どうも僕はサトルです、サトルという字は漢字で悟、名字の曽良(そら)と言う字と合わせて悟空だなんてあだ名を友達につけられたりしています。でもそう呼ぶ友達は少なくて大抵はソラやサトルと呼んでくれます。
今日は初めての高校生としての春とあっていつもより胸が躍ります、僕の学区は生徒の人数が少ないので高校も中学校とほぼ変わらないメンバーで通う事になるのでそこは少しつまらなくもあるんですが……。
田舎なので仕方ないことですが、もう少し刺激のある人生というのを送りたくもあります。
まぁこれにも利点もあります、ノイズ、と言う……人を襲うために生まれた化け物をあまり見ずに過ごせることです。
ノイズ……人を炭化させて殺す何かよくわからないものです、とてもじゃないですがあんなのが生き物だとは僕は思えません、人の手に負えないものの例えに災害と言う言葉が当てはめられますが、このノイズもその一つだと教えられます。いやノイズの場合は“特異災害”って言うんだった。
テレビでその脅威を知りつつも僕の身の回りでそれを実感することがないので、どこか映画でも観てるような距離感に思えてしまうのは正直な感想です。
映画といえば、自分事ですが、西遊記を題材にしたアニメ映画を観ました、長い歴史のある今も新しく制作されているシリーズです。
7つの秘宝を求めて旅をし時には戦い、成長する物語……映画館に行かずとも見れる時代なのは田舎暮らしの僕にはありがたい話です。
その映画では初期シリーズに出てきていた“如意棒”が再び出てきたのでファンである僕はニヤついてしまいましたね。
如意自在、つまり思うまま自由に長さを変えられる棒というのは男の子は好きでしょう、僕も好きです。
そう言えば昔中国へ社員旅行へ行った父親が土産として小さな綿棒みたいなストラップをくれたこともあったっけ、父曰く「古い史跡から出土した棒で、得の高い僧が土産にとくれた」と言って言ったけ。
だからか如意棒には妙な思い入れがあるんです、その時もらったストラップもずっと身に付けてますし、カラオケであの西遊記モチーフのアニソンを歌った日には、いつもより光沢が増したような気もするんですよね、それだけ僕の気分が上がってるってことなんでしょうけど。
「サトルちゃーん! かなでちゃんが来てくれたわよー!」
僕の母が一階から呼んでいる、かなでちゃんと言うのは父の知り合いの娘さんだ、僕の二つ下で実家に帰省した時には遊びに来るんだ。
正直年下の女の子と遊ぶことなんて思いつかないから最初は断ったんだけど、母に強く言われて遊ぶようになった……と言うのが経緯で今では帰省時には必ず遊ぶようになった。
「おーす! アニキ!」
ああ、いつも通り僕の部屋に乗り込んできた。
ゆるふわ天使の顔した体力おばけ……この年齢の子供の体力には圧倒される、いや自分が負けるつもりはないんだけど……なんというかこの子は突き抜けてる気がするよ。
「アニキ! 髪伸ばしたんだぜ! 似合うか!」
「おお、似合ってる似合ってる」
「こっち見て言えよ〜、ほらちゃんと見ろって〜!」
グイグイと頭を俺の脇に押し込んでは微笑みながら彼女は僕を見る、本当に小動物と思うような愛くるしさがあるんだが、同時にこの子はこのまま成長していくと距離感バグ子として生きていくんだと不安になってしまう。
オレンジ髪にまんまる大きな瞳、本当に整った顔立ちをしてる、それでいて明るく元気なのだからな嫌いになる人間は居ないだろうと本気で思える。
「かわいいかわいい、だから奏は人と接する時は慎重にな、特にいきなりくっついたりするのは友達でもやめとくんだな」
「えー! マジかよ! そりゃねぇよアニキ……ボディランゲージは大事と存じます!」
「お前の場合タッチが過ぎる、さぁ離れろ……遊んでやんないぞ」
「あーご容赦を! ご容赦を〜!」
「どこで覚えてきたんだそんな言葉遣い」
「え? アニキからだけど?」
……僕は年下の育成に失敗したようだ。
さてと、いつも通り遊ぼうと思ってゲーム機の準備をしていると奏が僕の部屋の一点を見つめて動かなくなった、その視線を辿ってみると僕の如意棒ストラップを見ているようだった。
奏にはそんなに珍しい物に見えているのか、かなり食い入るように見ていたので声を掛けるか悩むほどで……と言ってもこのままいるのもおかしいので、声を掛ける。
「どうした」
「あ……え、いや……なーんか見たことあるなぁって……どこだったっけ……親父の……うーん」
「そんな珍しいか? その綿棒」
「綿棒って……あーもういいや! 今日こそアニキにホルマジオカートで勝つ!」
挑発的な言葉が飛んできたので、こちらも乗って答えてやるのが義理だろう。
「甘いぞ奏、僕は壁じゃなくて川……渡れない大河なのだ」
「いつも言ってっけど元ネタ何?」
「通じるようになったら教えてやるさ」
ということで、今日は1日を奏とのホルマジオカートに費やした、僕の全勝だった。
毎度思うけどここまでボコボコにのされてやる気なくならないのかと思う、でも毎度食って掛かってくるから闘争本能も人並み以上なんだろう。
なんやかんや奏といる時間が楽しい、むしろ当たり前に来てほしいとさえ思える……年下というフィルター抜きに彼女を見れば、告白していたかもしれない……まぁ、年下言う時点でそういう思いは封印どころか発生すらしないけど。
大人の2歳差と子供の2歳差はそれだけ大きいんだ。
「くぁー! 負けたー! ぐぬぬ……」
「さて、そろそろ帰る時間じゃないか?」
「あう、もうそんな時間か……あのなアニキ」
もったいぶる言い方をする、いつもの奏らしくないと思っていると。
「来週、親父の仕事場に行くんだ……」
「なるほど、それで今日はちょっとテンションが低いのか」
「ありゃバレてた?」
そりゃ長い付き合いだからな、と口に出そうとしてやめた。こう言うと調子に乗ることを知っているから。
しかしそうか……奏のお父さんの仕事場と言うと海外か、遺跡から過去の遺物を発掘するロマンある仕事、僕の父は少し違って遺跡そのものを調べている、だからか場所が被るなんてことは少ない、だけど今回は被ってると聞いて珍しいこともあるんだと思ったよ。
「なぁアニキ〜、ついてきてくれねぇか?」
「はぁ……?」
「アニキがついてきてくれたら退屈しねぇからさ! な! 頼むよ!」
何をいきなり……。
まて、ひょっとすると心当たりがある、今日の朝に母が旅行に行くと言っていた、恐らく父の所へ行くんだと思っている、僕は旅行に行きたくないので断ったが……そうか今回は場所が同じか……。
「奏の頼みだ、もしかしたら行けるかもしれない」
「……え? マジ? ホントに言ってる?」
「何で頼んだ方がびっくりするんだよ」
「いやいや、だって……ほら……にゃん?」
「オッケー、そういう時は考えがまとまってない時だというのは分かってる」
「にゃんにゃん?」
「分かった分かった」
後日、母に旅行へ着いた行くことを話たらすんなりと了承を得られた、恐らくだが母と奏はグルだったに違いない。
母は奏に甘いからな、僕が一人っ子だから妹が何かが出来たようなものだし。
さてと、色々と持って行って奏の暇つぶし相手にでもなってやろうか、それと久々に父と喋っておきたいし……なんだやる事は結構あるじゃないか。
少しは楽しみにしていいかもしれない。
と、その時までは思っていた。
そしてこの後思い知る。
偶然は必然であるが、必然は偶然ではない。と。
運命のレールが、僕と奏の前に、敷かれてしまったことを。