ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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・013 前門の巨人。後門の雷矢。

────

 

 

 

 

 

 最初の死線と書いて『ファーストライン』と呼ばれるダンジョンの中層域、その最初の13階層。

 

 ここは12階層と変わらず洞窟系のダンジョンとなっているが、横幅も天井までの距離も広くなっている。この広さは中層を稼ぎ場所にし始めた冒険者へ、回避先の選択肢を与える代わりに、その選択肢で縛り、同時に出現するモンスターが面で制圧してくる危険性も孕むこととなるのだ。

 

 純粋な物量での圧殺。それだけでも上層を基準に考えていた冒険者を容易く()み込む、正しく『最初の死線』(ファーストライン)だろう。

 

 そして侵入者である冒険者への配慮など、ダンジョンが持つはずもない。この階層から出現するようになったモンスターは、体内に持つ魔力を用いた魔法に近い遠距離攻撃を仕掛けてくる。

 

 最たる例が『放火魔』(バスカビル)と呼ばれるヘルハウンド。

 

 その体躯は1メドルと半分程度の大型犬レベル。しかしその体躯では難しいだろう機敏な動きと跳躍力を誇っており、一度目を付けられれば逃げ切るのは困難。上層の深域ではそれ以上の体格を持つモンスターが幾らかいるので、それらを相手に訓練をしていれば、1対1で勝利を掴むのは然して苦ではないだろう。

 

 問題は数だ。死線と呼ばれる所以はここから。

 

 出現するモンスターの数も頻度も上層よりずっと多くなり、囲まれることとなれば悲惨。ヘルハウンドの吐く強力な火炎放射によって逃げ場を消され、そのまま焦がされるという事例は後を絶たない。

 

 その犠牲者であり生還して数年経ってなお、当時のトラウマによりダンジョンに潜れなくなったナァーザという女性を知っているだけあり、ナインもその脅威度を念頭に置いていた。

 

 そこへ現れる癒し枠。アルミラージという白いうさぎのモンスター。愛くるしい見た目と、天然武器という凶器を持っており、常に集団で襲い掛かってくるのが特徴的だ。

 

 見た目だけであればベル・クラネルと類似しているのだが、最初から仲間が沢山いる辺り、アルミラージの方が恵まれている可能性が無きにしも(あら)ず。

 

 ナインもそれにはほんわかしつつ、飛び掛かってきたアルミラージを槍の石突きを用いて数匹ずつ魔石ごと砕いていく。愛らしさは肯定するが、それはそれとしてナインに(かま)けている時間などない。

 

 ────バチッ! バチバチッ!! 

 

 と、背後で常に雷の矢(【カウルス・ヒルド】)が待機しているからである。

 

 足を数秒間止めようものなら、1つ目が放たれてモンスターを焼く。

 

 モンスターを討ち漏らした瞬間、2つ目が放たれ足元が焦げる。

 

 進行に横着した瞬間、3発目が頬を掠める。

 

 4発目に関しては知りたくもない。ナインは必死に目の前に出現するモンスターを一心不乱に殲滅していった。

 

 的確に魔石を砕く為に集中力を一定以上から上げないように意識する。途中で切れれば問答無用で雷撃の餌食になってしまうのだから。先日まで上昇させまくった敏捷にモノを言わせ、長槍というリーチの差に肖って、とにかく前進を自らに課していく。

 

 背後から迫る白妖精(悪魔)治療師(天使)の足音を聞きながら。

 

 

 ────

 ──

 

 

 なお、ダンジョンへ潜る時間が時間であった為、中層域にも既に結構な人影があった。彼らは自分たちの稼ぎ場所としている階層に着いた後は、正規ルートから外れた位置にある大部屋や、腕に自信のある者は食糧庫(パントリー)と呼ばれるモンスターの溜まり場に向かう。

 

 それは上層だけに(とど)まらず、中層にも居るのだ。

 

 そして中層では決して聞こえるはずのない雷鳴が聞こえて来た為に、興味半分怖さ半分で、正規ルートを覗いてしまった。

 

 そこでは某最強派閥(ファミリア)白妖精(ホワイト・エルフ)が空中に浮かべた雷の弾丸で、前衛として戦っている黒髪の少年を援護している。……ように見えるだけの光景が広がっていた。

 

 ()白妖精(ホワイト・エルフ)からすれば、Lv.2など木っ端の冒険者でしかない。そんな彼らでは放たれる雷兵を捉えることなど至難という言葉すら生ぬるいだろう。

 

 いつの間にか無くなり、そしていつの間にか焼き焦がされたモンスターが魔石ごと灰になるのみ。スタートの前とゴールの後を理解するだけで精一杯である。

 

 そしてその雷兵が向かう先には漆黒髪の少年。手に持つは槍で、何とかモンスターの間を縫うように疾駆してダンジョンの奥部へ進みながらモンスターの核である魔石を壊していた。

 

 その表情は鬼気迫るモノであり、一歩間違えたら死ぬ綱渡りをしている様相さえ見える。というよりも落とそうとしている白妖精(ホワイト・エルフ)がいる為、難易度はこちらの方が上だろう。

 

 それを見ていたのは1人だけではない。この階層に居た冒険者の中でも野次馬根性の働く者たちが勢揃いしていた。

 

「なんだ、あれ……?」

 

「【フレイヤ・ファミリア】と……、あの黒髪は誰だ? 知らん顔だ」

 

「新入りとかか?」

 

「あそこは敷地内で殺し合いが常だろ? ダンジョンに幹部まで出して指導とか無いだろ……」

 

「……なぁ、そういや昨日聞いた【竜殺し】の話なんだけどよぉ……。なんか似てないか……?」

 

「そうか……? たしかそいつの特徴は……、黒髪、あるな。光……、槍に灯ってるのがそれか? それなら、ある。

 けど槍使ってるじゃねぇか。剣使ってたって聞いたぜ? 俺は」

 

「よく見ろよ、腰に剣あるだろうが。……えっ、マジ? 本人?」

 

器の昇格(ランクアップ)報告の張り紙なんて見たことねぇし、っつぅことはLv.1だよな? てこたぁ……、あんな風に目立つと、最強派閥から攻撃(ああ)されるんだな……」

 

「って言うかよぉ、あの雷よく見たらアイツも狙ってないか?」

 

「「マ、マサカー……」」

 

 雷の(やじり)がモンスターどころかナインまで狙っているのではないか。それを聞いた他の冒険者たちも口を閉じて目を凝らす。全神経をナインたちへ向け、何とか視認する。

 

 モンスターの影すらないナインの足下に1発、着弾した。

 

「「「地獄かよッ!!!」」」

 

【女神の黄金】(回復役)も居るって話するか?」

 

「もう……、やめようぜ。心がキュッとして来たんだが」

 

「俺、酒場でアイツにあったら一品奢るんだ」

 

 そんな会話もどこ吹く風。数分もしない内にナインたちの影は消え、その階層には静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

(速いな。少なくともLv.2の上位陣に組み込める勢いだ。

 いや、中層のモンスターに対する戦闘経験が少ないが故の失速だろう。であれば本来の速度はもう少し(うえ)。Lv.3にも届き()るか……?)

 

 自身の背後に現出させた雷の矢を保持しつつナインの後ろを走るは【フレイヤ・ファミリア】の幹部が1人、白妖精(ホワイト・エルフ)のヘディン・セルランドだ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 彼は()派閥(ファミリア)の幹部であり、他の人員が忌避している事務仕事を1人で(こな)している仕事人だ。だがやはり本業としては冒険者であるがゆえに、彼のレベルは第一級冒険者の中でも更に上のLv.6。純魔導士のようなステイタスでありながら前衛を張ることも可能という万能型の妖精(エルフ)だ。

 

 彼が現在ダンジョンでナインを的に(に指導)している理由は幾つかある。

 

 早朝、昨夜の時点で今日分の書類を片していた彼は、今日の分はまぁマシな方だなと考えていた。そんな彼の執務室に訪れたのがヘイズだった。

 

 彼女は『満たす煤者達』(アンドフリームニル)の筆頭。であればここに来る時は面倒事が発生したか、発注しておいた食料でも届かなかったか。それかまた別の何かか。そこまでの大事ではないだろうと判断しようとした次の瞬間、彼の耳に入った情報は「今日お休み頂きましたので」という言葉だった。

 

 ヘディンは即座に駄目だと言ったが、既に女神から許可は下りている。どころかその女神から直々に休暇を言い渡されたのだ。ただ休むだけならば休暇をズラしたりできるが、ソレは頼み事も含まれた休暇。ヘディンがどう言っても覆りはしない。

 

 であれば子細を聞かせる様にと言えば、女神が気に掛けているナインの診察は既に済ませたが、それとは別件で回復薬(ポーション)の大量外注が可能になるかもしれないという話を聞いた。『満たす煤者達』(アンドフリームニル)として『洗礼』を滞りなく行なうための必要経費だ。ヘイズはそう言ってヘディンに納得させる。

 

「それで、どこまで潜るつもりだ?」

 

「18階層まで行きますかね~。これが採取対象になります」

 

 そうして手渡される採取対象の書かれたメモ用紙。中層まで行く必要があることはヘディンも理解した。

 

 ダンジョンに潜るとしても階層によっては当日での帰還は難しくなる。その為、「数日分の空きは用意しておこうか」、そう考えていたヘディンだったが、18階層までであれば夕暮れには帰還するだろう。では次だ。

 

「誰を連れていくつもりだ?」

 

 量を確保するには人数は必要になる。と言っても『満たす煤者達』(アンドフリームニル)から更に人数を減らすと問題だろうとして、数人ほど『強靭な勇士』(エインヘリヤル)から出すか。そう考えての発言だ。

 

「あぁ、ナインと一緒に行ってきます」

 

「ふざけているのか? こちらにもそいつの情報は幾つか入って来ている。

 小竜(インファント・ドラゴン)を倒したことで器の昇格(ランクアップ)を果たしていたとしてもLv.2になったばかり。18階層はまだ早い」

 

 昨日の時点で器の昇格(ランクアップ)をしていようと、急激な向上を果たした肉体に精神が戸惑い、上手く実力が発揮できない状態と言うのは誰しもが起こす。それを解消する為に同格のモノと矛を交えたりして感覚の調整をするのだが、それで本人が未踏の階層へ送るのは(こく)だ。中層ではダンジョンが罠を仕掛けてくることもしばしばあるのだから。

 

「それなら問題無いかと、今朝【単眼の巨師】(キュクロプス)と打ち合ったことで、ズレは直されていましたので」

 

「いきなり爆弾を放るな阿呆。……サラマンダーウールは?」

 

「持っているらしいですよ~。無ければ無いで融通しましたけど」

 

 書類に目を通しながらヘイズの話を聞いていたヘディンだったが、一枚の紙を視界に入れた瞬間、僅かに硬直。逡巡の後、結論を出す。

 

「……少し待て」

 

 そうしてヘイズを待たせること10分弱。ヘディンは目の前の山を片し、席を立った。

 

「俺も行こう」

 

「えっ? 本気で言ってます?」

 

 ヘイズとしては『満たす煤者達』(アンドフリームニル)の仕事の一環であろう事柄に、態々目の前の人物が同行するとは思えなかった。ゆえに聞いてしまったのだ。

 

「【ミアハ・ファミリア】との交渉があるのだろう? 採取の時間を考慮に()れ、明日帰還するにせよ、お前は即刻ホームに戻ってもらわねば『洗礼』が滞る。

 それともお前が先方と交渉を纏めるのか?」

 

「な、なるほど~?」

 

 そうしてヘイズを先に行かせ、ヘディンもまたダンジョンへ潜る用意を始めた。

 

 なお、彼が停止する程の情報が書かれた書類にはこう記載されていた。

 

『ヘイズ・ベルベットが抜けた分、豊穣の女主人の店長からシル・フローヴァという人員が派遣されます。幹部連中は彼女の料理を味わうように』

 

 端的に言えばこうなる。

 

 情報が集まり易い場所にいる人間の行動は的確で速い。

 

 ヘディンはその書類を処理済みの山へ埋め、ホームを出た。

 

 部下の1人に、後で【ディアンケヒト・ファミリア】へ一通持っていくようにと伝えてから。

 

 

 ────

 ──

 

 

 そして現在、16階層。

 

 ヘディンたちの前方では肩で息をしつつも脚を止めずにモンスターを睨み付けるナインの姿がある。前に立つ影は6体。全てがナインよりも大きな体躯を誇る牛の頭を持つモンスター、ミノタウロスである。

 

 その手には自然武器があり、それを振り上げてナインへと接近していく。

 

 常人を越える巨躯に丸太のように太い腕と脚。持ち上げるはこの階層の壁と同色の武骨な大剣。恐らくはナインの身長に迫るだろう長さのそれを勢い良く振るう。

 

 その一瞬前、中央に居たミノタウロスの心臓部分に槍が突き刺さる。

 

 当然、ナインが投げた槍だ。

 

 長槍にはナインの【星よ集え】(レクス)による燐光が纏わされている為、ここにスキルによる【星の怒り】(ボンバイエ)の効果が適応可能となっている。更に光の量を調整した後は、スキルのオンオフだけでその総合的な質量が極端な変化を見せるため、直撃の瞬間、一気に加重された長槍であれば、ミノタウロスを貫くどころか爆散することさえ可能となる。

 

 まぁ、そんなことをすれば魔力の消費が酷いこととなる為、初めての階層でするようなことではない。そもそもが敵は単体ではなく複数。槍が彼方に飛んでいくと回収するのに一苦労なのだ。*1

 

 そうして魔石を砕かれたミノタウロスが灰へと還り、空中に槍だけが残ったその瞬間、そちらへ視線を向けていたミノタウロスの間を縫うようにしてその槍を回収。瞬時に一転。ミノタウロスの魔石がある心臓部分を切り飛ばすように槍を振るえば、骨の隙間などを縫った穂先が容易く魔石を両断してミノタウロスたちを灰へと還した。

 

 相手の長所を完全に潰した戦闘だったのだが、ナインの顔は明るさなど無い。

 

はぁ……、はぁ……、まだ……甘い

 

 そうしてヘディンたちの耳に届いたナインの小声は今の戦闘における槍の振るい方や速度に対して不満があると言わんばかりのモノであった。

 

「私はじゅーぶん凄いと思いますけどねー」

 

「戦闘技術以外の何か。判断力か洞察力か……」

 

 そのナインの戦闘振りは、それを諦めてしまった自分よりもずっと見れたものであると褒めるヘイズ。対してヘディンは、ナインの様子から他の要素との合致や擦り合わせが済んでいないのだろうと見抜いた。

 

 ヘディンもLv.2であることを前提にすればナインの戦闘能力に舌を巻くが、それはそれ。現状で足りないモノは多々あるのだ。

 

(さて、どう仕込んだものか

 ……そう言えば次産間隔(インターバル)はそろそろだったか?)

 

 これからのプランを考えていた折り、ヘディンの中に浮上してきた17階層の情報。

 

 僅かに口角を上げた後、ヘイズへナインに回復薬(ポーション)を渡すように指示した。突如として優しさを表に出したことにヘイズは瞠目を、そして嫌な気配を掴んだ。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 陽光のさす昼を迎えようかというオラリオの最北部。そこには街路から続く先に幾重にも高層の塔が重なり合って出来た長大な建築物がある。中央に建つ最も高い塔の先には道化師の描かれた旗が今日も風に煽られていた。

 

 そこは都市最大派閥(ファミリア)の片割れ、【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)である『黄昏の館』。

 

 都市最大派閥(ファミリア)であるがゆえに、今日も多くの団員が出入りを繰り返し、用のある者が門番へアポイントの確認をしたりと結構な人通りを見せていた。

 

 その館の中の一室で、自分たちの装備を確認していた少女が3人。

 

 アマゾネスが2人に妖精(エルフ)が1人という、オラリオの外であれば結構珍しい組み合わせがそこにある。

 

「ねぇーそろそろ出たいんだけど、アイズまだぁ~?」

 

「リヴェリアのお説教よ? すぐ済む訳ないじゃない」

 

「な、何をしたんでしょうか……」

 

「何でもいいよ~。早くいきたーい! 動きたーい!」

 

 不満気にそう言うのはアマゾネスのどこがとは言わないが小さい方、ティオナ・ヒリュテ。朝、朝食を一緒に取っていたアイズがやけに上機嫌だったのを見て、自分だけ壊した代剣の賠償に目途(めど)でもたったのかと聞いた。

 

 それを聞いて先程までの上機嫌振りはどこへ()ったのか。一瞬にしてどんよりという雰囲気を纏い始め、ティオナも流石に察した。自分と同じように金策が必要なのだと。

 

 そんな他愛のない会話を続ける2人と同席しているのはティオナの姉であるがゆえに、どこがとは言わないが大きい方、ティオネ・ヒリュテ。そして彼女らの後輩にあたる妖精(エルフ)のレフィーヤ・ウィリディスの2人だ。

 

 彼女らはそんな借金に苦しむ2人を見ていた。【ゴブニュ・ファミリア】に整備を頼んだあと渡された代剣を1本壊してしまった所為で落ち込み気味なアイズ。高価な鉱石をふんだんに使用しなければならない挙句重量がある所為で人件費も馬鹿にならない大双刃(ウルガ)の新調に後払いを強行した笑顔のティオナ。

 

 内面を表情に出し(づら)いアイズの方が現実を受け止めている光景にティオネは嘆息を、レフィーヤはおろおろしつつも彼女らの金策に同行することに決めたのだ。

 

 なお、ティオネは彼女らの団長であるフィンを誘おうという案をティオナが出したからだったりするのだが。

 

 では早速準備を済ませてダンジョンに、というところでアイズの後ろに立った王族妖精(ハイエルフ)の影。明らかな怒気を纏ってそこに立っていたリヴェリア・リヨス・アールヴは、「少し来い」と言ってアイズの頭蓋を掴むと、問答無用で引き摺って()ったのだった。

 

 向かった先は幹部陣が集う会議室。そもそもリヴェリアの雰囲気からお説教の類いだろうと察した3人は大人しくアイズの説教が済むのを待つことにしたのだ。

 

 それから数刻、トボトボという効果音と共に現れたのはアイズとリヴェリア、そして準備万端といった様子のフィンだった。

 

「やぁ、お待たせ」

 

「だんちょ~う! ぜ~んぜん、待ってません!」

 

 そんな彼が自分も同行するよと言うようにして登場すれば、猫撫で声で賛同するティオネ。

 

「なんの話ししてたの~?」

 

「な、何でもない……」

 

「アイズさん……?」

 

「気にするな。アイズが全面的に悪かった。それだけだ」

 

……しょぼん

 

「気になるんだけど~!?」

 

 顔面蒼白となっているアイズを気遣うティオナとレフィーヤだが、失言を避けるためにアイズは何も話せない。

 

 会議室でリヴェリアとフィン、そしてそこに禁酒中のロキが居たため、昨夜随分と遅く帰宅した上、やけに上機嫌な様子だったとして、昨日起きた怪物祭(モンスター・フィリア)の報告も後回しにして何をしていたのか。それを問い詰められ、結局白状しただけだ。

 

 そうして口から出る情報なのだが、アイズもアイズで出せる情報は最低限、選別している。その理由はナインから「どうせ今日か明日にフィン辺りに問い詰められて白状するだろうし、全部隠そうとしてバレるぐらいならある程度明かしてしまえば良いか」、ということで問題のない内容を話していった。

 

 事実、昨日起きた怪物祭(モンスター・フィリア)のモンスターが脱走した件、フィンもきちんと情報収集を終えている。そして強化種と化した小竜(インファント・ドラゴン)を最近見たような光の魔法を扱う剣士が倒したという情報から、恐らくの当たりを付け、現場に()ったであろうアイズに聞き出したのだ。

 

 結果、その場で何があったのかはフィンへと伝わり、ナインの戦闘能力のほどをある程度把握し、同時にそんな人物に未だに借りが残っている不安感に内心、頭を抱える。

 

 遠征の後始末も終わった。怪物祭(モンスター・フィリア)の件も発端である【ガネーシャ・ファミリア】が始末をつけるであろうことからノータッチでも問題無い。

 

 そろそろ顔を出して後日へ回した謝罪の品を持っていこうかと決めた。相手側も落ち着く頃だろうとし。

 

 先に()った4人の後を追うようにしてホームを出た。

 

「そう言えばリヴェリア。灰色の狼人(ウェアウルフ)が白髪の少女を甚振(いたぶ)ってるっていう噂話があるんだけど、何か知らないかい?」

 

「私も噂程度しか知らん」

 

「因みに僕は頭痛がしてるよ」

 

「そうか、頑張ってくれ」

 

 なにか負債が積み上がっているような気がして頭を抱える小人族(パルゥム)と、団長は大変だなと流した王族妖精(ハイエルフ)がそこに居た。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 アイズ、ヒリュテ姉妹、レフィーヤ、フィン、リヴェリア、雑多な派閥(ファミリア)であれば即日で殲滅できる驚異的な戦力を持った一団が上層から中層までを下りていく。魔石やドロップアイテムの換金額も、上層よりも中層、中層よりも下層の方が高額だ。

 

 ならばこそ、単価の高い魔石などを持って帰るべく、彼ら彼女らはダンジョンの下層へと向かっていた。

 

 しかし道中でフィンが訝しむ。

 

「モンスターが少ないな」

 

「ああ、正規ルートを直行しているとはいえ、この遭遇回数はなかなか無い。回避するというなら話は違うのだがな……」

 

 それに同意する様にリヴェリアが頷き、そして足下に視線を向ける。

 

「……これは砕かれた魔石の一部、か?」

 

「かも知れないね。見なよ、僕たちの進む道にこれでもかと落ち続けている。下の階層へ導く様に」

 

「ってことは私たち以外にも下層に向かってる人が居るってコトだよねー?」

 

「だろうな。これらがまだ散っていないところを見ると、数刻と経っていないだろう」

 

 ティオナの疑問に理由も付けて可能性は高いとリヴェリアが言う。

 

「まぁ楽が出来るってことでしょう? 何でもいいわよ」

 

 そう言うのはティオネ。団長以外の人物がどんな功績を挙げようと大した興味は抱かない。アマゾネスの習性ゆえに、過去フィンによって下された彼女の意識は常にその本人へと向いているのだ。

 

 時折り横道から出てくるモンスターもいる為、油断はしない。しかしそれはそれとして数が少ない。出てきたモンスターを殴り、斬り飛ばしながら一団は歩みを然程(さほど)も緩めることなく進んで()った。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ダンジョン17階層。そこへ着いた【ロキ・ファミリア】の一行の耳にとある反響音が入る。

 

ウオォォォォォォオ!!

 

「……この雄叫びは!?」

 

「ゴライアスか。しかもこの様子だとどこかのパーティーが戦闘中ってところかな?」

 

 フィン達の耳に入るのは時折り途切れる咆哮。とは言え、相手は階層主。中層最強の迷宮の孤王(モンスターレックス)たる巨人、『ゴライアス』。

 

 生半可な戦力では圧し潰されて終了のそんな存在だ。

 

 ここにいる者たちであっても、油断してはならない相手。

 

 そんな存在に立ち向かっている者が相応の実力者であるならば構わない。しかしそうではなく、通ろうとしたそのタイミングで出現したとなれば問題だ。勝ち目のない相手に、強力無比な存在に相対して気力を振り絞れるものはどれだけいるだろうか。

 

 フィンの号令と共に、【ロキ・ファミリア】の面々はその場へ急いだ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 17階層を一気に駆けていく。モンスターの姿はない。地面に魔石が転がっているということも無い。この現象もそこまで可笑しいことでもないのが、階層主の出現という現象だ。

 

 階層主の出現が近くなった時、不自然なほどにその階層のモンスターの発生率が下がる。理由などは不明だ。ただそういう現象(もの)だとして流されている。

 

 しかし今は都合がいい。そのおかげで一切の邪魔なくフィン達が進めるのだから。

 

「────しかし、だれが戦っている? ゴライアスの雄叫びは聞こえるが、他の声が聞こえてこない」

 

「えぇ~、普通にリヴィラの冒険者じゃないの?」

 

「そいつらの声が聞こえてこないって話してんのよ」

 

「では、だれが……?」

 

 レフィーヤが再度疑問の開始地点に戻すが、結局結論は出ず、そのままゴライアスの出現する『嘆きの大壁』と呼ばれる広間へ繋がる通路へ出た瞬間、彼らは2名の後ろ姿を捉えた。

 

 そしてその姿は彼らの良く知る人物であった。

 

【白妖の魔杖】(ヒルドスレイヴ)【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)ッ!?」

 

 レフィーヤがその姿に驚愕を隠せず、大声をあげてしまう。

 

 その声が通路に響き、そして戦闘音の鳴りやまぬ広間の近くに陣取る2人の耳朶に届いた。だが、ヘディンはその声に特段反応することなく【ロキ・ファミリア】の面々へ一瞥だけ済ませると、そのまま正面へ視線を戻す。

 

「なんであの2人が!?」

 

「知るわけないでしょ!!」

 

「とにかく広間の中を見ないことには始まらん。行くぞ」

 

「そうだね。僕も賛成だ。【女神の黄金】(ヴァナ・マルデル)が回復しているみたいだから問題はないだろうけど」

 

「……この光って」

 

 そうして彼らはゆっくりと近付いていく。下手に刺激してこんな場所で戦闘は御免なのだ。広間にいるであろう【フレイヤ・ファミリア】の団員やそれを指揮可能なヘディンと回復できるヘイズがいる時点で、泥仕合は確実なのだから。

 

 そうして広間の中をアイズが視界に入れた。

 

 ────全身に流血の跡を残すように血塗れな戦闘衣を纏い、長槍を振るい続けるナインの姿を。

 

 

 ────

 ──

 

 

 横にいる白妖精(ホワイト・エルフ)が手に持っていた懐中時計の針を見ていた。

 

 そして、針が最後の位置振動を終えた瞬間、パチンと閉じて嘆息。

 

「時間切れだな」

 

 

 

 

 

*1
回収中にカウルスされたくないので調整に努めているとも言える。




 『静寂が訪れた』っていうワード。本来なら安堵を持てるのにこの作品だと地獄の体現でしかないの嫌なんだが…。
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