナ全体…いや、最悪キヴォトスがすべて灰と化す可能性もある…。
燃え広がる炎の中心部に静かに佇む、メグの姿をしたソレは未だ動きを見せない。
メグ「…別世界の私…だよね?あれ…」
ヒナ「…ひとまず、アレを止めるわ。………マコト、状況はわかるわよね?手を貸してちょうだい」
マコト「キキ…さしもの風紀委員長様もこの規模にはお手上げか。まぁいい、私もゲヘナが焼き尽くされてしまうのは御免こうむるからな」
ヒナは通信でマコト及び万魔殿に協力を要請する。それに次いで、アコから連絡が飛んできた。
アコ「委員長!」
ヒナ「どうしたのアコ?言っておくけど万魔殿と手を組むことに文句を言われても…」
アコ「違います!何か妙な反応を周囲から感じるんです!気をつけてください!」
その言葉に反応するように、ヒナはメグの頭上を見る。いつの間にか上がっていた火柱は消えていたが、かわりに巨大な火の玉が浮かんでいた。
イズミ「な、何あれ!?」
イオリ「…アコちゃんが言ってた妙な反応って…まさか、あれのことか…?」
宙に浮かぶ火の玉は、まるで心臓のように一定のリズムに合わせて拍動している。
ヒナ「…何か…いる?」
やがてその火の玉は花火のような音と共に弾けた。飛び散るように撒かれた炎が辺りに落ちて新たな火種となる。そして、弾け飛んだ火の玉の中心部から現れたそれが、地上に降りてくる。
チナツ「あれは…!?」
両肩から二対の蛇を生やし、所々から炎を噴き上げる蛇の怪物。異様な雰囲気を放つそれが産声を上げるかのように吠えると、火の勢いは更に強まる。
ジュンコ「あ、あんな怪物と戦えっていうの!?」
イオリ「やるしかないだろ。あれをそのままにしておけば、絶対にとんでもないことになる…!」
ハルナ「お気に入りのお店を燃やされるのは嫌ですものね」
マコト「…どうやら…あの怪物、そしてメグの姿をした何かに対する意見は満場一致のようだな」
戦車隊を引き連れて、マコトたちが現れる。
それを合図にするように、ゲヘナの生徒たちが一様に武器を構える。
マコト「…これ以上の被害拡大はここで食い止める!」
ヒナ「…行くわよ!」
ゲヘナ学園へ向かう装甲車の中、先生はプラナからの発言を受け、驚愕を隠せないままでいた。
“メグが…反転した…!?”
それは、あのシロコやホシノと同じ状態になってしまったということ。
プラナ「状況はわかりませんが…反転した以上、メグさんはもう…」
“いや、まだ元に戻せる可能性が…”
フランシス「その可能性は、ない」
後方から、冷たく響くそんな声が聞こえた。
“フランシス…!”
フランシス「焦っているようだな、先生。…だが、残念ながらあなたの力を持ってしても…この物語の結末は変えられない」
その言葉を、私は何も言い返さずに聞く。
フランシス「彼女の神秘は変質し、反転した。…本来なら彼女は別世界に置いても役割の薄い存在だったはずだ。それも、先生の死によって…変質した」
デカルコマニー「そういうこった!」
フランシス「私は変質した存在の役割を決定づけられるか…それを示すために彼女を利用した。結果として、彼女はすべての物語を破滅と絶望のエンディングへと導くイブリースへと変質した」
表情の変化こそわからないが、きっと彼はほくそ笑んでいるのだろう。
フランシス「そして、変質した彼女に呼び寄せられる形でこの世界に顕現した、神々の星座『ザッハークの怨嗟』…。この物語、この世界を灰と為すことを役割として呼び寄せられた存在。これらを対処する手段など…先生、あなたにはない。結末は今、決定づけられたのだ!」
フランシスは、高らかにそう叫ぶ。その声に、ハナエは切り出す。
ハナエ「…対処する手段などない…?じゃあ、メグさんは…?」
顔は見えないが、今にも泣き出しそうな声だった。
フランシス「…このまま、このキヴォトスのすべてを燃やし尽くすだろう。それが、イブリースとなった下倉メグの役割なのだから」
デカルコマニー「そういうこったぁ!!」
フランシスのその声を、ハナエはどう受けとったのか。返答がないまま、ハナエは車を走らせ続けていた。
フランシス「…それとも、先生。それでも、足掻くというのですか?」
“当然、足掻くよ”
即答だった。
それが聞きたかったと言わんばかりに、フランシスは切り返す。
フランシス「ならば見せてもらおうか、別の物語に対して…主人公たるあなたがどのように動くかを」
そう言うとフランシスはどこかへと消えてしまった。
すると、急にハンドルが大きく切られる。
“どうしたの!?”
ハナエ「炎の弾が、隕石みたいに飛んできてるんです…!」
外の様子を見ると、時間はもう夜のはずなのに、辺りは煌々と輝いている。それの原因が、そこら中に広がっている炎のせいであることは明白だった。
アロナ「せ、先生!これ以上車で近づくのは、危険です!」
アロナの忠告を受け、先生はハナエに車を停めてもらうよう頼む。ここから少し進めばゲヘナ学園の本校舎があるが…。
“…生徒を見捨ててはいけない”
そう考えた先生は学園へと走り出した。
ハナエも、それに続く。
そして、辿り着いたゲヘナ学園で見たものは…既にかなりの範囲に燃え広がった炎。既に戦いを繰り広げていたゲヘナの生徒たち。蛇のような怪物。そして─
ハナエ「…メグ…さん…?」
反転した、別世界のメグの姿だった。
“みんな!”
ヒナ「先生!怪我は?」
“ひとまず大丈夫。そっちは?”
マコト「…大丈夫と、言えれば良かったんだがな…」
戦闘を行い傷ついていくゲヘナの生徒たち。怪我した生徒はなんとか後ろに運べているようだが…。
マコト「…救急医学部の到着が遅れている…。まったく、セナは何をしているんだ」
ヒナ「恨み言は後よ、それより今はアレらの相手を」
ヒナが目線を向けたその先、反転したメグ…メグ*テラーと呼ぶべきだろうか。彼女と蛇の怪物がいた。
“あれが…『ザッハークの怨嗟』…?”
プラナ「そのようです。セトの憤怒と似通った力を感じます」
ハナエ「…メグさん…」
ひとまず、メグ*テラーとザッハークを引き離さないと…と考えた刹那、メグの火炎放射器から光線のような炎が射出される。
ヒナ「ッ!先生!!」
“こっちは大丈夫!”
攻撃の跡が激しく燃えている。この破壊力と火力は相当なものだ。
ハナエ「…私のせいだ」
“ハナエ?”
ハナエ「私が、メグさんとちゃんと話をしなかったから…」
ハナエのヘイローが黒く変色していく。
まずい。このままじゃハナエまで反転しかねない…。
そう考えていると…。
メグ*テラーが急にこちらに移動してきた。
イズミ「えっ!動いた!?」
ジュンコ「今までその場から一歩も動かなかったのに!?」
周囲から驚愕の声が上がる。
大きな動きを見せなかった存在が大きく動けばそうもなろう。
ヒナは即座にデストロイヤーを構え、撃つ。
それらを躱して、メグ*テラーは先生へ襲いかかる。
“ッ!”
アロナ「せ、先生!?」
先生はハナエを守るような姿勢を取る。
そんな先生へメグ*テラーは攻撃を仕掛けようとする。
アロナ「だ、ダメです!防護フィールドの出力を最大に─
「戦場に、救護の手を!」
その声とともにメグ*テラーは大きく吹き飛ばされた。
“…ミネ!?なんでここに…?”
ミネ「救護が必要な方が大勢いらっしゃると、応援要請を受けましたので」
後方を見ると救護騎士団と救急医学部が共同で負傷者の治療を始めようとしていた。
セナ「申し訳ありません。非常事態だと感じたので」
マコト「キキキ…まさかトリニティの連中が来るとはな」
ヒナ「でもこれで負傷者は大丈夫そうね、戦力も増えたし…」
吹っ飛ばされたメグ*テラーはこちらを睨んでいるように見える。
ミネ「先生、ハナエを任せましたよ」
“…わかった”
ミネはそのままメグ*テラーへと向かっていく。それに続くように、ヒナも攻撃を開始する。
ヒナ「マコト!そっちは任せたわよ!」
マコト「…フン、言われるまでもない」
ヒナを除くゲヘナの生徒たちはザッハークの怨嗟へと攻撃を仕掛ける。まさに総力戦だ。
その間に私は、ハナエと先程の話の続きをする。
“…ねぇ、人を救護する理由に、エゴはあってはいけないって…思ってる?”
ハナエ「…はい」
“どうして?”
ハナエ「だって…人を助ける、救護するなんて言っておきながら…結局は自分のことしか考えてないんだって…」
“それでも、救われる人はいるよ”
先生は、諭すように話す。
“誰かを救いたいなら、まず自分自身が救われないと。…他人を優先して自分を放棄するなんて、まずできないんだから”
先生は、ハナエの頭を優しく撫でる。
涙は、流れなかった。
零れる雫を枯らすほどの強い想いが、ハナエの中で燃えていた。
『…メグさんの笑顔が見たいから、です!だって私…メグさんの心の底から笑った顔、まだ見てませんから』
始まりは、確かに自分のためだったのかもしれない。褒められた理由じゃなかったかもしれない。
それでも、あの言葉に偽りなんて、なかったはずだ。
“…メグの笑顔を、取り戻そう”
静かに、ハナエは頷いた。