ダンジョンはつらいよどこまでも   作:たっぷり

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 そこに何の違いもありゃしねぇだろうが!

 高評価や感想、ここすき、誤字報告、いつも感謝しております。


・017 精神的に痛そうな少女、身体的に痛そうな少女

────

 

 

 

 

 

「ランク……アップ……? レベル……、ツー……?」

 

 都市の中で経営されている比較的安い料金で泊まれる宿の一室で、小人族(パルゥム)の少女が悲嘆に暮れていた。

 

 両の瞳は丸く開かれ、両膝を床に付けるようにして、今日一日隠し通し続けていた感情を全て吐き出している。

 

 いつもであれば彼女はその日の稼ぎを数えたり、今後の為に様々な策を思案したりと時間を有効に使用していた。彼女の目的のために。決して曲がらない為に。折れない為に心を殺すようにして諦念と共に床に就く。

 

 でなければ足が止まってしまう。それまでに尽くしてきた時間が無駄になってしまうから。

 

 しかし今日に限っては、彼女はそんな時間を過ごせない。

 

「早く……早く…………、早く、汚い世界(こんなとこ)から出ないと……っ!」

 

 彼女は自分を客観視できる。その年頃ではあまりうまく働かないであろうその視点。しかし境遇からか、彼女はそれを人一倍気にし、そして注意を払い続けて来たからこそ理解していた。

 

 自分という価値を。

 

 冒険者というダンジョンへ潜る存在の中でも低く見られがちなサポーターという仕事しか選べない自分が、どれだけ貢献できるだろうか。それを推し量ることさえ彼女にとっては息苦しい現実。

 

 それでも価値とは冷酷なまでの相対評価から決まる。

 

 その差が開けば開くほどに手の届かない場所まで()ってしまう。自分が落ちてしまう。

 

 彼女のすすり泣くような慟哭(どうこく)は、誰にも届くことなく響いていた。

 

 

 ────

 ──

 

 

 それはいつだったか。気付けば私はそこにいた。

 

 私が生まれたのは15年前。下界に生きる者たちであれば子供でも知っている下界の悲願『三大冒険者依頼(クエスト)』。その最後の1つ、『隻眼の黒竜』の討伐に当時最強として君臨し続けた大神(おおかみ)二柱(ふたはしら)男神(おかみ)【ゼウス・ファミリア】、女神【ヘラ・ファミリア】が失敗し、壊滅したという報告がオラリオへ届いた日より、『暗黒期』が始まった。

 

 私が生まれたのは、そんな年。

 

 当時のことは今にも夢に見る。混乱、恐怖、絶望、狂気。それらが世界中を覆い、このオラリオという街も例外ではなかった。いや、最強で最恐であった彼ら彼女らを誰よりも近くで見ていたからこそ、その色はどこよりも強かったのだろう。

 

 今でこそ治安が良くなったと言われているけれど、当時は善良であったはずの市民すらも犯罪者へ身を落とす程の不安感が都市全体を支配していたのだ。

 

 そんな都市に、そんな時期に産まれ落ちたのが、ちっぽけな私だった。

 

 ここは『英雄の都』オラリオ。モンスターを産み出し続ける穴、通称『迷宮(ダンジョン)』を封じる蓋であり、怪物たちを倒すことで生計を立てる冒険者たちの住まう、英雄を産み出すことを、災厄を倒すことを至上命題とする街である。

 

 だけど私は断言する。

 

 ────こんな都市に、『英雄』なんてものはいない、と。

 

 両親の顔は覚えていない。

 

 彼らは【ソーマ・ファミリア】に所属し、貴族の子が貴族となる様に、騎士の子が騎士となる様に、物心ついた頃には私の背にも、彼らと同じ【ソーマ・ファミリア】であることを示す『神の恩恵(ファルナ)』が刻まれていた。

 

 その時から私は冒険者になるのだと独りながらに理解した気になり、その瞳に多彩な色を乗せて両親の顔を見た時、それが過ちだったと理解する。

 

 やせこけた頬に、虚ろな瞳。私を自分たちの子供としてではなく、ただの労働力としか見ていないその視線から。

 

 そして私は絶望する。私の成長を望むのではなく、逆に子の私に金の無心をするように怒鳴りつけてくるその様子から。

 

 間も無くして、その2人は私の前から姿を消した。私が何かをした訳でも、都市から出ていった訳でもない。

 

 両親は実力に見合わない階層へ潜り、物心ついて間もない私を独りだけ残して、呆気なく死んだ。それも、()()()()()()と共に。

 

 彼らが欲していたのは金だ。【ソーマ・ファミリア】に所属する団員は大半の者が主神へと忠誠を、信頼を、信仰を捧げてなどいない。団員たちは一様に神酒(ソーマ)という、主神の名を頂く酒だけに信仰を捧げており、それ以外のことなど眼中にない。

 

 酒造の神であるソーマが自らの権能を封じ、下界の物だけで造った酒。その味は絶品の一言に尽き、「また飲みたい」という欲求を刺激し続ける、病的なまでの魔力を持っていた。市場へ出回っている高額の失敗作ならばともかく、真実完成品は神ならざる下界の民が飲めば、その酔いが醒めるまでまたその酒を飲むためだけの生きた人形へと人を堕とす。

 

 私がそれを飲まされた時、酔いが醒めるまで寝ても冷めても神酒(ソーマ)を飲む事だけを考えていた。神酒(ソーマ)とは、人の魂すら溶かし尽くす。それ程までに、今の下界の民には過ぎたる存在なのだ。

 

 そんな危険物を、高い依存性を知りながら利用悪用するように、団員に一度だけ神酒(ソーマ)を飲ませ、また飲みたければ大金を支払わなければならない仕組み(ルール)を団長や一部の幹部が派閥(ファミリア)内に定めた。一度味を覚えさせた後でのその暴挙は、存外うまく作用している。今もなお。

 

 彼らが私腹を肥やす為だと理性では分かっていても、神酒(ソーマ)をまた味わうため団員たちはその思惑通り手段を問わず金を()き集めては、酒を買う。その為だけに冒険者として生きている。

 

 そんな(いびつ)なファミリアの雰囲気に、主神であるソーマは何も言わない。

 

 彼は別段悪神という訳では無いのだろう。私たち下界の民に敵意や悪意を持っている訳では決してない。持っているのは諦観と無関心。その2つを、私が生まれるよりずっと前から抱え、そして見放していた。

 

 そんな神が私を助けてくれるだろうか。答えるまでもなく、ノーだ。そもそも私という眷属が居ることさえ知らない可能性さえあるのだから。

 

 両親は遺産など残さなかった。当然だろう、あれば酒へと消えているのだから。

 

 兄弟もおらず、横の繋がりは皆無。天涯孤独の身となった私の人生は、地獄の入口からスタートしたのでした。

 

 

 ────

 ──

 

 

「だれも……、誰もっ、助けてくれなかったッ!」

 

 彼女が頼れる存在は、いなかった。当時の暗黒期は【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア」という抑止力が消えた影響から反秩序勢力『闇派閥(イヴィルス)』が活発に活動しており、身寄りのない小人族(パルゥム)の子供1人が生きていけるような環境ではない。そも他の種族の大人、それも冒険者として『神の恩恵』(ファルナ)を持っていようとも容易く命を落とすような環境だったのだ。

 

 一般人も冒険者も、その差異を問わずゴミのように()っていく。そんな環境下の中で、彼女はあるだけの知識を用い、知恵を絞り、その要領の良さで生き延びてきた。

 

 けれど年月を重ねるたびに思い知る。自らの惨めさを。

 

 街中で両親に手を引かれ幸せそうに会話を弾ませ歩いていく同じぐらいの歳の子供を見た時、日も落ちてすっかり暗くなった夜の帳を否定するようにして輝く家屋から漏れ出た明かりの中の団欒を視界に入れた時、雪の降る凍える夜を不法に廃棄された衣服などで過ごしている時。

 

 自分はなぜ生きているのだろうかと、涙を流した。嗚咽を溢した。誰にも届かぬ慟哭を叫んだ。

 

 枯れた喉は裂け、血が漏れる。そんな状態になろうとお腹は鳴り、生にしがみつく自らに浅ましさを覚えた。

 

 地獄からの脱却。彼女の中に出来た希望はそれしかなく、その為には金が必要だ。であれば冒険者となろう。物乞いや雑用を続けるよりも非常に効率的だ。

 

 皮肉にも彼女の背中にはソーマの神血(イコル)を用いた『神の恩恵』(ファルナ)がある。ダンジョンへ潜る為に必須条件となるそれのおかげで、一応冒険者として名を登録することは出来た。

 

 しかしダンジョンですらも、彼女に現実の無慈悲さを叩き付ける。

 

 早い話が、冒険者としての才能が無かったのだ。

 

 元より只人(ヒューマン)の下位互換、劣等種と揶揄される小人族(パルゥム)であり、特異な出自でもなければ特別な才能も持たない彼女一人では、上層の浅場ですら真面に進めない。手に持つナイフが名刀でないことぐらい百も承知している。それでもゴブリンやコボルトを一体相手にするだけでも命懸けで、敗ける確率の方が高い程。

 

 取れる手段は1つしか残されなかった。サポーター。冒険者たちに蔑まれる雑用係。しかし飢え死にを回避するにはこれしかなかった。

 

「私は……、私は……────」

 

『稼ぎが減るだろうがッ! 早くしろッ!!』

 

小人族(パルゥム)のガキに分け前があると思ってんのか? 生きて帰れたんだからそれで良いだろ?!』

 

 八つ当たり、無報酬、暴行は容易く行なわれ、心無い罵詈雑言を晒されない日は無かった。それでも逆らわず、死にたくない思いから媚びて媚びて、媚び続ける。そんな日がどれだけ続いたのか、いつしか私は笑えなくなり、感情が先に死んでいくのを感じていた。

 

 体はボロボロ。心はどうなっているのか、見えないから無視をしている。そんな生活が嫌で冒険者を辞めたいと願い、別の稼ぎ方を、働き方を見つけて居場所を作り、そしてそれすらも奪われた。

 

 街の中にあるこじんまりとした花屋。経営していた老夫婦から向けられていた視線は一瞬にして敵意へと変わった。

 

 自分が決めた人生の岐路は、彼女の人生を侵食していく。

 

 そんな彼女の願いを聞き届けた誰かが居たのか、なけなしの金で行なった『ステイタス』更新で発現した変身魔法【シンダー・エラ】。誰にも知られていないこれを駆使して恨めしい冒険者たちから盗みを働くようになった。

 

 彼女に残された道はただ一つ。ファミリア脱退。

 

 そうしなければこの地獄からは抜け出せないと、彼女はもう知っている。だから少しずつ、何年も掛けて資金を稼いで貯め続ける。

 

 いつか、私の、私だけの人生を始めるために。

 

 あの人に出会ったのは、そんな思いを胸に秘めて数年後。それが異常事態(イレギュラー)だったのか、もしくは誰かが起こした意図的なモノだったのかは定かでないが、上層であるダンジョンの5階層にミノタウロスが出現した。

 

 ミノタウロスはダンジョンの中層域、それも入ったばかりの場所ではなくもう少し深く潜った場所にしか出現しないモンスター。にも拘らず上層にまで現れたソレは、ここに着くまでに走り続けたのだろう息を切らしていた。しかしそこは上層、それも5階層。そこを稼ぎ場所にしている木端の冒険者では、その息切れすらも獲物を捉えた歓喜に震えているようにしか見えない。

 

 自分は勿論のこと、その日サポーターとして行動を共にしていた冒険者も混乱と恐怖で全身を硬直させていたが、モンスターの視線が自分たちの方へ向いた途端、本能が警鐘を鳴らし怒声を上げた。「逃げろ」と。

 

 彼女はその声に従って駆け出そうとした。しかしそれは隣にいた冒険者によって妨害される。こちらの足を払い、「サポーターだろ? 囮になってくれや」などと言い残し、一人先に逃げていく。

 

 混乱や恐怖、焦燥よりも先に来たのは、「ああ、そうか」という諦念だった。

 

 向こうは冒険者でこちらはサポーター。

 

 1人でも稼げる者と、お零れに与るしかない者。

 

 自分を評価してくれる人間など居ないと、頭のどこかで納得していた。だからだろう、悲鳴よりも先に、涙の方が先に流れ落ちたのは。

 

 惨めに泥を啜るしかない自分と、そんな状況を生み出すしか出来ない世界。変えようとした環境は悪意の中で破壊され、悪辣を以てしか反抗は許されなかったのだから。

 

 確かな歩みでこちらへ近付くミノタウロス(かいぶつ)。どこか鬱憤の解消先でも見つけたような喜悦に満ちたその表情からは、逃げられないという現実だけが分かる。

 

 見上げる程の巨体。例え立ち上がろうとも1メドルは差のある絶対的なまでの体躯の差。その片腕だけで彼女の体重と同等ではないかと思わせる筋肉質な腕がゆっくりと引き絞られ、自分を目掛けて振り下ろされる。

 

 死んでいく心はもう悲鳴を上げる事すらせず、瞼を開いたまま死を受け入れていた。

 

 しかし、振り下ろされた筈の拳は空を切り、自分から離れた位置を叩いた程度に終わる。

 

『あっぶなっ! ギリセーフ、みたいだな』

 

 光を宿した少年の身長よりも長い槍、その石突きで拳の軌道をずらし、その遠心力を穂先に集中させミノタウロスの胸部へ一撃加えることで殴打の威力を低減させたのだ。もし威力がそのままであれば、炸裂した地面の破片が彼女へ直撃していただろう近距離。しかし戦闘に於いて一切の才を持たぬ彼女では、それを瞬時に理解するなど不可能。

 

 それでも一つだけ確かな事がそこにはあった。助けられた、という事実が。

 

 少年はそのままミノタウロスの腹部を蹴り付けて後退させ、戦いが再開するまでの僅かな時間を使って再度少女へと視線を向けた。

 

『ほら、さっさと逃げないと、危ないぞ』

 

 その一言は彼女にとってありえない言葉だ。今までの冒険者など彼女が被る被害など無視して進んでは、危険な状況に陥れば協力などせず最初から囮として利用してくる。そんな存在でしかなかったのだから。

 

 冒険者と言えば自らの利益だけを追求し続け、それ以外に目を向けることも手を貸すこともしない。そのはずだった。

 

 モンスターへの恐怖はどこへやら、目の前の冒険者が放った言葉への混乱だけが胸中を支配する。

 

 動けぬ彼女を置いて、時間と状況だけは動きを止めない。ミノタウロスは突進の構えを取り、それを不味いと感じた少年は勢いよく発走、そのまま槍のリーチを活かして足首へと一撃を加え、その構えを解かせては、近距離戦を行ない始める。下手に突進などされれば、ミノタウロスのそれを止めるのは容易くない。させないための近接戦闘であるが、同時に死地にもなり得るその距離で、少年は拳や蹴り、角での刺突を何とか回避していく。

 

 少女には分からなかった。なぜ自分を囮にして逃げないのかが。少年の戦闘技術が高いのは認めるが、それでも容易く決着がつかない状況からレベルが2ではないということには彼女にも分かること。相手は中層のモンスター、Lv.1が戦っていい相手ではない。それでも少年は戦闘を続け、再度距離を空けるようにしてお互いが弾き飛ぶ。

 

『やっぱ強いな、中層モンスター。……まだ逃げてなかったのか?』

 

 そう口にしつつもモンスターへの警戒を並行して行なう少年が彼女の瞳を覗き込む。

 

『……ふぅむ、サポーターか』

 

 そんな言葉が彼女の耳朶を打った時、再度心が腐り始める。この人も結局そうなのだろうか、と。

 

『まぁいいや、動けないのなら……ほら回復薬(ポーション)。【ステイタス】が低くても体力が持てば逃げれるだろ』

 

 そう言って少年は腰のベルトから試験管のような物を抜き取り、少女へと放る。

 

『……はっ、えっ……?』

 

『は、でも、え、でもない! 立てッ! 走れッ!!』

 

 少女へ向けるまなざしは決して優しいモノから変えず、少年は声を出す。まずはそれをしろ、そう命じるように。

 

 少女は少年の声に従うようにしてその両脚で立ち、感謝の声を上げることも無く、悲鳴に似た声を漏らしながら駆けていった。

 

 その後のことは少女には分からない。その場の決着を自らの眼に収めた訳では無いのだから仕方の無いことでもある。だが同時に彼女の中に出来た熱だけはそこに残っていた。

 

 

 ────

 ──

 

 

 どうしようもなく燻り続ける焔のような熱が、死に始めていた彼女の心へ再度希望を齎していたのだ。

 

──……私はただ、人として生きたいだけなのに

 

 蹲って泣く少女は心の中に出来た暗雲から降り注ぐ雨粒のような涙を流し続ける。

 

「あの人……、だけだった。

 私を……、()()を見てくれたのは……」

 

 瞳を閉じれば、瞼の裏に映るのはつい数時間前のダンジョン探索中の光景。自分からそう離れた位置ではないはずの前方は断崖の先であるかのように遠い。そこではモンスターを倒し終えた少女に指導をしている少年の姿がある。

 

 隣を歩きたかった彼の隣には、明るく笑う別の少女が、既に居た。

 

 それだけが、今の彼女を苦しめる。

 

「────ずるい……」

 

 日向の中で安穏と過ごしてきた少女は、多くの物を持っていた。

 

 初日、彼女の使う武器が主神から送られたものであることを知った。

 

 同日、彼女の着ている防具がギルドの職員から貰ったアドバイスの下、購入に至ったと聞いた。

 

 更に同日、師として厳しくも鍛錬を付けてくれる人がいると聞いた。

 

「……なら、1つぐらい……」

 

 どこまでも惨めな誰かとは比較にもならない恵まれた人生を送っているのなら、多くの物を『持っている』のであれば、『持ってない』その誰かに裏切られたって……。

 

「──……あぁ、そんなリリが……………………、()()は嫌いです…………

 

 ()げ代われたのであれば、どれだけ幸福だろうか。そんな考えがどうしても消えない。

 

 だから少女は自分を自分で苦しめていた。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 ナインが中層から帰還してから数日経過した。

 

 豊穣の女主人で久しぶりというにはあまりにも早い気のするクソデカステーキへの挑戦。何とか数分後に復活したナインは、彼が気絶していた間にベルが食べていた食事の代金も含めて支払ってから帰宅する。

 

 その際ベルが同じ帰路であることや、ベルとヘスティアの私物などが運び込まれていたことについて問うと、「やっぱりダメでしたか?」と悲しそうにし始めたが、駄目である。

 

 賃貸であることから全てが全てナインの物ではないが、ナインが主体の契約である以上許可を取るべきなのだ。

 

 しかしなんだかんだ『ダンまち』の主人公であるベルの性善説的性格が好きな点と、ヘスティアという神があっち側で非常に珍しく汚点の無い神である点から、まぁええか、という思いが胸中の8割近くを占めたので許した。

 

 残り2割は「好きに使って良いから」と言い残して出て来た自分の責任だとして切って捨てる。

 

 というよりもそんな意味のないところで2人を野宿は心情的に不可能なのだ。

 

 そうしてその日は2人のステイタス更新を行い、ナインの基本アビリティの内、『耐久』がたったの2日で500まで上がったのを見て気絶したヘスティアをベッドに運ぶ。

 

 ベルはなんだかんだヘスティアを敬う対象として見る節があり、同衾は無理だと言うのだが、この家に眠れる場所はベッドかソファーのみ。本来1人用の2階建て。客用の宿泊室など用意されていない。

 

 ソファーをベルに譲り「仕方ないから床で寝るか」と言えば、心優しいベルはベッドの選択肢を取ってくれる。そのまま男女に分かれ就寝と相成った。

 

 

 ────

 ──

 

 

 その翌日、ナインはベルと共に、昨日彼女が組んだ()()()()()()()()のサポーターであるリリルカ・アーデと3人で迷宮探索をすることとした。

 

 顔合わせの際、ナインの顔を見たリリが僅かに表情を驚愕に変える。サポーターとして冒険者の顔色を窺うことに長けていた彼女は即座に表情を戻したが、ナインはその変化に気付き、気付いた上で気付かない振りで通した。

 

 「やっべ、以前助けた犬人(シアンスロープ)のサポーター……この子だわ」という内心を隠すために。

 

 そもそもナインは6階層でミノタウロスを倒して経験値を得ようとしていたのだ。5階層でそんなことをしたら主人公とヒロインの邂逅が無くなってしまい、物語が始まらなくなってしまうがゆえに。

 

 しかしナインが5階層に到着した頃にはミノタウロスが上がって来ているし、咆哮の数から複数体は確定していたし、主人公くんが主人公ちゃんになっていたしで、色々事態が渋滞していたのだ。魔法で姿を変えているのを見破ることに注力は出来ない。

 

 本人を見た時の感覚から「以前見たな……」という感覚頼りの勘から見抜いただけなのだ。

 

 その日、ナインはベルに戦闘の9割以上を押し付け、モンスターとの戦闘の合間を縫って指摘を入れていくという方式を取っていた。ベルの戦闘能力の向上を図ることもあるが、ナインがLv.1の時に溜め込んだ潜在値的に上層では余りステイタスを伸ばせないからでもある。

 

 ゆえにナインはリリの近くに陣取りつつ、ベルが不意の攻撃に気付けなかった場合の準備だけをしていた。

 

 その探索中、自分を時折りというには多過ぎる回数見ていたリリについては気にしなかった。彼女の顔には不安感や罪悪感が映っており、前日のベルへの盗み行為を知られているのではないかという考えがありありと映っていたからだ。

 

 ナインはそれを無視した。彼女はそれを盗んだうえでベルが武器に困らないようにとバゼラードを残していく程度には悪意に染まり切っていないと知っている。下衆に堕ち切っていないのであれば、救う手段は無い訳では無いのだ。

 

 その日の稼ぎはベルとリリで分けさせた。

 

 最初は3等分と言ったベル。彼女が昨日と同様に頭割りと言い出したことに、ナインの顔色を窺っていたリリが委縮しつつ自分の取り分を減らすように提案。ベルはその提案に疑問符を浮かべ、話は平行線を辿るかという時、ナインがふざけるなと一喝。ベルは佇まいを正し、リリは他の冒険者と同様の罵倒でも来るのかと構える。

 

 そこへナインは「俺は今日殆ど働いてないから、これだけで良い」と、パーティーの後ろで出現したモンスター達の魔石が入った袋を見せて、反論は無視してギルドへ向かった。

 

 当然、ナインは『ベルちゃんをこの数日放置した罪』で額に青筋を浮かべた笑顔のエイナに取っ捕まり、そのまま談話室に連れていかれてフェードアウト。ナインという一番発言力のある人間が2人で山分けにしろと言い残したことで、譲るリリと山分け以外認めないベルの口論の決着はベルの勝利に終わる。

 

 リリの常識では譲られればそれを疑うことも無く懐に入れるのが常。冒険者とはそういった人種。それが彼女の中での常識だった。

 

 それに昨日ヒビが入り、そして今日亀裂と変わる。

 

 常に戦い続けたベルはもっと要求して良い立場であり、Lv.2であるナインもその日倒した数では然したる金額にはならない。にも拘らず片や等分を提案し、片や不要と切って捨てる。

 

 訳の分からない不安感から、リリは逃げるようにしてその場から立ち去ってしまった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 稼ぎをリリと2人で分けたベルは、ナインが戻ってくるまでギルドのロビーで待っていたが、ナインが出てくるまで3時間は待機する羽目になった。

 

 ベルを放置して何をしていたのか、同僚から聞いた怪物祭(モンスター・フィリア)での強化種となった小竜(インファント・ドラゴン)との戦闘。更には器の昇格(ランクアップ)したと聞かされたことで問い質したギルドから上層までのシャトルランによるモンスターの討伐数が約6桁という事実。

 

 お叱りポイントが出るわ出るわで、じきにナインは椅子から床へ座る場所が変わっていったのは言うまでもない。

 

 エイナは目の前のナイン(問題児)が、それでも一応世界最速ランクアップ(レコードホルダー)であるがゆえに、ナインが冒険者となってからの大まかな情報を調書として記さなければならなかった。

 

 流石に最大到達階層を18階層と言うことはしない。自分だけで行くとしても帰りまで考慮すると、精神力(マインド)()たないということもある。【星の怒り】(スキル)での防御範囲を広げた場合、それだけ精神力(マインド)を持っていかれる。攻撃にも振ればそれは加速度的に増加するのだ。

 

 ナインは慎重に答えていったが、こんな異様な調書を上に報告するエイナの胃の方が心配されるべきなのは言うまでもなかった。『青の薬舗』の売上順2位は胃薬になる日も近い。1位は断トツで回復薬(ポーション)。樽付きだけど。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

「……さて、どうしようかな」

 

 ナインは現在、朝日が出て来たばかりの市壁上部にいた。歩哨用に用意されたそこで寝そべっている理由は先程までリューとの朝稽古を行なっていたからであり、今もなおそこに居る理由はこの後の用事が無くなったからでもある。

 

 全身に奔る鈍い痛みが徐々に消えていくのを感じながら、ナインは今日の予定を組んでいく。

 

「……昨日と同じようにダンジョンにって言っても、ベルは今日一日中アレみたいだしな……」

 

 そう言ってオラリオの中心施設であるバベルを挟んだ対角線上にあるであろう武器を、自分の魔法の副作用で感じ取っていた。そしてそれが今しがた床を転がっていったのを感じる。

 

 それはナインがベルの持っている《聖火の刃(ヴェスタ)》を感じ取っている証だった。

 

(原作キャラになんか似たようなことしてる奴いた気がする……あっちの方が汎用性高いけど……、いや距離なら勝ってるけどな!)

 

 そんな独り相撲をして少々悲しくなってきた辺りで本格的に予定を組み始める。

 

(ヘスティア神は鍛冶店でバイト。ベルはベートさんから一日中ボコられ……鍛錬。流石に割り込みに行くのは図々しいか……。

 後は……、そういやリリに伝えてないし行くか)

 

 ナインはそうして市壁から降りていった。

 

 

 ────

 ──

 

 

 ナインは思案を続けていた。

 

 内容はリリのことについて。彼女の境遇をナインは知っている。力押しでそこから救い上げることもナインには可能だ。しかしそんな手段では彼女の心までは救われない。今まで自分以上の力で抑圧され続けた者が、それ以上の力で解放されたところで相手が変わっただけではないかという不安感を抱かせたままになる。

 

(できれば彼女が自らを救えるだけの力が……、なんてことになれば最善なんだけど、難しいよなぁ。……前世的に)

 

 この『ダンまち』世界に於いて前世を持っている人物は大抵、なんらかの因縁を受け継いでいる節がある。

 

(クロッゾはそのままクロッゾの魔剣。フィーナの妖精魔法に、4兄弟はマジで嫌いになって……、リリは……フィン、と言うかディムに全部渡しちまったんだっけか……)

 

 リリルカ・アーデの前世である小人族(パルゥム)の英雄フィアナは魔眼を持ち、魔槍を携えていた。しかしその生涯を終える瞬間に弟であったディムが全てを持っていくと宣言したことで、『天授物(アーティファクト)』じみたその槍は片割れを保持していたディムの(なか)で一体となる。

 

 フィアナの化物じみた戦闘力の根源であったその槍を持っていくということは、彼女の才を全て引き抜いたと同義であり、今生を才無き子として生きている彼女は当然の帰結と言われて仕方ない。

 

(作者公認で才能無しって明言されてんのが一番(つら)いところなんだよなぁ……)

 

 編集が言わなければ生涯Lv.1側の人間であった小人族(パルゥム)の少女。

 

 それでも彼女にも残っているモノがあれば……、それを思いつつナインは噴水広場に見つけた少女の(もと)へと足を動かした。

 

 

 

 

 




ナイン
「後ろから襲ってきた奴殴り飛ばした以外に特段何もしてないからそれ2人で分けな」
ベル
「3人で迷宮に入ったんだから3人で分ける」
リリ
「なんでこの人たちは平等に接しようとしてくるんですか等分とかいうんですか働いてないとかいうんですか指導してたし自分のことを守ってくれたじゃないですか武器を盗んだことに気付いてないんですか気付いてない訳がないじゃないですかなんで責めないんですか――――」

 心情の差が酷いな。

 某狩人×狩人に出て来た「容量(メモリ)の無駄遣い」ってセリフがあるんですけど、リリの場合メモリから魔槍抜かれたのか、魔槍がメモリとしての役割を持っていたのか。私の中で見解が割れている。

 意見あると嬉しいです。少なくとも私は前者に傾いています。


ナイン

力 : E 428
耐久: D 551
器用: E 495
敏捷: E 499
魔力: D 502

 ゴライアスに30分ぐらい殴られればそれまで一切上がらなかった『耐久』もこうなる。これが某猪人(ボアズ)ならもうちょい伸びる…、もしくは死ぬ。
 死にたくないなら耐えろ。気絶したならエリクサーかけてくれるから。

ナイン中層から帰還

アレコレあって翌日、リリ含めて3人で探索。リリの表情が別の意味で怯えていた。(帰宅後吐きそうになってる)

更に翌日、ベルちゃんベートさんに掴まり市壁(ナインとリューから見えない対称位置)で鍛錬。ナインは以前よりもギアを3段ぐらい上げたリューにボコられつつも回復してもらい…←ココ
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