「ようこそ、特異災害対策機動部2課へ」
「ようこそー!」
「皆待ってました〜!」
病室で目覚めた俺は程なくして全身くまなく調べ上げられ、人間の尊厳とは何だったのかと考え直すほどあんな所やこんな所をも見られた。
正直身体よりもメンタルが辛い。
そして間髪入れずに連れてこられたのがとある地下施設だ、病院からの道中では目隠しされ何処にあるのかは分からない。
ただ地下深くに魔物潜む魔窟かと思えば、温かな家のようであったというのは驚いた。
お祝いのためのクラッカーやパーティグッズを身に着けているのにその服装はかっちりとしたスーツなのが、余計におもしろい。
ひとしきり歓待を受けた俺はそこから向こうのペースに乗っかり、少し気楽になれたのは事実だ。
それが終わって、今は風鳴弦十郎というあの赤シャツの男と桜井了子という白衣の女性と面と向かって話し合いのテーブルについている。
「病み上がりの相手を迎え入れるのにパーティだなんて、風鳴さんは思い切りましたね」
「あははあ、その方が君も緊張が解れるだろうと思ってな」
「えっと……色々と頭の回転が追いつかないことが多いので、質問してもいいですか?」
「ああ、遠慮せず聞いてくれ、と言っても急かすつもりはない、俺たちに聞きにくいようであれば奏たちに聞いてもいいぞ」
さてと、何から聞こうか。
悩んでいると奏が翼さんを連れて話し合いっているテーブルの近くに寄ってくると、奏が僕の隣の席を陣取り僕の目の前にコーヒーを差し出す、翼さんも風鳴さんと桜井さんへコーヒーを持ってきていた。
「ありがとう奏」
「良いってことよ」
……そうだ、最初に聞かなきゃならない事はあったな。
「風鳴さん、僕が二年眠っていたってこと、本当ですか?」
「ああそうだな……正確には休眠状態……とでも言えばいいのか、発見した時には死にかけていたが、入院している間に見る見る内に傷が癒えていった、こっちの了子くんの計算では自然治癒にかかる時間は二年と予測していた、実際その通りの時間に目が覚めたのは俺たちもびっくりしたがな」
「そういえば、僕には手足があるか……」
夢の中で如意棒さんに酷い状態だと聞かされていたけど、二年の眠りで治ったんだな……凄まじい、これが神仙の力なのか。
それについて風鳴さんが気になっているのか向こうからも質問がやってきた。
「なぁサトルくん、心当たりはないか? 人並み外れた治癒能力の原因に」
「あります、仙丹が原因だと思いますね」
「仙丹?」
「ええと、ノイズに襲われる前に父がくれた小指の先くらいの小さい玉なんですけど、飲んだらパワーが溢れてきて……そう言えば父や母は無事なんですか!」
「捜査中だ、君の発見された現場の周囲に曽良夫妻の痕跡は残されていなかった、現場から1台の車両が逃げ出した痕跡はあったと報告は受けている、おそらくは何処かで生きているはずだ」
「それよりもぉ、生身の人間をスーパーマンに変えちゃうお薬なんて凄いものを飲んでなにか変化はあったの?」
「特には……むしろ検査の方で異常とかは?」
「それがぜーんぜん、体調に問題はないわ、むしろ超がつくほど健康優良でそれが異常と言えるくらいね」
現状は何もかも分からない、か……。
風鳴さんは懐からなにかの写真を取り出して見せてくれた、棒状のなにか、灰色でよくわからなかったがこれは如意棒だ。
「これに見覚えは?」
「……如意棒です」
「中国四大奇書の一つ、西遊記に登場する孫悟空の得物……か」
「私もこれが聖遺物って事以外わかんないもの、従来の発見されてきたほぼ完全な聖遺物と違って完全起動してるのに全く使えないもの……おそらく何処かで使用者とパスが繋がっているのよねぇ……私としては仙丹がデバイスになってると思うのよねぇ」
「だが今まであったか、神話ではなく近世の小説に名を得た聖遺物は」
「それはその子が勝手に言ってるだけって話じゃ「僕、如意棒自身から言われたんです、如意棒であると」……あー私が悪かったわ」
「とりあえず、今は保留にするか……こちらでもう少し調べる必要がありそうだ……」
仙丹についてもっと説明すべきかとも思ったけど、僕の思う曖昧なことを話してしまうのは良くないだろう、しばらくは検査に付き合うほうが良いのかもしれない。
それよりも父と母が生きているかもしれない、まぁ、希望的観測なのだろうけど。
この場でなにかの秘密には迫れそうにない、なら、二年の内に起きた事実は知っておかないと。
「あと、この2年で変わったことは、ありましたか……」
「それは俺からよりも奏から聞いたほうが良いだろうな……了子くん、ここは若いものに任せて俺たちは行こうか」
「あら〜弦十郎くんも若いじゃない〜」
「そういう冗談は嫌いじゃないな、さてと、もろもろの手続きをしてくるか……」
「それならば私も、奏とお兄さんの邪魔をするほど野暮ではないので……また改めて自己紹介しますね」
気を利かせて大人組は離席していった、残ったのは奏と僕だ。
奏とは眠っていた期間をいれると2年ぶりと言うことになるが、実感出来るはずもない、さっきまで泣いていたあの子が大人びて、同じ年齢になっていることが……まだ信じられない。
「アニキと話すのは2年ぶりだからさ……なんつーか……むず痒いなぁ〜なんつって……えっとな……えっと」
「ゆっくりでいいぞ」
「そ、そうだな! アタシはアニキと同い年になったし、高校にも通ってる、それにツヴァイウィングってアイドルユニットをやるために歌の練習も……それから、それからな……色々あるけど……」
僕の隣で奏が喋っている、なんとなく日常に戻れたような気がして、目頭が熱くなってきた。
奏も話す内に声が上擦ってきていた。
「……うん、なんか……二年ってさ……長くてさ……親父や母さんが死んだこと……やっと最近受け入れられるようになったんだ……でもよ、アニキまでいなくなっちまったら……アタシ、本気で心が壊れちまうかと思ったんだ、でもアニキは生きて戻るって約束してくれたじゃないか、だからずっと待てたんだ……アタシ……アニキには二度と傷ついて欲しくねぇ……」
奏が僕を抱きしめると胸元に顔を埋める、元々距離の近い子だったが、この2年で輪をかけて近くなってしまったんだと思った。
が、どうやらそういうことではないらしい。
「……アニキ、もしアタシが……アニキのことをさ……す、すす……す……好きだって……言ったらさ……アニキ、困るか?」
意味合いによるが、僕は奏のために生きることを選んだ、その思いに好きという言葉が当てはまらないとは思わない。
「困らないかな……」
「本当か?」
「僕は奏が好きだよ、ずっと本当の妹のように思ってる……」
「ちげーよ……女として、だってば」
「…………正直、そういう意味でも好ましいと思ってる」
年齢と言うフィルターが無くなれば、僕は奏とそうなっても良いと思ってはいた、それに奏の思いを無碍にしたくない。
「相思相愛ってことでいいんだよな、だったら……アタシはもう二度とアニキを離さねぇ、アタシが守る、アニキにアタシの全部あげる」
「それは重くないか?」
「重くない、あの時もらった分を返してるだけだ、そのために力だってあるんだ」
力……だって?
「でも今はこうしてアニキを感じていたい、だってこうやって話すのは二年ぶりなんだぜ……アニキ……死んでなくてよかった……」
「大丈夫、これからはずっと奏のそばにいるから……」
しばらく僕は奏が泣き止むまでずっと話を聞いていた、奏の思いを受け止めるのが僕の務めだと思うから。
何分、何十分、何時間、どれだけの時間が過ぎたかは分からないが、長い時間を語り合った。
まだまだ語りたいことはあったが、突然のアラームがそれを許さなかった。
施設中に鳴り響くアラームに奏は心当たりがあるのか直ぐ様席を立ち走り出す。
「行ってくる!」
そう一言残して僕は置いてけぼりだ、だけどこの肌に張り付く嫌な感じ、覚えがある。
ノイズだ、近くではないが、何処かにでたんだ。
“ほほう、勘が研ぎ澄まされてきているようだな”
「如意棒さん!」
“あまり喚くと疑られるぞ、それよりもノイズが出たんだろう、あの娘はおそらくそれを退治に向かったはずだ、追いかけずに見ているつもりか? ”
「いや、追いかけるに決まってる」
“ならば、仙術に導きを得よ”
久しぶりの如意棒さんに嬉しくなるが、如意棒さんの助言通り奏を追いかけないと、僕は奏を守るために戻ってきたのだから。
如意棒さんのいう仙術に導きを得るというのはよくわからないが、仙丹によって僕に芽生えた感覚が仙道の何たるかを教えてくれている、そして仙術はこういうことだとおぼろげな形を教えてくれている。
今は移動が必要だ、移動のための仙術、それを思い描き形に起こす!
__シュッ
「サトルくん、すまないが話は終わり……何処へ行った!?」
「いません! でも、逃げ出した形跡はないみたいです!」
『風鳴司令! 今すぐ司令室にお戻りください!』
「なんだ!」
『ノイズが、ノイズの反応がありえないスピードで消えていってます! 現場からの報告で棒を持った少年が暴れていると!』
「……なにぃ!? いったいどうやって抜け出したというんだ……!」