リフレイム   作:アカネのメガネ

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CHAPTER.15「朝顔」

─いつまで、歩いていただろうか。

何も無い道を、ただ歩く。何の目的もないままで…ただ、歩く。

こんなことを、いつかしていた気がする。いつだったっけ…?

 

メグ「(あぁ、そうだ。あの時だ)」

 

突如として起きた大破壊。それに巻き込まれて、私は昏睡状態になった。あの日から目を覚ますまでの間、ずっと見ていた夢と同じだ。

 

…でも、あの時とは明確に違うものがある。それは─

 

メグ「…苦しい…」

 

足は止まらないのに、息苦しい。足が重い。なら何故歩いているのだろうか…?自分で自分がわからなくなってくる。

そもそも、自分はなんだったんだろうか。

 

自分の人生は、何の意味があったのか。

 

考えても何も浮かばない。

バカな私が嫌になる。

人を幸せにしようとして、結局は自分の感情のままに動いてしまった。

そんな私の人生に、意味なんて初めからなかったのかもしれない。

 

メグ「…はは…バカだなぁ…私って…」

 

 

 

そこで足が動かなくなる。前に動こうとしていた力に任せ、地面に倒れ伏す。痛みはなかった。というより、もう何も感じられなくなってきている。

 

ここで終わりかと思いこそしたが、何故か悲しさや虚しさは何も感じられない。ただ、目の前の死を受け入れているような感覚。

 

あぁ、そうか。

 

何もかも喪って…それでも生きてきたけれど…ようやく、終われるんだ。

 

これで…やっと…。

 

静かに目を瞑った。

優しい闇が、眼前に広がる。

意識が溶けていく。

 

やがて、何も感じられなくなって─

 

 

 

───

 

 

 

──

 

 

 

─グ

 

 

 

メグ─

 

 

 

…?

 

誰かが、呼んでる?

 

「起きろメグ!ほら!」

 

目を静かに開ける。そこにいたのは─

 

メグ「…部長?」

カスミ「ボーッとしている暇はないぞ、時間は有限なんだ」

 

そう言うとカスミは地図をメグに見せる。

 

カスミ「このポイント、いい泉脈があるようなんだ。きっと素晴らしい温泉が掘れるぞ!」

 

無邪気にそう笑いかける部長はあの頃と全く変わらないように見えた。だけど─

 

メグ「いや、いいよ。私は」

 

今更、あの日々を見せられたって…何も変わりはしない。

夢はなんとも残酷なものだ。最期にもう戻れない瞬間の幻を見せるなんて─

 

カスミ「本当にそう思ってるのかい?」

メグ「え…?」

 

カスミは地図をしまい、腕を組んで語りかける。

 

カスミ「…そもそも自分の人生に意味がなかったなんて、そんなはずはないだろう」

メグ「…部長に何がわかるのさ。わたしの心なんて、絶望なんて…わからないくせに…!」

カスミ「あぁ、わからないさ。でも、私はメグのおかげで救われたんだぞ?」

メグ「…私の…?」

 

カスミは何処か怒りの感情が混じった声色で続ける。

 

カスミ「自分の人生に意味がない?だったら私はどうなる?私の凍えた心を…メグ、君が暖めてくれたんだ。その事実すらも否定しないでくれ」

メグ「…でも…」

カスミ「…それに、君は確かに元々あったものを全て喪った。…それでも、残ってるものがある」

メグ「そんなもの…あるわけ…」

カスミ「じゃあ、その手に大切そうに持ってるものはなんだ?」

メグ「…?」

 

そう言われて、自分の右の手を見る。そこにあったのは、小さなピンク色の花を大事そうに持っている自分の手だった。

 

メグ「…アサガオ…?」

 

いつから手に持っていたのか、持っていたのなら何故今まで気づかなかったのか─

 

いや、違う。

 

ずっと、ここにあったんだ。

 

それを私は、気付かないふりをしてたんだ。

 

喪ったものばかり数えて、今そこにある大切なものを…ずっと見ないふりしてたんだ─

 

カスミ「…さて、メグ。聞かせてもらおう…。君は何がしたい?」

 

それは、あの日かけられた言葉と、同じ言葉だった。

もう、無理かもしれない。叶わない夢なのかもしれない。そもそも、あの時とは何もかもが違っている。あの頃持っていたものは全てなくなって、もう自分の元に戻ることはない。

 

メグ「…私は…」

 

それでも、口から出た答えは…同じだった。

難しいことは考えないまま。自分の為に、

もしかすると誰かの為に。

 

メグ「…温泉だけ、掘ってたい」

 

カスミは、微かに笑った。

 

カスミ「…そうか。じゃあそうするといい」

 

気がつくと、カスミはいなくなっていた。そのかわりに、少し小さな、暖かな手が…メグの右手を握っていた。

 

メグ「…ハナエ」

ハナエ「…やっと、起きましたね。…メグさん」

 

ハナエはメグの手を離すと、深々と頭を下げる。

 

ハナエ「ごめんなさい!私、嘘ついてました!ホントは、私…あなたを喪うのが怖かったんです…。あなたがいなくなったら、私には何も無くなっちゃうから…だから、あなたを救護しようと…。そんな理由で救護するなんて、恥ずかしいことだと思って…ずっと言えなくて…本当にすみません!!」

 

それがなんだかおかしくって、メグは笑みをこぼす。

 

メグ「あははっ!」

ハナエ「…メ、メグさん?」

メグ「…いや、ごめんね?なんだかおかしくなっちゃって」

ハナエ「ほ、本気なんですよ!?」

メグ「うん、わかってる。…むしろ謝らないといけないのはこっちだよ」

 

メグはハナエに頭を下げる。

 

メグ「ハナエのこと、何も考えないで…自分の中の暗い感情を、何も伝えないままで…勝手なことしちゃって…本当にごめん!」

ハナエ「そ、そんな!それはメグさんと話をしなかった私が…」

メグ「いーや、私のせいだよ」

ハナエ「私です!」

メグ「私が…」

ハナエ「いえ私…」

 

堂々巡りなそんなやり取りの末─

 

メグ「…それじゃ、どっちもどっちってことで」

ハナエ「はい、そうしましょう!」

 

ハナエは満面の笑みを浮かべる。眩しくて、見てるとなんだか暖かくなるような感じがする。

 

メグ「…ハナエ」

ハナエ「はい?」

 

メグはハナエに一言声を掛けると、その身体をギュッと抱きしめた。

喪われた左腕ではハナエの体温を感じ取ることはできない。しかし、それでも体全体で彼女の体温を感じ取ろうとする。

ハナエもメグを抱きしめ返す。

 

メグ「ねぇ、ハナエ」

 

それは、とても優しい声色だった。

 

メグ「ありがとう」

 

 

 

いつの間にか、ゲヘナ全体に広がっていた炎は消え去っていた。大炎上のその跡地に残されたのは、互いのことをもう二度と喪わないようにと抱きしめ合う、二人の姿だけだった。

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