時は少し遡る─
救護騎士団A「うそー?ホントにハナエちゃん?」
救護騎士団B「別世界のハナエはこんな美人さんになるんだねー」
ベル「あ、ありがとうございます…?」
トリニティ総合学園、救護騎士団の拠点。
ハナエにとっては、2年振りとなる仲間たちとの再会。しかし、状況が状況だけに喜んでばかりはいられない。
ミネ「…別世界のハナエ…今はベルと名乗っているようなので、ベルという名前で呼ばせていただきますが、現状失踪していることがわかっているのは、ハナエとゲヘナの温泉開発部のメンバー、そしてベルの世界の下倉メグ…この世界ではホムラという名前を名乗っているようです。これで以上ですね」
セリナ「確か下倉メグって人も、温泉開発部の部員なんですよね?こっちの世界の彼女はどうなっているのでしょう?」
ミネ「…残念ながら、そこまでの情報はまだわかりません」
救護騎士団A「…確認なんですけど、これが誘拐事件だったとして、ハナエちゃんとゲヘナの温泉開発部を攫ってる人は同じ人…って認識でいいんですよね?」
ミネ「状況証拠から見て、その認識でいいでしょう。…しかし、ホムラだけは書き置きを残していなくなっているのが気がかりです」
一様に頭を悩ませる救護騎士団の団員たち。すると、一人の団員が口を開いた。
救護騎士団C「…ホムラって人が犯人の可能性も有り得るんじゃないでしょうか」
それは、もしかすると心の中では辿り着いていた推論かもしれない。しかし、いざ口に出されると…現実を受け入れたくない。そんな気持ちになってくる。
ミネ「状況から考えると有り得る話ですね…」
ベル「ま、待ってください!まだそうだと決まった訳では…!」
セリナ「…でも、他の人に連れ去られた可能性の高いハナエちゃん達と違って、ホムラさんは書き置きを残していなくなってるんですよね?」
救護騎士団B「…犯人だったとしても、そうでなかったとしても…詳しく話を聞かないといけない人なのは違いないねー」
ハナエは、何も言えなかった。
メグさんが犯人だったからとして、それを確実にそうだと肯定できる要素はないが、否定し切ることもまたできない。
『ホムラの捜索』という方針に異論はない。でも、メグさんがそんなことをする理由がわからない。自分というものが、すこ少しずつ嫌になっていくようだ。
ベル「いけないいけない!切り替えないと!」
空元気と言われても否定はできないが、沈んでばかりもいられない。メグさんとしっかり話し合わないと!そう決意したハナエは、ひとまず装甲車両内に戻ることにした。
それから数日…ハナエが持っていたメグの携帯に着信が入る。ヒナさんからの連絡だった。
ベル「…あ、ヒナさん…?私です、ハナエです…」
ヒナ「…ハナエ?メグは?」
ベル「…じ、実は…書き置きを残してどこかに行ってしまって…」
ヒナ「…どこかに行った?心当たりがないの?」
ベル「は、はい…」
ヒナ「………そう」
ベル「…ヒナさん?」
ヒナ「…念の為、あなたにも伝えておいた方が良さそうね。…例の失踪事件、あなたの世界のメグが犯人の可能性が高いわ」
ベル「…!」
ヒナ「私は今から彼女を探しに行くから、何かあったら連絡するわ」
そうして、通信は切られた。
いてもたってもいられなくなった私は、運転席へ移動しアクセルを踏み込んだ。
ベル「…メグさん…!」
ヒナさんが何処に行くつもりなのかはわからない。メグさんに至っては言うまでもない。それでも、メグさん…あなたとしっかり話がしたい。
その感情のままに、ハナエは車を走らせた。
─最近、カスミ部長や部員たちとの連絡がつかない。
温泉開発の為色んなところを回っているのだろうか。だとしても、私に声を掛けない理由はないはず。
メグ「一人で温泉を掘るのも悪くはないんだけど、物足りないよねー」
そんな物思いに耽りながら、メグは温泉を掘っていた。温泉が出るかは分からないが、こうでもしてないと落ち着かないというのも多分に含まれていた。
「…こんな状況でも温泉を掘ろうって思えるんだ」
ふと、聞き覚えのある声が響いた。声のした方を見てみると、お面をした女性がたっていた。顔は見えないが、何故か初めてあった気がしない。
メグ「えっと…あなたは?」
その言葉を聞いて目の前の女性はつけていたお面を外す。そこにあったのはメグとよく似た顔だった。
ホムラ「…私は、あなただよ」
メグ「…え?」
その一言は、いやに冷たくて、どこか悲しいような気がした。
ホムラ「…正確に言えば、私はこことは違う世界から来た。別世界の下倉メグ」
別世界の自分。イマイチ状況が飲み込めないが、自分であるならば─
メグ「あなたが私なら、温泉を掘るのが好きなんでしょ?手伝ってよ!一人だと寂しくてさー」
その何も知らない自分の言葉を聞いて、ホムラは吠える。
ホムラ「ふざけるな!」
メグ「!?」
ホムラ「…私は、温泉なんて掘る気にもなれない…。こんな足じゃ、こんな手じゃ…入ることだってできやしない!」
ホムラは服とズボンの裾を捲って義肢をメグに見せつける。
メグは驚いた表情のまま固まっている。
ホムラ「…私は、全部なくしちゃった。先生も、部長も、部員のみんなも、片手も、両足も、温泉も、何もかも…私には、もう何も残ってない。…なんで?なんであなたも同じ下倉メグなのに、なんであなたはまだなくしてないの?」
その恨み言を聞いて、メグは思わず後退りをした。自分と同じ顔、自分と同じ声、しかし話している内容は自分とは程遠い内容だった。
メグ「…あなた…ホントに私なの?」
ホムラ「私は下倉メグだよ。あなたと同じ。…でもあなたはまだたくさん持ってて、私は何も持ってない。…不公平だよね?同じ自分なのに」
武器を構えるホムラ。相手が臨戦態勢に入ったのを見て、メグも構える。
ホムラ「…だから、私があなたから奪っても…いいよね?」
ヒナ「いいわけないでしょ」
声がした方向にはヒナがいた。その目からは、確かな敵意が感じられる。
ヒナ「あなたがいくら喪ったとしても、それは誰かから奪っていい理由にはならないのよ」
ホムラ「…知ったような口振りだね。私がどんな思いで今まで生きてきたかも知らないで」
拳を握りしめ、顔を顰めたホムラはまたも吠える。
ホムラ「私があの地獄のような日々を!どんな思いで生きてきたかも知らないで!わかったような口を聞かないでよ!!」
その言葉を聞いて、ヒナは確信する。
あぁそうだ、この子は─
あの時の『小鳥遊ホシノ』と似ているんだ。
─だったら私がここで止めなければ。なんとしてでも。
ヒナ「…わからないわよ。私はあなたじゃないもの。あなたのことはあなたにしかわからないものよ。…だけど、あなたが間違ったことをしようとしてるのはわかる。だから、私が止める」
ホムラ「…わかってる、流石にヒナ委員長は相手にできない」
ヒナ「?」
一瞬ホムラが小さく何かを囁いたように見えたが、次の瞬間煙幕が貼られる。
ヒナ「ッ!!」
逃げられる。そう考えたヒナはデストロイヤーをホムラがいた場所へ向けて放つが、煙が晴れたそこには誰もいなくなっていた。
ヒナ「…逃げられたみたいね…」
捕まえることは叶わなかったものの、彼女の動機や目的は判明した。…とはいえ、このことをハナエにどう伝えようか…。
そう思案に暮れていると─
ベル「ヒナさん!」
当人がやってきてしまった。
メグ「あれ?あなた誰?」
ベル「あっ、えっと…この世界のメグさんですか?」
ヒナ「そうよ。…さっきまであなたの世界のメグもいたんだけどね…。逃げられてしまったわ」
ベル「そうですか…」
ハナエはしゅんと落ち込む。
ヒナ「…そんな顔しないで。きっとすぐに見つかるわ」
ベル「…ありがとうございます」
ヒナ「…ひとまず、メグはしばらく風紀委員会の監視下に置かせてもらうわ」
メグ「えぇ!?」
ヒナ「…あの子はきっと、またあなたを狙って襲ってくるわ。その時に私が守れるとは限らないもの」
メグ「…わかった」
ぶすっとした顔でメグは渋々了承する。
ヒナ「…あの子を見つけたら連絡するわ。あなたも捜索、よろしくね」
ベル「は、はい!」
メグを連れてヒナは去っていく。
ハナエの脳の中では、先程耳にしたヒナの言葉が何度も反響していた。
『またあなたを狙って襲ってくるわ』
ベル「…メグさんが…この世界のメグさんを襲った…?」
自分の世界のメグのやったことについて、自分の中で納得ができなかった。
地下生活者「…空崎ヒナ…彼女とはまともにやりあわないほうが良いでしょう」
ホムラ「…そうだね、これからどうしよう?」
地下生活者「今は動かない方が良いかもしれません。小生も、しばらくは身を潜めることといたします。」
ホムラ「…フランシスは、なんて言うかな」
地下生活者「彼なら問題ないでしょう。むしろ、小生としてはしばらくは彼に任せたいところですが。ヒヒ…」
ホムラ「そっか。わかった」
ヒナから逃げ果せたメグは、トリニティ自治区まで来ていた。
ホムラ「…どうしよっかな。これから」
ヒナに狙いがバレた以上、彼女はこの世界の私を守ろうとするだろう。流石に本気の彼女相手じゃどうしようもできない。
ホムラ「…そもそも私がこの世界の私を狙う理由は、私がこの世界の私を許せないと思ったから。…そんな個人的な感情より、ハナエの方を優先するべきなのかな…?」
自分の中の感情が分からなくなってくる。元々グチャグチャのドロドロだった心が更に無造作に掻き混ぜられるような感覚に、メグは襲われる。
そんな感情の変化に呼応するように、メグのヘイローは暗く歪み始めていた。
フランシス「…ふむ、順調だな。緩やかながら変質し始めてきている。…下倉メグのこの世界での役割も、内包する神秘も、同様に」
デカルコマニー「そういうこった!」
フランシス「後は機が熟するものを待つのみ。この物語の行く末は破滅か、或いは…」