でびるコネクショん:Magia 作:Seraphim / せらふぃむ
悪魔に名を名乗って契約が成ったその直後。
相手を嘲笑するような煽り顔で腕を組むでびるんを前に、
マギアはまるで寝ぼけているかのようなフワフワとした様子で問うた。
「……それで、僕は何をすれば良いんだっけ」
「おみゃー、マジで暢気だな……何をすれば良いんだっけ、じゃねぇよ。
はァ……さっきオレサマの説明を遮ったくせに」
「だって、僕からすれば君が何かしてほしいことがあるって分かればそれで十分だったし……」
「普通もうちょい聞いてから判断するだろ!
……はは~ん、さてはおみゃー、
人の話1ミリも聞かずにガンガン進めちまうタイプかァ?
ふすっ、優秀に見えて意外とそーいう弱点があるのな。
ざぁこ♥国語力0点♥感受性ゼーロ♥
……おい、なんか言えよ」
でびるんはハァ、と呆れるようにため息をついたかと思えば、
彼をじとーっと見つめると再び相手を見下すような表情で、
ケタケタと笑いながら煽り始める。
顔をぐっと近づけて、その見下した表情を見せつけるように
ねっとりと言葉を投げかける。
それはまるで、逆上を誘う煽りのフルコース。
それでも彼は――まるで全てを受け流すように無反応。
それどころか、まるで可愛らしいものでも見たかのような
穏やかな笑みすら浮かべているように見える。
「……チッ、オレサマがこれだけ散々煽ってるのに何も感じねぇ。
地上じゃこういう煽りが流行ってるんじゃねーのかよ……
刺さらねぇにしたって普通はこう、何かあんだろ。
こうなったら、おみゃーが今何考えてるのかその腐った脳みそ覗いてやる」
そんな様子を見てかでびるんの表情は相手をあざ笑うようなものから一転、
顔をしかめ、その表情には苛立ちがはっきりと見て取れる。
ついに見かねてか、悪魔は腹の邪眼を開いて、その第三の目で彼の顔をのぞき込む。
しかし――
「……ダメだ。何にもねぇ。おみゃーマジで何者だ……?
オレサマの邪眼があればおみゃーが考えてることなんぞお見通しだ。
だがここまで無反応だと……読めてももはや意味がねぇ。
感情に一切の抑揚が無いというか……コレがいわゆる『悟りの境地』ってヤツか?
……一周回って心配になってきたぞ。おみゃーホントに大丈夫か……?」
心の中、彼の表層思考のすべてが表出するはずの領域。
それを覗いてもなお、彼からの反応は一切得られない。
見かねてか、彼の様子は苛立ちさえも通り越して、悪魔というよりむしろカウンセラーのようになっていた。
「……まぁ、今は良いか。そうは言ってもやり方が一切分からんのでは話にならん。
オレサマはめんどくせぇことが大嫌いだが……おみゃーみたいなのは
言って聞かせるより実際にやって覚えたほうがわかりやすかろう。
早速ザコを召喚しながらイロイロ教えてやるよ」
でびるんは自慢げに腕を組みながら彼にそう宣言する。
その様子は、どこか誇らしげにすら見えた。
「……うん、よろしく頼むよ」
でびるんの言葉から一泊遅れて、彼はスッと魔方陣のページに視線を落とすと
誰か適当な相手を召喚しようと、召喚呪文のページをパラパラとめくる。
けれども途中で彼は何かを思い出したようにはっとした様子でその手を止め、
そのままでびるんに声を掛ける。
「……そうだ、そこの水晶で相手を見繕ったらどう?
かなり前に魔道具屋で見つけて買ってきたのはいいけど、
結局使わずじまいでインテリアになっていてね」
「へぇ、そんな道具持ってんのか……おみゃー、気が利くじゃねーかぁ!」
彼が提案と共に指さす先にあるのは、透き通った大きな水晶玉。
その黄色い水晶は紫色のクッションに大切そうに包まれていた。
彼からの思わぬ提案にでびるんは上機嫌な様子で褒め称えると、
ふよふよと浮遊しながら水晶玉に近づいた。
「放置されてた割には手入れが行き届いてピッカピカだな……
おみゃー……案外几帳面なのか?」
「うーん、そうかなぁ?僕は自分でも割とずぼらな方だと思うけれど、
なんでかこの水晶は汚れてると気になっちゃって」
でびるんが机のそばの椅子にぽふっと腰掛けた。
それを確認した彼はすっと水晶玉に手をかざし、水晶玉に魔力を送る。
水晶は魔力を受けて活力を取り戻し、ひとりの
「おっ、こいつなんか始めに良さそうじゃねーか?」
「どれどれ……?へぇ、かわいいじゃん。」
でびるんが爪先で水晶に指を指す。そこに映っていたのは、
ベレー帽を被ったフェネックの男の子。
その顔ほどはあろうかという長さの、よく焼き色がついたカチカチの
フェネンスパンを両手に抱えながら、ニコニコ笑顔で林の中を散歩している。
「それで、この可愛い子と……戦ったりするの?」
「んな物騒なことするわけねーだろ!
コイツがおみゃーとドンパチやれる様に見えるか……?
安心しろ、オレサマの魔力回収は相手を傷つけてどうにかするわけじゃねぇ」
「…なるほど、それなら…」
でびるんの答えを聞くと、彼は先ほどまでの話などまるで無かったかのようにふいっと水晶に視線を向ける。
先ほどでびるんの召喚に使った魔方陣、そして水晶玉――その二つを目だけで追って見比べては、
額に手を当てて考えること数秒――突然、ひとりで納得したようにこくりと頷いた。
「ん?……何ぼーっとしてんだおみゃー」
でびるんの言葉に答えること無く、おもむろに机の上で鈍く光を放つ水晶に目を向ける。
目を瞑って数秒、彼は水晶にすっ……と包み込むように手をかざすと、魔力の炎を手に灯し……
そのまま、その炎で水晶全体をふんわりと柔らかく包み込む。
「……よし、そろそろかな」
手をかざして数秒――魔力が十分に水晶に馴染んだこと確認すると、彼は水晶から手を離す。
魔力の炎であったものは、ふわりと蒸気のように柔らかく水晶を包み込んでいた。
水晶の景色の中すら侵食するように滲む、ピンクと青が混ざったような"霧"。あるいは、"蒸気"。
その様相は、まるで――自身と相手との境目をごまかすかのようだった。
そのままゆっくりと目を再び開くと、おもむろに杖を掲げた。
水晶を包んでいた魔力を杖先で引き抜くようにまとめ上げ、杖の先に光を灯した。
そして、それをそのまま放り込むように杖を魔方陣の方に向けると、呪文を唱える――
" 招かれし者よ、描く魔方陣の元に……
悪魔を召喚した魔方陣に、再び命が吹き込まれる。
魔方陣の線に魔力の奔流が迸り、彼の呪文に従って動き出した。
空間を無視して転送されたそのエネルギーと、部屋にたまりに溜まった埃によって、部屋中をぶわっと真っ白な靄のような煙が覆い尽くす。ふたりが思わず目をぎゅっと瞑って数秒、ゆっくりとその煙が晴れると、召喚された魔獣の姿が明らかになる――
「だぎゃっ……何事かと思えば、今の召喚魔法かよ……
妙な手順だったぞ今の。召喚するならするって言えよな……調子狂うじゃねえか」
「……なんだ~?ここ、一体どこだぞ……」
悪魔が悪態をつくかたわら、きょとんとした顔で立ち尽くすフェネックの男の子。
ここがどこか分からず、きょろきょろと当たりを見回している様子だ。
「コイツ、召喚されたことにすら気付いてねぇな。暢気なこった……」
「やっぱり目の前にするとかわいいねぇ」
「さっきからやたらかわいいものに対してだけ食いつきが良いなおみゃー、そういう趣味か?
んまぁ、確かにかわいげのある見た目ではあるけどよぉ……」
無害そうなかわいい見た目に、彼の頬が思わず緩む。
ぱっちりとした青い目で、きょとんとした雰囲気で、辺りを見回す男の子。
その様子は――うん、確かに……かわいい。
悪魔はそんな様子を見て呆れながらも、同じく好みなのか、自分でもまんざらでもなさそうな様子だ。
「まぁ、何でもいいか。おみゃーにやってもらいたい事は至ってシンプル!それは……」
悪魔はぴんと指を1本立て、どこか自慢げな表情でもったいぶったようにその内容を告げる。
「そのお得意の魔法で、こやつの。反応を引き出すのだ!」