如意棒でノイズぶっ叩くお話。   作:テムテムLvMAX

2 / 5
二話 山嶺の白く染まるが如く

「親父、母さん……皆……!」

 

「奏……泣いていい……奏……奏……」

 

 

 奏の声が僕の胸の中で小さくなる、僕は奏を慰めることも何か励ましてやることもできなかった。この惨状の中では、若く未熟な僕らに出来ることは限られていた。

 

 

「ノイズが…………ノイズが……」

 

 

 奏を庇った天羽さんも、発掘現場で働いていた人たちも、僕たち二人を残して全員、灰になった。

 

 灰に、灰にだ。

 

 ノイズが現れて、すべて灰にしていった。

 

 

 事の始まりは僅か数時間前。

 

 

 

 

 

「親父ー!」

 

「おお! 奏! それにサトル君も」

 

「お久しぶりです天羽さん」

 

「こんな所までよく来たね」

 

 

 海外で発掘に勤しんでいた奏の父親の所へと遊びに来ていた、奏は久しぶりに顔を見た父親に突撃していった。

 

 奏の父親は発掘のために世界を転々としていると聞いている、それに僕の母曰く秘匿性の高い組織がその裏にいるとも聞いている、政府系の仕事だと察しがつく、だからこうやって会えるのもほとんどないのだろう。

 

 そういう話は僕の父にも当てはめられるがこっちはそれほどさみしく思うことはない、元々口数の多いタイプではないし僕に色々と口出しするタイプでもないから。

 

 

「サトル……お前も来たのか、珍しいな」

 

 

 今回は、そんな父でも僕の来訪がよほど珍しかったのか、向こうから話しかけてくる。

 

 

「……天羽さんちの娘、奏ちゃんに頼まれたからさ」

 

「奏ちゃんの偉業だな」

 

「そうかも」

 

「……これを渡そうと思っていたんだ、お前にな」

 

 

 手渡されたのは金属の玉、錆びてないのが不思議なほど古めかしくて、それでいて何かの儀式の道具なのか細かな細工がされている、かなり小さく小指の先ほどのサイズだがそれでもずっしりとした重量感が伝わってくる。

 

 

「これは?」

 

「玉(ギョク)だ」

 

「ぎょく?」

 

「仙丹とも言い換えていい」

 

「これが?」

 

「……まぁ、そう言う意味合いのモノだということだ、これをお前にやる」

 

「……いらないかな」

 

「いや、肌見放さず持っておけ……お前のためにだ」

 

「そこまで言うなら」

 

 

 強引だ、でも父とこんなに話したのは久しぶりかもしれない、奏と違って話す機会はあったのに話してこなかった、ある意味では強引でよかったのかもしれない、この変な玉はあくまでも話のための道具だったんだろう、父が持っていろと言うくらいな貴重な品ならそういう使い方でも、僕は許そう。

 

 

「天羽一家と曽良一家がそろったんですから、パーッといきましょう!」

 

「バーベキューだー!」

 

 

 僕と父が話していた間に天羽一家は完全にバーベキュームードになっていた、母もそれに加担していたのか既に炭に火を入れ始めている、何事も準備がいい母だとつくづく思った。

 

 

「楽しくなるね」

 

「そう、だな……」

 

 

 今日の父はやけに目についてしまった、悪い意味でなく、ついつい目で追ってしまう。いつもより話していることが珍しいからだろうか、何かをくれたことが人生で2度目だからか? 僕の中では答えは出なかった。

 

 この後、しばらくバーベキューを楽しんだ後、仕事場をみたいと言った奏の一言で発掘現場へと赴くことになった。

 発掘現場では多くの人間が働いていた、どうやら休みは交代制らしい、現場に来ると僕たちを見つけた作業員の人たちは手を振ってくれて、職場の雰囲気が良いんだなぁと呑気に考えて眺めていた。

 

 

 

 __目の前に、黒いものが風に乗って流れて行った。

 

 

 

「ノイズだーっ!」

 

「ぎやぁぁっ!」

 

「いやだー! しにた……」

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 突然のノイズの襲来、いつも突然だが今回は場所が場所だけに何かの作為すら感じる。

 

 

「奏! 逃げるぞ!」

 

「親父後ろ!」

 

「はっ! ……」

 

 

 人が……人が灰になっていく……僕は思わず走り出した、辛うじて残された理性で奏の手を取り発掘現場へと通じる入り口へと駆け込んだ、遮蔽物が何も無い中で唯一逃げ込める場所というのがそこだけだったからだ。

 

 後ろを振り返る暇もなかった、ただひたすらに走った、走って走って走り抜いた、奏の声を無視して2人が生き残るために。

 

 そして、発掘現場の奥深くの何か遺跡の入り口にも見える小部屋で奏と2人で身を寄せ合い、命の終わりが来るのを今、待っている。

 

 小部屋の入り口には遺跡の発掘のための機材を詰め込み蓋をしたがノイズ相手にどこまで持つか……もはや逃げ場はないのかもしれない。

 

 

「なぁ……親父が……親父が……」

 

「奏……今は夢だと思え、今だけは夢だと思うんだ」

 

「何で? だって……」

 

 

 震える奏の体を支えながら、僕は精一杯の言葉をかける。

 

 

「それが、今を生き延びるために必要だと思うからだ……悲しんで立ち止まっていると、ノイズに追いつかれるだろ?」

 

「そうだ……よな……うん……アニキが言うなら……そうだよ……きっと……」

 

 

 ガン、ガン、ガン。

 

 

「近いな……」

 

 

 もう機材が破壊されていく音がした、命の終わりがそこまで来ている、考える時間もなければ手を尽くす時間もなかった……今、生き残るすべは僕の中にない。

 

 だけどせめて奏だけは、一番若くて未来のある、僕の大事な友人を、いやもしかしたら友人以上のこの子を生かして返すためには。

 

 

「奏、奥に隠れているんだ」

 

「え?」

 

「僕が囮になる」

 

「何言ってるの……ダメだよそんな事……アニキ……!」

 

「奏……僕は死にに行くんじゃない、奏を生かすために行くんだ、生きてまた会えると信じて待っていてほしい」

 

「でもアニキ……!」

 

「生きるために、生き残るために……お互いできることをしよう」

 

 

 しがみついて離さない奏の手を払い、僕はノイズが来る方向を見つめる、暴れる奏を小部屋の一番奥へと隠し、見つからないよう口を塞いで目をつぶれと言って聞かせた。

 

 僕は、入り口を見つめる、たった一つの入り口だ、ここからしか入ってこれない、手にした鉄パイプで殴りかかり僕が死ねばもうここに人がいるとは奴らも思わないだろう。

 

 そう……奏には嘘を付くことになるが僕が犠牲になることでここで奴らを追い返す、死ぬのは怖い、だけど……奏を死なせるのは嫌だ。

 

 

 キュピ、キュピ。

 

 

 特徴的な音、ノイズの足音だ。

 

 

「来た……! う……っ!」

 

 

 オレンジ色の人型の異形、人を殺すだけの災害、何も恵みをもたらさない厄災、まさに生命サイクルにとっての雑音、ノイズ。

 

 

「こんな時、ヒーローなら、お前たちを一掃するんだけどな、へっ」

 

 

 次の瞬間、ノイズは矢じりのように体をねじり僕へと飛んでくる、視界が止まる、思考が加速する、死が目の前に突きつけられている。

 

 人生が終わる、悔いを残して終わる、嫌だ嫌だ嫌だ、でも奏を生かすために自分を犠牲にすることはある意味自分のためになる、僕と奏、それは天秤にかけられた重り、選ばざるおえない。

 

 

 “本当にそう思うか? ”

 

 

 誰だ? 何の声だ? 

 

 

 “お前は天秤そのものを破壊できる”

 

 

 何を……

 

 

 “願え、唱えろ、全てをもぎ取るために”

 

 

 心に浮かぶ文章に、リズムが付けられ、コーラスが囃し立て、ドラムが、ギターが、想像しうるあらゆる楽器がこの胸の内に鳴り響く。そして…………! 

 

 

「伸びろ! 如意棒ッ!」

 

 

 

 ガッ、ドドドーン! 

 

 その言葉と同時にストラップとして携帯に付けられていた綿棒のようなものがノイズを貫き天井すら突き抜けはるか彼方の空へと伸びゆく、その棒を手にすると脳裏に浮かぶ、如意自在の技。

 

 棒は念じると手に収まるほどのちょうどよい長さになる。

 

 

「やれる」

 

 

 確信した、これは本物だ、と。

 次なるノイズに棒の先端を向け伸びろと念じる、如意棒は素早く伸びてノイズの胴体を穿つ! 

 

 ガンッ! 

 

 貫かれたノイズは灰になり、その場で灰の山を作る。

 

 

「やれる……!」

 

 

 再び縮め、今度は体の前で交差する円を描く軌道で振り回す、そしてそのまま来た道を地上まで駆け抜ける、道すがらノイズを叩きのめしていくように。

 

 ノイズは如意棒にまるで太刀打ちできない、同時に僕自身も強くなっているように感じる。

 

 地上まで駆け抜けると、発掘現場を埋め尽くすほどのノイズの大群が待ち伏せていたが、今の僕には物の数ではないと直感していた。

 

 

 “仙丹の飲むがいい”

 

「ああ」

 

 

 謎の声に従い、父からもらった金属の玉を飲み下す。

 すると体のうちから更に力が増すような感覚を覚える、自分が自分でなくなり、何か別のものになった気分ですらある。

 

 ノイズが後退りしたように見えた、ここが好機だ。

 

 

 “斉天大聖と呼ばれた力、存分に振るえ”

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 

 如意棒を伸ばし続けそのまま横薙ぎ一閃に背後の森も丸ごと刈り取る勢いで振り回す、さながら漫画の1ページのような凄まじい力だ。

 

 振り抜いた後に旋風が巻き起こり何もかもを巻き上げ空へと浮かべ、隕石のように降り注いだ。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 “よくぞ適合した、それでこそよ”

 

「お前は……?」

 

 “我が名は如意棒よ、ふむ、どうやら限界のようだな……”

 

 

 その言葉をスイッチに僕の意思は急速に闇に染まっていく、強い脱力感と虚無感が襲い、耳にかすかに残った奏の声とヘリのローター音が何かを暗示するように僕の心に残った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。