ミネ「…ハナエはまだ見つかっていません。誰かに連れ去られたとは思われるのですが、その痕跡もほとんどなく…」
“…そっか…”
セリナ「…ハナエちゃん…大丈夫でしょうか…」
シャーレのオフィス内、先生は救護騎士団のミネとセリナと共にいなくなってしまったハナエの行方について情報を共有していた。が、結果としては全くわからないということがわかっただけだった。
頭を悩ませているとヒナからモモトークが入る。
ヒナ「先生、カスミがいなくなったわ」
“カスミが?”
ヒナ「牢屋に入れてたんだけど、脱獄されてね。でも、メグも温泉開発部の他の部員たちもどこにいるかわからないって言うのよ」
“…そっか”
先生は、嫌な想像をしてしまう。カスミは黙って連れ去られるような生徒じゃないとはいえ、ハナエの失踪の後ともなるとこう神経質になるのも無理はないだろう。
“…わかった。こっちでも探してみるよ”
ヒナ「ありがとう」
ミネ「…また誰か攫われたのですか?」
“ゲヘナの生徒だけど…もしかしたら、だよ”
ミネ「…もしも同一犯の仕業であるならば、犯人には相応の救護をする必要がありますね…!」
セリナ「…ハナエちゃん…」
怒りを顕にするミネと心配そうな顔をするセリナ。どうにかして失踪した生徒を見つけないと…そう考えているとオフィスの扉が勢いよく開けられた。
ベル「せ、先生!」
ベルこと別世界のハナエが明らかに焦っている様子で入ってきた。ミネとセリナはその姿を見て固まっている。
ベル「…あ、団長に…セリナ先ぱ…!」
思わずそう言ってしまったのか、ハナエは口を抑える素振りをする。
驚きの表情を浮かべる2人を見て観念したか、ハナエはミネとセリナにも事情を説明をする。
ミネ「…別世界のハナエ…なるほど、それでなんだか大人びて見えるわけですね…」
セリナ「えっと…は、ハナエちゃん…でいいかな?」
ベル「…よ、呼びたいように呼んでくだされば…」
“…それで、ハナエ…どうしたの?”
ベル「…メグさんが…これとスマホを残して、いなくなってしまって…」
そうして『今までありがとね』と書かれた書き置きを先生に見せる。
ミネ「…メグ、といえば確かゲヘナの温泉開発部の…?」
“…正確には、別世界のメグだね”
セリナ「…いなくなった、ということは…この方も連れ去られたのでしょうか…?」
確かに、タイミングについては同時期だ。辻褄は合う。しかし、それでは一つ説明ができないものがある。
ミネ「しかしセリナ、もしそうだとするとこの書き置きを残せるわけはありません」
“…そうだね、確かにこれだと連れ去られるのをわかってるような感じだし…。ハナエ、メグの様子に変わったところとかない?”
ベル「…なんというか、こう…思い詰めてるような感じはありましたけど…」
“…そっか”
連れ去られた様子のこの世界のハナエ、いなくなったカスミ、そして書き置きを残して消えた別世界のメグ。…先程のものとはまた異なる嫌な想像が脳を過ぎる。
結局その場では、これといった結論を出せないままその場はお開きとなった。ハナエは、ひとまず救護騎士団のみんなと行動を共にすることにしたようだ。
それから数日後、自販機で飲み物を買おうとした私の携帯に着信が入る。見た事のない番号からだ。若干の怪しさを感じつつも、通話に応じる。
「…先生、少しお時間いただけますでしょうか?」
“…!…お前は…!!”
─ところ変わってゲヘナ学園。風紀委員会は件の失踪事件について調べ始めていた。カスミの後も、多くの生徒が失踪しているのだ。しかも、その全てが温泉開発部の部員だというのだから、犯人の動機はなんとなく想像がつく。
ヒナ「…それでも誰が…」
その時、ヒナはあの時話した別世界のメグのことをふと思い出す。私たちのよく知るメグとは違う印象を受けたあの感覚。ヒナはずっと、それを前にもどこかで感じた気がしていた。それがいつ、どこで、誰から感じたものだったのかはまだわからない。
…今はそんなことより、いなくなった温泉開発部の部員の情報を少しでも確認しないと…。
そうして、ヒナは気づく。
ヒナ「…そういえば、メグは失踪してないのよね…」
失踪だとしたらメグがカスミに着いていかない理由も、カスミやその部員たちだけがいなくなる理由もない。仮に本当に攫われていたとするならば、部長であるカスミやその他の部員だけを攫って現場班長のメグだけ残すというのもおかしな話だ。メグの力を警戒しているという線もあるが、そもそも最初に攫ったのがカスミである時点で、攫う基準に強さは関係ないと推測ができる。となると、犯人の目的は…。
ヒナ「…メグ…?」
カスミをはじめとしたメグ以外の温泉開発部の失踪事件。仮にこれが誘拐事件だとして、ここまで現場班長と立場も実力も確かなメグがそのままとなると、犯人はメグ以外の温泉開発部に恨みがある…。いや、逆だ。メグに恨みがある人が犯人だ。
となると後は誰が犯人なのか…なのだが…。
ヒナ「…まさか、ね…」
脳裏の嫌な予感を払拭することを目的に、ヒナは別世界のメグの連絡先に電話を入れる。
ベル「…あ、ヒナさん…?私です、ハナエです…」
ヒナ「…ハナエ?メグは?」
ベル「…じ、実は…書き置きを残してどこかに行ってしまって…」
嫌な予感は当たっているかもしれない。
そう感じたヒナは通話を終えると部屋を飛び出すのだった。
─シャーレの屋上。呼び出しの電話に指定された場所に先生は来ていた。そこにいたのは…。
「…お待ちしておりましたよ、先生」
“黒服…一体何の用?”
黒服「…そう警戒なさらないでください。落ち着いて話もできません。…立ったままでのお話となることについては、ご容赦いただければと」
“…要件から、先に聞かせて”
黒服「クックック…そうですね。…話というのは、今この世界に来ている、別世界の生徒たちについての話です。彼女たちが何故この世界に来てしまったのか…先生はわかりますか?」
“それは、わからない”
黒服「そうでしょうね。…先に言っておきますが、この話については私の推測も多分に含まれております。ですので、これが正解なのかは断言できかねることをご容赦ください」
先生は何も言わずに頷く。
黒服「…まず、別々の世界同士を繋ぐためには、パスの発現が必要となります。このパスというのは、いわばそれぞれの世界における同一部分。この同一部分が僅かでも生まれればそれがきっかけとなり、2つの世界が繋がる」
“…それが、パスの発現…”
黒服「…もっとも、パスの発現が起きたからといって、別世界同士を移動することは基本的には不可能です。繋がったからと言って、その道を渡るための手段というのはまた別に用意しなくてはなりませんから」
“…じゃあ、なんであの子たちはこっちの世界に来れたの?”
黒服「…私は見ていないので又聞きした情報で申し訳ないのですが…先生、あなたはアビドスで色彩を観測したそうですね?」
それは忘れられるはずのない出来事だった。地下生活者の暗躍を発端とするホシノの暴走。それを止めようと、シロコが色彩を呼び寄せ、それに触れようとした…。結局それは、もう一人のシロコによって阻止されたわけだが。
黒服「…恐らくは、それが原因かと」
“…どういうこと?”
黒服「あの色彩の出現…僅かな時間ではありましたが、それがこの世界と彼女たちの世界の共通項となり、2つの世界が繋がるに至った…ということです。向こうの世界でも色彩が出ていたのかについては…もちろんわかりかねますが。そして色彩の持つエネルギーが作用したことにより、本来であれば『箱舟』などのオーパーツを利用しなければできないはずの別世界同士を繋ぐ道ができた…。と、私は考えています。普通であれば起こり得ないでしょうが、色彩に関しては未知数の部分も多いので」
“…となると、2人は帰れないと?”
黒服「…少なくとも、また色彩が出現しなければ難しいかと」
先生は小さく「そうか」と零した。
あの2人が自分たちの世界に帰りたいと本心から思っているかはわからないが、思っていた場合は相当苦しいことを伝えなければならない。
黒服「…しかし、彼女たちはこの世界にとって意図しない方法で入り込んだ、まさに異物というべきもの。排斥する為の自浄作用のようなものが働いたとしても何ら不思議ではありません。…そして先生。どのような事態になったとしても、あなたは生徒の為に動くのでしょう。それは結構なことです。しかし、別世界から来た彼女たちはあなたの生徒ではありません。あなたの生徒でない以上、あなたが彼女たちを救うことはできません。今回私が赴いたのは、このことを忠告する為です。…このことについて、お忘れなきように」
そう言うと黒服はそのままどこかへ去っていく。
─あなたの生徒でない以上、あなたが彼女たちを救うことはできません─
黒服はそう言っていたが、私の生徒でなくても、生徒であることに変わりはない。先生である私が何とかしないと…。
そう考えているとモモトークに新着のメッセージが届く。
ヒナ「例の誘拐事件の犯人、あっちの世界のメグかもしれない。ひとまず探して話を聞きに行くわ」