如意棒でノイズぶっ叩くお話。   作:テムテムLvMAX

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三話 知と獣と。

 暗闇に降り注ぐ揺らめく光、さながら青空を海の中から見上げるような景色の中に、僕は一人で立っていた。

 

 

「ここは」

 

「心の中だ」

 

 

 僕の疑問は背後から飛んでくる、誰が居るのかと振り向くと、そこにいるのは一匹の猿、頭には金冠を、胴には鎧を、そして手にした一振りの棒を持つ猿だ。

 

 僕が思わず面食らっていると、猿は白い歯を見せるように笑い棒を一振りして地面へトンと突き立てた。

 

 

「おうおう、お前の名は?」

 

「え……あ……あ、僕は曽良悟……です……」

 

「曽良悟……ふぅん、悟空ってか! 傑作だな!」

 

 

 __うきゃうきゃ! 

 

 猿は猿のように笑った。

 

 

「あ、まぁ……そう呼ばれることもありますけど……なんで知ってるんですか?」

 

「ちょいとお前の頭ん中を覗いたのよ!」

 

 

 と、こめかみ辺りを自分でつついて見せた、考えが筒抜けになっているというよりも記憶を覗いているようなものだろうか。

 それは良いとしてこの猿はどうして孫悟空のような姿をしているんだ。

 

 

「さて、俺は気配りもできるからな、そろそろお前の疑問に答えてやろう……まず俺の正体だが、如意棒、だ。正確にはお前の持つ如意棒に仕込まれた学習型人工知性体だ、難しく考えるなよ、如意棒さんと呼べ」

 

 

 態度が大きい上に心も尊大だ、でも不思議とそれが似合う風格がある猿、いや如意棒さんだ。

 学習型人工知性体? と言うからにはまぁ人間と同じように何かを学んで考えることが出来る何かではあるんだな。

 

 ……色々と湧き出る疑問もあるが真っ先に奏の事が頭に浮かんだ、今はどうしているだろうか、そして僕はどうなっているんだろうか。

 

 

「如意棒さん……奏は、奏は無事ですか?」

 

「奏ってーと……あの娘っこか? 無事だろうよ、それよりも今はお前の方が大変だぞ」

 

「えっ?」

 

 

 僕の方が大変? 何が大変なんだ、このおかしな空間にいることよりも大変なものはあるのか? 

 

 

「俺の行使に加えて仙丹との適合までしたんだ、その上に初めてノイズ? とやらと戦ったろう、詳しい様態を聞きたいか?」

 

「……怖いですけど、お願いします」

 

「靭帯断裂、両腕骨折、下腹部の溶解、何よりひどいのが下半身の炭化……だな、まだ生きてるけどよ」

 

「……なんで僕、死んでないんですか?」

 

 

 どう考えても死んでいるが自然だ、重症じゃなくて致命傷を幾つも受けている、この状態で生きてるなんてまるで漫画の人物だ、自分の事がどこか他人事に思えるくらいには現実味がない。

 

 如意棒さんの語る言葉に、漫画じみた自体の理由はあるのだろう。

 

 

「ひとえに仙丹の力だ、アレは俺と同じ時に作られた兵器であり使用者を神仙の域に引き上げることを目的にした仙道の賜物よ」

 

「神仙、ってことは……つまり神様ってことですか?」

 

「ちょっと違うな、あくまで人並み外れた力を得るためのもので、すべてを可能にするもんじゃねぇ……それでも拳の一つで都を更地にすることなんぞ造作もない」

 

「そんな……漫画みたいな話…………」

 

 

 ……いや、もしかして今までのことは全て夢だった? 

 

 そうだと言ってほしい、今の語らいも奏の父親がノイズに襲われたことも全部出鱈目な夢の出来事と言ってくれ、そうに違いない、目を覚ませば奏とゲームで遊んでいるはずだ、そうだそうなんだよ……きっとそうなんだ。

 

 誰かが目の前で死んだなんて無かったんだ、そんな事ないはずなんだ、死んでないし、死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない死んでない…………

 

 

 

 

 

 天羽さんの最後の顔が焼き付いている、発掘現場の人たちの悲鳴が耳に今も残っている。

 

 僕に……今更誰かを助ける力があったって遅いじゃないか……全部終わった後に……どうしてだ……奏だけ助けたって……奏の家族はもういないじゃないか……なら……あの時いっそ一緒に……

 

 

 ゴスッ。頭を棒で叩かれた。叩いのは紛れもなく目の前の如意棒さんだ、どうしてあきれた顔をしているんだ? 

 

 

 

「おい……情緒不安定ってやつか? 情ねぇなぁ、お前は無敵のヒーローになったんだぞ、いつも俺に聴かせていたあの歌の通りのヒーローだぜ?」

 

「聴かせていた……ああ、カラオケのこと……」

 

「ヒーローは現実を受け止めて強くなるらしいじゃねぇか、てことはお前も今のままじゃいられねぇな」

 

「何がヒーローだ、今の僕をどう見てるんだお前は!」

 

 

 如意棒さんは語気を強めた僕の言葉をそよ風程度に受け流し、それどころか鼻をほじってこちらを見ていた、バカにしているのかと睨んでみてもどこ吹く風、暖簾に腕押しって言葉はこういう時のためにあるんだろうな、と怒りが一周りして変な冷静さが僕に訪れた。

 

 

「そう怒んなってば、自分のやったことを振り返ってみろ、想い人を助けるために覚醒し、立ち塞がる敵を薙ぎ倒す……どうだヒーローそのものだろうが」

 

「その挙げ句に僕は死にかけてる、神仙とやらになっても……このまま死んでいくだけじゃないか」

 

「……お前の図星をついてやろう、天羽奏が待っているぞ、お前の帰りを」

 

 

 ……。

 

 

「心が動いたな、お前が生きる気力を振り絞れば俺はお前に力を貸せる」

 

「そんな事してなんの得があるんだよ」

 

「俺としては初めての適合者だ、数千年倉庫で眠っていた分現世を楽しみたい……そのためにお前との利害の一致を目指している、これが俺の得られるモノだ」

 

 

 如意棒は突き立てていた棒を振るい構えてみせた、その目は好奇心と闘争心で輝き、僕をまっすぐ見つめている。

 

 

「お前は天羽奏に残された唯一のモノだ、お前もあの時覚悟しただろう、その娘だけは生きてほしいってよ、決死の覚悟ってのは並大抵じゃない、それだけお前はその娘を思ってんだろ? だったらお前は最後までその思いを貫き通せよ、お前と同じだけその娘だってお前を思ってんだ」

 

「待たせたままでいいのか? ヒーロー! さっさと目ぇ覚ましやがれ!」

 

 

 ……そうか、そうだよな、僕は馬鹿だった。

 

 大馬鹿だ、奏を守るって思いで覚悟決めてなんでへこたれてるんだ! 自分の馬鹿野郎! 奏に嘘付いて、更に自分にまで嘘を付いて……僕は馬鹿だった……

 

 そうだ、天羽さんやあの時いた人たちを救えなかった、だから奏は僕が守ろうって覚悟したんだ、助けられなかったことをいつまでも悔やんでいたら助けられた奏を悲しませる……それは駄目だ、僕にはやれる事がある。僕にならやれることがある! 

 

 

「僕は……ノイズが嫌いだ」

 

「おう」

 

「奏の家族を殺したノイズが大嫌いだ」

 

「おう!」

 

「如意棒さん……僕はやりたいことができた、如意棒さんにも手伝ってほしい」

 

「ああ、聞かせてもらおうじゃねぇか!」

 

 

 

 

「僕と一緒に、すべてのノイズをぶっ殺しませんか?」

 

「ああ、乗ってやるぜ」

 

 

 

 

 これは復讐じゃない、僕がやるべきだと思わった使命だ、奏に二度と、二度と涙を流させないために……悲しみの原因を根絶する。

 僕にはあるんだ、そのための力が、力を貸してくれる如意棒さんという存在が。

 

 僕の心に一点の曇りもない、あとは目を覚まして奏を迎えに行こう、そしてどこか安全な所へ預ける。

 

 背負うぞ僕は、奏の悲しみを。

 

 

 

「如意棒さん、目を覚ますにはどうしたらいい?」

 

「簡単だ、目を開ける意識があればいい」

 

 

 僕はすぐさま目覚めるためのイメージを思い起こす、しばらくすると視界に仄かな明かりがチカチカと映りだし、瞼が開く……そしてまばゆい光の中に目覚めた。

 

 目覚めるとそこは病室だった、眩しさの正体は差し込んだ太陽の光だったみたいだ、こうしているとあの時のノイズがまるで夢のようだ、でも現実だったんだと体の節々が痛みで教えてくれている。

 

 

「……アニキ? アニキ! アニキ!!!」

 

 

 ずっしりとした何かが僕の腹部にのしかかる、そして視界いっぱいに映り込むオレンジ髪、奏だ……でも少し重い、いつもと感覚が違う……なぜだ? 

 

 

「……か……ぁ……」

 

 

 奏に声を掛けようとして……喉がまるで言うことを聞かない、まさか喉も潰れていたか、如意棒さん報告漏れがあるぞ。

 筆談をしようと体を起こそうとすると……奏の背後に今度は青色の長い髪の女性が現れる。

 

 

「奏、司令を呼んできた……あー、奏? その……お兄さんは目覚めたばかりだから離れてあげた方が良いんじゃない……?」

 

「あっ、そうだよな翼……すまねぇアニキ……」

 

 

 ツバサ? と言うのかこの少女は……奏と仲の良いみたいで何よりだ、あれ、ちょっと待てよ、奏がなんか大きく見えるな……。

 

 奏に気を取られていると正面にあった病室の扉が開かれて、赤い髪の赤いシャツの偉丈夫が入ってくる、その隣には白衣を着た女性が伴っていた……医者と言うより研究者のようだった。

 

 

「……さて、なんと話したものか……」

 

「んもう弦十郎くん、説明からでいいんじゃないのってさっき言ったでしょ」

 

「ああ、そうだったな……ここに来るまでに色々とお上から報告書やらなんやらを迫られてな……すっかり頭から抜けていたよ」

 

 

 赤いシャツの偉丈夫が僕の寝るベッドの左側にある椅子に座るとこちらを覗き込むように前かがみになっています話し始めた。

 

 

「俺の名は風鳴弦十郎、いきなりだが曽良悟くん、君には知ってほしいことがある……君は、丸々2年眠っていたんだ」

 

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 ………………

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 は?

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