ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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・014 初リヴィラの街(いかない)

────

 

 

 

 

 

ガネーシャッ!! (だい) (しゃ) (ざい) ッッ!!!!

 

「「うるさっ!?」」

 

「ひとまず黙ってくれガネーシャ……」

 

「「あはは……」」

 

 現在、昼過ぎ。バベルに【ヘファイストス・ファミリア】の店舗用に開放されている幾つかの階層にある執務室。

 

 関係者とこれから子細を聞くであろう人物たちは、その一室に集められていた。

 

 執務机に腰を掛けるようにしているヘファイストス本神(ほんにん)。その後ろで執務机を椅子代わりにしている椿・コルブランド。

 

 彼女らの前に用意されたローテーブルを挟むように設置されている長椅子の片方にはヘスティアが、向かい側にはヘスティアの眷属であり先日の一件の被害者であるベル・クラネルが席に。彼女の横に座るギルドの受付嬢であるエイナ・チュールは、神が行なう本気と書いてガチの土下座を見て苦笑いを浮かべている。

 

 そして彼女らの視線の先にはこの一室の黒一点。筋骨隆々を絵に描いたような肉体美を誇り、顔に象を模した仮面を付けた男神。絶賛土下座中のガネーシャと、その眷属であるシャクティ・ヴァルマが居た。後者は深く頭を下げる程度に収めているが。*1

 

「顔を合わせるのが初めてな者も居る。改めて自己紹介をしよう。

 私はシャクティ・ヴァルマ。最近このオラリオに来たベル・クラネルにとっては【象神の杖】(アンク―シャ)の方が聞き馴染みがあるかもしれないな。

 【ガネーシャ・ファミリア】の団長をしている」

 

そうっ!! この俺っ!!! ガネーしゃんぐっ?!?!

 

「話が進まないから黙っていてくれ……」

 

 自己紹介を始めたシャクティに続くように再度叫び出したガネーシャ。うなじに手刀を貰い、全員の視線も貰いつつ、地に伏した。

 

 頭を抱える様子のシャクティに、この場の全員が「やっぱり苦労してるんだなぁ……」と感じたとかいないとか。少々ぞんざいな扱いをされている神を見て、ベルは1人、震えていた。

 

「では再度改めて。

 先日の怪物祭(モンスター・フィリア)では我々の不手際によって危険な状況に陥らせたことについて謝罪を、……そして被害を最小に収めてくれたことへ感謝を」

 

 ガネーシャ本神とシャクティ・ヴァルマがこの場に現れた理由は昨日怪物祭(モンスター・フィリア)で起きたモンスターの脱走、そして被害者となった【ヘスティア・ファミリア】への謝罪と感謝を伝えに来たのだ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 彼らはオラリオでも屈指の巨大派閥。眷属数も多く、実力者も数多く抱えており、ギルドや都市民からの信頼も厚い。ゆえにオラリオ全体の警備を請け負っている。

 

 請け負っているからこそ、信頼されているという面もあるが。

 

 それはそれとして、彼らが始めた怪物祭(モンスター・フィリア)で被害が出たとなればその信用も落ちる。多くのファミリアの内、【ガネーシャ・ファミリア】が(おもて)だって主催しているのではなく、完全に1ファミリアで開催している為、どうしようもなく悪感情を集めることとなるのだ。

 

 だが、今回の脱走騒ぎでの死亡者はゼロ。十数体というモンスター。上層でも強いとされるシルバーバック。果てには強化種と化した小竜(インファント・ドラゴン)

 

 それらが暴れたにしては奇跡的な数字であろう。周囲に人は大勢いたのだ。戦えない市民ではその暴虐に吞まれるだけであろう状況でなお、死亡者も行方不明者も出ていない。

 

 それは偏に迅速な対応が取れたことに他ならない。少なくとも報告を聞く以上のことが出来ていない彼女らでは、そう見るしかないのだ。

 

 ギルドから【ロキ・ファミリア】の【剣姫】へ依頼が出されたことについては知っている為、当日の日暮れに顔を出した。彼女は大半の脱走モンスターを討伐し、別途出現した新種のモンスターについても討伐を果たしている。

 

 前者についての感謝を、後者についての情報共有を。

 

 しかしシルバーバックと小竜(インファント・ドラゴン)については情報が錯綜して正確な討伐者が掴めなかった。

 

 実際に起きた事象に尾ひれや背びれや胸鰭(むなびれ)まで付ける者。

 

 自分が倒したのだとホラを吹く者。

 

 そもそもそんなモンスターなどいる訳ないと叫ぶ者。

 

 とにかく正確な情報を求めていた折りに、ギルドの職員が謎に廃教会前で不審な挙動を取っていた為、事情を聴いたところ現場に居たとのこと。

 

 小竜(インファント・ドラゴン)について子細を聞いた後に、彼女の同僚が担当している冒険者がシルバーバックの討伐をしたという話を聞いて、足を運ぶ手筈と相成った。

 

 運の良いことに、その両者ともに同じファミリア所属であり、主神については目途が付いているときた。シャクティは主神であるガネーシャと共に向かえば、更に運が良く討伐者の片方であるベルがその場に居たので、同席を願う。

 

 断る理由も無く、案内していたエイナもギルドの職員。未だ挙がっていない情報が聞けるならば聞くべきだろうとして同じように席に着いたのだった。

 

 

 ────

 ──

 

 

「この度の件、どのような言葉を並べようと貴方がたに被害が出たことに変わりはない。

 下手をすれば神ヘスティアが送還され、そのままそちらの団員両名が死んでいた。

 どのような要求でも()む……、とは流石に言えないが、まずはそちらから何かあるだろうか」

 

 気絶したガネーシャの横に立つ長身の麗人。彼女は可能な限り【ヘスティア・ファミリア】へ配慮するという意思を以って言葉を伝えていく。

 

 その反応はあまり芳しくない。ベルも、そしてヘスティアも頭を悩ませるだけで答えを出せずにいた。

 

「か、神さまぁ~、どうしましょう……」

 

「ど、どうすると言われても……、ボクもこういったことには疎いんだ……」

 

 そんな弱腰なヘスティアの発言に「交渉の場で疎いとか普通言わないわよ……」と内心呆れるヘファイストス。大が付くほどの神友であるがゆえに、このまま放置もと思い、口を出すこととした。

 

「少しいいかしら?」

 

「神ヘファイストス。どうされましたか?」

 

「一応主神が居るからそれで良いかもしれないけれど、【ヘスティア・ファミリア】の団長は暫定的であってもナインって眷属()のはずよ? 彼の方はどうしたのかしら?」

 

「はい。こちらでも認識しています。

 残念ながら私どもが接触する前にダンジョンに潜ったようで、帰還を待つよりもまずは先方の主神へ話を通すべきだと考えた次第です」

 

 淡々と質問に答えるシャクティと、その返答内容に頭を抱えるヘファイストス。そしてエイナ。

 

 昨日小竜(インファント・ドラゴン)の強化種と魔法さえ用いた全力戦闘を果たしたはずであるのにも拘らず、その翌日にダンジョンに潜るなどどうかしている。Lv.1の冒険者がそんなことをすれば、知らず知らずの内に溜まっていた疲労によって圧し潰されかねない。よしんばそれで偉業と見做(みな)され、Lv.2に上がっていたとしても今度は精神と肉体のずれが発生するのだ。

 

 その調整は慎重に行なうべきだと考える。

 

 ナインのダンジョンへ潜る頻度とその総時間を知っているだけあり、エイナは内心で怒りの火をゆっくり滾らせていた。

 

 当人を知っているだけあり、苦笑いのヘスティアとベル。そして早朝、彼のズレを直した張本人である椿はカカッと笑っている。

 

「一応、言ってみるだけ言ってみたらいいんじゃない?」

 

「そうは言ってもねぇ……、これと言って欲しいモノは……」

 

「でしたら防具などはいかがでしょうか、神ヘスティア」

 

「防具……?」

 

 2柱の神の会話に割り込むのはエイナ。

 

 彼女は本日の業務を午前で終え、現在2人しかいない担当冒険者の片割れであるベルから防具について聞かれた為、この【ヘファイストス・ファミリア】が経営している店舗のある階層に来ていたのだ。

 

 であれば、と思った次第だった。

 

「私は反対よ」

 

 しかしヘファイストスから直々に棄却される。

 

「ど、どうしてですか?」

 

「どうしてと言われてもね……。聞いた話だと結構な大物を倒したみたいだし、市民を護った件を含めた金額を注ぎ込んだ場合の防具は結構な品になると思うわ。

 でも、身の丈に合わない高級品を使うのはお勧めしない。その子の為にはならないからね」*2

 

 そう言って締める。ヘスティアから武器製作を頼まれた時にも言った言葉であり、それは防具にも同様に言えることだと鍛冶を(つかさど)る神であるがゆえに断言するのだ。

 

「う~ん……。ベル君は何かあるかい?」

 

「ぼ、僕ですか!? えぇと……、思いつかない、です……」

 

 まだまだ冒険者歴の浅いベルでは何を要求すればいいのか分からない。思い付く物はある。しかしそれが自分とヘスティア、なによりナインに降り掛かった事態に釣り合うかどうかが分からないのだ。

 

 それゆえに口を噤んでしまった。

 

 この賠償に関して、【ヘスティア・ファミリア】の2人以外は基本的に部外者。主神であるヘスティアが早々に辞退を表明したことで、この場に居るベル以外の者たちでは、案を出せても決定権はない。そして下手な言いくるめは善神が3柱揃っている上に、悪辣な者がいない為、出来ないし、する者も居ない。

 

 とは言えシャクティにもこの後に色々と用がある。正確に言えば怪物祭(モンスター・フィリア)について横の繋がり的な後始末が。

 

 ()かす気もないが。

 

「そうなると~……。

 ────…………あっ」

 

「何かあったの?」

 

「うん。以前ナイン君から言われていたことなんだけどね……。

 ちょうどヘファイストスも居るから可能な範囲で叶えてみようかなって」

 

「あら? 私が関係するのかしら……?」

 

「あぁ! なんたって土地の────」

 

 急に笑顔を取り戻したヘスティアに疑問を浮かべる他の者たち。

 

 しかし彼女の口から語られる内容を聞いていけば、彼女がなぜ笑みを浮かべるのかの理由は明白だった。*3

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 昼時を越えたオラリオの最北部、【ロキ・ファミリア】のホームである『黄昏の館』の食堂では、先ほど返って来たベートが1人で昼食を取っていた。

 

 そこへ、人がいないがゆえに大きく響く音が食堂に鳴る。

 

「みぃんなぁ~……、ありゃ? だれもおらへん?

 ……んん? ベートだけやん」

 

「あ?」

 

 (やかま)しいと思いつつ、一応、最低限、自らの主神であるがゆえに反応しておこうと振り返ったベートへ近付いて来るロキ。

 

「アイズたん達は……?」

 

「バベルに向かってた。ダンジョンだろ」

 

「付いて行かんかったん?」

 

「疲れてたんだよこっちは……」

 

「……? あぁ!

 ベートちゃん、お饅頭いるかしら……?」

 

「踏み潰されてぇのかッ!」

 

「あぁん、こわぁい! 冗談やんか~」

 

 とある地区でベートへ掛けられた言葉をどこで知ったのか。いや、もしかしたら後をつけて来て聞いたのかもしれない。若しくは他の者から……。堂々巡りで答えなど出ない。

 

「ま、ええわ。

 せやったら今日1日、うちに付きおうてくれへんか?」

 

「あぁ……?」

 

「ほらぁ、禁酒仲間やんか~」

 

「…………ケッ」

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 特定の階層かつ特定の位置にのみ出現する強力なモンスター。

 

 それに加え、同時に出現する最大数が1体のみであることから、『迷宮の孤王(モンスター・レックス)』という名称を与えられている。

 

 その内の1体。中層の17階層、嘆きの大壁と呼ばれる職人が手掛けた様な凹凸の無い巨大な一枚壁のある大広間から出現する褐色肌に黒髪の巨人の姿を持つモンスター。

 

 それこそが()()()()()である。

 

 身長は7メドル。推定能力値はLv.4と見做されており、18階層にある安全階層に辿り着くまでに遭遇確率のあるモンスターの中では最も強力な存在だ。

 

 特異な個体であるがゆえに、1度出現すると2週間の次産間隔(インターバル)が存在している。

 

 当然、その皮膚や筋肉、骨は頑丈かつ強固。そこらの冒険者の攻撃など容易に弾き返す為、倒す際は入念な準備が必要だ。

 

 

 ────

 ──

 

 

 灰色の肌を持つ巨人、ゴライアスの巨拳を上方向への跳躍で躱したナインはその太い腕を伝って頭部へと向かう。────その瞬間、背筋に嫌な予感が走り、急制動。

 

 即座に後方へと勢い良く跳んだナインの目の前を、無数の雷矢が駆け抜ける。

 

 目の前を通る幾つもの青白い雷の嵐はゴライアスの肌を焼き、肉を焦がし、骨を貫いていく。

 

 それでも灰の巨人は崩れない。それは迷宮の孤王としての意地か、それとも人智を超えた身体能力(フィジカル)の為せることなのか。この場にいる総勢8名の観客には分かる。単にその雷の主が手加減しているだけなのだろうと。

 

 その手加減が必要な理由であるナインは距離を取り続ける。

 

 そしてナインとゴライアス間の距離が一定に達した瞬間、雷で構成された横薙ぎの豪雨の密度が上昇し、ゴライアスを文字通り削いでいった。

 

「うわぁ……」

 

 目の前の光景にナインは絶句するしかない。

 

 先程まで自分を虐殺に近い形で戦っていた巨大なモンスターが、今となっては一切の身動きが取れずにいる。雷の鏃がその一矢で脚や腕、胴の肉を削いでいく所為で踏み出すことも殴りつけることも、ガードすることさえ出来ずにいるのだから。

 

 じきに雷の豪雨によって掻き消されていた巨人の慟哭も、その元を絶たれた故か、完全に消え去り、後に残ったのは人間大の魔石と厚手の皮(ドロップアイテム)だった。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 ダンジョン17階層。『嘆きの大壁』と呼ばれる巨大な一面を持つ大広間の中では、戦闘を終えたナインが地面に大の字で寝そべり、治療のためにとヘイズがその横に、反対側では何故かアイズがおり、屈みこんでナインの顔を覗き込んでいた。

 

 本来であれば敵対派閥とその関係者であろう人物に近付くなど即戦闘開始モノであるのだが、ヘイズに戦う意思など無い。そしてアイズもまた同様。しかしアイズの突拍子もない行動を止めることも出来なかった【ロキ・ファミリア】のメンバーは、一応の警戒のために2組に分かれていた。

 

 アイズの方へはヒリュテ姉妹にレフィーヤが。そしてその様子を眺めていた【白妖の魔杖(ヒルドスレイヴ)】にはフィンと戦闘がほぼ確実に防げるリヴェリアが居た。*4

 

 どちらにせよ、この場において戦力差は一目瞭然。軍師であるヘディンもフィンもこの場で争う愚かさを重々承知しているがゆえに、どちらも事を構える気はない。されどこの場での目的を達成したヘディンと違って、来たばかりのフィンもリヴェリアも疑問が残っていた。

 

 なぜこの場で冒険者となって新米と言って差し支えの無いナインを、ヘイズの回復魔法ありきとは言え階層主であるゴライアスと単独で戦わせていたのか。そもそもなぜナインが【フレイヤ・ファミリア】の幹部級の2人と組んでダンジョンに潜っているのか。それらが全くと言っていいほどに不明瞭だ。

 

 最近のオラリオは少し前よりも大分マシではあるが、問題も多い。不安材料は消しておくべきだろうとフィンは判断した。

 

「君たちはどうして彼と一緒に居たのかな?」

 

 そんな軽いジャブのような問い掛け。ヘイズもヘディンもレベルは高く、中層を歩いていようとおかしなことはない。下層に向かっているのだろうと思われて終わりだ。であるがゆえに、今一番気掛かりなナインとの同行に視点を向けた。

 

「貴様に答えてやる義理がどこにある? クソ小人族(パルゥム)がッ」

 

 まぁ、真面に返答が返ってきたらきたでおかしいと専らの評価を受けているのが、ヘディン・セルランドという人物なのだが。

 

「彼は驚くことにたった1ヶ月半で器の昇格(ランクアップ)を果たしている。僕たちも彼とはある程度の友好があってね。Lv.2に上がったばかりの彼が中層でも危険度の高いこんなところで、しかも階層主と戦っていたとなれば気にもなる。

 それを、キミたちが強いていたのかどうかも含めてね」

 

「友好、か……。ハッ! 笑わせる。

 貴様らが酒場で仕出かしたことなどこちらの耳にも届いているに決まっているだろう。であれば奴がどちらと手を組みたがるか、考えるまでもない」*5

 

「確かに、我々がしてしまったことについては申し開きもない」

 

 そこへ参戦したのがリヴェリアだった。

 

「例の一件、リヴェリア様に落ち度はないかと」

 

「しかし私も【ロキ・ファミリア】の副団長。組織に属するものを窘め、戒める立場でありながらあの失態だ。

 釈明の余地もないとはこのことだろう」

 

 そう言ってリヴェリアが困り眉を浮かべるのを見て、「やってくれたなこのクソ小人族(パルゥム)が」と内心吐き捨てるヘディンと、「リヴェリアが居てくれてなによりだ」と笑顔を浮かべスムーズに話が出来ると安堵する腹黒(はらぐろ)のフィン。

 

 そしてそんな内心を一切顔に出さない両名を見て心の内で溜め息を吐いたリヴェリアだった。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 ダンジョンにいくつか存在するモンスターの発生しない安全階層(セーフティポイント)の1つであり、他の階層よりも比較的上層に位置する為ならず者たちが居住を構えるに相応しい場所がある。

 

 それがダンジョンの18階層、『リヴィラの街』。

 

 その比較的安全な地形や上から差す柔らかな光とそれを反射して輝く草花や所々で顔を出す水晶群。見る者に安全地帯なのだと思わせるその光景の美しさから、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と呼ばれ、宿屋を始めとした(あきな)いの場が広げられている。

 

 そんな街を見下ろせる高台。そこでは2つの影が背を屈めて腰辺りまで伸びた草の根元に手を伸ばしていた。

 

「あの人一切手伝わずに消えたんですけど大丈夫なんですかね……」

 

「まぁ、ヘディン様もヘディン様で多少マシなだけで自由なところありますからねぇ~」

 

 ナインとヘイズの2人であった。

 

 彼らはヘディンによる、(おも)に、そう(おも)にリヴェリアへ、現在のことの経緯を話すという休息時間が済んだあと、一刻も早く【ロキ・ファミリア】から離れるべく魔石とドロップアイテムの回収をさせてから18階層へと降りたのだ。

 

 アイズを筆頭にフィンやその両名に引っ張られる形で他のメンバーもナインに最速ランクアップの秘訣やステイタスのスキルなどをそれとなく*6聞き出そうとしていたのだが、ナインも応じる気など無い。そもそも「全アビリティSSS(オールトリプルエス)まで上昇させました」など、信じる者も居ないだろう。

 

 ギルド同様、追及も面倒であり、追加でヘディンから「さっさと来い」と視線で脅されればナインたちに抗う気など無く。

 

 半ばサポーター役になったヘイズと、18階層では戦闘はあまり起こらないことからナインの2人でゴライアスの魔石とドロップアイテムを持って付いて行ったのだった。

 

 なお、ナインたちが目的の採取対象を収集し終えるまで白妖精(ホワイト・エルフ)は終始姿を現さなかったとか。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 地上。オラリオの都市を照らす陽の光は茜色に染まり、現在時刻が夜へと移り変わることを市民たちへ伝える。そこに例外などなく、家路についているベルも変わらない。

 

 メインストリートを歩く彼女の耳には相も変わらず活気に満ちた喧騒が届いていた。

 

「じゃが丸くんはいかがーっ!!」

 

「昨日の竜狩りについてまだ本人が名乗り上げてないらしく────」

 

「カミナリハイヤダ、カミナリハイヤダ」

 

「ギニャーッ!? 兄様ァァァッ!!??」

 

「アミッド様!! 【猛者】(おうじゃ)の心音が────」

 

 ……様々な喧騒で満ちていた。

 

 そんなメインストリートを歩くベル。現在の彼女は結構どころではない程に上機嫌だ。

 

 その理由は彼女が身に纏う軽鎧(ライトアーマー)にあった。

 

 彼女は本日、団長兼先輩兼憧憬相手であるナインから、「いい加減真面な装備を着た方が良いから、信用の置ける人……エイナさん辺りに相談して購入しておけ」、という指示の(もと)、今日のダンジョン探索をお休みしてギルドへ向かったのだ。

 

 本音(ほんね)であれば、ベルはナインにこそ相談に乗って貰いたい相手であるのだが、都合が悪かった。というよりも先に予定が出来てしまったがゆえに、ナインは数日家を()けることとなっている。その間ずっとダンジョンに潜らないという怠慢は今のベルには出来ない。

 

 オラリオに来てから1週間。ナインに救われるよりも前から毎日ダンジョンに通うような少女であるのだが、酒場で自身の現状に打ちのめされてからは一層強くなることへの欲求が高まっている。

 

 それは昨日ナインが器の昇格(ランクアップ)を果たしてから更に。

 

 だが、強くなることだけに固執し、それで全身に傷をこさえてしまえば、主神であるヘスティアが悲しむ。動けなくなればナインの(おもり)になるだけだ。

 

 その為に今日という1日を装備の拡充に充てたのだった。

 

 武器はある。昨日の怪物祭(モンスター・フィリア)にてヘスティアから手渡された片刃の小剣。

 

 銘は《聖火の刃(ヴェスタ)》と言う。

 

 所有者と共に成長する武器という製作者であるヘファイストスからすれば邪道な一振りではあるが、間違いなくこの地上における唯一無二の逸品。銘も他ならぬヘスティアが司る聖火の読みの1つを与えられるほどに想われたソレは、1振りの眷属でさえある。

 

 上記の2つをベルは知らない。そもそも伝える気もない。鍛冶の神が打った武具など値段にして幾らになるか。オラリオに来て半月程度のベルでも、想像もできない程に高額だということぐらい予想が付くのだから。

 

 そんな将来性だけは特級品な武器がある以上、ベルが要するべきは防具となる。

 

 ギルドに赴いたベルがエイナに相談したところ、「なんでナイン君が来ないかなぁッ!?」、と内心キレ散らかしていたが、仕方の無いこと。最近はギルドの換金所で待つ時間は基本的に青の薬舗へ採取アイテムの持ち込みに使っており、その日のダンジョン探索も難易度が上がっただけで変わらないのだから。エイナがナインを見付けて声を掛ける前に、その敏捷値を活かした健脚でギルドから出ていってしまうのだから。

 

 そんなこんなでブチギレたエイナは「ベルちゃんは私が守る」、という確かにそう言った年齢であるが故の母性を発揮し、即座に半休を確保。午後の時間をベルの装備拡充に付き合うという優しさを見せたのであった。

 

 地上に戻ってきたナインの説教が確定した瞬間でもあり、器の昇格(ランクアップ)報告を先送りにしてダンジョンに潜っていったことについて延長戦が確約された瞬間でもある。

 

 

 ────

 ──

 

 

 現在ベルの着込んでいる防具の銘は《兎の鎧(ピョンチャン)》とかいうよくわからない名称の軽鎧(ライトアーマー)だ。兄弟作なのか、《兎鎧(ピョンキチ)》という男性用の物も隣に置いてあったり。

 

 目に入ったソレをベルは一度、雑多な箱の中へと戻していた。丁度そこへ【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティ・ヴァルマに同席を求められたからだが。

 

 最終的に決まった廃教会を含めた一帯の土地の利権と本拠地(ホーム)への改築という話で決着がついた。

 

 ヘスティアが要求したソレは以前からナインが思っていたことなのだとか。初めて聞いた事ではあるが、ベルは納得が出来る。廃教会の地下室、居住スペースであるその場所の一角を占拠するかのように積まれたヴァリス金貨の詰まった袋の山。アレがその為の資金になる予定だったのだろうと。

 

 ヘスティアが住んでおり、【ヘスティア・ファミリア】の仮本拠地となってはいるが、廃教会はあくまでもヘファイストスが神友が雨風に曝されるのを憂いたがゆえの配慮でしかない。土地の所有者はヘファイストスであり、そこに住んでいるにも拘らず一切お金を求めない辺り、本当に甘い。土地代という概念の無い村出身のベルと、そもそも天界にそんなチマチマしたことなど存在してなかったヘスティアが気付けるはずもないのだが、ナインは違う。

 

 幼少の頃から村八分にあわないよう、獣狩りをして皮や骨、自分では処理し切れない肉を用いて物々交換していたぐらい社会が厳しいことを知っている。*7

 

 それらの交渉の終えたヘスティアたちは利権書の制作と改築のために別のファミリアへ向かった。残された椿は呼び出されただけであったので即座にナインの戦闘衣(バトルクロス)を製作しているであろうヴェルフの(もと)へ。

 

 シャクティを除く自由人たち*8に置いていかれたベルとエイナは再度装備の調達に向かい、結局ベルはその時まで頭の隅から離れなかった兎の鎧(ピョンチャン)を購入。

 

 しかもその後に、エイナからその防具と同等程度にはするであろう籠手を贈られて舞い上がっているのである。

 

 彼女の中にあるのは2つ。

 

 年上のお姉さんであり、自分に対して優しくも厳しく接してくれて今回のような業務に関係無いことにまで付き合ってくれる(エイナ)から高価なものを贈られたこと。

 

 部屋が狭い*9がゆえに別で暮らしていたナインでも、本拠地(ホーム)が完成すれば1つ屋根の下である。

 

 共に過ごす相手がいる。それが何よりの幸福であるベルからすれば、恋仲でなくとも嬉しいことに違いはない。

 

 彼女はそのルンルンとした気分のまま、一度廃教会に置いたままにしている物を移動させておこうと路地裏を通っていた。

 

 そこへ、足音がベルの耳に入る。恩恵の力により常人よりも鋭くなった五感により、自分の方へ近付いて来ているとはっきりとわかった。

 

 数は2人。同時に穏やかな様子でないことも、怒声が共に聞こえてきたことで理解する。

 

 振り返った彼女の先から、曲がり角を自らの方へ曲がった少女。走っていて前方確認を疎かにしていたのか、その速度のままベルにぶつかった。

 

 ナインの薫陶とベートとの鍛錬によって耐久のアビリティが既に600に届いているベルは問題無いのだが、彼女よりも体格的に劣る逃走中であろう少女は尻餅をついてしまう。

 

「いたた……、ぅあ?!」

 

「す、すいません。大丈夫ですか……?」

 

 フードを目深に被った少女へ手を差し伸ばしつつ、ベルが彼女の身を案じるが、ルベライトの瞳に映る栗色の瞳には怯えや恐怖が垣間見える。その正体を聞こうとベルが口を開こうとしたその直後、通路に怒号が鳴った。

 

「アァッ! クソがッ!! おい、ガキ。俺は後ろのクソ小人族(パルゥム)に用があるんだ!!」

 

 そうして路地の奥から現れたのは1人の只人(ヒューマン)。ベルはその冒険者であろう男性を目視した瞬間から、同様に視界にいれて震え出した小人族(パルゥム)の少女を自身の体で隠すようにして立ち塞がった。

 

 その行動に目の前の冒険者は勿論、斜め後ろにいる小人族(パルゥム)の少女も驚きをあらわにする。

 

 なぜそうしたのか。特に考えてはいなかった。しかし、目の前に震える者が居ながら無視して去るなどベルには出来ない。迸る怒声を浴びて可哀想なぐらい怯えた少女を、自らもそこまで強いとも断言できない現状であろうと、放置など出来ない。

 

 血走った瞳。怒気で歪んだ表情。今にも襲い掛かってきそうな体勢に、右手に握られた抜き身の剣。

 

 自分が退けば背に隠した少女がどうなるか。間違いなく、酷いことをするだろうと。

 

 だから護るんだと言わんばかりに、ベルは何の関りもない小人族(パルゥム)であっても護ると決めた。

 

 対して只人(ヒューマン)の青年は、前に出て来たがゆえにベルの方にも注意を向け、内心で粘着質な笑みを浮かべる。穢れを知らぬ処女雪のような白髪に、宝石の如き赤い瞳。今はまだ幼さを残すが、いずれ極上の女になるだろうと思わせる少女。

 

「仕方ねぇ……。あぁ、全くもって仕方ねぇが、お前にも用が出来たなぁ……?」

 

 下卑た笑みを表情に出して両方とも捕まえてやろうと皮算用し、それを実現するべく飛び出そうとした瞬間、その場に凛とした声が響いた。

 

「やめなさい」

 

 その声に弾かれるようにして三者三様に振り向けば、目に映ったのは紙袋を抱えた妖精(エルフ)女性。緑色に近い衣服に身を包んだ彼女、リュー・リオンはその瞳を鋭くして冒険者の男を睨み付けていた。

 

「次から次へとぉ……!? 今度はなんだァ!?」

 

 唾を飛ばしながら吠える男に一切臆することなく見下ろすリュー。

 

「そこで退くというのであれば、私も手荒な真似はしません」

 

「どいつもこいつも、わけのわからねえことを────……ッ?!」

 

 リューの宣言の後に動き出そうと吼えた冒険者の男だったが、僅かに体を揺らしたその直後、その頬に切り傷がうっすらと出来ていた。

 

「────……えっ?」

 

 男を挟んだ先の壁に突き刺さった小太刀。

 

 それを一番最初に知覚したのは傷を負った本人。ベルもその背にいる少女も数秒の後、ようやく何が起きたのか理解する。

 

「私はいつも()()()()()しまう」

 

 そう言って同じ形状の小太刀を今度は見えるように構えたリューに対して畏怖を覚えた冒険者は歯を噛みしめて叫ぶ。

 

「クソがぁ!!」

 

「…………」

 

 背を見せて走り去っていく冒険者。その姿が消え、リューも投げた小太刀を回収してからベルへと向き直る。

 

「クラネルさん、大丈夫でしたか?」

 

「あっ、えっと、はい……。ありがとうございます。助かりました」

 

 彼女から発されていた気に当てられていた所為か、少しばかり戸惑ってしまった。しかしそれとは別に感謝はするべきと、するすると言葉は口から出ていた。

 

「いえ、こちらこそ差し出がましい真似を。……こう言ってはなんですが、冒険者として(さま)になっている様子……、御一人で何とか出来たのでしょう」

 

「そこまでは……」

 

 正直に言えば、怖さがあった。冒険者の男にではなく、人間と戦うという事実に。ベートから死ぬ寸前とさえ言える鍛錬を付けられているのだが、どこまでいっても鍛錬であり、同時に回復もして貰えるのだ。甘さでもあったのだろうかと頭を悩ませるベル。

 

 しかしこれ以上きつくなると本当に死にそうだなと内心苦笑いをしつつ、リューがなぜこんなところにいたのかなどを聞いていれば、ベルも同じように返される。

 

 そう言えばと、背に隠していた少女に気を向けてみれば、そこには既に小人族(パルゥム)の少女の姿は無かった。

 

 なんだか気になるが、それはそれ。

 

 リューももうすぐ豊穣の女主人が開店する時間であり、ベルも廃教会からナインの家まで行くとなると暗くなるだろう時間帯。

 

 どうしようもないことを考えるよりも、まずは行動しようとベルは駆けていった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 路地裏に身を潜めていた少女の澱んだ瞳に、1つの武器が映っていた。

 

「間違いなく高価な一品……、あれを売れれば……」

 

 こんな地獄から脱出できる。

 

 盗人のような生活とはおさらばできるはず。

 

 足を洗えばきっと……、綺麗な面だけで会えるはずだからと。

 

 そんな思いが少女の中にあった。

 

 

────

 


 

《名前》

 ベル・クラネル

 

『Lv.1』

 

《基本アビリティ》

 力 :D 552

 耐久:C 603

 器用:D 590

 敏捷:D 599

 魔力:I 0

 

《発展アビリティ》 

 

《魔法》

【】

【】

 

《スキル》

【憧憬一途】(リアリス・フレーゼ)

 ・早熟する

 ・懸想(おもい)が続く限り効果持続

 ・懸想(おもい)の丈により効果向上

 


 

 スキルに関して隠されたベルのステイタス。怪物祭(モンスター・フィリア)に於いて急遽更新したそれだが、シルバーバックとの戦闘を終えた後にもう一度更新したソレを見ながら、先に眠りに就いた少女を見るヘスティアが小さな溜め息を吐いた。

 

「あまり、無茶はしないでくれよ……」

 

 

 

 

 

*1
隣の神が大袈裟に過ぎるだけ

*2
武器に関しては既に自らの手を離れているので気にしていない。

*3
視線で「借金についてはダメよ」と念じられたことについては伏せておく。「分かってるよぉッ!?」

*4
『ほぼ』という確実性に欠ける理由は、ヘディンの主神からの命令や身の安全の為であれば、種族としての敬意には多少、僅かに、心なしか、ちょっとだけ目を瞑れるからである。事実ナインがオラリオに来るよりも少し前の頃、両派閥がぶつかり合った結果、王族妖精(ハイエルフ)殺害事件(死んでない)が起きたりもしている。

*5
ナインとしてはどっちも勘弁である。

*6
出来ていたのはティオネだけ。

*7
不当な対価を提示できないように鍛えていた面もある。

*8
神多数

*9
前世の終わりが青年、今世では少年の大人と至れていない精神にトランジスタグラマーの美少女との同棲は危険が危ない




聖火の刃(ヴェスタ):ヘスティア・ナイフがもうちょっと厚く刃渡りも長くなった感じ。天星剣より先に作られたので実質姉。



ヘディンとかいう【ロキ・ファミリア】は嫌っているけどリヴェリアが居るからある程度話の出来る人物。なお()。

原作ベルってもうちょっとステ低かったよな…、まぁええか【幸運】生えるぐらい運いいしな!


 ナインが昼過ぎに17階層でゴライアスと一騎打ち(させられている)。
 そこにロキF登場。ほぼ同時に時間切れ(30分ぐらい)でヘディンが吹き飛ばす。
 その頃地上で怪物祭についてガネーシャFがヘスティアがいるらしい店舗に。ベルもおり、ギルドの職員であるエイナも一応同席。ナインが教会についてどうにかしたいと漏らしていたのを覚えていたヘスティアが提案可決。
 ベル帰宅中、某パルゥム久しぶりの登場。イマココ。
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