ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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 最近何となくダンまちアニメ見返してたけど、やっぱアンフィス時のカサンドラ滅茶苦茶戦犯よなぁって。もっと傷の治療早ければ傷の痛み無視して攻撃する真似しなくて済んだのにって。

 まぁ、別の場所での貢献度高いから相殺…出来てるかなぁ。カップル限定ハイパーデラックス以下略並みに甘い判定で無罪かな?


・015 光導

────

 

 

 

 

 

 ダンジョン18階層。昼夜の概念を持つその階層(エリア)が示す時間は地上と同じ(とき)を刻み、現在(いま)を夜だと知ら示す様に薄暗い。

 

 そんな夜の帳の中でつんざく様に、【千の妖精】(サウザンドエルフ)レフィーヤ・ウィリディスは目の前の光景に声にならない悲鳴を上げていた。

 

 自らが憧れる金髪金目の女剣士が、無造作に地表へ顔を出している岩石に背を預け、地に腰を付けている。彼女の二つ名を嘲笑うように、剣は(はじ)き飛ばされ無手(むて)となっていた。

 

 強く打ち付けられた結果、全身に力が入らず打つ手の無くなった少女の前に立つのは赤い頭髪を持った異質の女。彼女は(とど)めの一撃と言わんばかりに片手に握る剣を振りかぶる。殺すことは目的ではないが、同時にこれ以上の抵抗など面倒だと言うように、金糸の少女の四肢でも削いでおくか、と。

 

 「ヤメテッ!」と妖精が叫ぶ。だが無意味だ。

 

 自らの憧れが連れていかれる。殺される。消えてしまう。

 

 しかし今の自分は無力だった。妖精の一射は素手で受け止められ、あまつさえ返されるほどに。

 

 喉が枯れ、声がかすれた慟哭が迷宮の中に響く。

 

 次の瞬間、突如として飛来した一振りの長槍が赤髪の女へと襲い掛かった。

 

「……チッ!?」

 

 突然の外部からの介入だ。しかし赤髪の女はそれを容易く(はじ)き飛ばす。

 

 当然だろう。そこに立つ女はアイズ・ヴァレンシュタイン(Lv.5)を負傷することなく地に伏せさせる実力を持つのだから。

 

 更に言えば不意を突くにしても、その槍は目立ち過ぎた。

 

 水晶から放たれる薄い明かりを跳ね返す白い穂先。

 

 何よりも長槍全体に灯る激しい光の渦がその存在を主張していたのだから。

 

「文字通り、(くだ)らん横槍だったか。……?」

 

 どこから飛んできたのか。誰が投擲したのか。そんな疑問は女には些事。

 

 目の前で身動きの取れないアイズこそがこの場にいる最大の目標なのだから。

 

 だが、視線をアイズへ戻した女の視界には不可解な物が映る。(はじ)き飛ばしたはずの長槍がアイズへ寄り添うかのように、彼女のすぐ(そば)でその穂先を大地へと突き立てていたのだ。

 

 自分はそんな(はじ)き方はしていない。赤髪の女がそう疑問を覚えた次の瞬間、長槍が纏っていた燐光が半径2メドル程度の小さな結界を展開し、アイズを包み込んだ。

 

 それが何なのか。襲撃者たる赤髪の女には分からない。だが邪魔されていることだけはどうしようもなく理解出来てしまったがゆえに、女は表情を苛立(いらだ)たしげに歪め、同時に無駄だと言わんばかりに剣を最上段に構えると、そのまま力任せに振り下ろした。

 

 (はじ)き飛ばした際、腕を伝った衝撃。そこから、目の前の結界を生み出した張本人の力量は分かった。だから(わら)う。脆弱だったと。

 

 結界を砕いてなお目標(アイズ)に届く一撃を────、放つ。

 

「────ッな?!」

 

 しかし阻まれた。

 

 Lv.5(アイズ)を正面から打ち負かす程の力が籠められたその一撃を以ってなお、結界はその存在を固持し続ける。

 

 その光を見たことの無い赤髪の女は焦りを覚え、だが同時にアイズとレフィーヤは気付いた。

 

 その光の持ち主が誰なのかを。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ダンジョンが18階層、モンスターの発生しない安全階層であり同時に穏やかな地形と光景の美麗さから『迷宮の楽園』(アンダーリゾート)と呼称されるその階層に構えられたリヴィラの街へ向かう道中、アイズの顔は不満気にぷっくーと膨らんでいた。

 

 周囲の人物は彼女と付き合いの長い者たちばかりであり、だからこそ彼女がそこまで感情を露わにしていることに少々不思議に思う。

 

「……あの~アイズさん、もしかしなくとも……先程のヒューマンについて考えているんですか?」

 

「………………、違うけど……」

 

 あぁ、あってるんだな。と全員が察する。

 

 彼女がこのような表情をし始めたのは、17階層にてナインの治療と休息が終わったあと、アイズがナインへ話し掛けようとしたタイミングで、ヘディンが介入しそのままヘイズを含めて18階層へ姿を消してからだ。彼女はナイン本人から昇格(ランクアップ)した翌日であるにも拘らず階層主へと挑んでいた理由や、【フレイヤ・ファミリア】と行動を共にしている理由などを聞くなどして、時間を共にしたかっただけだったのだが、それは某鬼畜系白妖精(ホワイト・エルフ)にとっては無意味な時間。効率を重視する彼はそれを長年の経験から察知してのけた。

 

 何よりナインのすぐ近くに。誇張無く身体接触も厭わぬ美少女がいることに()も言えぬ感情が胸の内でざわついて仕方ない。

 

 そういった事柄に疎い彼女ではその感情の発散どころか、それの名前を知ることから始める必要がある。

 

 そうした理由の下、彼女の今取れる行動として、頬をお餅のように膨らませるという現状に帰結するのだった。

 

 しかしこの場にいるのは、感情の起伏に乏しい彼女の内心をある程度理解できるような人物たちであるため、彼女が一人で抱え込む必要性はないのだ。

 

「でも分かるなぁ……。たった1ヶ月半で器の昇格(ランクアップ)でしょ!? 気にならない方がおかしいもんッ!!」

 

「それもそうね。今までの世界最高記録(ワールドレコード)はアイズの1年。それを大きく更新した形だものねー」

 

「だよねだよね~。どんなことしてステイタス伸ばしたのか気になるよねっ!!」

 

 アマゾネスの姉妹が無口状態のアイズに共感するように明るく言葉を紡いでいく。

 

「確かにそれについては僕も気になる所だ」

 

 そしてそれに追従するようにしてフィンも言葉を発せば、姉の方が感激と言わんばかりのアクションを取る。

 

「ただ、最近の情報を少し集めると何となくだけど輪郭は掴める気もするね」

 

 そんな彼女が動き出す前に、フィンは含みのある言葉で制す。

 

「情報……ですか?」

 

「ああ。

 と言っても、噂話に近いから正確性には欠けるけどね……」

 

 そこで一拍置き、フィンが続ける。

 

「先月の中旬ごろから、僕たちへ送られてくる『掃除当番』(スウィーパー)。その『冒険者依頼』(クエスト)だが、中層からのモノばかりになっていた。

 『掃除当番』(スウィーパー)は当然、階層ごとの正規ルートから大きく離れた位置に出現したモンスターが溜まり過ぎないための物。上層で言えばキラーアントやインプ辺りが思い付くけど、それが突然、パッタリと」

 

「偶然……ではないんですよね?」

 

「そんな嬉しいのか嬉しくないのか不明な偶然が起きていれば、我々は遠征になど()っていない」

 

「はいぃ! すみませんでした!!」

 

 ダンジョンは階層を下る度に徐々にその範囲を広げていき、最終的には大陸全土レベルに至るのではと噂されるほどだ。それは上層の時点でも変わらず、1人が探索し続けるのは非常に厳しい広さを持っている。

 

 そこで突如としてモンスターの量が激減したとなれば、それはそれで異常事態。安全を第一としている彼ら【ロキ・ファミリア】であれば、その原因の調査ぐらいはする。

 

「そしてもう1つ。上層でどんな時間帯であっても数多くのモンスターと戦闘を繰り広げている黒髪のヒューマンが目に入るというモノだね」

 

 そんな発言にその場の者たちが思い浮かべたのは1人の少年だった。

 

 それでも、とレフィーヤは思う。

 

「でも、噂……、なんですよね?」

 

「そうだね、ただの噂話だ」

 

「……、魔石を砕いていない? なるほど、そういうことか」

 

「どういうことー?」

 

「少しは自分で考えなさいよ……」

 

「はぁ……、魔石という明確な弱点のあるモンスターだが、その魔石が目的の場合他の部位を狙い、即死させるのに時間を要する」

 

「血が……、飛び散る……?」

 

 リヴェリアが補足しているところに決定的な事実を出したのはアイズ。そのことに彼女が冒険者になったころを知っている2名は当時のことを想起し、それこそが起こって(しか)るべき事象なのだと首肯する。

 

 なお冒険者となった時点で上層で活動するには不釣り合いなレベルだったアマゾネスや、基本的に近距離戦は行なわない山吹の妖精はあまりしっくり来ていない。

 

「そうだね。それだけ何度もダンジョンとギルドを往復していたであろう人物が実際にいれば、上層でどれだけのモンスターが倒されているかは魔石の量から推測することが可能。しかしギルドがそれをいちいち喧伝することはない。

 同時にダンジョンの中では魔石を避けるようにしてモンスターと戦う少年。そして大量のモンスターと戦っていれば全身血塗れになっていても可笑しくないが、そういった事実はないのだろう。その系統の話は聞かなかったからね。

 だから、結び付かない。

 結論として、飛び散る血潮から身を躱しつつ戦い続けられる程に高い技量を持っている。

 まぁ、本人の戦っているところを見ている僕らが推察しましたなんて口が裂けても言えないけどね」

 

 そう言ってナインの強さを認めているように、そしてレフィーヤの中で生まれそうだった不満などを(けむ)に巻いたフィンは手をパンパンと叩きながら、もうすぐでリヴィラの街に着くねと話題を変えていく。

 

 フィンの中では、アイズの情緒が出会ったばかりの幼少の時へ逆行しないかの懸念の排除を。

 

 リヴェリアの中では、自分たちの派閥(ファミリア)ではないとは言え、危険な真似を繰り返すような人物との交流が深くなっていることから、アイズの気性が昔に戻らないかどうか憂慮を。

 

 アマゾネスの姉妹としては頭の片隅に載る程度。その容量に差異はあれど、方向性としては大体同じだ。

 

 レフィーヤは少々複雑だった。確かに強く、同時に器の昇格(ランクアップ)の最速記録を塗り替える程に熟達した技量の持ち主だからと言えど、自分の憧れであるアイズの感情を動かしたのがよりにもよって他派閥のぽっと出であるのだから。*1

 

 そしてアイズは。「私と……違う理由で、私と……一緒……?」、と誰にも届かぬ声で、小さく呟いていた。目指す向きが違えど、過去の己と同じような行動をしていることに、自分のことながら焦燥感を募らせる。その一件でとにかく多くの人に心配をかけさせたからだ。……しかし、その胸に灯る小さな熱に、自らの唇を小さく曲げていることには、本人さえも気付かなかった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 リヴィラの街にて起きていた殺人事件。

 

 被害者の正体がまさかの【ガネーシャ・ファミリア】に所属するLv.4の第二級冒険者、ハシャーナ・ドルリアであると判明。そこからフィンが検死を行ない彼の死因と、加害者の目的が被害者の荷物であったと特定。

 

 と同時に加害者が今もなお目的の達成を()せていないことも把握した。

 

 犯人の特定の為にリヴィラの街全体に呼びかけられた招集命令には、街に居た全員が集合する。多種多様の種族と上から下までの年齢層。並び立った彼ら彼女らの顔に浮かぶは不安と恐怖の色であり、互いの間に開いた距離がその強さを物語(ものがた)る。

 

 一通り見回したフィンやリヴェリアなどの【ロキ・ファミリア】でも頭の回る面々は、中央広場にこの階層にいる筈の3名の姿が無いことに内心溜め息を吐いた。

 

 だが特段頭を回さないアマゾネスは「あれ~?」と声を漏らし、金髪の剣士は「いな、い……?」と少し肩を落とす。そんな彼女らを見ていたこの場で最も新米とも言える山吹色の妖精(エルフ)は「ぐぎぎ……」と自らの憧れを誑かしている*2漆黒髪の少年の顔を思い浮かべて歯を噛みしめていたとか。

 

 そうこうしていれば、リヴィラの街を取り仕切るボールスという男が声高に宣言する。

 

「ようし、女どもッ!体の隅々まで調べてやるから服を脱げーッ!」

 

 身体検査という大義名分を得たりと騒ぎ始める男たちを先導し始めた。

 

 ハシャーナは男であり、訳ありの6時間までなら休憩時間的な宿を取った彼の性的趣向はノーマル。共に宿へ入ったとなればその相手は女であり、主人も顔も隠せる深めのローブからでも分かる曲線を見ている。

 

 であれば犯人は女性。

 

 広場に集められた男性陣はこの場に犯人が居るという恐怖も忘れ、楽しそうに雄叫びを上げたが、それを一喝したのは貞淑をなによりとするハイエルフ。

 

 リヴェリアの声に従うように、【ロキ・ファミリア】の女性陣が身体検査や荷物検査を行なう宣言した直後、広場に集まった女性たちは彼女らを無視し、この場にいる【ロキ・ファミリア】の黒一点。【勇者】(ブレイバー)フィン・ディムナの前に自分が最初だと言うように集まり始める。

 

 フィンはそれとなくリヴェリア達の方へ戻るように促すも効果はない。

 

 そしてそれを面白く思わないティオネの暴走により、その場は崩壊。身体検査などと言ってる場合ではなくなった。

 

 そんな暴動の中、アイズの瞳が1人浮いている人物を捉える。

 

 酷い体調不良かと見紛うほど顔を青白く染めている犬人(シアンスロープ)の少女。何かに怯えるように全身を震わしている彼女が気になり、アイズはじっと見つめ、その視線に気づいたのか、びくりと肩を震わせ、周囲の喧騒に紛れるようにして逃げていった。

 

 そんなアイズの様子に気付いたレフィーヤ。

 

「────行こう」

 

「はい!」

 

 アイズの一言に応じてレフィーヤも共に少女の後を追い掛ける。

 

 広場から遠く離れた場所で逃げ道を塞ぐように挟んだ2人は、彼女から逃げ出した理由や、そうするに至った経緯などを聞き出していけば、そうしている内に夜が訪れた。

 

 そして始まる悲鳴と怒号が渦巻く食人花の出現。

 

 騒然と混乱によって足並みの揃わない冒険者たち。

 

 彼ら彼女らを守らなければと動き出したところに現れた赤髪の襲撃者。

 

 更には犬人(シアンスロープ)の少女が受け取っていた緑色の球体から飛び出してきた奇妙な物体が、食人花に触れて変異を起こす。

 

 混乱は加速していき、じきに少女が地に落ちる。

 

 ────しかし悲劇だけは、そこに灯る燐光が許さない。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

(ヘスティア神が隠してる俺のスキルってなんなんだろうなぁ~……)

 

 すっかり暗くなってしまった18階層の丘の上でナインは1人、思いを馳せていた。

 

 答えを知るだけならば主神(ヘスティア)を問い詰めれば良いだけなのだが、どうにもその手段を取ろうとは思えないのがナインの本心だ。

 

 良心の呵責が、などという気など無い。むしろ成長する為であれば、自らのスキルなど知っておくに越したことはないのだ。

 

 無いのだが、同時に知った所為で変に意識してしまいソレの効力が変化しても困る。

 

 原作における【憧憬一途】(リアリス・フレーゼ)のように、本人に伝えないようにした方が良い。そう直感したからこその秘匿の可能性も捨てきれないのだから。

 

 しかし今のナインの中では少々引っ掛かっていた。

 

 その理由は18階層にて、先日フィンから貰った中層域の地図から採取対象の群生地を目指している最中、隣を歩くヘイズから言われた言葉が発端だった。

 

「追及する気はないですが~、ナインは発展アビリティで【治力】でも取りましたー?」

 

「それって答えても大丈夫なやつなんですかね?」

 

「どちらでも~。世界最速で器の昇格(ランクアップ)した方がどんな感じなのか知りたい興味本位ってだけですので~」

 

 つまりは話のネタを用意しただけであり、答えてもらえればそこから広げ、普通に答えられないならばそれはそれで問題などない。『ステイタス』を明かさないことなど常識だ。アビリティの数値に加えて発展アビリティの有無、魔法の種類やスキルの系統などから当人の戦闘能力はある程度測れるのだ。

 

 対立していれば知るべきだ。傘下派閥ならば開示も止む無し。だが【ヘスティア・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の間にはなんの公約も()わされてはいない。

 

 だからこそヘイズは適当に流してもらっても構わないという態度のまま聞いていた。

 

「【治力】はとってないですね。でもどうして?」

 

「先ほどのゴライアスとの戦闘中、私が常に治癒していましたが~、どうにも治りが速いように感じたので。

 もしかしたら発展アビリティで【治力】しか出てこなくて泣く泣く発現でもさせたのかな~、と」

 

「泣く泣くって……」

 

「ナインは前衛でしょう? なのに回復効果の上昇補正とかあっても悲しいだけではー?」

 

「まぁ、確かに」

 

 前衛職の人間は後衛職を守り切ることが役割りとも言える。落ちないことが宿命ではあるがゆえに、戦闘中はずっと敵に攻撃を浴びせるか防ぎ続けるかのどちらかしかない。その合間を縫って回復魔法を唱えるなど普通のLv.2には不可能であり、回復薬を取り出して飲んでいる暇など本来はない。

 

 それらが許される環境であれば、そもそも前衛の役目が終わっているか戦闘自体が収束しているかのどちらか。安全になったそのタイミングでゆっくり休めばいいだけ。

 

「ですと~、【スキル】かー、……元から治りの早い体質だったーとかですかね~」

 

「【スキル】…………、体質…………」

 

 どちらもありうる、そんだけだ

 

 と内なる雷神が告げてきたが、本当にどちらもありそうなのが怖いところだった。

 

 まず分かるのが自分の肉体。明らかに常人よりも強靭だ。どんな攻撃も無効にするほどの不条理の権化(ごんげ)ではないが、恐らく神の恩恵(ファルナ)を刻まずとも上層のモンスターとも渡り合える戦闘能力を発揮できただろう体だ。

 

 備わった潜在能力(ポテンシャル)がどれ程の物か。ナインには分からない。

 

 次に【スキル】。

 

 隠されているソレは成長補正付きであることは間違いない【稀少(レア)スキル】。

 

 であるならば、神聖文字(ヒエログリフ)にさえ記されない隠された能力がある可能性も捨て切れない。実際、原作では【憧憬一途(リアリス・フレーゼ)】の副次的効果によって、ベル・クラネルという少年は美の女神の魅了すら(はじ)いたのだ。

 

 自分はその副次効果の一環として傷の治りが早くなっているのだろう、とも推察できる。

 

 結果は不明なのだが。

 

 しかし治癒師としてその勇名をオラリオの外にさえ問え届かせるヘイズから言われたのであれば、そこで起きた事象について否定は無意味だろう。

 

 採取中も他愛のない会話を続けつつ、ナインの中で膨らむ疑問に答えは出なかった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ヘディンもヘイズも、そしてナインもリヴィラの街に用事などない。それ故に18階層に降りた時点で【ロキ・ファミリア】から距離を取るように移動するヘディンの後を追ってヘイズが持って来ていたキャンプ道具を広げ、荷物を置く。

 

 ここを中心として18階層で採取可能なものをさっさと採りに行こうと、ナインとヘイズが準備を終えた頃にはヘディンの姿は消えていた。

 

 説明を省いて行動するその自由奔放さにナインは「流石放任主義(【フレイヤ・ファミリア】)だなぁ」と内心で呟きつつ苦笑い。そして態々付いてきたくせして一切手伝おうとしない白妖精(ホワイト・エルフ)に怒りと呆れを綯い交ぜにした感情を、口角の端を震わせる程度に抑えているヘイズを見て「大人だなぁ……」と一人感心していた。

 

 頑張って作った感満載のかったい笑顔のまま「では行きましょうかー」と先導したヘイズの姿に、僅かな憐憫を抱いたのは言うまでも無し。それが彼女の日常である可能性が非常に高いからだが。

 

 そこからは特段何かが起こったりも無かった。

 

 18階層はモンスターが生まれない。しかし他の階層から訪れることはある為、何度か交戦することとなったが、ナインを苦しめるような個体などいない。ダンジョンの恐ろしいところはモンスターでありつつも、それ以上にダンジョン自体が張り巡らせる罠の数々だ。

 

 中層に幾つか存在する縦穴がそれに該当するだろう。見えているモノがある所為で、隠されたソレに気付きにくく、ちょっとした衝撃で下の階層に落とされて死亡した例が年に何度も報告されているほどに。

 

 しかしそんな罠は18階層にはない。多少のモンスター程度なら倒せる冒険者たちにとって、文字通り『楽園』なのだ。

 

 問題があるとすればナインの格好ぐらいか。

 

 ゴライアスとの交戦により、ナインの戦闘衣はボロボロの襤褸雑巾。判断の間違いで受けてしまった拳の一撃により裂傷から吹き出した血や、口から何度も吐き出した赤く滲んだ吐瀉物。それらがかかった衣服をずっと着ているのも憚られたナインは、その着心地最悪の上着を捨ててしまっていた為、18階層に着いた時には上裸となっていた。

 

 サラマンダー・ウールを上着()わりに着ればマシになるかもしれないが、「上裸にローブはなんか嫌だ」という思いで腰ミノのように巻き付けておく程度にしている。

 

 ナインとしては横に女性もいるのだから整えた方が良いかもと考えたが、上から下まで見終わったヘイズが特段何も言わなかったのでそれで良しとした。

 

 そも、彼女は全世界へ中継されている場所で衣服の8割以上を焼かれ、ショーツが公開されようと一切怯むことなく戦える戦士(エインヘリヤル)の一人。更には『洗礼』によって男の裸など見慣れているのだ。

 

 リヴィラの街がなんだか騒々しいと思いながらも、本日分の採取を終えたナインたちはそろそろ夜になるからと、後回しにしていた食料の調達に出掛ける。

 

 その道中、リヴィラの街で食人花が暴れ始め、その内の一体がヘイズの魔力を知覚して襲い掛かって来たのだった。

 

 

 ────

 ──

 

 

「うーん、これ~私を狙っている感じですよね~」

 

「そんな暢気な口調で言ってる場合ですか、ねッ!?」

 

「そう言われましても~。

 何度か叩いてみましたが、……はい、無意味でした~。手がジーンとするだけで、私に倒す手段はないので~。

 頑張ってくださーい」

 

「あぁもう気が抜ける!」

 

 そう言って杖を抱える少女を脇に抱え、ナインはムチのようにしなり迫りくる緑黄色の蔓を右手に握った長槍で(はじ)き飛ばす。

 

 目の前にいるのは長大なモンスター。

 

 その黄緑色の蛇のような身体は耐久に秀でており、打撃では大した効果は望めない。そしてその幹の頂点には巨大な花弁。その奥に覗かせるは無数の牙を持った刺激臭を放つ口。生え揃う歯がまるで人間のそれに酷似しているが故に、逆に(おぞ)ましさを感じさせるそれを前にして、ナインは奥歯を噛み締める。

 

 少なくともここで戦うことはないだろうと思える程度には、リヴィラの街から距離を取っていたにも拘らず、だ。

 

 振るわれる太い蔓によるムチ。その軌道を読んでいたとばかりに、ナインは槍の石突きで跳ね上げて僅かな硬直を見逃すことなく穂先で斬り飛ばす。

 

 そうすれば見事に切断され、その先の触手は本体である魔石から切り離されたことにより体組織の形成が出来ず、無残な灰となり風に消える。

 

「……打撃系統には強い耐性がある代わりに斬撃には弱い……と」

 

 そう言って敵の情報を端的に纏めるヘイズを下ろし、ナインは槍を今度は両手で握った。

 

「後は魔力の濃度かと」

 

「と言いますと?」

 

「俺が蹴り飛ばした石に少量の魔力を込めた付与を行ないましたが、それを無視してヘイズさんに直行していますので」

 

「魔法の開示……、本気ですねぇ~」

 

「ああもう! 【フレイヤ・ファミリア】の眷属って主神以外のことだとホント雑な気がする!!」

 

 付与魔法(エンチャント)。ナインは自身の魔法について内容を殆ど明かしている。というよりも中身がすっからかんな所為で「付与して(ピカッと)スキルで後押しし(ひかっ)能力の後付けしてるだけ(じゃんけんぽん)」、程度にしか説明が出来ない。

 

 ダンジョンの上層を走っている最中、ヘディンから「精神力(マインド)の消耗が激しいだろう。一度()け」と言われた時に、非常に低燃費かつスキルによる極端な質量変更でもしない限り維持は楽だと伝えるために、端的に説明しようと酸欠状態の中考えたのだが、普通にイラァという効果音が聞こえてきたぐらいには説明できることが少ない。

 

 本当に「ほぉら、光っているだろう?」が魔法単体での本質だ。

 

 ちょっと自分の体なら移動が可能で、一点に集中させたり、他の物体にも付与可能になったり、球状に広げたりすることが可能なだけの簡素な魔法だ。

 

(こう考えると形状変化だけでも結構やってんな。【星の怒り】(スキル)を併用しない限り本当に滅茶苦茶効率良いし)

 

 そんなことを考えていれば、ナインたちを追い掛けて来ていた食人花が触手を振り回しこの場において最も魔力量の高いヘイズを狙うが、その全ての触手が明後日の方向へと()らされた。

 

 別段【星と化せ】(クレセリア)を使用している訳では無い。

 

 残っていた5本の触手の内、右方向からやって来ていた3本の触手を一瞬の内に切り払い、左方向から振るわれた内の一本を石突きで叩き落して軌道を強制的に変更。残った一本へは勢い良く跳躍して蹴り付けるようにして着地。

 

 そのまま敵への直線ルートとして駆け抜けていく。

 

 しかし食人花はその対打撃に対する耐久性と、その攻撃力の高さから第一級冒険者にとっても無視の出来ない存在。そしてその脅威度にはダンジョン下層に蔓延るモンスターたち特有の悪意ある行動も含まれている。

 

 本能ではなく、明らかな知恵を使って冒険者を追い込むからこその恐怖。

 

 それは突拍子の無い事態に対する対処法を即時に叩き出すのも同義であり、そして食人花もまた、同じような生態を持っていた。

 

 触手を駆け上がるようにして接近してくるというのであれば、敢えてそのルートを残すことで自身の間合いに入れてやろうと。

 

 そして絶対に避けられないような間合いへナインが侵入した瞬間、走っているがゆえに僅かに足が浮くタイミング。そこを狙い、自らの体勢を崩すことを厭わずに勢い良く触手を下方へ落とす。ナインの体は空中に取り残されることとなり、絶対の隙が生まれた。

 

 すかさず食人花は結果の勢いで前進する。その花弁のような大きな口をガバリと開き、ナインを、そしてその奥にいるヘイズを纏めて食い殺す為に。

 

 その牙がナインへと届かんとする瞬間、────ギン、とナインの瞳が鋭く光った。

 

「────【ふざけろ】(レクス)ッ!」

 

 小さく、底冷えするような低重音が発された次の瞬間、ナインの腕がブレる。

 

 それがどうしたと言わんばかりの食人花が突進を続け、ナインの体には、灰だけが衝突した。

 

 既にこの近くにはナインの持っていた槍は消え、同時に食人花の喉元に存在していた魔石もまた、粉々に砕かれていた。

 

 

 ────

 ──

 

 

 夜の帳の中、ナインの投げた槍だけは煌々(こうこう)と輝きながらダンジョンの上空を駆けていく。

 

 徐々に変化する軌道の先にはとある襲撃者の影。赤髪の女へチャチなちょっかいを掛けたかと思えば、直後彼女の邪魔をするようにしてアイズの盾と変わる。

 

 その結界は決して無敵なモノではない。地上で治療院にて意識が回復傾向にある某猪人(ボアズ)であれば二撃で粉砕可能なシロモノ。

 

 しかし姿も見えぬ者からのただただ面倒な遅延行為。ソレに激昂していた襲撃者には気付きようがなかったのもまた事実。

 

 自身の持つ武器にも、非常に小さな光が灯されていることに。

 

 彼女からの攻撃を、絶死の間合いでありながら安地であるかのような安心感に包まれながら、アイズは手元に転がってきたオレンジ色の液体の入った試験管を見て更にポカポカとした気持ちとなる。

 

 結界が破られた時、そこに相対する両者は身体能力(ステイタス)の差が有れど、精神的に安定した者と決定機を潰されて怒りで冷静さを失った者。

 

 体力も精神力(マインド)も回復したアイズは、その場に食人花の群れを平定させたフィン達が到着するまで決して屈しなかった。

 

 

 

 

 

*1
ここで、「昨日は本人の家で行なわれた祝勝会に参加してたよ」と発言する人物が居ない辺り持ってる妖精(エルフ)だ。

*2
憶測に過ぎない。




 
ナイン「小竜出ないし一旦9階より上行くかー(時同じくして小竜出現&他の冒険者が討伐&1〜9階層のマラソンを終えたナインの横をその冒険者たちが自慢話をしつつ通る)」がベルちゃん来るまで繰り返されてた。

 ナインの魔法:光を付けた物体の形とかある程度の距離内なら分かる。言ってしまえば恒星に立って天体観測してるようなもん。
 結界の出力を直撃する場所だけ引き上げて燃費を抑えた。なお、レヴィスとのレベル差が酷い上に目視不可(ほかに襲ってきた食人花の対処中)なので大まかに。

 オレンジ色の回復薬:ナァーザ謹製デュアルポーション。ゴライアス後にナインが精神力(マインド)回復用に飲んでたり、ナインの都合で完成時期が早まったので既に【ディアンケト・ファミリア】で販売中。

 因みにこの戦闘、鬼畜眼鏡はナインが精神疲労(マインドダウン)(遠距離かつレヴィスの攻撃直受けは、流石に精神力(マインド)ゴリゴリ削られる)するまで傍観一択だったりする。魔法は特攻だからね、食人花(コイツら)

アイズとレヴィスの戦闘中に援護するようにして現れたフィン(逃げられた後)
「…」ジー
同じくリヴェリア
「どうした?」
フィ
「いや、あの槍なんだけどさ…」
リヴェリ
「あぁ、ナインという少年の使っていた…」

「届けるべきなんだろうけど…、君が持って「断る」。親指がへし折れそ…、よしレフィーヤに任せよう」
ふ&り((なんか持ちたくないんだよなぁ))
レフィーヤ:その場に居る【ロキ・ファミリア】で某最凶ファミリアと接触したことの無い存在。
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