でびるコネクショん:Magia 作:Seraphim / せらふぃむ
悪魔を召喚した先に、一体何を求めていたのかな。
日常を壊したかったのか、自分を知ってほしかったのか、あるいはただ……寂しかったのか。
もしかしたら――全部、正解かも?
でも、そんな彼だから……ボクも、見ていてやっぱり飽きない。
彼の物語が、一体どんな結末を迎えるのか……ちょっと楽しみ。
魔法世界マジリシア、
その一画における大きな通りを外れて、入り組んだ路の先に、
一人の見習い魔術師が住んでいた。
外は黄色く乾燥した野と、色ガラスのような張りつめた青い空がどこまでも透き通っている――しかし、そんな突き抜けた明るさを誇る外の世界は今、彼の興味の内にない。
外の景色とはまったく対照的に鬱屈とした暗さを持つその部屋で、
チョークを片手に一筆、一筆、また一筆。
彼は自らの魂を込めるかのように、床に線を描いていく。
「――ふぅ、ようやくこれで書き終わったかな」
チョークを置くと、もはやそれすら億劫なのか、その紫のローブの膝元についたチョークを払うことすらせずふらりと立ち上がる。
その床に描かれたのは、召喚の魔方陣。それは莫大な魔力を点火剤に駆動する、高等魔法。
心配になるほどにふらついたその足で、おもむろに黒紅色の魔術書を手に取ると、ラミネートされた付箋に手を掛け指先で開く――
「ロウソクの数――よし、火も点ってる。
位相固定の方陣――よし、綻びはナシ。
後は魔力充填量――これも、問題ナシ。
呪文は――なんでもよし。なら、適当に決めるか……」
パラパラとページをめくりながら、一つ一つ手順を確認していく。
すべての確認を終えるとパタンとその魔導書を閉じ、そっと脇に抱えた。
ローブの内ポケットから杖をスッと取り出すと、厳かにその口を開く。
そして紡ぎ出す。悪魔を召喚するための呪文を――
“ 出でよ悪魔、描く魔方陣の元に――
でびでらでびでる
でびーる でるでるーっ “
そのふぬけた呪文に呼応するように、杖先に紫色の光が点る。
……その刹那、杖先に魔力の流れを鋭く集中させ、ぐっと足腰に力を入れ、
その杖先をたたきつけるような勢いで魔方陣に向けた。
杖先から迸る紫の閃光が、眠っていた魔力の回路に命を与えていく。
魔力で虹色に染まる魔方陣から、這い出るようにその悪魔が姿を現す。
「だぎゃーっ、いきなり何なんだよ!魔界にいても魔界から出ても、ろくなことがねぇ!」
そうぼやく悪魔の姿は……
灰色の毛並み、ウサギのような耳、大げさにバタつかせたマント。
一言で形容するならば、そう……
「……小動物?」
「てみゃー、いきなり呼び出しておいて何だとコノヤロウ!
オレサマは小動物じゃねえ!こんな紙くずだらけの部屋、燃やし尽くしてくれるわ!」
悪魔は嗜虐的な表情を浮かべ、片手に炎を浮かべて術者である彼を脅す。
魔力で空気が張り詰め、空気が重暗く重圧のようにのし掛かる。
「……」
――それなのに、その姿のせいかどこか迫力が無い。
互いに向き合ったまま数秒が過ぎ……
「……はにゃ?おみゃー全然反応がないのな。
まったくオレサマに動揺していない。おみゃーなかなか肝が据わってんの~。」
あきれたような首をかしげるその悪魔はチラリと魔方陣に目を向ける。
一瞬、目つきが鋭くなり……すぐにその視線は彼の元へ戻る。
「それに、この召喚魔方陣……さてはおみゃー、ただ者じゃなさそうだな。
……そうだ!おみゃー、オレサマと契約して、オレサマの使い魔となれ!
一緒に魔力を集めて、我が真の姿を取り戻すのだ!」
悪魔は呼び出した術者であるはずの彼をよそに、次々と勝手にまくし立てる。
そんな理不尽な状況にもかかわらず、彼はまるでトモダチのちょっとした頼みを聞いてやるかのように、口を開く――
「……いいよ。僕のこと、必要なら使ってよ。」
「今は魔力が足りずへなちょこな姿なだけで本来は……へ?」
彼は悪魔に、ふっと朗らかな笑顔で手を伸ばした。
語るのも待たず即座の承諾を下した彼に、悪魔は困惑の表情を浮かべる。
「そ、そう二つ返事で言われると逆に拍子抜けだな…しかし話が早いのは助かる。
素直で良い子だ……早速だが、おみゃーの名を名乗れ。」
名乗りを求められた彼は、悪魔にその名を伝える。彼の名は……
「マギア。……僕の名前は、マギア。」
「マギア……ふぅん、魔法そのものってか。まあその名前じゃこの魔方陣の精度も納得か。
アホそーな顔しながらずいぶんご大層な名前してんじゃん。」
彼の名前を聞くと悪魔はその名前に反応を示す。ふむふむ、とかみしめるように頷くと、悪魔は彼に向き直った。
「疑ってるわけではないが……一応、儀礼としてやっとくか。
魂ってのは、名前と深く結びついてるモンだ。
名前を呼びかけたときに魂がしっかり震えれば、それはホンモノ。
……ちょっと、じっとしてろよ?……」
悪魔がそう彼に告げた直後、悪魔の腹に異色の目が開く。
集中するように目を瞑り、静かに数秒……
「……マギア、それがおみゃーの本当の名なんだな?」
でびるんが一段落としたトーンで、語りかけるように、彼に問う。
その問いかけに答えるように……彼の魂の奥で何かが響き、揺らぐ。
「……うん?……んん~……?
……何だこの揺らぎ」
「どうしたの?」
何やら苦戦しているらしいでびるんは、ぼそぼそと小声で何かをつぶやいた。
そんな様子を心配してか、彼は声を掛ける。
「……いや、何でも無い。おみゃーの魂はちゃんと応えてたからな。
おみゃーのその名前は、正真正銘ホンモノだ。
おみゃーの名、しかと握らせていただくぞ。」
腹の目を閉じると、悪魔は咳払いをして彼に向き直る。
パタパタと羽をばたつかせながら飛ぶその表情は、どこか違和感をにじませていた。
どこかぎこちない雰囲気を打ち破るように、彼が口を開く。
「ねぇ、キミの名前は何て言うの?」
「え、オレサマの名前?オレサマの名前は……
……考えてなかったな。どうでもいいからテキトーに呼べ。」
「そうだなぁ、じゃあ…… "でびるん" ってのはどう?」
「でびるん!?……えぇ…ダサっ……もっとマシなのあるだろ」
「えぇ~、いいじゃん。かわいいし……」
「良いわけあるかァ!……ったく、センスなさすぎだろ……」
まるで夫婦漫才のようなやりとりが軽快に弾む。
でも彼の反応はどこか緩く、ふわふわとした感じで……まるで、聞き流しているようだった。
「まっ、とにかく!これで契約は成立だな。
これからおみゃーにはオレサマの使い魔としてたっぷりコキ使ってやるからな!
オレサマのために、キビキビ働けぇ?」
でびるんは腕を組み、彼のことをからかうような表情で見つめる。
それに対して彼は穏やかな顔でうんうんと頷いている。まるで、子供の背伸びを見るかのような微笑まし気な表情で。
こうして、一人の見習い魔法使いと、悪魔の紡ぐ奇妙な日常が、静かに幕を開けた。
しかし彼はまだ知らない。この物語はもう既に――破滅と、絶望と、そして救いに向けて、動き出していることに。