ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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 『アストラ』という名の付く花があります。
 アストランティア。花言葉は『星に願いを』と『愛の渇き』らしいです。現場(某酒場)からは以上です。

 『アストラ』はアステリオスのモジりにもなります。意味で雷光とかもあります。現場(ダンジョン)からは以上です。
 


・011 ランクアッ…ハッ?

────

 

 

 

 

 

 冒険者となった者達がその背に刻む『神の恩恵』(ファルナ)とは文字通りにして神から(もたら)される力である。

 

 下界に於いて神という存在は格が違い過ぎる存在。正しく超越存在(デウスデア)であるがゆえに、ただそこに居るだけで下界に住む人々を(おびや)かしてしまう。その事実を憂慮した最初に降りた神が幾つかのルールを定めた。

 

 その内の1つにして絶対の規則。神の力(アルカナム)の制限。

 

 これが為されなければ下界の秩序は文字通り滅茶苦茶となる。不完全な下界に興味を抱いたくせして、好き勝手するなど愚の骨頂。神たる彼ら彼女らは遊戯の1つとしてその身を下界に降ろしているのだから。

 

 そうして神々の間で議論が交わされたことで使用を許された神の力(アルカナム)の内、気軽に行使可能なものが2つ。

 

 1つが下界の住人の嘘を見抜く能力。

 

 そしてもう1つが『神の恩恵』(ファルナ)だ。

 

 自身の神血(イコル)を人間に与え自らの眷属とすることで、心身の強化、個々人の成長を促せるまさしく御業(みわざ)

 

 落とされた神血(イコル)によって下界の住人に刻まれた【ステイタス】には全ての眷属に共通する、5つの項目に分けられた普遍的な【基本アビリティ】。それらに分類されない独自の派生能力である【発展アビリティ】。それ以外にも、『魔法』や『スキル』といったモノも存在している。

 

 そのどれもが、他者と同一になることはない。

 

 その理由として、それらは自動で更新されるのではないからだ。

 

 主神の手によって、当人が歩んできた道程や来歴、才覚、意志といったあらゆる要素を経験値(エクセリア)として一纏めにし、当人の中で化石のように埋まっている軌跡を発掘し、引き上げて眷属のステイタスに刻むのが工程となる。ゆえに、どれだけ近しい存在であっても同じステイタスが羅列することは決してないのだ。

 

 そしてこれらは基本的な手順。『神の恩恵』(ファルナ)の本領は成長促進剤とは良く言ったモノで、相応の経験でステイタスの向上が、そして困難な試練を乗り越えた先に、『器の昇格』(ランクアップ)という特別な成長が存在する。

 

 本来であれば当人の格からは達成困難であろう事柄を為すことで、それを『偉業』とされ、その者の器を神へと近付けさせるのだ。

 

 その為に必要なのは先にも挙げた『偉業』の達成と、【基本アビリティ】のいずれかの項目がDを越えていること。この2つが条件となる。

 

 器に溜まり、【ステイタス】として可視化された『経験値』(エクセリア)を、下界の住人の肉体強度や格の向上に使っていると考えれば(わか)り易いだろう。

 

 

 ────

 ──

 

 


 

《名前》

 ナイン・レイル

 

『Lv.1』

 

《基本アビリティ》

 力 : SSS 1632 → SSS 2097

 耐久: SSS 1680 → SSS 1903

 器用: SSS 2034 → SSS 3102

 敏捷: SSS 1801 → SSS 2390

 魔力: SSS 4208 → EX 5000

 


 

「うん、分かっていたけど……、やばいよねぇ、これ」

 

 そう言って戦慄を覚えるのはナインの主神であるヘスティアだ。

 

 彼女は数刻前に起きた怪物祭(モンスター・フィリア)の出し物であるモンスターの脱出の騒動の被害者。会場であるオラリオの闘技場という施設から逃げ出した内の1体に、何故か執着されたのだ。

 

 その場にいた自らの眷属であるベル・クラネルに抱えられて逃げること数分、それでも逃げきれないと判断した両者は迎撃を決断。数秒の目晦ましを行なった2人はその隙を衝いてステイタスの更新を開始。

 

 そこでヘスティアは「成長補正スキルが有るとはいえ、たったの数日でこうなるのは可笑しいだろうっ?!」と、内心で絶叫を上げることとなったが耐えた。恋に恋するような年齢のベル少女に、「懸想してる人がいるんだねぇ~」、と真正面から伝えるのは少し(こく)が過ぎるからだ。

 

 あと、彼女の恋愛観が少し怖いからだったりもする。処女神としての勘だが。

 

 合計で1000を超えるアビリティの上昇と、ヘスティアが神友に願い製作してもらった短剣の性能も合わさり、上層深域に生息するシルバーバックの討伐を、ベルは単独で成し遂げた。

 

 その後、ヘスティアは突如として意識を失ったが、数分もしない内に目を覚ます。

 

 そこで見たモノは、光の膜に覆われた戦域で闘うナインと、彼の為に製造された、いや、生み出された直剣。

 

 ベルには手渡した記憶があるのだが、ナインはその場にいなかったので、渡せていない。そのはずの()が何故彼の手の中にあるのか。小竜(インファント・ドラゴン)討伐後にベルから聞かされた話では、自身が倒れた直後、いきなり包みの中から姿を現し、飛んでいったのだとか。

 

 説明されても脳内で形成されるのは疑問符しか浮かばない情景だ。しかしベルも見たまんまのことが起きただけなので何も言えない。ヘスティアが大切そうに抱えていたものが飛んでいったことから、探すべきだと判断したベルは眠るヘスティアを抱えて落下地点へと足を運んだ。そこで丁度目を覚ましたというのが経緯だった。

 

 神を抱えているおかげか、彼ら彼女らをどこか本能的に(おそ)れる民衆が道を小さく開けてくれたことで、ベルはその観衆の最前列でナインの戦闘を目にした。

 

 生来の才覚と積み上げた努力の結晶、そして過不足なく振るわれる武器。

 

 その全てを融合させた術理が、自分では膝を屈する以外に無いと思わせる巨大な白い竜を圧倒していた。

 

 足搔(あが)くようにして吐かれた赤い霧。直撃だけは避けるべきと高速で後ろへ跳んだことで、すぐに姿を現したナインと、彼の全身に(はし)る負傷の痕。

 

 それを見た瞬間、また心がざわついた。また傷付いているのだ、と。自分はまだそこに立てていないのだ、と。立つ資格のない自分がそこへ赴けばただの足手纏い。ナインの負傷を増やすだけ。

 

 先ほどの大猿に勝利した余韻も冷め、心がじくじくと痛んでいた折り、「もう大丈夫さ」と、腕の中から降りたヘスティアから「キミが、キミこそが見るべきだ」と諭され、顔を上げて叫んだ。「頑張れっ!」と叫んだ。「勝って!」と祈った。周囲に集まって来た民衆の声援に()き消されないように声を張り上げて。

 

 結果として、その次の交差により決着がついた。

 

 振り抜かれたナインの一閃。

 

 そして小竜(インファント・ドラゴン)が齎した被害の鎮静。

 

 人的被害はゼロ。

 

 完全勝利と言える状況に、ベルは走り出した。ナインの下へ。誰よりも速く。

 

 なぜか自分よりも早い鈍色髪の町娘や、金糸の頭髪を持つ某剣姫に先を越されたことだけが心に引っ掛かったのだが。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「おめでとう、ナイン君。念願の器の昇格(ランクアップ)だ」

 

「漸くか……」

 

 ナインの住む賃貸の寝室。背中にヘスティアの温もりを感じつつ、安堵の溜め息を吐く。そんなナインにヘスティアは苦笑を返した。

 

「キミは漸く……だなんて言うけどね、約1ヵ月と半分は異常な速さだからね?」

 

「そうは言ってもな……」

 

「分かっているさ。キミの願いは……。ボクの眷属になってくれる時にも聞いたからね。それに嘘が無いっていうことも……、神だからね、分かっているんだ……。

 でもね、……どんな苦境に立たされても、キミ自身を大切にしてほしい。これだけは覚えておいてくれ」

 

 ステイタスの光る背中を撫でながら、ヘスティアは優しく諭すように言葉を紡ぐ。

 

「分かってる。悲劇の果てに救われたって、だれも嬉しくなんかないだろうしな」

 

 そう言って軽く笑うナインに、ヘスティアは「そうじゃないんだけどね……」と小さく溢した。自己犠牲を全面に押し出してはないが、それでもどこか己の命を軽視している節がある。ナインの危うさに、ヘスティアは1つ息を吐いて切り替えることとした。

 

「それじゃあ、器の昇格(ランクアップ)をしようか。正直こんなステイタスで器の格が上がった時に何が起きるのか怖いなぁってのがあるんだけど……」

 

「まぁ、なるようになるとしか。ファーストペンギンってやつ」

 

「軽いなぁ」

 

 お互い軽口を叩き合いながらナインはゆったりとして、その背中をヘスティアがなぞっていく。器の昇格(ランクアップ)に必要なステイタスの最低ラインは既に越えており、上級冒険者を軽く超える者たちとの高強度の鍛錬、強化という言葉さえ生温(なまぬる)い強さと化した白い竜の単独討伐。上質過ぎる経験値(エクセリア)はこれでもかと溜まっている。

 

 それで器の昇格(ランクアップ)が不可能であった場合、なんらかの不具合が発生しているだけだろう。

 

「えぇと、発展アビリティが……、え゛ッ?!」

 

「どうかしたのか?」

 

 ヘスティアの驚愕の乗った声にナインが聞き返す。数秒の沈黙の後、ヘスティアは諦めたかのように声を振り絞った。

 

「あ~……、『追突』、『落下』、『落雷』、『整備不良』、『墜落』、『点火』、『爆発』……、何かー……思い当たる(ふし)はあるかい?」

 

「…………有るけど無いって感じで」

 

「どっちだいッ!?」

 

 今世では無いことをどう言えばいいのか、流石のナインでも分からない。

 

 山道でトラックに突っ込まれ、ガードレールから飛び出して落ちていく最中、突如として天候が悪化。即時の落雷が直撃し、上空で飛んでいた飛行機の装甲板がネジの弛みにより外れてとある青年に直撃。そのまま加速した青年(落下物)は地面に墜落。しかしその場所が田舎によくある、人通りは少ないがポツンとあるガソリンスタンド。結果はお察しの始末となり、目覚めた青年の前に現れたのは「やっちゃった。許してね、ペロ」と、テヘペロを決めた年齢不明の羽の生えた幼女。

 

 青年は1も2も無く拳を振るい、ダッキングで避けられカウンターとしてアッパーカットを喰らう。

 

 意識がトぶ前に何らかの声が聞こえた結果が、ダンまちの世界(いま)だ。

 

「……取り敢えず、他のにしようか」

 

「頼んだ……」

 

 

 ────

 ──

 

 

 そうこうしている内に、ナインの賃貸のチャイムが鳴る。ベルに任せていた祝勝会用の料理をテイクアウトして来たのだろう。流石にナインのステイタスを今のベルに見せるべきではないという配慮も含まれた御使いだ。ヘスティアとしては隠し事の為に騙したような感じがして心苦しい限りだが、ベルは先日まで平凡な道を辿っていた純真無垢な少女。清濁関係なく飲み干すナインとはまだ視座が違うのだから。

 

 ナインが自分のステイタス用紙を隠していれば、ヘスティアが代わりにドアを開け、外の人物を招く。

 

「あ、あはは……」

 

「どうも……」

 

「「なんで……?」」

 

 ベルの横には、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインが立っていた。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 その少女は神にすら匹敵するほどの美貌を持っている。腰まで伸びた輝くような金糸の頭髪。その内を見通させぬ金色の瞳。

 

 加え、容姿だけでなく彼女は冒険者としても格別の存在だ。『英雄の都』オラリオ。文字通り、この都市には多くの英雄候補と称される者たちが跋扈している。その候補者の欄に名を連ねることを許された存在。

 

 それが彼女、アイズ・ヴァレンシュタインという少女だった。

 

 彼女の冒険者歴は長く、約10年という歳月、ダンジョンへと潜りモンスターと戦っている。幼少とさえ呼んでも差し支えの無い頃から寝る間も食事する間も惜しむようにダンジョンへその足を向けようとする所為で、最も彼女の面倒を見ていたリヴェリアが苦労を重ねていたほどだ。

 

 しかし当時のアイズにとっては赤の他人。保護だなんだのを正しく理解出来るような歳ではなかった。そもそもそちらへ思考を回せるような精神的余裕は無かったのだ。

 

 あるのは優しい揺り籠のような温もりの世界。

 

 そして、────最期に向けられた彼女()の微笑み。掛けられた()の謝罪のような言葉のみ。

 

『私は、お前の英雄になることは出来ないよ』

 

『いつか、お前だけの英雄に出会えるといいな』

 

 そこに(のこ)っていたのは、そんな言葉と、弱くどうしようもない程に英雄を渇望する幼子(おさなご)だけだった。

 

 求め、欲し、望んだ存在は、未だ彼女の前には現れない。

 

 彼女の心を救う『英雄』は、彼女の手を握らない。

 

 だから彼女はその手に剣を握った。『英雄』が現れないのなら、自分が『英雄』となれば良い。そうすれば、きっと父親も母親も取り戻せるはずだと疑うことなく、弱さに目を向けることなく、ただ目の前に現れる怪物を屠り続けた。

 

 結果付いたあだ名は【人形姫】。それもアイズにとってはどうでも良いこと。だってそう言って笑う者たちが助けてくれることなど無いのだから。本当の自分を助けてくれる者など現れるはずないのだから。

 

 いつか現れる『英雄』を見て見ぬ振りして、剣を握り、振るい続けた。強くなるために。

 

 先達とのたまう者たちに追い付き、救ってくれない彼らすら追い抜かんとばかりに。

 

 幻想から逃げるようにして怪物を斬り、殺し、屠っていった。内で荒れ狂う憤怒と憎悪に身を任せ。

 

 幾歳重ね、現在のアイズは比較的落ち着きを持てるようになった。それは偏にリヴェリアのおかげであり、彼女の苛烈さに臆することなく近付いてくれるアマゾネスの姉妹や後輩の妖精(エルフ)の存在が大きいだろう。

 

 身体も、そして精神も成長した。少なくともそう見える程度には。涙を流し続ける幼子(おさなご)を表に出すことは無くなった。

 

 そんなアイズは現在Lv.5の第一級冒険者。都市でも有数の実力者。彼女が誰かを助けることはあれど、しかし誰かが彼女を本当の意味で助けることはもはやないだろう高みに登ってしまった。

 

 覚悟も決意も、内に秘める激情も有象無象の冒険者とは別格。

 

 もはや『英雄』を諦めていた。自分に手を差し伸べてくれる存在など現れない。

 

 期待と失望を繰り返した彼女の精神は真の意味で諦める。

 

 そんな時だった。ナインが現れたのは。

 

 

 ────

 ──

 

 

 アイズがナインと邂逅したのは50階層で発生した異常事態(イレギュラー)によって、59階層を目的とした遠征が失敗となってしまった、その帰路だった。

 

 17階層を通行中に突如としてミノタウロスの群れが出現するという怪物の宴(モンスター・パーティ)。しかし中層で出現する程度のモンスター相手に、アイズや彼女の仲間たちが今更苦戦などしない。最低限のリスクヘッジを念頭に置いた団長のフィンからの指示で着実に数を減らしている最中、後方に控えていた群れがいきなり背を向けて走り出してしまった。

 

 向かう先は上層。ここよりも弱いモンスターの出現域であり、同時にそんなモンスターを相手にすることが常となっている冒険者たちがいる場所。推奨レベルが2以上のミノタウロスが上層で暴れるようなことがあれば、大惨事は免れない。

 

 疲弊した団員たちと、ダンジョン深層からせっかく採ってきた貴重なアイテムを守るために、これ以上の異常事態(イレギュラー)に備え大半の団員が固まり、アイズとベートが上層へと逃げていったミノタウロスの追走を受け負った。

 

 狼人(ウェアウルフ)としての鋭い嗅覚と、Lv.5としての感覚器官の鋭敏さにモノを言わせて狩っていくが、深層域で起きたことへの対処やそこから逃げるようにして撤退したことで疲労が溜まっていた。そんなところへムチ打つようにしてバラけるようにして逃げるミノタウロスたち。

 

 倒すことは容易でも追い付くことが困難。挙句の果てには6階層にて四方八方へと分散。ベートは舌打ちを、アイズはいつも浮かべている無表情が崩れる程度には不快感を表しながら、それでも自分たちの不始末にケリを付けるために疾駆した。

 

 そして6階層の掃討が済んだと判断した両名は満を持して5階層へと昇る。ベートの嗅覚が5階層への連絡路にミノタウロスの臭いを感じ取ったからだ。

 

 しかしアイズたちが5階層より上でミノタウロスを見つけることは叶わなかった。逃げられた訳ではない。そこに居た冒険者の手によって討伐されていたからだ。

 

 その冒険者こそがナインであり、ミノタウロスとの戦闘で負ったのであろう傷が顔に体にと(はし)っていた。だがナインはそれを気にすることも無く、瞠目するアイズの問いに答えていった。

 

 曰くLv.1だと。

 

 曰く他の冒険者が襲われていたからだと。

 

 曰く冒険者登録をして1ヵ月程度だと。

 

 途中合流したベート共に幾つか質問したが、アイズもベートもナインの返答に嘘が無いだろうと直感してしまっていた。

 

 その場は急激に機嫌を悪化させたベートに連れられて去ることとなったが、名前を聞けた。アイズはそれで一応の満足を得る。後日会いに()ってみようかなという期待を持って。

 

 なお、その翌日の日暮れにベートによって起こされた1件により、接触禁止令が【ロキ・ファミリア】のメンバーからその場にいた者達へ内々に出されたのだが。

 

 アイズはすぐにでもナインのところに行きたかった。Lv.1でありながらどうしてそこまで強いのか。どうしてそこまで強くなれたのか。アイズ自身は昔から変わらない。『黒竜』を倒す為。()を取り戻す為。怪物を根絶させる為。

 

 自分から何もかもを奪っていった怪物への憎悪を糧に、アイズはここまで強くなった。しかしまだ足りない。強さも、速さも、殺意(おもい)も。

 

 だからナインへ問おうと思っていたのだ。機会があれば、必ず。

 

 ミノタウロスの1件、酒場での1件。これらの謝罪と交渉を終えたフィンからは、平時の接触を禁じられた。しかし緊急時ならば話は別。冒険者同士助け合いは良いことなのだから。そして地上でモンスターが逃げ出し、その討伐に協力してくれたことへの感謝をするのであれば、緊急時の続きのはず。

 

 アイズはそう考え、【ヘスティア・ファミリア】の祝勝会へ、無断で参加した。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 怪物祭(モンスター・フィリア)で突如として逃げ出したモンスターの中からシルバーバックをベルが、小竜(インファント・ドラゴン)の強化種をナインが、残りはアイズが基本的に討伐した。この場に参加する資格はあるのだ。彼女には。

 

 (よう)は独断なのだが。

 

 ヘスティアが「ここにずっと居ていいのかい? キミはロキのとこの幹部って話じゃ……」と聞けば、「えぇっと……、…………」とオロオロとし始めた為、ナインが助け舟を出した。「事情聴取の為か?」、と。アイズは「その手があったか」と言わんばかりにコクコクと首がもげてしまうのではと思うほどに頷き続け、結果として食事の後、それぞれに経緯を聞いたら帰って貰うこととしたのだ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 食事も終え、こちらに接触した理由作りのためにベルへと詰め寄っているアイズを見てナインは笑う。現在午後9時、ナインは賃貸のベランダにて星明りを浴びながら自分のステイタス用紙を眺めていた。

 


 

《名前》

 ナイン・レイル

 

『Lv.2』

 

《基本アビリティ》

 力 : I 0

 耐久: I 0

 器用: I 0

 敏捷: I 0

 魔力: I 0

 

《発展アビリティ》

 光導: I

 

《魔法》

【クリステス】

 ・付与魔法(エンチャント)

 ・光属性

 ・詠唱式【星の救済を】(ルクス)

 ・起動式(スペルキー)【星よ集え】(レクス)により範囲拡大

 ・展開式(フィルキー)【星と化せ】(クレセリア)により展開

 ・解放(バースト)『ルクス・レギオン』

  :詠唱式【この身は善、悪を敷く者】【この身は悪、善を説く者】【たとえ愚物(はいしゃ)と笑われようと、歩みを止めず】【ならばこの身は約定を果たし、魂を捧ぐ】【救済は終末の地(ここ)に果たされる】【終焉(おわり)の大地、残る(たつ)はこの身体()(つるぎ)の欠片】【極光よ、救え(ゆけ)

 

【】

【】

 

《スキル》

【女神の抱擁】(ブレス・オブ・ヘラ)

 ・成熟を早める

 ・熟達に微補正

 ・戦闘時、発展アビリティ『闘争』の一時発現

 ・戦闘時、発展アビリティ『福音』の一時発現

 

【星の怒り】(ボンバイエ)

 ・大器を得る

 ・能動的行動時、自らに仮想の質量を加える

 ・質量を保存させる

 

【英雄先導】(ケイローン)

 ・仲間の成長に小補正

 ・覚悟(おもい)の丈に応じて効果上昇

 ・仲間からの信頼(おもい)に応じて自身に効果適用

 


 

(変なの生えたなぁ……)

 

 器の昇格(ランクアップ)の際、ヘスティアがナインの発現可能な発展アビリティを幾つか挙げたのだが、『呪力(カスでも漏れたら不味いヤツ)』だの『六眼(呪力が無い世界だと視界が制限されるだけ)』だの扱いに困るモノや、そもそも意味のないモノが多数散見された。

 

 その中から真面なのを集めてみれば、『狩人』や『耐異常』、『魔防』など、比較的わかり易いものもあった為、悩んだ。

 

 悩んだ先で、ナインは効果のほども不明な『光導』を選択した。それによる恩恵は分からずとも、変なものを取るよりはマシだろうとして。

 

 そして何より、ナインの新しいスキルが問題だ。

 

 【英雄先導】(ケイローン)。ギリシア神話に登場するケンタウロスにして賢者と呼ばれる存在。本来、野蛮で粗暴であるはずのケンタウロスでありながら、例外のようにして登場した英雄たちの養育者かつ教師のような存在。

 

(ゼウスの異母兄弟じゃん……。というかケイローンってキロンって読みもいけたよな……? 

 意味は……、癒し…………、だっけ? つくづく……)

 

 前世で得た知識を何とか思い出そうとして、厄ネタのにおいもするなと内心苦笑するナイン。

 

「あの、ナインさん……」

 

 そんなナインの背後から声が掛かる。振り返ればそこには少し眠そうなベルがいた。

 

「ベルか。眠いなら寝てもいいぞ。ベッドは広いしヘスティアと並んで寝れるだろ」

 

「それは、少し悪いと言いますか……」

 

 眠り眼をこすりながら、ナインの横に立ったベル少女。

 

「何か聞きたいことでもあったか?」

 

 大義名分を果たすべく、まずベルにシルバーバックと戦闘した経緯を聞いていたアイズは現在、絶賛大盛り上がり中のヘスティアから眷属自慢を受けている。『精神疲弊(マインドダウン)』で、夕方に1時間ほど睡眠をとったナインと同様、途中眠っていたことで未だ眠気の来ない様子で話しており、とても楽しそうだ。

 

「えっと……、魔法について、です」

 

「魔法……?」

 

「はい。ナインさんの光の付与魔法やアイズさんの風の付与魔法……。僕が見たモノだとどっちも凄くて……、もし使えたらどんな感じになるのかなって」

 

「なるほどな」

 

「今日見た結界とか剣に纏わせた極光とか! ナインさんの使ってる魔法、とっても綺麗でカッコよくって!!」

 

 ベルがナインのいる場所。小竜(インファント・ドラゴン)との戦域に近付けた理由の大半が突如として展開された光のドームだ。自暴自棄になってダンジョンに潜った際に陰ながら持たされた脇差にも付けられていた光の拡張版のようなモノ。

 

 飛んでいった剣に加えて、その光の集合体を見たからこそ、()したる時間を置くことなくその場に到着できたのだ。

 

「あぁ~……。そうだな、まずは……、魔法ってのはどういうものだと思う?」

 

「あっ、えぇっと……、……分からないです」

 

「まぁ、そういうもんだ。攻撃や防御、付与に回復。種類は様々だが、そこには本人の気質や来歴……、そして想いが強く出たりする」

 

「想い…………」

 

「魔法に何を望む? 魔法で何をしたい? 魔法にはどうあって欲しい?

 それらを決定付ける最終的なモノは────」

 

 ナインはそこで言葉を区切り、ベルの胸元、その中心へ指差した。

 

「ベル・クラネル。お前の意志だ。

 他人に決定権なんか渡すな。手放すな。その手に握るのはお前だけの力であるべきだ」

 

「僕の……、意志」

 

 そう言って胸に両手を重ねるベル。そんな彼女に発現するのは原作通り【ファイアボルト】になるのか、それとも全く違う性能の何かになるのか。未だ不透明なソレに期待が8割、不安が2割といった具合で頭を悩ませていた。

 

 期待と不安が半々とならないのは、ベル・クラネルという少女がどこまでいっても善人であるからだ。危険なほど強力な魔法が発現したとしても、それを無闇矢鱈に振り回すような存在にはならないはずだ。という安心感がある。

 

 性別が変わっている影響は今後まだまだ出てくるだろうが、彼女が足を踏み外すようなことがあれば、自分も相応に身を削って元の道へ戻してやれば良いとナインは定めているのだ。彼女が拾われるだろうヘスティアの下に、彼女よりも先に契約を交わしたのだから。その結果、ここに居るのはたった1ヶ月の差であっても先輩と後輩という立場。導く道理自体はあるのだ。

 

 だから少しだけ、ナインは御節介を焼くこととした。

 

「もしそう言った固定観念が無いなら、俺たちの主神なんかが良いかもな」

 

「神さまが、ですか?」

 

「じゃが丸くん屋台でバイトしてるような神だけど、ヘスティアという神は結構凄くてな。不浄を払う聖火やそれを灯す炉、竈、集う子供たちに温もりを齎す女神だからな……。

 天界での格は非常に高いぞ。へっぽこが目立つだけで」

 

「聖火……」

 

 そろそろ刻限のやばそうなアイズに対し、まだまだ語り足りない様子のヘスティア。そんな2人を眺めつつ炉の女神の説明を簡単に済ませたナインと、1つの単語を呟き始めたベル。

 

 そんなふらつき始めたベルを見て、いい加減ベッドに行けと促すナインと、それに頷くだけのベル少女。ゆっくりとした足取りで部屋の中に入れば、その様子にヘスティアが気付き、ベルがこけないようにと支え始めた。

 

 漸くヘスティアの下から解放されたアイズは、もう帰らなければならないと思いつつ、最後にとナインの下までやってくる。

 

「あの……、1つだけいいですか?」

 

「答えられることなら、になるけど」

 

「構いません。

 ……どうしてそんなに早く、強くなれるんですか?」

 

「…………、目標があるから」

 

「もく、ひょう……?」

 

 ナインはゆっくりと夜空を見上げ、そこに浮かぶ月を見た。

 

「誰かを助けるのに理由は要らない。

 でも、だれかを助けるのに、力が要る……。どうしようもなく」

 

「────ッ!」

 

「まだ足りない。でも見据えることぐらいは出来る。だからその道標を頼りに走れる。

 それだけだよ……」

 

「……」

 

 苦笑しつつ話すナインに、アイズは声を失っていた。

 

 助けてくれるかもしれない。その思いで苦しくなる。

 

 もっと早く来てくれれば。自分は救われていたかもしれないのに。そんな身勝手な思考だ。

 

 目の前のナインより、いくつもレベルが上であるアイズの方が強い。多くの人を救える。

 

 それでも、アイズの心の中の幼子(おさなご)が、ナインを見据えた。

 

「もし……、もしも……私が助けを求めたら……、来て、くれますか……?」

 

 期待はもう薄い。冒険者として成長を続けた結果、もうアイズの中では達観というモノが形成されかかっている。もしそれが完成されてしまえば、アイズの中の期待は完全に消え去るだろう。

 

「まぁ、呼んでくれれば?」

 

 応えるのがナインだが。

 

「────ッ!」

 

 もしアイズが獣人であったなら獣の耳がパタパタと動き、尻尾もぶんぶんと振るわれているであろう歓喜が胸中を駆け巡っていった。

 

 その高鳴る心臓を抑えるようにして背を向けたアイズ。本来の目的だけ達成して大義名分をすっかり忘れたアイズ。

 

「1つ良いか?」

 

「っ?!」

 

 スキップする様にして部屋へ戻ろうとした彼女の背に、ナインが1つだけ持っていた疑問が投げられた。

 

「俺、今年で15だけど、なんで敬語なんだ?」

 

「────えっ!?!?」

 

 自分より言動や雰囲気が大人びており、身長も十二分に高いため、アイズは今の今までナインのことを年上とばかり思っていた。

 

 結果、動揺を隠し切れず、硬直した【剣姫】が出来上がる。

 

 

 

 

 




 厄介なスキルの大渋滞。

 不足コストはブレ◯ドラから確保。
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